『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第十六話 岩柱・悲鳴嶼行冥、最強の一撃

 無限城の深部。

 

 そこへ続く巨大な石造りの回廊は、これまで獪岳たちが駆け抜けてきた階層とは、明らかに空気が違っていた。

 

 音がない。

 

 風もない。

 

 ただ、底知れぬ鬼気だけが、重く淀んでいる。

 

 まるで無限城そのものが、これより先へ進むことを拒んでいるかのようだった。

 

「南無阿弥陀仏……」

 

 静寂を破ったのは、低く穏やかな祈りの声。

 

 数珠を手にした巨躯の男が、ゆっくりと回廊を歩いていた。

 

 鬼殺隊最強。

 

 岩柱・悲鳴嶼行冥。

 

 両目から絶え間なく涙を流しながらも、その足取りには一切の迷いがない。

 

 手には巨大な鉄球。

 

 腰には斧。

 

 その二つを鎖で繋いだ特殊な日輪刀が、歩くたびに重々しい音を響かせている。

 

「……この先に、強大な鬼がいる」

 

 行冥は足を止めた。

 

「南無阿弥陀仏……。これ以上、鬼に人の命を奪わせるわけにはいかぬ」

 

 その瞬間だった。

 

 ズズズズズ……!!

 

 回廊の奥から、地面を這うような異様な音が響き渡る。

 

 壁が盛り上がる。

 

 天井が軋む。

 

 そして暗闇の中から、一体の巨大な鬼が姿を現した。

 

「よく来たな……人間」

 

 その鬼の身体は異様なまでに巨大だった。

 

 筋肉が幾重にも隆起し、腕は四本。

 

 その全身から放たれる血鬼術によって、周囲の空間そのものが歪んでいる。

 

「ここから先へ進ませるわけにはいかぬ。貴様も、この無限城で朽ち果てろ」

 

 鬼が片腕を振る。

 

 瞬間。

 

 ズドォォォンッ!!

 

 凄まじい圧力が行冥へと叩きつけられた。

 

 床が陥没する。

 

 石柱が砕け散る。

 

 壁面に無数の亀裂が走った。

 

 だが――。

 

「……」

 

 行冥は動かなかった。

 

 巨大な身体が、ただ静かにその場へ立っている。

 

「な……に……?」

 

 鬼の顔から笑みが消えた。

 

 行冥の額に、赤く浮かび上がる痣。

 

 その瞬間、周囲の空気が変わった。

 

 ズン……。

 

 ズン……。

 

 まるで大地そのものが呼吸しているかのように、行冥の全身から圧倒的な闘気が放たれる。

 

「人の命を弄ぶ鬼よ」

 

 行冥が静かに鎖を握り直す。

 

「その罪……我が手で断ち切ろう」

 

「舐めるなァァァッ!!」

 

 鬼が咆哮した。

 

 四本の腕が同時に振り下ろされる。

 

 轟音とともに巨大な拳が迫る。

 

 だが――。

 

 ガキィィィンッ!!

 

 行冥の鉄球が、それを真正面から弾き返した。

 

「ぐおおおおっ!?」

 

 鬼の巨体が大きくよろめく。

 

 そこへ鎖が唸る。

 

 ジャラララララッ!!

 

 鉄球が地面を削りながら旋回し、鬼の側頭部へ猛烈な速度で叩き込まれた。

 

 ドゴォォォンッ!!

 

「ぐはァッ!!」

 

 鬼の身体が壁へと吹き飛ぶ。

 

 しかし、上位の鬼だけあって再生も速い。

 

 潰れた頭部が、見る間に元へ戻っていく。

 

「ふ、ふふ……! この程度で私を倒せると思うな!」

 

「……そうか」

 

 行冥は静かに目を閉じた。

 

 呼吸を整える。

 

 全身へ巡らせる。

 

 そして――。

 

「ならば、もう一度だ」

 

 ズンッ!!

 

 踏み込んだだけで、床が砕けた。

 

「岩の呼吸――」

 

 鉄球が唸る。

 

 斧が閃く。

 

 鎖が複雑な軌道を描く。

 

「伍ノ型――!」

 

 鬼が両腕を構えた。

 

「来い、人間ッ!!」

 

「――岩流・怒濤!!」

 

 ドォォォォォンッ!!

 

 鉄球と斧が、まるで巨大な岩石の奔流そのものとなって鬼へ襲い掛かった。

 

 一撃。

 

 二撃。

 

 三撃。

 

 鉄球が肉を潰し、斧が骨を断ち、鎖が逃げ道を奪う。

 

 鬼が再生する。

 

 その上から、さらに叩き潰す。

 

 再生する。

 

 また砕く。

 

「ぐああああああッ!!」

 

 鬼の絶叫が無限城を揺らした。

 

「馬鹿な……!」

 

 その巨体が、徐々に崩れていく。

 

「私は……上位の鬼だぞ……! なぜ……なぜ人間ごときに……!」

 

 行冥は答えない。

 

 ただ一心に、鎖を振るう。

 

「人間だからこそだ」

 

 最後の一撃。

 

 ギュオオオオオッ!!

 

 鉄球が大きく弧を描く。

 

「人の命を背負っている」

 

 ドゴォォォォォンッ!!

 

 鬼の頭部が完全に砕け散った。

 

「その命を……奪わせぬために戦っている」

 

 続けざまに斧が閃く。

 

 ザンッ!!

 

 鬼の頸が断ち切られた。

 

「ぐ……あ……」

 

 巨体が崩れ落ちる。

 

 黒い灰となりながら、鬼は震える声を漏らした。

 

「こんな……馬鹿な……」

 

 やがて、その姿は完全に消滅した。

 

 静寂が戻る。

 

 行冥はゆっくりと武器を下ろした。

 

「南無阿弥陀仏……」

 

 そして数珠を握り締める。

 

 討った鬼のためではない。

 

 この戦いの中で失われた、数え切れないほどの命のために。

 

「どうか……安らかに」

 

 しばしの祈りを終えると、行冥は再び前を向いた。

 

 その先に待っているのは、鬼舞辻無惨。

 

 千年もの間、人々を苦しめ続けた鬼の始祖。

 

「……行こう」

 

 巨大な身体が、再び歩き始める。

 

 その足音は重い。

 

 しかし、一歩一歩が確実に無限城の最深部へと近づいていた。

 

 その頃――。

 

 別の階層では、獪岳、善逸、しのぶ、カナエたちもまた、それぞれの死闘を繰り広げていた。

 

 柱たちは誰一人として、立ち止まってはいない。

 

 そして鬼殺隊最強の岩柱もまた、最後の敵へ向けて進み続ける。

 

 無限城の奥底。

 

 最終決戦の時は、刻一刻と近づいていた。

 

 

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