『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第22話 兄弟弟子

朝の山道。

 

まだ太陽が昇りきっていない。

 

霧の残る山道を、二人の少年が走っていた。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

我妻善逸。

 

その少し前を走るのは獪岳。

 

「遅いぞ、善逸!」

 

「待ってよぉ、兄貴ぃ!」

 

「鬼は待ってくれねぇぞ!」

 

「修行と鬼退治を一緒にしないでよ!」

 

「同じだ」

 

「違うよぉ!」

 

獪岳は振り返る。

 

「あと百歩」

 

「え?」

 

「そこまで走ったら休ませてやる」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

善逸の目が輝く。

 

「じゃあ頑張る!」

 

「ただし――」

 

獪岳が口角を上げる。

 

「俺も一緒に走る」

 

「意味ないじゃん!」

 

「文句があるなら俺より速く走れ」

 

「鬼ぃぃぃ!」

 

山中に善逸の叫び声が響いた。

 

その様子を。

 

少し離れた場所から桑島慈悟郎が見ていた。

 

「……仲の良い兄弟弟子になったものじゃ」

 

 

二人が道場へ戻る。

 

善逸はその場に倒れ込んだ。

 

「もう無理……死ぬ……」

 

「大袈裟だ」

 

「兄貴は平気なの!?」

 

「平気だ」

 

「なんで!?」

 

「鍛えてるからだ」

 

「僕だって鍛えてるよ!」

 

「なら、もっと鍛えろ」

 

「鬼ぃぃぃ!」

 

獪岳は呆れた顔をしながらも。

 

善逸へ水を渡す。

 

「ほら」

 

「……ありがとう」

 

「飲み過ぎるな。すぐ修行だ」

 

「鬼……」

 

「何か言ったか?」

 

「なんでもありません!」

 

善逸は慌てて水を飲んだ。

 

そんな二人を見て。

 

桑島は微笑む。

 

「獪岳」

 

「はい」

 

「善逸」

 

「はい!」

 

「今日は二人で組手をしてみよ」

 

「え?」

 

善逸が固まる。

 

「兄貴と?」

 

「ああ」

 

「無理です!」

 

「即答するな」

 

「だって兄貴強すぎるもん!」

 

獪岳は木刀を取った。

 

「安心しろ」

 

「え?」

 

「手加減はする」

 

「そういう問題じゃない!」

 

桑島が笑う。

 

「よいではないか」

 

「師匠まで……!」

 

「兄弟弟子なら、互いに鍛え合うものじゃ」

 

「…………」

 

善逸は獪岳を見る。

 

獪岳は木刀を構えている。

 

「来い」

 

「……うん」

 

善逸も木刀を握った。

 

 

「始め!」

 

桑島の声。

 

善逸が先に動いた。

 

「うおおおお!」

 

勢いよく突っ込む。

 

獪岳は横へ避ける。

 

「遅い」

 

「まだぁ!」

 

善逸が振り返る。

 

木刀を横薙ぎ。

 

獪岳が受ける。

 

――ガンッ!

 

「ぐっ!」

 

善逸の腕が震える。

 

「力みすぎだ」

 

「でも……!」

 

「雷の呼吸は速さだけじゃない」

 

「…………」

 

「呼吸を整えろ」

 

善逸は歯を食いしばる。

 

「……はい!」

 

再び構える。

 

今度は。

 

先ほどより静かだった。

 

「…………」

 

獪岳の目が細くなる。

 

「そうだ」

 

「え?」

 

「今の構えだ」

 

「……!」

 

「余計な力を抜け」

 

善逸は頷いた。

 

「うん!」

 

再び走る。

 

――ドンッ!

 

一瞬。

 

善逸の姿が消えた。

 

「!」

 

獪岳が木刀を構える。

 

――ガァン!

 

二人の木刀がぶつかった。

 

善逸が吹き飛ばされる。

 

だが。

 

「……まだ!」

 

すぐに立ち上がる。

 

獪岳は少し驚いた。

 

「ほう」

 

「まだやれる!」

 

「そうか」

 

獪岳が構える。

 

「なら、もう一度だ」

 

「うん!」

 

二人が同時に走った。

 

 

その日の修行は。

 

日が暮れるまで続いた。

 

善逸は何度も負けた。

 

だが。

 

そのたびに立ち上がった。

 

「もう一回!」

 

「来い」

 

「もう一回!」

 

「来い!」

 

「もう一回!」

 

「来い!」

 

最後には。

 

善逸は地面に倒れた。

 

「……もう……動けない……」

 

獪岳も汗だくだった。

 

「今日はここまでだ」

 

「……兄貴」

 

「何だ」

 

「僕……強くなれるかな」

 

獪岳は少し黙った。

 

「なる」

 

「……即答?」

 

「ああ」

 

「どうして?」

 

「お前は何度倒されても立ち上がる」

 

「…………」

 

「それは強さだ」

 

善逸は目を丸くした。

 

「兄貴……」

 

「ただし」

 

「うん」

 

「泣きながらでもいいから鍛えろ」

 

「それは褒めてるの!?」

 

「褒めてる」

 

「分かりにくいよ!」

 

獪岳は小さく笑った。

 

 

夜。

 

縁側。

 

二人は並んで座っていた。

 

善逸が呟く。

 

「ねえ、兄貴」

 

「何だ」

 

「兄弟弟子ってさ」

 

「うん」

 

「本当の兄弟みたいなものなのかな」

 

獪岳は少し考える。

 

「……そうだな」

 

「じゃあ」

 

善逸は嬉しそうに笑う。

 

「兄貴って呼んでもいい?」

 

「今さら何言ってんだ」

 

「だって、ずっと迷惑かなって」

 

獪岳は善逸を見る。

 

「好きにしろ」

 

「じゃあ!」

 

善逸は満面の笑み。

 

「兄貴!」

 

「……なんだ」

 

「兄貴!」

 

「なんだよ」

 

「兄貴ぃ!」

 

「うるせぇ!」

 

「兄貴ぃぃ!」

 

獪岳は頭を抱えた。

 

「……やっぱり撤回していいか?」

 

「ダメ!」

 

そのやり取りを。

 

少し離れたところで桑島が聞いていた。

 

「…………」

 

桑島は目を閉じる。

 

「良い弟子たちじゃ」

 

 

それから。

 

二人の関係は少しずつ変わっていった。

 

獪岳は善逸に厳しかった。

 

「足!」

 

「はい!」

 

「呼吸!」

 

「はい!」

 

「姿勢!」

 

「はい!」

 

「泣くな!」

 

「無理!」

 

「なら泣きながらやれ!」

 

「はい!」

 

一方。

 

善逸は獪岳を慕った。

 

「兄貴!」

 

「何だ」

 

「今日の飯、僕が作る!」

 

「……お前、料理できるのか?」

 

「できるよ!」

 

「昨日、味噌汁を焦がしただろ」

 

「今日は大丈夫!」

 

「信用できねぇ」

 

「ひどい!」

 

それでも。

 

善逸が落ち込んでいれば。

 

獪岳は黙って隣に座る。

 

善逸が怪我をすれば。

 

誰より早く手当てをする。

 

善逸が修行を嫌がれば。

 

「逃げるな」

 

と引き戻す。

 

そして。

 

善逸が少しでも上達すれば。

 

「……よくやった」

 

その一言をくれる。

 

善逸にとって。

 

それだけで十分だった。

 

 

ある日の修行。

 

桑島が二人を呼んだ。

 

「獪岳、善逸」

 

「はい」

 

「はい!」

 

「お前たちは兄弟弟子じゃ」

 

「…………」

 

「同じ師のもとで学び」

 

「…………」

 

「同じ雷の呼吸を使う」

 

「…………」

 

「だが、同じ雷である必要はない」

 

二人が顔を上げる。

 

「獪岳の雷は獪岳のもの」

 

「…………」

 

「善逸の雷は善逸のものじゃ」

 

「…………」

 

「互いを真似するのではなく」

 

桑島は二人を見た。

 

「互いに己の雷を極めよ」

 

獪岳は頷く。

 

「はい」

 

善逸も。

 

「はい!」

 

桑島は笑う。

 

「それでこそ、兄弟弟子じゃ」

 

 

夜。

 

獪岳は一人で刀を振っていた。

 

そこへ善逸がやってくる。

 

「兄貴」

 

「寝ないのか?」

 

「兄貴こそ」

 

「俺はもう少しやる」

 

「じゃあ僕も」

 

「無理するな」

 

「兄貴も無理してるじゃん」

 

「…………」

 

「だったら僕もやる」

 

獪岳は少し黙った。

 

そして。

 

「……好きにしろ」

 

「うん!」

 

二人は並んで立つ。

 

「雷の呼吸――」

 

二人の声が重なる。

 

「壱ノ型!」

 

「霹靂一閃!」

 

――ドンッ!!

 

二つの雷が。

 

夜の山を駆け抜けた。

 

速さも。

 

姿も。

 

まだ違う。

 

だが。

 

確かに同じ場所から始まった雷だった。

 

やがて二人は。

 

それぞれ異なる道を進む。

 

善逸は。

 

己だけの究極の一撃を。

 

そして獪岳は。

 

龍の姿を取る、己だけの雷を。

 

それぞれの雷を極めていく。

 

それでも。

 

二人が兄弟弟子であることだけは。

 

決して変わらない。

 

【大正コソコソ噂話】

 

獪岳と善逸が正式に「兄弟弟子」として認められた頃。

 

善逸は桑島に尋ねた。

 

「じいちゃん!」

 

「何じゃ」

 

「兄貴と僕、どっちが強い?」

 

桑島は即答した。

 

「今は獪岳じゃ」

 

「うわぁぁぁん!」

 

「だが」

 

桑島が続ける。

 

「善逸にも、獪岳にはない才能がある」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

善逸が泣き止む。

 

「どんな才能!?」

 

桑島は真顔で答えた。

 

「寝ることじゃ」

 

「それ才能なの!?」

 

隣で聞いていた獪岳は。

 

「お前の場合、才能じゃなくて特技だろ」

 

「兄貴まで!?」

 

そして獪岳は。

 

「まあ、いつか俺を超えてみろ」

 

と笑った。

 

善逸は涙を拭い。

 

「絶対超える!」

 

と叫んだという。

 

この兄弟弟子の約束が。

 

後に二人の雷を、それぞれ別の極致へと導くことになる。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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