『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第十九話 霹靂を越えて

 ――ドォォォォォンッ!!

 

 無限城が、また一つ崩れ落ちた。

 

 無惨の放った無数の触手が、まるで巨大な黒い嵐のように城内を埋め尽くしていく。

 

 一本一本が必殺の威力を持ち、しかも斬り落としても瞬く間に再生する。

 

「散れぇッ!!」

 

 実弥が叫ぶ。

 

 風の刃が触手を切り裂く。

 

「炭治郎、左だ!」

 

「はい!」

 

 義勇が水の呼吸で道を作り、炭治郎がその隙間を駆け抜ける。

 

 悲鳴嶼も巨大な鉄球を振り回し、仲間へ迫る触手を次々と弾き飛ばしていた。

 

 だが、それでも無惨の攻撃は止まらない。

 

「無駄だ」

 

 無惨が冷たく告げる。

 

「いくら足掻こうと、人間が私に勝てるはずがない」

 

 ズドォォォンッ!!

 

 触手の一本が床を粉砕した。

 

 さらに別の一本が炭治郎へ向かって伸びる。

 

「炭治郎!」

 

 義勇が飛び込む。

 

 ガキィンッ!!

 

 間一髪、刀で弾き飛ばす。

 

 しかし――。

 

 その背後から、さらに三本。

 

「しまっ――!」

 

 その瞬間。

 

 バチィィィィッ!!

 

 黒紫の雷光が駆け抜けた。

 

「雷の呼吸――肆ノ型・遠雷ッ!!」

 

 ズバババババッ!!

 

 飛来した触手がまとめて切断され、黒い血飛沫が無限城の床へ散った。

 

「……獪岳!」

 

 炭治郎が振り返る。

 

 そこには、黒銀の日輪刀を構えた鳴柱・獪岳が立っていた。

 

 肩から血を流し、呼吸も荒い。

 

 それでも、その目には戦意が漲っている。

 

「チッ……数が多すぎんだよ、あの野郎」

 

「アニキ!」

 

 黄金の閃光が走った。

 

 善逸が獪岳の隣へ着地する。

 

「無事?」

 

「誰に向かって聞いてやがる」

 

 獪岳が鼻で笑う。

 

「俺がこの程度でくたばるかよ」

 

「そっか」

 

 善逸も笑った。

 

 その笑顔には、以前の怯えた少年の面影はなかった。

 

 獪岳は善逸を見る。

 

「……お前、まだ戦えるのか?」

 

「戦える」

 

 即答だった。

 

「だったら来い」

 

「うん!」

 

 二人が並んで刀を構える。

 

 黒紫と黄金。

 

 二色の雷光が、互いの身体を包み込む。

 

 無惨は二人を見下ろした。

 

「また貴様らか」

 

「そうだよ」

 

 善逸が答える。

 

「俺たちは、まだ終わってない」

 

 獪岳が続けた。

 

「それどころか――ここからだ」

 

 無惨の瞳が細くなる。

 

「身の程を知れ、人間」

 

 無数の触手が一斉に動いた。

 

「殺せ」

 

 ズガァァァァンッ!!

 

 四方八方から迫る死の刃。

 

 逃げ道はない。

 

 だが――。

 

 善逸は目を閉じた。

 

 音を聞く。

 

 風の音。

 

 瓦礫の落ちる音。

 

 無惨の鼓動。

 

 獪岳の呼吸。

 

 そして――。

 

 自分自身の心臓の音。

 

 ドクン。

 

 ドクン。

 

 善逸の脳裏に、遠い日の記憶が蘇る。

 

『お前は、お前の出来ることをやればいい』

 

 育手――桑島慈悟郎の声。

 

『一つしか出来ないなら、その一つを誰よりも強くしろ』

 

 善逸は刀の柄を握り締めた。

 

「じいちゃん……」

 

 そして、ゆっくりと目を開く。

 

「俺はもう……逃げない」

 

 黄金の雷が膨れ上がった。

 

「一つしか使えないなら――」

 

 腰を落とす。

 

「その一つを、極限まで強くする!」

 

 獪岳もまた刀を構え直した。

 

 彼の胸にあるのは、鳴柱としての誇り。

 

 そして――。

 

 背後にいる仲間たちを守るという、新たに手に入れた覚悟。

 

「善逸」

 

「うん、アニキ」

 

「俺に合わせろ」

 

「任せて」

 

 短い言葉。

 

 それだけで十分だった。

 

 互いの呼吸が重なる。

 

 互いの足運びが重なる。

 

 そして――。

 

 バリィィィィィンッ!!

 

 二人の足元が爆発した。

 

「来るぞ!」

 

 炭治郎が叫ぶ。

 

「見えない……!」

 

 実弥が目を見開く。

 

 義勇ですら、二人の動きを完全には追えない。

 

 黒紫の雷。

 

 黄金の雷。

 

 二つの閃光が、無惨の触手の間を縫うように駆け抜けていく。

 

 一本。

 

 二本。

 

 十本。

 

 二十本。

 

 迫り来る触手が、次々と切断されていく。

 

「馬鹿な……!」

 

 無惨の表情が初めて変わった。

 

 だが、まだ終わらない。

 

 無惨はさらに大量の触手を放つ。

 

「潰れろッ!!」

 

 ズガガガガガッ!!

 

 空間そのものを埋め尽くすほどの猛攻。

 

 普通なら、逃げ場はない。

 

 しかし――。

 

「アニキ!」

 

「ああ!」

 

 二人の視線が交差する。

 

「雷の呼吸――」

 

 善逸が構える。

 

「壱ノ型――」

 

 獪岳の黒銀の日輪刀に黒雷が収束する。

 

「霹靂一閃――六連ッ!!」

 

 ズドォォォォンッ!!

 

 黄金の雷が爆発的に加速する。

 

 一閃。

 

 二閃。

 

 三閃。

 

 四閃。

 

 五閃。

 

 そして六閃。

 

 それぞれが別々の角度から触手を切り裂き、無惨への道を切り開いていく。

 

 その中心を――。

 

 獪岳が駆け抜ける。

 

「俺も行くぞォッ!!」

 

 黒紫の雷が刀身から噴き上がる。

 

「雷の呼吸――異形!」

 

 無惨の赤い瞳が獪岳を捉えた。

 

「またその技か」

 

「同じだと思うなよ」

 

 獪岳が笑った。

 

「柱稽古で、俺は何度も限界を越えた」

 

 黒雷がさらに激しくなる。

 

「甘露寺の地獄の柔軟!」

 

 身体が大きくしなる。

 

「時透との高速稽古!」

 

 一瞬で間合いを詰める。

 

「不死川との死闘!」

 

 圧倒的な殺気を突破する。

 

「悲鳴嶼の極限鍛錬!」

 

 全身の力を一点へ集約する。

 

「全部――この一撃に叩き込むッ!!」

 

 黒紫の雷が巨大な龍へと変わった。

 

「異形・帝釈天――」

 

 獪岳が踏み込む。

 

 善逸の黄金の雷と重なる。

 

「火雷神――改ッ!!」

 

 轟ォォォォォンッ!!

 

 黒紫と黄金。

 

 二つの雷が、一本の巨大な雷撃へと融合した。

 

「「行くぞォォォォッ!!」」

 

 ――霹靂。

 

 その名が示す一閃を越えて。

 

 善逸の極限の壱ノ型と、獪岳の異形の雷が一つになる。

 

 ズバァァァァァンッ!!

 

 無惨の触手が、一斉に両断された。

 

「なっ……!?」

 

 さらに雷撃は止まらない。

 

 触手を焼き払い。

 

 肉壁を斬り裂き。

 

 無惨の懐へ一直線に迫っていく。

 

 ドシュッ!!

 

 黒紫と黄金の雷が、無惨の胸部を掠めた。

 

「ぐっ……!」

 

 無惨の身体から鮮血が噴き出す。

 

 初めて。

 

 鬼舞辻無惨の肉体に、明確な傷が刻まれた。

 

「無惨が……血を……!」

 

 炭治郎が驚愕する。

 

 実弥も目を見開いた。

 

「ハッ……!」

 

 獪岳が着地する。

 

「どうだ、クソ野郎」

 

 善逸も隣へ降り立った。

 

「俺たちの雷……届いただろ?」

 

 無惨は胸の傷を見下ろす。

 

 そして――。

 

 赤い瞳を怒りで染めた。

 

「……人間風情が」

 

 ドクン。

 

 無惨の身体が大きく脈打つ。

 

「この私に……傷をつけたか」

 

 空気が震えた。

 

 無限城そのものが、無惨の怒気に呼応するように軋み始める。

 

 しかし、鬼殺隊の誰一人として退かなかった。

 

 むしろ。

 

 獪岳は笑った。

 

「だったら、もう一度だ」

 

 善逸も刀を構える。

 

「今度はもっと深く!」

 

 二人の足元で、再び雷が弾ける。

 

 霹靂を越えた雷。

 

 兄弟弟子が繋いだ雷。

 

 それは、夜明けへ向かう鬼殺隊にとって、確かな希望となった。

 

 最終決戦は――まだ始まったばかりだった。

 

 

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