『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第三話 上弦の陸・獪岳の宿敵

――ビィィィン。

 

遠くで鳴女の琵琶が鳴った。

 

その音が止んだ瞬間、獪岳の身体が床へと叩き落とされる。

 

ドガァンッ!!

 

「ぐっ……!」

 

獪岳は受け身を取り、片膝をついた。

 

周囲を見渡す。

 

そこは、無限城の中でも特に異様な一室だった。

 

壁には乾いた血がこびりつき、畳はところどころ黒く変色している。

 

天井から吊り下がった無数の灯籠が、不気味な赤い光を落としていた。

 

そして何より――。

 

「……この気配」

 

獪岳の顔から、戦いの余裕が消える。

 

濃密な鬼の臭い。

 

それだけではない。

 

どこか懐かしく、そして何よりも忌々しい。

 

「誰だ……」

 

獪岳は黒銀の日輪刀を抜いた。

 

バチッ……!

 

黒紫の雷が刀身を走る。

 

静寂。

 

返事はない。

 

獪岳はゆっくりと周囲を見回した。

 

「出てこい」

 

「……」

 

「隠れてコソコソしてんじゃねえぞ」

 

その瞬間。

 

スゥ――。

 

背後の障子が、ひとりでに開いた。

 

「――よお」

 

低い声。

 

「久しぶりだな、獪岳アニキ」

 

「……ッ!」

 

獪岳の瞳が見開かれる。

 

そこに立っていたのは、一人の鬼だった。

 

人間だった頃の面影は残っている。

 

だが、その姿はもはや完全な異形。

 

額から伸びる禍々しい角。

 

鋭く裂けた瞳。

 

身体中には無数の傷跡。

 

そして何より――。

 

その身体には、幾本もの日輪刀が突き刺さっていた。

 

まるでそれらを喰らい、自らの肉体へ取り込んだかのように。

 

鬼は口元を歪める。

 

「随分と偉くなったじゃねえか」

 

「……テメェ」

 

獪岳の刀を握る手が震えた。

 

「柱にまでなったんだってな?」

 

鬼は愉快そうに笑う。

 

「鳴柱……だっけか?」

 

「……誰に聞いた」

 

「さあな」

 

鬼は肩をすくめる。

 

「無限城に落ちてきた連中の話を聞いてりゃ、嫌でも耳に入るんだよ」

 

獪岳は目を細めた。

 

その声。

 

その顔。

 

そして、記憶の奥底に刻み込まれた忌まわしい存在。

 

「……黒死牟に血を分けてもらったのか」

 

「ご名答」

 

鬼が笑う。

 

「俺は選ばれたんだよ」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

獪岳の中で、何かが弾けた。

 

「……選ばれた?」

 

「そうさ」

 

鬼は胸を張る。

 

「同じ雷の呼吸を使ってたのに、俺はお前みたいに人間のまま強くなる道なんざ選ばなかった」

 

「……」

 

「鬼になればいい。そうすりゃもっと強くなれる」

 

口元が吊り上がる。

 

「その結果がこれだ」

 

鬼の身体から、禍々しい黒紫の血鬼術が噴き出した。

 

バチバチバチッ!!

 

獪岳の黒雷とよく似た色。

 

だが、その性質はまるで違う。

 

「どうだ?」

 

鬼が笑う。

 

「俺の力は、お前の雷より遥かに上だぜ?」

 

「……ふざけんな」

 

獪岳が低く呟く。

 

「お前は……」

 

刀を構える。

 

「何も分かっちゃいねえ」

 

「何だと?」

 

「雷の呼吸ってのはな」

 

黒雷が獪岳の全身を包む。

 

「強くなりてえから鬼になるような、安っぽい力じゃねえんだよ」

 

「ハッ!」

 

鬼が鼻で笑う。

 

「じゃあ何だ? お前は人間のまま、俺より強くなったとでも言いたいのか?」

 

「当たり前だろうが」

 

獪岳の眼光が鋭くなる。

 

「俺は鬼にならなくても上弦を殺した」

 

「……!」

 

「遊郭で上弦の陸を殺した」

 

一歩。

 

「刀鍛冶の里で上弦の伍を殺した」

 

さらに一歩。

 

「俺は鳴柱になった」

 

黒雷が激しく膨れ上がる。

 

「そして――」

 

獪岳は刀を鬼へ向けた。

 

「これから無惨の首も獲る」

 

「……!」

 

鬼の表情から笑みが消えた。

 

「テメェがどれだけ鬼の力を手に入れようが知ったこっちゃねえ」

 

獪岳の声が、冷たく響く。

 

「俺はテメェを認めねえ」

 

「……獪岳ェ」

 

鬼の瞳が血走る。

 

「昔からそうだ」

 

身体中の日輪刀が、ガチャリと音を立てた。

 

「いつもいつも……俺を見下しやがって!」

 

「見下されるような真似してたのはテメェだろうがッ!」

 

「黙れェェェッ!!」

 

ドォォォンッ!!

 

鬼の身体から凄まじい衝撃波が放たれる。

 

獪岳は即座に跳び退く。

 

畳が吹き飛び、壁が粉砕される。

 

「ハッ!」

 

獪岳が空中で身体を捻る。

 

「雷の呼吸――肆ノ型!」

 

バリバリバリィッ!!

 

「遠雷ッ!!」

 

黒紫の斬撃が飛ぶ。

 

しかし鬼は腕を振るった。

 

「遅ぇんだよッ!」

 

ガキィィン!!

 

黒雷と鬼の爪が激突する。

 

火花が散る。

 

二人の顔が、至近距離で睨み合った。

 

「昔と変わらねえな、アニキ」

 

「その呼び方をやめろッ!」

 

「嫌だね」

 

鬼が笑う。

 

「俺たちは兄弟弟子だろ?」

 

「だったら――」

 

獪岳の雷がさらに膨れ上がる。

 

「その兄弟弟子としての腐れた因縁、今ここで終わらせてやるよォッ!!」

 

「上等だァァァッ!!」

 

ドォォォォン!!

 

雷鳴と鬼の咆哮が無限城を震わせる。

 

二人が同時に踏み込む。

 

黒紫の雷と血鬼術が真正面から激突し、部屋そのものが崩壊していく。

 

かつて同じ師のもとで雷の呼吸を学んだ兄弟弟子。

 

一人は人間として柱へ。

 

もう一人は鬼となり、上弦の陸へ。

 

決して交わることのなかった二つの道が――。

 

今、無限城で再び交差した。

 

「俺は誰にも負けねえッ!」

 

獪岳の咆哮が響く。

 

「テメェにも――鬼にも――無惨にもだッ!!」

 

その声と同時に、無限城の奥底で巨大な雷光が炸裂した。

 

因縁の兄弟弟子。

 

鳴柱・獪岳と、新たなる上弦の陸。

 

互いの誇りと存在を懸けた死闘が、ついに始まった。

 

 

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