『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第六話 霞柱・時透無一郎の高速稽古

柱稽古が始まってから、幾日かが過ぎた。

 

水柱・冨岡義勇との実戦稽古。

 

鳴柱・獪岳による迅雷訓練。

 

蟲柱・胡蝶しのぶによる高速連突きと薬学訓練。

 

恋柱・甘露寺蜜璃による地獄の柔軟稽古。

 

それぞれの柱が、自分の得意分野を活かして隊士たちを鍛え上げていた。

 

そして次に待ち受けていたのは――。

 

霞柱・時透無一郎の稽古だった。

 

「遅い」

 

朝靄の漂う山中。

 

無一郎の淡々とした声が響く。

 

「もっと速く。そんなトロトロした動きじゃ、上弦の鬼どころか下弦にすら追いつけないよ」

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「もう一度!」

 

「はいっ!」

 

隊士たちが一斉に地面を蹴る。

 

だが――。

 

「そこ」

 

ヒュッ!

 

「ぐあっ!」

 

「右」

 

ドンッ!

 

「うわぁっ!」

 

「遅いよ」

 

バシッ!

 

「ぐえっ!」

 

次々と隊士たちが地面へ転がされていく。

 

無一郎はほとんどその場から動いていない。

 

にもかかわらず、隊士たちが踏み込んだ瞬間には、すでに彼の姿が視界から消えている。

 

気づいた時には背後。

 

あるいは側面。

 

そして木刀による一撃が、隊士の肩や胴へ正確に叩き込まれていた。

 

「な、何なんだ……今の……」

 

「見えなかった……」

 

「目で追おうとするから遅れるんだよ」

 

無一郎は木刀を肩に担いだ。

 

「相手を見てから動くんじゃ遅い。相手の足、肩、腰、呼吸……次にどこへ動くのかを予測するんだ」

 

淡々とした説明。

 

だが、その内容は極めて高度だった。

 

「鬼との戦いでは、一瞬の判断が生死を分ける。だから、自分から相手の懐へ入る。相手が動く前に、こちらが動く」

 

「なるほど……」

 

「じゃあ、もう一度」

 

「えっ」

 

「休憩は終わり」

 

「そんなぁぁぁっ!」

 

再び隊士たちの悲鳴が山中に響き渡った。

 

その光景を少し離れた場所から眺めていた男が、呆れたように鼻を鳴らす。

 

「ハッ……相変わらず容赦ねえな、天才坊主」

 

汗を拭いながら歩いてきたのは、鳴柱・獪岳だった。

 

無一郎がちらりと振り返る。

 

「獪岳さん」

 

「ガキ相手に本気出してんじゃねえよ。何人ぶっ倒しゃ気が済むんだ」

 

「本気なんて出してないよ」

 

「……あ?」

 

「今の僕なら、この程度は普通だから」

 

「…………」

 

獪岳の眉間に深い皺が刻まれる。

 

「お前……」

 

「何?」

 

「相変わらず人を苛立たせる言い方しやがるな」

 

「事実を言っただけだよ」

 

「刀鍛冶の里でも思ったが……お前、ほんっと可愛げがねえな」

 

「獪岳さんに言われたくない」

 

「……あぁん?」

 

「口だけは達者だよね」

 

「テメェ……!」

 

バチッ!

 

獪岳の周囲から黒紫の雷気が漏れ出した。

 

隊士たちが一斉に後ずさる。

 

「お、おい……」

 

「始まるぞ……」

 

「また柱同士の喧嘩か……?」

 

無一郎も木刀を構え直した。

 

「ちょうどいい」

 

「何がだ」

 

「君の雷の速度を体験できるなら、僕にとってもいい訓練になる」

 

「ハッ!」

 

獪岳が口角を吊り上げる。

 

「言ったな、ガキ」

 

黒紫の雷気が一気に膨れ上がる。

 

「なら、その減らず口ごと叩き潰してやるよ!」

 

「やってみれば?」

 

次の瞬間――。

 

バリィィィンッ!!

 

獪岳の姿が消えた。

 

「速っ……!」

 

隊士たちが目を見開く。

 

しかし無一郎もまた、同時に姿を消していた。

 

「霞の呼吸……」

 

ヒュンッ!

 

「雷の呼吸……!」

 

バリバリッ!

 

ガキィィィィンッ!!

 

二人の木刀が激突した。

 

衝撃波が地面を走り、周囲の砂埃が一斉に舞い上がる。

 

「そこだ!」

 

獪岳が踏み込み、雷撃を纏った横薙ぎを放つ。

 

無一郎は紙一重で身を逸らす。

 

「甘いよ」

 

そのまま死角へ回り込む。

 

「チッ!」

 

獪岳が身体を捻る。

 

ガキンッ!

 

木刀と木刀が再びぶつかった。

 

一撃。

 

二撃。

 

三撃。

 

それ以上は、隊士たちの目では追えなかった。

 

「ど、どこだ!?」

 

「消えた!?」

 

「違う!」

 

炭治郎が叫ぶ。

 

「右です! いや……左!?」

 

「見えない……!」

 

山中を駆け巡る二つの影。

 

一方は、黒紫の雷光。

 

一方は、白い霞。

 

雷が走れば霞が消え。

 

霞が消えれば雷が追う。

 

まるで雷鳴と霧が互いを喰らい合うような、異次元の攻防だった。

 

そして――。

 

ガキィィィンッ!!

 

二人が中央で激突する。

 

獪岳の木刀が無一郎の肩口寸前で止まり、無一郎の木刀もまた、獪岳の喉元寸前で静止していた。

 

「…………」

 

「…………」

 

数秒の沈黙。

 

やがて獪岳が鼻で笑う。

 

「ハッ……やるじゃねえか、ガキ」

 

「獪岳さんもね」

 

「次は実戦用の刀で――」

 

「駄目です」

 

「…………」

 

二人の間に割って入ったのは、しのぶだった。

 

「二人とも、ここは隊士たちの稽古場ですよ?」

 

「しのぶ……」

 

「獪岳さん」

 

にっこり。

 

「本気の斬り合いは禁止です」

 

「……チッ」

 

「時透くんもですよ」

 

「うん」

 

素直に頷く無一郎。

 

「おい。なんで俺だけ露骨に不満そうな顔をしてんだ」

 

「気のせいです」

 

「絶対気のせいじゃねえだろ!」

 

隊士たちから小さな笑いが漏れる。

 

だが、しのぶはそのまま隊士たちへ視線を向けた。

 

「皆さん、今のお二人の動きを見ましたね?」

 

「は、はい!」

 

「では、覚えておいてください。あれが『自分の限界を超えた速度』です」

 

隊士たちは固唾を飲む。

 

無一郎が静かに言葉を続けた。

 

「速さは才能だけじゃない。繰り返し身体に覚えさせれば、少しずつ近づける」

 

獪岳も腕を組み、隊士たちを睨みつけた。

 

「だが、ただ速く走るだけじゃ意味がねえ」

 

「相手の動きを読む」

 

「自分の身体を最短距離で動かす」

 

「そして――」

 

獪岳の全身から、バチバチと雷気が弾ける。

 

「死ぬ気で喰らいつくんだよ!」

 

「はいっ!」

 

隊士たちの声が山中へ響き渡った。

 

その後の稽古は、さらに苛烈を極めた。

 

無一郎は隊士たちの死角へ回り込み、反応速度を限界まで引き上げる。

 

獪岳はその横で雷撃を使い、極限状態での回避と反撃を叩き込む。

 

「遅い!」

 

「そこだ!」

 

「もう一度!」

 

「立て! まだ終わってねえぞ!」

 

「は、はいぃぃぃっ!」

 

倒れても立つ。

 

吹き飛ばされても立つ。

 

何度叩き伏せられても、再び刀を握る。

 

その姿を見つめながら、獪岳は小さく呟いた。

 

「……少しはマシになってきたじゃねえか」

 

無一郎も隊士たちを見ていた。

 

「うん。最初より速くなってる」

 

「だったら、もっと鍛えるぞ」

 

「そうだね」

 

雷と霞。

 

性格も戦い方も正反対の二人だった。

 

しかし、鬼殺隊を強くするという目的だけは同じだった。

 

柱同士が互いの技量をぶつけ合うことで、隊士たちは自分たちが目指すべき「強さ」の輪郭を初めて理解し始める。

 

そして、その先に待つのは――鬼舞辻無惨との決戦。

 

「……絶対に生き残れよ」

 

獪岳が隊士たちへ背を向ける。

 

「次の戦場じゃ、俺たち柱だけで全部を背負えるとは限らねえからな」

 

その言葉に、隊士たちは一斉に刀を握り直した。

 

霞のように消える速度。

 

雷のように穿つ一撃。

 

その二つの極意を叩き込まれた隊士たちは、また一歩だけ、最終決戦へ向けて強くなっていくのだった。

 

 

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