『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第十二話 花柱・胡蝶カナエ、参戦

「――姉さんの仇ッ!」

 

氷の御堂に、しのぶの叫びが響き渡った。

 

シュッ!!

 

細身の日輪刀が童磨の胸元へ迫る。

 

しかし――。

 

パキパキパキッ!!

 

童磨が扇を一振りしただけで、周囲の空気が瞬く間に凍結した。

 

「おっと、危ない危ない」

 

「くっ……!」

 

しのぶは紙一重で身を翻し、氷の床を蹴って後退する。

 

だが、着地した瞬間。

 

「……ッ!」

 

肺の奥に、焼けるような痛みが走った。

 

呼吸ができない。

 

冷たい。

 

あまりにも冷たい。

 

ただの寒さではない。

 

童磨の血鬼術によって生み出された冷気は、吸い込むだけで肺を侵し、呼吸そのものを奪っていく。

 

「どうしたのかな?」

 

童磨は楽しそうに首を傾げる。

 

「さっきまでの勢いはどうしたんだい?」

 

「……まだ……終わっていませんよ」

 

しのぶは震える脚を無理やり踏みしめた。

 

「私は……あなたを殺すまで……絶対に倒れません……!」

 

「うんうん、その顔だよ」

 

童磨が笑う。

 

「そういう必死な顔を見るの、ボクは結構好きなんだ」

 

「……そうですか」

 

しのぶも笑った。

 

だが、その笑顔の奥には凄まじい憎悪が燃えている。

 

「なら――その笑顔のまま、死んでください」

 

一気に踏み込む。

 

「蟲の呼吸――蝶ノ舞・戯れ!」

 

ズシュッ!!

 

毒を仕込んだ刀が童磨の肩を貫いた。

 

「おおっ!」

 

童磨の身体が僅かに揺れる。

 

「また毒か」

 

傷口から紫色の煙が立ち上る。

 

しかし――。

 

「残念だったね」

 

傷が塞がっていく。

 

「この程度じゃ、ボクは殺せないよ」

 

「……そうでしょうね」

 

しのぶは息を整える。

 

「ですから、何度でも刺します」

 

「へえ?」

 

「十回でも、百回でも」

 

しのぶの瞳が鋭くなる。

 

「あなたが死ぬまで」

 

その瞬間だった。

 

ドォォォォンッ!!

 

突然、御堂の天井が吹き飛んだ。

 

大量の氷と木材が崩れ落ちる。

 

「なに!?」

 

童磨が上を見上げる。

 

しのぶも驚いて振り返った。

 

舞い落ちる瓦礫。

 

吹き込む冷たい風。

 

その中を――一人の女性が静かに降り立った。

 

淡い桜色の羽織が、氷の御堂の中で美しく翻る。

 

手には一本の刀。

 

その刀身は月光を映すように澄み渡っていた。

 

「――大丈夫、しのぶ」

 

優しい声。

 

聞き間違えるはずがない。

 

「よく頑張ったね」

 

「…………」

 

しのぶの瞳が大きく見開かれる。

 

呼吸が止まった。

 

「……え?」

 

その女性は、ゆっくりと振り返った。

 

優しい微笑み。

 

懐かしい眼差し。

 

そして――かつて何度も自分の頭を撫でてくれた、大好きな姉の顔。

 

「……姉……さん……?」

 

声が震える。

 

「姉さん……?」

 

一歩。

 

しのぶが近づく。

 

「そんな……」

 

目から、涙が一粒こぼれ落ちる。

 

「だって……姉さんは……」

 

女性は静かに微笑んだ。

 

「うん」

 

そして、はっきりと告げる。

 

「私は、胡蝶カナエ」

 

花柱。

 

胡蝶しのぶの姉。

 

かつて上弦の弐・童磨との戦いで命を落としたはずの女性だった。

 

「……どうして……?」

 

しのぶは涙を拭うことすら忘れていた。

 

「どうして姉さんが……ここに……?」

 

カナエはしのぶの頬へ手を伸ばす。

 

その手は温かかった。

 

「泣かないの、しのぶ」

 

「……っ」

 

「あなたが泣いていると、私まで悲しくなってしまうでしょう?」

 

「姉さん……!」

 

しのぶは堪えきれず、涙を流した。

 

カナエはそんな妹を優しく見つめる。

 

「よくここまで頑張ったね」

 

「私……ずっと……姉さんの仇を……」

 

「知っているよ」

 

「ずっと……ずっと、あいつを殺したくて……!」

 

「うん」

 

「でも……私一人じゃ……!」

 

カナエはそっと妹の肩へ手を置いた。

 

「だったら、一人で戦わなくていい」

 

しのぶが顔を上げる。

 

カナエは童磨を見据えた。

 

先ほどまでの柔らかな表情から、僅かに笑みが消える。

 

「この鬼を討つために、私は戻ってきたのだから」

 

童磨は、珍しく言葉を失っていた。

 

「…………」

 

虹色の瞳が大きく見開かれる。

 

「……嘘だろ?」

 

童磨は目の前の女性を凝視した。

 

「君……」

 

そして、かつての記憶を思い出す。

 

「死んだはずじゃなかったかい?」

 

カナエは静かに刀を構えた。

 

「ええ」

 

その声には一切の迷いがない。

 

「あなたに殺された」

 

「…………」

 

「でも――」

 

カナエの足元に、淡い花びらのような闘気が舞う。

 

「もう一度、あなたと向き合う機会を得た」

 

童磨の口元が僅かに引きつる。

 

「へえ……面白いなぁ」

 

扇を開く。

 

「死者が蘇って復讐しに来るなんて、まるで御伽噺みたいだ」

 

「そうですね」

 

カナエが微笑む。

 

「ですが、あなたにとっては悪夢でしょう」

 

「……!」

 

カナエが踏み込んだ。

 

「花の呼吸――」

 

ヒュンッ!!

 

その姿が一瞬で童磨の懐へ潜り込む。

 

「弐ノ型――御影梅!」

 

ズバァッ!!

 

花弁のような斬撃が童磨の身体を切り裂く。

 

「ぐっ……!」

 

童磨が初めて大きく後退した。

 

「姉さん……!」

 

しのぶが息を呑む。

 

カナエは振り返らずに告げる。

 

「しのぶ」

 

「はい!」

 

「あなたは蟲」

 

「……!」

 

「私は花」

 

二人の刀が並ぶ。

 

「違う呼吸でも――」

 

「――想いは同じです」

 

しのぶが涙を拭う。

 

そして、笑った。

 

「ええ、姉さん」

 

二人の殺気が同時に膨れ上がる。

 

「一緒に、この鬼を討ちましょう」

 

童磨が扇を構え直す。

 

「いいねぇ……!」

 

氷の御堂が一瞬で凍てつく。

 

「姉妹二人まとめて食べてあげるよ!」

 

「その言葉――」

 

カナエの瞳が鋭くなる。

 

「生前の私にも言ったのでしょうね」

 

しのぶも刀を握り直す。

 

「ですが、今度は違います」

 

花と蟲。

 

二つの刃が、同時に童磨へ向けられる。

 

「――私たちは、あなたを逃がさない」

 

「さあ、行きましょう。しのぶ」

 

「はい、姉さん!」

 

ドォォォォンッ!!

 

氷の御堂が揺れた。

 

童磨の冷気と、胡蝶姉妹の剣技が激突する。

 

姉を奪われた妹。

 

かつて命を奪われた姉。

 

そして、千年もの間、人の命を弄び続けた上弦の弐。

 

三者の因縁が、今ここで交錯する。

 

「花の呼吸――!」

 

「蟲の呼吸――!」

 

「血鬼術――!」

 

三つの力が激突した瞬間、御堂全体を覆っていた氷が大きく砕け散った。

 

胡蝶カナエ、再び戦場へ。

 

そして胡蝶しのぶ。

 

二人の姉妹による、童磨への反撃が始まった。

 

 

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