『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第十四話 風柱・不死川実弥、激闘

 無限城の深部。

 

 そこは、上下左右の感覚すら狂わせる異形の空間だった。

 

 天井は遥か彼方へ消え、巨大な歯車が幾重にも重なりながら、ギギギギ……と不気味な音を立てて回転している。

 

 その狭間を、一人の男が荒々しく駆け抜けていた。

 

「チィッ……! 無限城ってのは、どこまで人を迷わせりゃ気が済みやがる!」

 

 風柱・不死川実弥。

 

 額から流れ落ちる血を乱暴に拭い、実弥は苛立たしげに舌打ちした。

 

 お館様は死んだ。

 

 鬼殺隊は総力を挙げ、無惨を追い詰めるために動いている。

 

 だが、無限城に引きずり込まれてからというもの、仲間たちの気配は次々と遠ざかっていた。

 

「……冨岡の野郎は無事か。悲鳴嶼さんや胡蝶、それにあの雷野郎も……」

 

 実弥の脳裏に、黒紫の雷を纏う男の姿が浮かぶ。

 

 鳴柱・獪岳。

 

 口を開けば癇に障る男だ。

 

 だが、刀を交えれば分かる。

 

 あの男もまた、命懸けで鬼を殺すために戦っている。

 

「……勝手に死ぬんじゃねえぞ、獪岳」

 

 その瞬間だった。

 

 ピタリ。

 

 実弥の足が止まった。

 

 風がない。

 

 無限城の中だというのに、先ほどまで漂っていた空気の流れが完全に途絶えている。

 

「…………」

 

 実弥は目を細める。

 

 鼻腔を刺激する、濃密な血の臭い。

 

 それも、自分自身の血とは違う。

 

「……いるな」

 

 ギシ……。

 

 巨大な歯車の影が揺れた。

 

「ククク……」

 

 暗闇から、ぬるりと巨大な腕が伸びる。

 

「素晴らしい匂いだ……」

 

 現れた鬼は、異様な巨体をしていた。

 

 全身には無数の口と目が浮かび、鋭い牙を剥き出しにしている。

 

「これほど濃密な血の香り……人間とは思えぬほどだ。もしや……稀血か?」

 

「あァ?」

 

 実弥の眉が跳ね上がった。

 

「だったらどうした」

 

「喰わせろ……」

 

 鬼の瞳が血走る。

 

「その血を、もっと近くで嗅がせろ……!」

 

 実弥は口角を吊り上げた。

 

「……上等だ」

 

 そして、わざと刀を抜かずに腕を傷つける。

 

 ザシュッ!

 

「ぐっ……!」

 

 鮮血が噴き出した。

 

 濃厚な稀血の香りが、一気に周囲へ広がっていく。

 

「ほらよ」

 

 実弥は血の滴る腕を突き出した。

 

「喰いたきゃ来い」

 

「ガァァァァッ!!」

 

 鬼が獣のような咆哮を上げた。

 

 次の瞬間、巨大な身体が一直線に飛び込んでくる。

 

「馬鹿が」

 

 実弥の目が鋭く光った。

 

「俺が稀血を垂れ流してる意味も分からねえのかァッ!」

 

 ガキィィィン!!

 

 ようやく抜き放たれた日輪刀が、鬼の爪を受け止めた。

 

 火花が散る。

 

「風の呼吸――」

 

 実弥は腰を沈める。

 

「壱ノ型!」

 

 ドォォォン!!

 

「塵旋風・削ぎ!!」

 

 爆発的な踏み込み。

 

 刃を中心として凄まじい旋風が巻き起こり、鬼の身体を斜めに切り裂いた。

 

「グオオオオッ!?」

 

 肉片が舞う。

 

 しかし――。

 

 ズズズズ……。

 

 鬼の傷口が急速に塞がっていく。

 

「……チッ」

 

 実弥が舌打ちする。

 

「再生が速ぇな」

 

「ハハハハハッ!」

 

 鬼が笑う。

 

「その程度か、風柱! その程度の刃では、この俺の首には届かぬぞ!」

 

「だったら……」

 

 実弥が刀を握り直す。

 

「届くまで斬るだけだろうがァッ!!」

 

 ドンッ!!

 

 再び実弥が消えた。

 

「風の呼吸――弐ノ型!」

 

 ゴォォォッ!!

 

 猛烈な竜巻が発生し、周囲の歯車までも巻き込んで吹き飛ばす。

 

「爪々・科戸風!!」

 

 鬼の巨体が宙へ舞う。

 

「ぬおおおおッ!?」

 

 そこへ実弥が追いすがる。

 

 一閃。

 

 二閃。

 

 三閃。

 

 斬撃が嵐のように叩き込まれる。

 

「クソがァッ!」

 

 鬼も負けじと腕を振り回す。

 

 巨大な爪が実弥の脇腹を掠め、肉を抉った。

 

「ぐっ……!」

 

 血が飛び散る。

 

 だが、実弥は止まらない。

 

「その程度で俺を止められると思ってんじゃねえぞォッ!」

 

 むしろ傷口から流れる血が、鬼の本能をさらに刺激していた。

 

「その血……!」

 

 鬼の瞳が狂気に染まる。

 

「もっとだ! もっと血を寄越せェッ!」

 

「くれてやるよ!」

 

 実弥は自ら傷を広げた。

 

「ただし――」

 

 刀を逆手に構える。

 

「テメェの命と引き換えになァッ!!」

 

 ドォォォォン!!

 

 暴風が爆発した。

 

 無限城の歯車が一斉に軋み、壁が震える。

 

 風柱の殺気が、空間そのものを震わせていく。

 

 鬼が初めて後退した。

 

「な、なんだ……この殺気は……!?」

 

「鬼を殺すために生きてきたんだよ、俺は」

 

 実弥の緑色の瞳が、鋭く輝く。

 

「テメェみてえな下種を一匹残らず地獄へ叩き落とすためになァ!」

 

 風が渦巻く。

 

 鬼が咆哮する。

 

 そして二つの殺意が、真正面から激突した。

 

 轟音と共に巨大な歯車が砕け散る。

 

 その中心で、風柱・不死川実弥は一歩も退かなかった。

 

 無惨へ至る道を阻むなら、たとえ上位の鬼であろうと関係ない。

 

「待ってろよ、無惨……!」

 

 実弥は血に濡れた刀を構え直す。

 

「テメェの首を斬るまで、俺は止まらねえぞォッ!!」

 

 風が、無限城を荒々しく駆け抜けた。

 

 そして――風柱の死闘は、さらに激しさを増していく。

 

 

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