『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第八話 善逸・火雷神

上弦の陸が消滅した直後。

 

崩壊を始めた無限城の一室には、一瞬だけ不気味な静寂が訪れていた。

 

壁は大きく崩れ、天井からは瓦礫が絶え間なく落下している。

 

黒紫の雷光が消えた後に残されたのは、焼け焦げた床と、鬼の消滅を示す黒い灰だけだった。

 

獪岳は荒い呼吸を繰り返しながら、黒銀の日輪刀を杖代わりにして立っていた。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

身体は限界だった。

 

肩から流れる血。

 

裂けた脇腹。

 

痺れる両脚。

 

それでも、獪岳は倒れなかった。

 

「……終わったな」

 

そう呟いた、その時だった。

 

「……アニキ!」

 

善逸の声が響く。

 

獪岳が振り返る。

 

「どうした、善逸」

 

「危ないッ!!」

 

善逸の表情が一変した。

 

耳を澄ませる。

 

獪岳には聞こえないほど微かな音。

 

瓦礫の下。

 

崩れた壁の向こう。

 

何かが這いずっている。

 

「……まだ何かいやがるのか?」

 

ズズ……。

 

ズズズ……。

 

瓦礫が動いた。

 

その隙間から、異形の腕が伸びる。

 

「グギィィィ……!」

 

上弦の陸が消滅したことで主を失った血鬼術の残滓。

 

それが無限城そのものに残された鬼の血と結びつき、最後の悪あがきのように異形の鬼へと変貌していた。

 

「アニキ、避けて!」

 

「チッ!」

 

獪岳が刀を構える。

 

しかし――遅い。

 

ザザザザザッ!!

 

瓦礫の奥から無数の刃が飛び出した。

 

四方八方。

 

逃げ場がない。

 

獪岳は瞬時に悟った。

 

(……受け切れねえ)

 

満身創痍の身体では、全てを斬り落とすことはできない。

 

その瞬間――。

 

ドンッ!!

 

「善逸ッ!?」

 

獪岳の身体が横へ吹き飛ばされた。

 

代わりに前へ出たのは善逸だった。

 

「ぐっ……!」

 

善逸の足元へ刃が突き刺さる。

 

あと僅かでも遅ければ、獪岳の身体を貫いていた。

 

「てめぇ……!」

 

獪岳が叫ぶ。

 

「何しやがった!」

 

善逸は振り返らない。

 

「アニキは……休んでて」

 

その声は震えていた。

 

足も震えている。

 

それでも、刀を握る手だけは決して離さなかった。

 

「俺がやる」

 

「ふざけんな! その身体で何が――」

 

「違うよ」

 

善逸が静かに遮った。

 

「もう、昔の俺じゃない」

 

獪岳が目を見開く。

 

善逸はゆっくりと目を閉じた。

 

すると――。

 

辺りから、音が消えた。

 

崩れ落ちる瓦礫の音。

 

遠くで鳴る琵琶の音。

 

異形の鬼が唸る声。

 

全てが遠ざかっていく。

 

善逸の意識が、ただ一つの音だけを捉える。

 

自分の心臓。

 

ドクン。

 

ドクン。

 

そして――。

 

遠い記憶の中から、懐かしい声が聞こえた。

 

『善逸、お前は壱ノ型しか使えん』

 

師匠――桑島慈悟郎の声。

 

『だがな……一つを極めるということは、決して恥ではない』

 

善逸の手に力が籠もる。

 

「……爺ちゃん」

 

獪岳が息を呑む。

 

善逸の身体から、黄金の雷光が漏れ始めていた。

 

「アニキが言ってくれたんだ」

 

バチッ。

 

「一つしかできないなら……その一つを極限まで磨けって」

 

バリッ……バリバリバリッ!!

 

黄金の雷が善逸の全身を包む。

 

「俺は、壱ノ型しか使えない」

 

善逸が目を開く。

 

その瞳から恐怖は消えていた。

 

「でも――」

 

腰を低く落とす。

 

「それなら、それだけでアニキの背中に追いつく!」

 

ドンッ!!

 

足元の床が陥没した。

 

「雷の呼吸――」

 

黄金の雷が一瞬で収束する。

 

「漆ノ型――」

 

善逸の姿が消えた。

 

「火雷神ッ!!」

 

轟ォォォォォンッ!!

 

次の瞬間。

 

無限城を一本の黄金の閃光が貫いた。

 

それは雷というより、天から舞い降りた巨大な神龍。

 

金色の龍が無限城の闇を駆け抜け、襲い掛かってきた異形の鬼を正面から呑み込んでいく。

 

「ギィィィィィッ!!」

 

ズバァァァンッ!!

 

一閃。

 

それだけだった。

 

鬼の頸が斬り落とされる。

 

いや――。

 

頸だけではない。

 

全身が黄金の雷に包まれ、血鬼術の残滓ごと消滅していく。

 

やがて光が収まった。

 

「…………」

 

善逸が立っていた。

 

しかし、その身体はすでに限界を超えていた。

 

「……終わっ……た……」

 

膝から力が抜ける。

 

「善逸!」

 

獪岳が駆け寄る。

 

倒れ込んできた善逸を、獪岳が両腕で受け止めた。

 

「……バカヤローが」

 

獪岳の声は低い。

 

「無茶しやがって……」

 

「へへ……」

 

善逸が薄く笑う。

 

「アニキ……俺……ちゃんと……」

 

「ああ」

 

獪岳は短く答えた。

 

「見てた」

 

善逸の顔が少しだけ緩む。

 

「……強くなった?」

 

「生意気なくらいにな」

 

「そっか……」

 

善逸は安心したように目を閉じた。

 

獪岳はそんな弟弟子をしっかりと抱え直す。

 

かつては、泣いてばかりだった。

 

何かあれば逃げていた。

 

自分には何もできないと怯えていた。

 

だが今は違う。

 

一つの技だけを、誰よりも深く、誰よりも鋭く磨き上げた。

 

「……立派になりやがって」

 

獪岳は誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

 

そして、善逸を背負い直す。

 

「行くぞ」

 

「……アニキ……?」

 

「まだ戦いは終わってねえ」

 

獪岳は無限城の奥を睨みつける。

 

「無惨の野郎をぶっ殺すまで、寝てんじゃねえぞ」

 

「……うん」

 

背中から聞こえる小さな返事。

 

その直後、二人の間を――。

 

黒紫と黄金。

 

二色の雷光が、静かに走り抜けた。

 

兄弟弟子。

 

かつては互いを認められなかった二人が、今では同じ師の技を背負い、同じ敵へ向かって進んでいる。

 

そしてその先には――。

 

鬼舞辻無惨との、最後の戦いが待っていた。

 

 

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