『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第四話 善逸、兄弟子を追う

無限城――。

 

上下左右の感覚すら意味を成さない異形の城内を、ひとりの少年が必死に駆けていた。

 

我妻善逸。

 

琵琶の音とともに仲間たちから引き離されて以来、幾度も曲がりくねった廊下を走り、階段を上り、そしてまた落とされる。それでも善逸は足を止めなかった。

 

「はぁ……はぁ……! どこだ……!」

 

額から汗を流し、乱れた呼吸を整えながら、善逸は耳を澄ませる。

 

「どこにいるんだよ……アニキ……!」

 

返事はない。

 

聞こえるのは、無限城そのものが軋むような不気味な音。そして遠くから聞こえてくる、無数の鬼たちの気配。

 

普通ならば恐怖で足が竦んでしまう。

 

だが――善逸には、それ以上に気になる音があった。

 

「……!」

 

遠い。

 

遥か下層。

 

壁を何枚も隔てた向こう側から、かすかな雷鳴が響いている。

 

ドン……。

 

続いて――

 

バリィィィッ!!

 

「……この音……」

 

善逸の表情が変わった。

 

耳を澄ます。

 

雷が弾ける音。

 

大地を踏み抜く音。

 

刀と刀が激突する音。

 

そして、その中心にある荒々しい呼吸。

 

「間違いない……」

 

善逸の瞳が大きく見開かれる。

 

「アニキの雷だ……!」

 

あの黒紫の雷。

 

柱稽古で何度も聞いた、兄弟子・獪岳の雷の呼吸。

 

その音は、いつもの獪岳よりも遥かに激しかった。

 

まるで、命そのものを燃やして戦っているようだった。

 

「……何と戦ってるんだよ、アニキ……」

 

胸の奥がざわつく。

 

嫌な予感がした。

 

それでも善逸は走った。

 

「待ってろよ……!」

 

一段。

 

また一段。

 

無限城の階段を駆け下りる。

 

途中で鬼が現れても、善逸は立ち止まらなかった。

 

「邪魔だぁぁぁッ!」

 

雷鳴とともに抜刀し、一瞬で鬼の頸を斬り落とす。

 

「今は……アニキのところに行かなきゃいけないんだ!」

 

その脳裏に、柱稽古の夕暮れが蘇る。

 

――お前は壱ノ型しか使えねえ。

 

――だがな、その『ひとつ』を極限まで磨き上げてきただろうが。

 

――二人で一人分、じいちゃんの弟子だ。

 

あの時の獪岳は、相変わらず口が悪かった。

 

けれど、善逸には分かっていた。

 

あれは獪岳なりの励ましだった。

 

自分を認めてくれた言葉だった。

 

「俺は……アニキに追いつくんだ……!」

 

その瞬間――。

 

ドゴォォォンッ!!

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

目の前の壁が吹き飛んだ。

 

大量の瓦礫が宙を舞い、善逸はとっさに腕で顔を庇う。

 

煙が晴れていく。

 

その向こう側に広がっていたのは、血に染まった巨大な和室だった。

 

そして――。

 

「……!」

 

善逸の呼吸が止まった。

 

部屋の中央。

 

黒銀の日輪刀を握り締め、全身を傷だらけにしながら立っている男。

 

獪岳。

 

その向かい側には――。

 

人の姿を捨てた、禍々しい鬼が立っていた。

 

全身に異様な刀を纏い、口元には歪んだ笑み。

 

そして、その鬼から放たれる雷気は、獪岳のものとは似て非なる邪悪なものだった。

 

「アニキ……」

 

善逸の声が震える。

 

獪岳が振り返った。

 

「……善逸?」

 

一瞬だけ、獪岳の目が見開かれる。

 

だが次の瞬間には、いつもの険しい表情へと戻った。

 

「てめぇ……!」

 

「アニキ!」

 

「何でこんなところにいやがるッ!」

 

獪岳が怒鳴りつける。

 

「さっさと失せろ! ここはてめぇみてぇな奴が来る場所じゃねえ!」

 

「嫌だ!」

 

善逸は叫んだ。

 

自分でも驚くほど、はっきりとした声だった。

 

「俺は……アニキを追ってきたんだ!」

 

「……あぁ?」

 

「柱稽古の時、言ってくれただろ……!」

 

善逸は刀の柄を強く握り締める。

 

「俺は壱ノ型しか使えない。でも、それを極限まで磨けばいいって……!」

 

一歩。

 

獪岳へと近づく。

 

「だったら俺は、俺にできることをやる!」

 

さらに一歩。

 

「アニキが戦ってるなら、俺も戦う!」

 

獪岳の眉間に皺が寄る。

 

「……馬鹿が」

 

「うん。馬鹿でもいい!」

 

善逸の目に涙が浮かぶ。

 

それでも、逃げなかった。

 

「俺はもう……アニキの背中を見てるだけの弟弟子じゃない!」

 

腰の刀を抜く。

 

シャリン――。

 

その刀身に、黄金色の雷光が走った。

 

「俺も雷の呼吸の使い手だ!」

 

バチッ!

 

金色の雷と黒紫の雷。

 

二つの異なる雷が、無限城の一室で同時に弾けた。

 

それを見た鬼が、愉快そうに口角を吊り上げる。

 

「へぇ……善逸まで来たのか」

 

獪岳の顔から怒気が消える。

 

代わりに浮かんだのは、獲物を前にした猛獣のような笑みだった。

 

「……ったく。余計な荷物が増えやがった」

 

「アニキ……!」

 

「だが――」

 

獪岳は黒銀の日輪刀を構える。

 

「俺の背中を追うってんなら、死ぬ気でついて来い」

 

「……うん!」

 

善逸も構える。

 

「絶対に離れない!」

 

「なら来い、善逸!」

 

黒紫の雷が轟く。

 

黄金の雷が応える。

 

二人の兄弟弟子が並び立った瞬間、鬼の笑みが一層深くなった。

 

「面白ぇ……!」

 

無限城の一室に、三者の殺気が渦巻く。

 

かつて同じ師の下で雷の呼吸を学んだ兄弟弟子。

 

そして、その二人を待ち受ける鬼。

 

今度の戦いは、ただの鬼殺しではない。

 

それぞれが背負ってきた過去と誇り、そのすべてを懸けた決着の戦い。

 

金色と黒紫。

 

二つの雷鳴が重なり――。

 

無限城に、凄絶な死闘の幕が上がった。

 

 

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