『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

200 / 237
第三話 鳴柱・獪岳の雷撃稽古

「甘ぇッ!! そんな程度の動きで、上弦の鬼の首を獲れると思ってんのかァッ!!」

 

ドンッ!!

 

獪岳の怒号と同時に、稽古場の地面が震えた。

 

蝶屋敷からほど近い場所に設けられた鳴柱・獪岳専用の稽古場。その広大な庭には、朝から数十名の隊士たちが集められていた。

 

しかし、開始からまだ一刻も経っていないというのに、その半数以上が地面に転がっている。

 

「はぁ……はぁ……もう、足が動かない……」

 

「速すぎる……。あの雷撃、目で追えない……!」

 

「だったら目で追おうとするなッ!!」

 

バリバリバリッ!!

 

獪岳が手にした特殊な竹刀から、黒紫の雷光が迸った。

 

「戦場で敵の攻撃が見える保証なんざどこにもねえ! 見えねえなら、音を聞け! 空気の揺れを感じろ! 相手の殺気を読め! 身体で覚えろ!!」

 

「ひっ……!」

 

「来るぞォッ!!」

 

獪岳が一歩踏み込む。

 

その瞬間、姿が消えた。

 

「え?」

 

「ど、どこに——」

 

バチィィッ!!

 

「ぐわぁぁぁッ!!」

 

隊士の一人が吹き飛び、地面を何度も転がった。

 

「一人、反応が遅れた」

 

獪岳は淡々と言い放つ。

 

「次は二人だ。三人目はもっと早くなる。最後には全員が避けられるようになれ」

 

「む、無茶です、鳴柱様!」

 

「無茶?」

 

獪岳の口元が歪む。

 

「上弦を相手にするってのはなぁ……その『無茶』を十倍、百倍にした場所で命を奪い合うってことだ」

 

その声には、遊郭で上弦の陸と死闘を繰り広げた者だけが持つ重みがあった。

 

「俺は実際に上弦と戦った。奴らの速さも、殺気も、毒も知ってる。だからこそ言ってんだ。今のままじゃ、お前らは一瞬で死ぬ」

 

隊士たちは黙り込んだ。

 

厳しい。

 

あまりにも厳しい稽古だった。

 

だが、獪岳は一人も見捨てるつもりがなかった。

 

「立て」

 

「……!」

 

「這ってでも立て。自分の足で立てなくなった時が、本当の訓練開始だ」

 

「は、はいッ!!」

 

震える足で、隊士たちが一人、また一人と立ち上がる。

 

獪岳は満足そうに鼻を鳴らした。

 

「そうだ。それでいい」

 

そのときだった。

 

「獪岳さん!」

 

傷だらけになった炭治郎が、ふらつきながら前へ出てきた。

 

額には汗。

 

隊服には泥。

 

それでも、その目だけは死んでいなかった。

 

「僕も……もう一度お願いします!」

 

「……ほう」

 

獪岳の眉がわずかに上がる。

 

「さっき三回吹っ飛ばされた奴が、まだやる気か」

 

「はい!」

 

「腕は?」

 

「動きます!」

 

「足は?」

 

「まだ動きます!」

 

「だったら来いッ!!」

 

「はいッ!!」

 

バリィィィンッ!!

 

二人の足元が同時に爆ぜた。

 

炭治郎が一気に踏み込む。

 

獪岳の竹刀が右から来る。

 

炭治郎は首を捻ってかわした。

 

直後、左。

 

「くっ!」

 

身体を沈める。

 

頭上を黒紫の雷光が掠めた。

 

「遅ぇ!!」

 

獪岳の蹴りが炭治郎の腹へ突き刺さる。

 

「ぐっ……!」

 

吹き飛ばされながらも、炭治郎は空中で体勢を立て直し、着地した。

 

「今のは……避けられた!」

 

「まだ甘い」

 

獪岳は冷たく言い放つ。

 

「今の一撃、本物の日輪刀だったら腹を斬られて終わってる」

 

「……!」

 

「だが、一歩進んだな」

 

「え?」

 

炭治郎が顔を上げる。

 

獪岳はそっぽを向きながら続けた。

 

「次は三歩進め。俺に一撃でも入れられたら、今日の稽古は合格にしてやる」

 

「本当ですか!?」

 

「ただし——」

 

獪岳の全身から、さらに強烈な雷気が噴き上がった。

 

「俺は手加減しねえぞ」

 

「はいッ!」

 

再び二人が激突する。

 

雷光と炎。

 

鋭い踏み込みと、爆発的な反射。

 

稽古場には凄まじい衝撃音が響き続けた。

 

その様子を少し離れた縁側から眺めていたのは、胡蝶しのぶだった。

 

「ふふ……」

 

彼女の隣には、隊士たちのために用意された大量の水と薬、そして冷たい茶が並べられている。

 

「口ではあれほど厳しいことを言っているのに……一人一人の動きをきちんと見ていますね」

 

しのぶは微笑みながら、獪岳の姿を見つめた。

 

彼は誰よりも厳しい。

 

誰よりも口が悪い。

 

けれど、誰よりも鬼との戦いの恐ろしさを理解しているからこそ、隊士たちを強くしようとしていた。

 

やがて昼休憩となり、獪岳が縁側へ戻ってくる。

 

「水」

 

「はい。どうぞ」

 

しのぶが差し出した水筒を、獪岳は乱暴に受け取った。

 

「……お前、いつからいた」

 

「最初からですよ」

 

「チッ……趣味の悪い女だ」

 

「恋人の頑張っている姿を見るのは、趣味が悪いでしょうか?」

 

「……うるせえ」

 

獪岳が水を一気に飲み干す。

 

しのぶはそんな彼を見て、くすりと笑った。

 

「それにしても、随分と隊士たちを鍛えていますね」

 

「足手まといに死なれたら後味が悪ぃだけだ」

 

「本当にそれだけですか?」

 

「それ以外に何がある」

 

「……優しいんですね」

 

「誰がだ」

 

獪岳が即座に睨みつける。

 

「俺はただ、弱い奴が簡単に死ぬのが気に食わねえだけだ」

 

しのぶはその言葉に何も返さず、ただ穏やかに微笑んだ。

 

「はい。そういうところが、私は好きですよ」

 

「……チッ」

 

獪岳は耳まで赤くなった顔を隠すように、乱暴に水筒を置いた。

 

「休憩終わりだ!!」

 

「ええっ!? もうですか!?」

 

「上弦の鬼は待ってくれねえぞ!! 立て、クソガキども!!」

 

「は、はいぃぃぃッ!!」

 

再び稽古場に悲鳴と雷鳴が轟く。

 

鳴柱・獪岳の雷撃稽古。

 

それは隊士たちにとって、地獄そのものだった。

 

だが、その地獄を生き抜いた者だけが、無惨との最終決戦で生き残る可能性を手にする。

 

そして獪岳自身もまた、誰よりも強くなるために、己の雷をさらに研ぎ澄ましていた。

 

「俺が無惨の首を獲る……」

 

誰にも聞こえないほど小さく呟いた獪岳の瞳には、決して消えることのない黒紫の雷が宿っていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。