『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第十八話 鳴柱・獪岳、仲間を救う

 ――ドクン。

 

 鬼舞辻無惨の身体が、静かに脈打った。

 

 その瞬間だった。

 

 ズバァァァンッ!!

 

 無惨の背中から、無数の肉塊が一斉に噴き出した。

 

 それは鞭のようにしなり、あるいは鋭利な刃物のように形を変えながら、周囲にいる鬼殺隊士たちへ無差別に襲い掛かっていく。

 

「散れッ!!」

 

 実弥の怒号が飛ぶ。

 

 隊士たちは咄嗟に左右へ飛び退いた。

 

 しかし――。

 

 速い。

 

 あまりにも速すぎる。

 

「ぐあっ!?」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 避けたはずの触手が空中で軌道を変え、逃げた隊士の背後から襲い掛かる。

 

 義勇が水の呼吸で斬り落とす。

 

 実弥が風の刃で吹き飛ばす。

 

 悲鳴嶼が鉄球を振り回し、まとめて粉砕する。

 

 それでも、次から次へと新たな触手が生えてくる。

 

「なんという……数だ……!」

 

 悲鳴嶼が眉を寄せる。

 

 炭治郎も必死に走っていた。

 

「このままじゃ、全員が囲まれる!」

 

 無限城はすでに崩壊を始めている。

 

 足場は安定しない。

 

 壁も床も天井も、いつ崩れるか分からない。

 

 そのうえ無惨の攻撃は、隊士たちの逃げ道そのものを潰してくる。

 

「右だ、炭治郎!」

 

「はい!」

 

 義勇の声に反応し、炭治郎が横へ飛ぶ。

 

 直後。

 

 ドシュッ!!

 

 今まで炭治郎が立っていた場所を、無惨の触手が貫いた。

 

「危なかった……!」

 

 炭治郎が息を呑む。

 

 だが、安心する暇はなかった。

 

 足元から――。

 

 ガラッ!!

 

「なっ!?」

 

 崩れた瓦礫の隙間へ、炭治郎の右足が嵌まり込んだ。

 

「炭治郎!」

 

 義勇が駆け出す。

 

 しかし、その瞬間。

 

 無惨の触手が大きく振り上げられた。

 

 先端が鋭く尖る。

 

 狙いは、炭治郎の心臓。

 

「――死ね」

 

 無惨の声は、あまりにも冷たかった。

 

 炭治郎は歯を食いしばる。

 

 抜けない。

 

 瓦礫が足を完全に挟み込んでいる。

 

「くっ……!」

 

 日輪刀を振るうには距離が近すぎる。

 

 義勇も間に合わない。

 

 実弥も遠い。

 

 悲鳴嶼も別の隊士を庇っている。

 

 誰も間に合わない。

 

 ――その時だった。

 

「させねぇよォォォッ!!」

 

 バリィィィィンッ!!

 

 一条の黒紫の雷光が、無惨と炭治郎の間を横切った。

 

 無惨の触手が弾き飛ばされる。

 

 ズドォォォンッ!!

 

 その衝撃で周囲の瓦礫が吹き飛び、炭治郎の身体が露わになった。

 

「え……?」

 

 炭治郎が顔を上げる。

 

 その前に、一人の男が立っていた。

 

 黒銀の日輪刀。

 

 逆立つ髪。

 

 全身から迸る黒紫の雷。

 

 そして、敵を睨みつける鋭い眼差し。

 

「……獪岳さん!」

 

 鳴柱・獪岳。

 

 彼は刀を構えたまま、無惨を真正面から睨みつけていた。

 

「てめぇ……!」

 

 無惨が目を細める。

 

「また私の邪魔をするか」

 

「当たり前だろうが」

 

 獪岳は口元を吊り上げる。

 

「目の前で仲間を殺されそうになって、黙って見てるほど腐っちゃいねぇんだよ」

 

 その言葉に、炭治郎は目を見開いた。

 

 以前の獪岳なら。

 

 仲間のために自ら前へ出るなど、考えられなかった。

 

 自分が生き残ること。

 

 自分が強くなること。

 

 自分が上へ行くこと。

 

 それこそが、獪岳にとって何よりも優先すべきものだった。

 

 だが今は違う。

 

 獪岳は、迷うことなく炭治郎の前に立っている。

 

「……アニキ」

 

 善逸が小さく呟いた。

 

 その声に、獪岳は振り返らない。

 

「炭治郎!」

 

「はい!」

 

「足を抜け!」

 

「でも……!」

 

「さっさとしろッ!!」

 

「はいっ!」

 

 炭治郎が力任せに足を引き抜く。

 

 その瞬間――。

 

 無惨の触手が再び襲い掛かった。

 

「獪岳さん!」

 

「分かってる!」

 

 獪岳が踏み込む。

 

「雷の呼吸――」

 

 バリバリバリバリッ!!

 

 黒雷が爆発的に膨れ上がる。

 

「肆ノ型――遠雷ッ!!」

 

 ザァァァァンッ!!

 

 無数の黒い雷撃が放たれた。

 

 一本。

 

 二本。

 

 十本。

 

 数え切れないほどの雷の斬撃が、無惨の触手を次々と斬り裂いていく。

 

 だが――。

 

 ジュルッ。

 

 切断された触手が瞬時に再生する。

 

「……チッ!」

 

 獪岳が舌打ちした。

 

「やっぱり化け物だな……!」

 

 無惨は無表情だった。

 

「その程度か」

 

 次の瞬間。

 

 ドォォォォンッ!!

 

 無惨の身体から、さらに大量の触手が噴き出した。

 

「獪岳さん!」

 

 炭治郎が叫ぶ。

 

 四方八方。

 

 逃げ場がない。

 

 獪岳の瞳が鋭く細められる。

 

「上等だ……!」

 

 黒銀の日輪刀を握り締める。

 

「何本来ようが――」

 

 バチィッ!!

 

 黒雷が爆ぜた。

 

「全部、叩き落としてやるよォォォッ!!」

 

 獪岳が突っ込む。

 

 斬る。

 

 避ける。

 

 また斬る。

 

 触手が頬を掠める。

 

 肩から血が噴き出す。

 

 それでも止まらない。

 

「ぐっ……!」

 

 ドスッ!!

 

 一本の触手が脇腹を掠めた。

 

「獪岳!」

 

 炭治郎が叫ぶ。

 

「来るなァッ!!」

 

 獪岳が怒鳴った。

 

「お前は前だけ見て走れ!」

 

「でも!」

 

「俺がここを止める!」

 

 無惨の触手を真正面から受け止めながら、獪岳は叫んだ。

 

「お前ら全員――無惨のところまで辿り着け!!」

 

 その言葉に、炭治郎の胸が熱くなる。

 

「……はい!」

 

 炭治郎は走った。

 

 義勇も続く。

 

 実弥も。

 

 悲鳴嶼も。

 

 それぞれが無惨へ向けて進んでいく。

 

 その背中を守るように、獪岳がたった一人で立ちはだかる。

 

「……ハッ」

 

 獪岳が笑った。

 

「これが……俺の役目ってわけか」

 

 背後には仲間たち。

 

 正面には鬼舞辻無惨。

 

 圧倒的な力の差。

 

 まともに戦えば、命がいくつあっても足りない。

 

 それでも。

 

 獪岳は退かなかった。

 

「俺はよ……」

 

 刀を握る手に力を込める。

 

「ずっと、自分だけが強くなればいいと思ってた」

 

 黒雷が身体を包む。

 

「誰より上に行って、誰にも馬鹿にされねぇ強さを手に入れて……」

 

 一歩。

 

「それだけでいいと思ってた」

 

 さらに一歩。

 

「けどな……」

 

 獪岳が無惨を睨みつける。

 

「今は違う」

 

 バチィィィッ!!

 

 黒雷が大きく爆ぜた。

 

「俺の背中を追ってきた馬鹿がいる」

 

 善逸の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「俺を信じて刀を振るう奴らがいる」

 

 炭治郎たちを見る。

 

「だったら――」

 

 獪岳の瞳に、強烈な闘志が宿った。

 

「その背中を守るのも、鳴柱の仕事だろうがァァァッ!!」

 

 ドォォォォォンッ!!

 

 黒紫の雷が無限城を震わせる。

 

 無惨が初めて、僅かに目を細めた。

 

「……面白い」

 

「何がだァ?」

 

「貴様のような男が、他者のために命を張るとはな」

 

 獪岳は鼻で笑った。

 

「勘違いすんな」

 

 刀を構える。

 

「俺は俺のために戦ってる」

 

「ほう?」

 

「俺が選んだ仲間を、俺が守る。それだけだ」

 

 そして――。

 

「だから、テメェには一人も殺させねぇ!!」

 

 無惨の触手が一斉に放たれた。

 

 獪岳も同時に踏み込む。

 

「雷の呼吸――」

 

 黒雷が一点へ収束する。

 

「異形――」

 

 黒銀の日輪刀が唸りを上げる。

 

「帝釈天ッ!!」

 

 轟ォォォォォンッ!!

 

 黒紫の雷光が無限城の闇を切り裂いた。

 

 無惨の攻撃と真正面から衝突する。

 

 大気が震える。

 

 床が砕ける。

 

 瓦礫が宙へ舞い上がる。

 

「ぐおおおおおおッ!!」

 

 獪岳の足が後ろへ滑る。

 

 血が口元から流れる。

 

 腕が軋む。

 

 それでも――。

 

 刀は下がらない。

 

「……まだだ」

 

 さらに力を込める。

 

「まだ俺は……倒れねぇぞォッ!!」

 

 その姿を遠くから見た善逸が、拳を握り締めた。

 

「アニキ……!」

 

 獪岳は振り返らない。

 

 ただ、仲間たちが進むための道を作る。

 

 自分が傷ついても。

 

 自分が倒れそうになっても。

 

 その一歩だけは、絶対に退かない。

 

 かつて他者を切り捨てることで強さを証明しようとした男は、今――。

 

 仲間を守ることで、自らの強さを証明しようとしていた。

 

 バチィィィッ!!

 

 黒紫の雷が、再び無限城を駆け抜ける。

 

 最終決戦の最前線。

 

 鳴柱・獪岳は、仲間たちの盾として、鬼舞辻無惨の前に立ちはだかった。

 

 

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