『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

222 / 237
第十五話 水柱・冨岡義勇、炭治郎と共闘

 無限城の奥深く。

 

 上下左右の感覚さえ狂わせる異形の回廊を、竈門炭治郎はひたすら駆けていた。

 

 先ほどまで存在していたはずの廊下が消え、代わりに巨大な階段が壁から生えている。天井だった場所が床へと変わり、そのたびに城全体が地鳴りのような音を響かせていた。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 炭治郎は荒い息を整えながら、周囲を見渡す。

 

「義勇さん……どこにいるんだ……!」

 

 無限城へ落とされた直後、仲間たちとは完全に分断されていた。

 

 だが、鳴女が討たれたことで城の構造が大きく変化した。

 

 その一瞬の隙を利用して、炭治郎は移動を続けていた。

 

 そして――。

 

「……この匂い……!」

 

 炭治郎が足を止める。

 

 血の匂い。

 

 鬼の匂い。

 

 そして、その奥に微かに感じる懐かしい気配。

 

「義勇さん!」

 

 炭治郎は瓦礫を飛び越え、奥の回廊へ駆け込んだ。

 

 そこにいたのは、一人の男だった。

 

 水柱・冨岡義勇。

 

 青い瞳で周囲を見据え、静かに日輪刀を構えている。

 

「炭治郎か」

 

「はい!」

 

「無事だったか」

 

「義勇さんも……!」

 

 二人が短く頷き合った。

 

 しかし、再会を喜んでいる暇はなかった。

 

 ズズズズズ……。

 

 暗闇の奥から、何かを引きずるような音が響く。

 

 炭治郎の表情が引き締まった。

 

「……来ます」

 

「ああ」

 

 義勇が刀を抜く。

 

 次の瞬間、左右の壁を突き破って、無数の鬼が姿を現した。

 

「グルルル……!」

 

「喰わせろ……!」

 

「血だ……人間の血だ……!」

 

 十数体。

 

 いや、二十体以上。

 

 無限城の構造変化によって、この階層へ集められた鬼たちだった。

 

 さらに、その後方。

 

 ひときわ濃密な鬼の気配が立ち上がる。

 

 ズン……。

 

 一歩。

 

 巨大な鬼が暗闇から姿を現した。

 

「ほう……」

 

 鬼は二人を見下ろし、口元を歪めた。

 

「水柱・冨岡義勇。そして、耳飾りの剣士……竈門炭治郎か」

 

 炭治郎の眉が動く。

 

「俺のことを知っている……?」

 

「当然だ。無惨様がお前を警戒していることくらい、下っ端の鬼である私でも知っている」

 

 鬼の身体から凄まじい殺気が噴き出した。

 

 空気が重くなる。

 

 炭治郎は思わず一歩踏み込んだ。

 

「強い……!」

 

 義勇が静かに告げる。

 

「炭治郎」

 

「はい!」

 

「焦るな」

 

「……!」

 

「お前は敵を見すぎる。相手ではなく、自分の呼吸を意識しろ」

 

 その言葉に、炭治郎は目を閉じた。

 

 吸う。

 

 肺へ空気を送り込む。

 

 全身へ巡らせる。

 

 心臓の鼓動。

 

 筋肉の動き。

 

 足裏の感覚。

 

 すべてを一つに繋げる。

 

「……はい」

 

 目を開いた炭治郎の瞳に、強い光が宿った。

 

「ありがとうございます、義勇さん」

 

「行くぞ」

 

「はい!」

 

 鬼たちが一斉に飛び掛かった。

 

「殺せェェェッ!!」

 

「喰い殺せぇッ!!」

 

 その瞬間――。

 

 義勇の姿が消えた。

 

「水の呼吸――」

 

 スッ。

 

 静かな踏み込み。

 

 次の瞬間には、鬼の首が一つ落ちていた。

 

「参ノ型・流流舞い」

 

 流れる水のような連撃。

 

 一体。

 

 二体。

 

 三体。

 

 鬼たちが何が起きたのか理解するより先に、義勇の刃が次々と頸を捉えていく。

 

「なっ……!」

 

「速い……!」

 

 その横を、炭治郎が駆け抜けた。

 

「ヒノカミ神楽――円舞!」

 

 ブォンッ!!

 

 燃え盛るような斬撃が円を描き、鬼の腕を斬り飛ばす。

 

「ギャアアアッ!」

 

「まだだ!」

 

 炭治郎が踏み込む。

 

 義勇の刀が右。

 

 炭治郎の刀が左。

 

 二人の動きが自然に噛み合っていく。

 

「右は任せる!」

 

「分かりました!」

 

 義勇が鬼の攻撃を受け流す。

 

 その隙に炭治郎が斬る。

 

 炭治郎が敵を引きつければ、義勇が死角から頸を斬る。

 

 まるで長年一緒に戦ってきたかのような連携だった。

 

「馬鹿な……!」

 

 鬼が後退する。

 

「水柱と新人が、ここまで噛み合うだと……!」

 

 義勇は答えない。

 

 ただ刀を構える。

 

「炭治郎」

 

「はい!」

 

「次で決める」

 

「分かりました!」

 

 二人が同時に呼吸を整えた。

 

 水のような静けさ。

 

 炎のような熱。

 

 まったく異なる二つの呼吸が、互いの動きを邪魔することなく重なっていく。

 

「水の呼吸――」

 

「ヒノカミ神楽――」

 

 鬼が咆哮した。

 

「来るなァァァッ!!」

 

「拾壱ノ型――凪」

 

 義勇の周囲から、すべての音が消えた。

 

 無数の攻撃が迫る。

 

 しかし――斬撃が触れた瞬間、すべてが静かに消滅していく。

 

 その一瞬。

 

「今です、義勇さん!」

 

「任せろ」

 

 炭治郎が一気に踏み込んだ。

 

「円舞!!」

 

 炎の軌跡が鬼の身体を包み込む。

 

「ぐおおおおおッ!?」

 

 鬼が怯んだ。

 

 そこへ義勇の刀が滑り込む。

 

「終わりだ」

 

 スパッ――。

 

 頸が宙を舞った。

 

 鬼の身体が崩れ落ちていく。

 

 周囲にいた鬼たちも、二人の圧倒的な連携を前に戦意を失っていた。

 

「に、逃げろォッ!」

 

「逃がすか!」

 

 炭治郎が追撃する。

 

 炎のような斬撃が闇を切り裂き、残った鬼たちの頸を次々と断ち落としていく。

 

 やがて、回廊には静寂が戻った。

 

「……終わった」

 

 炭治郎が息を吐く。

 

 義勇は刀を納めた。

 

「油断するな。無惨はまだ生きている」

 

「はい」

 

 炭治郎は力強く頷いた。

 

「義勇さん」

 

「なんだ」

 

「一緒に無惨のところまで行きましょう」

 

 義勇は一瞬だけ炭治郎を見る。

 

 そして、小さく頷いた。

 

「ああ」

 

 二人は並んで歩き始める。

 

 水柱と、日の呼吸を継ぐ少年。

 

 異なる道を歩んできた二人の剣士は、今、同じ目的へ向かっていた。

 

 ――鬼舞辻無惨を討つ。

 

 無限城のさらに奥から、凄まじい殺気が轟いた。

 

 炭治郎が刀を握り直す。

 

「……義勇さん。行きましょう」

 

「ああ、炭治郎」

 

 二人の足音が、無限城の闇へと消えていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。