『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

21 / 26
第21話 雷の呼吸の新たな可能性

朝。

 

道場の庭に、乾いた音が響いていた。

 

――ドンッ!

 

「雷の呼吸・壱ノ型――霹靂一閃!」

 

獪岳の姿が一瞬で消える。

 

藁束を斬り抜け、数歩先で停止。

 

「……ふぅ」

 

獪岳は息を整えた。

 

「見事じゃ」

 

桑島慈悟郎が頷く。

 

「壱ノ型は、もはや完全にお前のものじゃな」

 

「ありがとうございます」

 

獪岳は刀を納める。

 

「ですが……」

 

「何じゃ?」

 

「最近、少し気になることがあります」

 

「ほう?」

 

獪岳は自分の足を見る。

 

「雷の呼吸は速い」

 

「うむ」

 

「ものすごく速い」

 

「そうじゃ」

 

「でも……」

 

獪岳は考え込む。

 

「速いだけじゃ、いつか限界が来る気がするんです」

 

桑島の目が細くなった。

 

「…………」

 

「壱ノ型から陸ノ型まで覚えて分かりました」

 

獪岳は続ける。

 

「雷の呼吸は、速さを最大の武器にしている」

 

「その通りじゃ」

 

「なら、その速さをもっと自由に使えたら……」

 

「…………」

 

「今まで以上に強くなれるんじゃないかと思って」

 

桑島はしばらく獪岳を見つめた。

 

やがて。

 

「面白い」

 

そう呟いた。

 

「え?」

 

「続けてみろ」

 

「はい」

 

 

その日の修行は、いつもと違った。

 

「まず、壱ノ型を使う」

 

「はい」

 

「ただし、一直線に走るな」

 

「……?」

 

獪岳が眉を寄せる。

 

「霹靂一閃は直線攻撃じゃ」

 

「そうじゃ」

 

「なら、曲がるのは難しいのでは?」

 

「だから試すのじゃ」

 

「…………」

 

桑島が木刀を構える。

 

「鬼は馬鹿ではない」

 

「はい」

 

「何度も同じ攻撃をすれば、いずれ読まれる」

 

「…………」

 

「ならば、相手に読まれぬ雷を考えてみよ」

 

獪岳は黙った。

 

――読まれない雷。

 

これまでの雷の呼吸は。

 

速い。

 

強い。

 

だが。

 

基本的には決められた型。

 

ならば。

 

「……型そのものを変えるんじゃなくて」

 

獪岳は呟く。

 

「型と型の繋ぎ方を変える」

 

桑島の目が輝いた。

 

「そうじゃ」

 

「…………!」

 

「お前は型を一つずつ覚えた」

 

「はい」

 

「次は、それらを自由に組み合わせてみろ」

 

「……なるほど」

 

獪岳は木刀を握る。

 

「雷の呼吸・壱ノ型」

 

構える。

 

「霹靂一閃!」

 

――ドンッ!

 

一気に前へ。

 

しかし。

 

そこで終わらない。

 

「弐ノ型!」

 

身体を捻る。

 

「稲魂!」

 

――ザザザッ!

 

連撃。

 

さらに。

 

「参ノ型!」

 

方向を変える。

 

「聚蚊成雷!」

 

――ドンッ!!

 

藁束を別方向から斬り抜く。

 

「……!」

 

獪岳自身が驚いた。

 

「これ……」

 

「どうじゃ?」

 

「違う」

 

「何が?」

 

「今までと全然違う」

 

獪岳は息を整える。

 

「型を一つずつ使うんじゃなくて……」

 

「うむ」

 

「次の型へ繋げれば、動きが途切れない」

 

「その通りじゃ」

 

桑島は頷く。

 

「雷の呼吸は、一つの技で完結させる必要はない」

 

「…………」

 

「戦いの中で、状況に応じて形を変えてよい」

 

獪岳の目が輝いた。

 

「雷の呼吸には……まだ可能性がある」

 

「ああ」

 

「もっと速く」

 

「うむ」

 

「もっと強く」

 

「うむ」

 

「もっと自由に戦える」

 

「そうじゃ」

 

 

午後。

 

獪岳はさらに試行錯誤を続けていた。

 

壱ノ型。

 

弐ノ型。

 

参ノ型。

 

肆ノ型。

 

伍ノ型。

 

陸ノ型。

 

繋ぐ。

 

変える。

 

戻す。

 

途中で止める。

 

再び踏み込む。

 

「……なるほど」

 

獪岳は呟く。

 

「壱ノ型から弐ノ型への繋ぎはいい」

 

刀を振る。

 

「でも、参ノ型に繋ぐと足が遅れる」

 

もう一度。

 

「なら、足の向きを変えて……」

 

――ドンッ!

 

「こうか」

 

さらに試す。

 

失敗。

 

「違う」

 

再び。

 

失敗。

 

「まだだ」

 

何度も。

 

何度も。

 

桑島は口を挟まず見ていた。

 

やがて。

 

「獪岳」

 

「はい」

 

「何故そこまで考える?」

 

「…………」

 

獪岳は少し黙った。

 

「鬼は……」

 

そして。

 

静かに答える。

 

「俺たちより強いからです」

 

「…………」

 

「どれだけ鍛えても、身体能力では鬼に勝てないことがある」

 

「うむ」

 

「だから、技術で勝つ必要がある」

 

「うむ」

 

「相手が予測できない攻撃を作る」

 

獪岳は木刀を握り直す。

 

「それが俺たち人間の戦い方だと思います」

 

桑島は満足そうに笑った。

 

「良い答えじゃ」

 

 

その夜。

 

善逸が縁側で獪岳を待っていた。

 

「兄貴」

 

「何だ」

 

「今日、何してたの?」

 

「雷の呼吸の研究だ」

 

「研究?」

 

「ああ」

 

獪岳は座る。

 

「型と型を繋げる」

 

「…………」

 

善逸が考える。

 

「それって、全部の型を一気に使うってこと?」

 

「そういうわけじゃない」

 

「じゃあ?」

 

「相手や状況に合わせて、最適な型を選ぶ」

 

「…………」

 

「壱ノ型だけじゃない」

 

「うん」

 

「弐ノ型だけでもない」

 

「うん」

 

「全部の型を使えるからこそ、戦い方の幅が広がる」

 

善逸は目を輝かせた。

 

「なんか……格好いい」

 

「そうか?」

 

「うん!」

 

善逸は笑う。

 

「俺もやってみたい!」

 

「お前はまず基礎を固めろ」

 

「えぇー!」

 

「焦るな」

 

「兄貴は?」

 

「俺もまだ試してる途中だ」

 

「じゃあ一緒だね!」

 

「……まあな」

 

二人は並んで空を見上げた。

 

 

数日後。

 

獪岳は再び桑島と向き合っていた。

 

「今日は実戦じゃ」

 

「はい」

 

「儂を鬼だと思え」

 

「分かりました」

 

桑島が動く。

 

獪岳も動く。

 

「雷の呼吸・壱ノ型!」

 

――ドンッ!

 

正面突破。

 

桑島が避ける。

 

「弐ノ型!」

 

――ザンッ!

 

桑島が木刀で受ける。

 

「参ノ型!」

 

獪岳が横へ回る。

 

桑島が追う。

 

「肆ノ型!」

 

さらに距離を詰める。

 

「伍ノ型!」

 

強烈な一撃。

 

桑島が弾く。

 

「陸ノ型!」

 

獪岳が一気に畳み掛ける。

 

――ガァン!!

 

木刀がぶつかった。

 

二人の動きが止まる。

 

桑島の木刀が。

 

獪岳の喉元に突きつけられていた。

 

「…………」

 

「……まだじゃな」

 

獪岳が苦笑する。

 

「はい」

 

「だが」

 

桑島は木刀を下ろした。

 

「今の動きは良かった」

 

「ありがとうございます」

 

「お前は今、雷の呼吸を『技』としてではなく、『戦い方』として理解し始めておる」

 

「……戦い方」

 

「ああ」

 

桑島は頷く。

 

「それこそが、新たな可能性じゃ」

 

獪岳は自分の刀を見る。

 

「…………」

 

雷の呼吸。

 

それは完成されたものだと思っていた。

 

だが。

 

違う。

 

まだ進める。

 

まだ強くなれる。

 

まだ――。

 

「自分だけの雷を作れる」

 

獪岳は呟いた。

 

桑島が微笑む。

 

「いつか必ずな」

 

 

夜。

 

獪岳は一人、星空を見上げていた。

 

「…………」

 

前世の記憶。

 

この世界の知識。

 

そして。

 

ここで積み重ねた努力。

 

全部を組み合わせる。

 

「俺の雷……」

 

その言葉が。

 

胸の奥に残る。

 

まだ名前はない。

 

まだ完成形もない。

 

ただ。

 

一つだけ分かっている。

 

「誰かを守るための雷にする」

 

その決意だけは。

 

確かだった。

 

いつか。

 

九つの龍が空を駆けるような。

 

東洋の龍が絡み合うような。

 

そんな雷を。

 

自分だけの技として完成させる。

 

その名は――。

 

まだ。

 

未来の話だ。

 

【大正コソコソ噂話】

 

最近、獪岳が修行中に「雷の呼吸の新しい使い方」を考えていることを知った善逸。

 

「兄貴、新技作るの?」

 

「ああ」

 

「俺も作る!」

 

「お前はまず今の型を完璧にしろ」

 

「じゃあ、兄貴の技と俺の技で一緒に戦える?」

 

獪岳は少し考えて。

 

「……もちろんだ」

 

と答えた。

 

善逸は大喜び。

 

「やったぁ!」

 

しかし後日。

 

善逸が自分の新技について、

 

「俺の雷はもっと速くする!」

 

と言ったところ。

 

獪岳は、

 

「なら俺はもっと強くする」

 

と返した。

 

二人の競争心に火がつき。

 

その日の修行は予定の三倍になったという。

 

桑島は遠くから見ながら、

 

「……若いのう」

 

と笑っていたそうだ。

 

なお。

 

後に善逸は「火雷神」を。

 

獪岳は「帝釈天」を。

 

それぞれの雷の極致として生み出すことになる。

 

――大正コソコソ噂話・終。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。