『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第七話 帝釈天・九頭龍雷鳴

無限城の一室。

 

壁は崩れ、床は無数の亀裂に覆われていた。そこら中に散らばる瓦礫には、黒紫の雷が未だに纏わりつき、焦げた木材からは白い煙が立ち上っている。

 

その中心で、獪岳は荒い呼吸を繰り返していた。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

肩から血が流れ、脇腹には深い傷が刻まれている。

 

腕も、脚も、無傷ではない。

 

それでも――。

 

黒銀の日輪刀を握る右手だけは、一切の震えを見せていなかった。

 

「……終わりだ」

 

獪岳が低く呟く。

 

その正面。

 

かつての兄弟弟子だった上弦の陸は、見るも無惨な姿へと変わり果てていた。

 

全身の至るところが黒く炭化し、再生した肉体がまた崩れ落ちる。

 

「ぐ……あ……」

 

鬼が自分の身体を見下ろす。

 

「な、何故だ……何故、再生できない……!」

 

「分からねえか?」

 

獪岳が刀を構え直した。

 

「俺の雷は、ただ斬るだけじゃねえ」

 

バリ……バリバリッ。

 

刀身から黒紫の雷が噴き上がる。

 

「焼いてんだよ」

 

「……!」

 

「細胞の一つ一つまでな」

 

鬼の顔が引き攣った。

 

これまで幾度となく斬られ、その度に再生してきた。

 

だが、獪岳の黒雷はその再生そのものを上回っていた。

 

斬る。

 

焼く。

 

さらに斬る。

 

再生する暇さえ与えず、ひたすらに追撃を重ねる。

 

それは、柱稽古を経て獪岳が磨き上げた、純粋な殺傷力の極致だった。

 

「ぐ……ふざけるな……!」

 

鬼が叫ぶ。

 

「俺は鬼だ! 上弦の陸だぞ! 人間ごときが、俺に勝てるはずがない!」

 

「……人間ごとき?」

 

獪岳の眉が僅かに動いた。

 

「そうかよ」

 

その声には、怒りすら通り越した冷たさがあった。

 

「なら、最後までその目で見てろ」

 

「何を――」

 

獪岳がゆっくりと刀を頭上へ掲げる。

 

周囲の黒紫の雷が、一斉に刀身へ吸い込まれていく。

 

バチッ。

 

バリバリバリバリッ!!

 

空気が震える。

 

床が震える。

 

無限城そのものが、獪岳の周囲に発生した異常な雷圧に軋み始めた。

 

鬼が後ずさる。

 

「な……何だ……それは……」

 

「柱稽古の最後に、俺自身が辿り着いた答えだ」

 

獪岳の脳裏に、これまでの日々が蘇る。

 

冨岡義勇との手合わせ。

 

不死川実弥との死闘。

 

悲鳴嶼行冥との極限の鍛錬。

 

時透無一郎との速度勝負。

 

甘露寺蜜璃の地獄の柔軟。

 

そして――。

 

しのぶの手当て。

 

善逸との約束。

 

全てが、今の一撃へと繋がっている。

 

「俺は、誰よりも強くなる」

 

獪岳の瞳が鋭く輝く。

 

「誰にも負けねえ」

 

雷がさらに膨れ上がる。

 

「そして――」

 

獪岳は一歩、踏み込んだ。

 

「俺の背中を追ってくる奴に、恥ずかしい姿は見せられねえんだよォォォッ!!」

 

「や、やめろォォォッ!!」

 

獪岳の声が轟く。

 

「雷の呼吸――」

 

黒紫の雷が爆発した。

 

「異形・帝釈天――」

 

ドォォォォォンッ!!

 

一瞬。

 

獪岳の姿が消えた。

 

「九頭龍雷鳴ッ!!」

 

轟音。

 

閃光。

 

そして――九つの黒雷。

 

それは単なる九連撃ではなかった。

 

一つ一つの斬撃が独立した雷龍のように形を成し、異なる角度から同時に上弦の陸へと襲い掛かる。

 

右。

 

左。

 

正面。

 

背後。

 

上下。

 

逃げ場など存在しない。

 

「な……!」

 

鬼が目を見開く。

 

「九つ……だと……!?」

 

一撃目。

 

ザンッ!!

 

肩口が斬り裂かれる。

 

二撃目。

 

ズバァッ!!

 

胴が焼き切れる。

 

三撃目。

 

ガギィンッ!!

 

鬼の防御を完全に粉砕する。

 

「ぐああああああッ!!」

 

四つ。

 

五つ。

 

六つ。

 

七つ。

 

八つ。

 

そして――。

 

最後の黒雷が、巨大な雷龍となって鬼の頸へ食らいついた。

 

「嫌だァァァッ!!」

 

獪岳が吼える。

 

「消え失せろォォォォッ!!」

 

ズドォォォォォンッ!!

 

九つの雷撃が、一つに収束した。

 

無限城の一室が、白昼のような光に包まれる。

 

轟音が鳴り響き、床が大きく陥没した。

 

やがて――。

 

静寂。

 

「……」

 

獪岳は刀を構えたまま、動かなかった。

 

煙が晴れていく。

 

そこに立っていた鬼の肉体は、もはや原形を留めていなかった。

 

「そ……んな……」

 

鬼の声が震える。

 

「俺が……人間なんかに……」

 

身体が崩れる。

 

「アニキ……」

 

最後に呟いたその言葉すら、黒い灰となって消えていった。

 

獪岳はしばらく無言で、その灰を見つめていた。

 

長かった。

 

あまりにも長い因縁だった。

 

兄弟弟子として出会い。

 

互いを認められず。

 

道を違え。

 

そして一人は鬼となった。

 

だが――。

 

今日、その因縁は終わった。

 

「……師匠」

 

獪岳が小さく呟く。

 

「……終わったぜ」

 

刀をゆっくりと鞘へ収める。

 

カチン。

 

その瞬間、全身から力が抜けた。

 

「アニキ!」

 

駆け寄ってきた善逸が、倒れかけた獪岳の身体を支える。

 

「おい……大丈夫!?」

 

「……離せ」

 

「嫌だ!」

 

即答だった。

 

「こんなボロボロなのに、一人で立とうとするなよ!」

 

「うるせえ……」

 

「アニキ……勝ったんだよね?」

 

「ああ」

 

「……そっか」

 

善逸の目から涙が零れた。

 

「俺たち……師匠の仇を……」

 

「違う」

 

獪岳が静かに言う。

 

「仇を討ったのは……俺一人じゃねえ」

 

善逸が顔を上げる。

 

獪岳は疲れ切った顔で、それでも僅かに笑った。

 

「お前も雷の呼吸を背負ってるんだろ」

 

「……!」

 

「だったら胸張れ。俺たちは――」

 

獪岳は無限城の奥を睨む。

 

「まだ終わってねえ」

 

その言葉と同時に、遠くから凄まじい鬼気が伝わってくる。

 

鬼舞辻無惨。

 

最終決戦は、まだ始まったばかりだった。

 

「行くぞ、善逸」

 

「うん!」

 

黄金の雷と黒紫の雷。

 

二つの雷光が、無限城の闇の中で再び輝きを放った。

 

 

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