――ドォォォォォンッ!!
崩壊した無限城の瓦礫が、次々と地上へと叩き落とされていく。
巨大な建造物が崩れ去った衝撃で土煙が舞い上がり、その中から鬼殺隊の生存者たちが次々と地上へ投げ出された。
「ぐっ……!」
炭治郎が地面を転がり、すぐさま片膝をついて立ち上がる。
身体中が傷だらけだった。
腕は痺れ、足には力が入らない。
それでも、彼は刀を手放さなかった。
「……地上に……出られた……!」
炭治郎が顔を上げる。
そこに広がっていたのは、久しく見ることのなかった広大な夜空だった。
漆黒の闇。
その向こう。
東の地平線が、ほんの僅かに白み始めている。
「夜明けが……近い」
誰かが呟いた。
その言葉に、周囲の隊士たちの表情が僅かに緩む。
ここまで来た。
無限城を生きて抜けた。
あと少し。
あと少しだけ耐えれば――太陽が昇る。
「……違う」
しかし。
水柱・冨岡義勇が低く呟いた。
「まだ終わっていない」
その瞬間だった。
――ズズズズズ……。
地面が震えた。
「……!」
瓦礫の山が、不自然に盛り上がる。
土煙の向こう。
何か巨大なものが蠢いている。
次の瞬間――。
ドォォォォォンッ!!
瓦礫が爆発するように吹き飛んだ。
「全員、構えろォッ!!」
実弥の怒号が響く。
隊士たちが一斉に刀を抜いた。
そして。
崩れ落ちた無限城の残骸から、巨大な異形がゆっくりと姿を現した。
それはもはや、人間の姿ではなかった。
異常なまでに膨れ上がった肉体。
全身から生える無数の牙。
幾本もの肉の鞭が蛇のように蠢き、周囲の地面を抉っている。
赤い瞳が、夜空を睨みつけていた。
「……逃がすか」
低い声が響く。
「どいつも……こいつも……」
鬼舞辻無惨。
千年以上もの間、鬼を生み出し続けてきた鬼の始祖。
その姿を見た瞬間、隊士たちの間に緊張が走った。
「私から……太陽を奪う気かァァァッ!!」
無惨の絶叫が夜空を震わせる。
――ズドォォォォンッ!!
大地が爆発した。
無数の肉の鞭が一斉に放たれる。
「来るぞッ!!」
義勇が刀を構える。
実弥が風を纏わせる。
悲鳴嶼が巨大な鉄球を握り締める。
そして――。
バリィィィィッ!!
黒紫の雷が大地を走った。
「上等だぜ……!」
獪岳だった。
全身傷だらけ。
額から血を流し、呼吸も荒い。
それでも、その瞳には一切の怯えがない。
黒銀の日輪刀を握り締め、無惨を真っ直ぐ睨みつける。
「ここまで来たんだ。テメェを朝まで逃がす気なんざ、最初からねえんだよ!」
その隣。
「アニキ!」
善逸もまた刀を構えた。
黄金の雷光が足元で弾ける。
「俺たちで、時間を稼ごう!」
「時間を稼ぐんじゃねえ」
獪岳が口元を吊り上げる。
「時間を奪うんだ」
「……!」
「無惨から、夜を奪う」
善逸の表情が変わった。
「……うん!」
バリッ!
黄金と黒紫。
二色の雷が夜の大地を照らす。
その姿を見た炭治郎も刀を握り直した。
「そうだ……!」
炭治郎の瞳に強い光が宿る。
「俺たちは、もう逃げない!」
「当然だァ!」
実弥が叫ぶ。
「ここまで仲間を殺されて、今さら引けるかよォッ!!」
悲鳴嶼が数珠を鳴らした。
「南無阿弥陀仏……」
その声には、静かな怒りと決意が込められている。
「今宵こそ、全てを終わらせる」
義勇もまた、静かに刀を構えた。
「夜明けまで耐える」
誰もが理解していた。
無惨は圧倒的に強い。
身体能力も、攻撃速度も、再生能力も、人間の常識を遥かに超えている。
しかも、こちらはすでに満身創痍。
まともに戦えば勝ち目などない。
だからこそ――。
「あと少しだ……!」
炭治郎が東の空を見る。
白みは、先ほどよりも僅かに濃くなっている。
「太陽が昇れば……!」
「そうだ」
義勇が答える。
「それまで、全員で繋ぐ」
その言葉を聞いた瞬間。
無惨が笑った。
「愚かな……」
赤い瞳が細められる。
「太陽が昇るまで、私を止めるつもりか?」
無惨の肉体がさらに膨張する。
無数の口が開いた。
「ならば――」
ドォォォォォンッ!!
大地が大きく陥没する。
「貴様ら全員を殺してから、太陽から逃げればいいだけのことだァッ!!」
瞬間。
無惨の全身から、無数の触手が爆発的な速度で放たれた。
「散れッ!!」
実弥の怒号。
鬼殺隊が一斉に散開する。
獪岳が黒雷を爆発させた。
「雷の呼吸――」
善逸も同時に踏み込む。
「行くよ、アニキ!」
「合わせろ、善逸!」
「うん!」
――バリィィィィンッ!!
黒紫と黄金の雷が同時に弾けた。
炭治郎が駆ける。
義勇が水のように滑る。
実弥が風を巻き起こす。
悲鳴嶼の鉄球が唸りを上げる。
満身創痍の柱たちと鬼殺隊士たちが、最後の敵へと立ち向かう。
夜明けまで――あと僅か。
だが、その僅かな時間こそが、人類と鬼の運命を分ける。
「来い……鬼舞辻無惨!!」
炭治郎が叫ぶ。
「俺たちが、ここでお前を止める!!」
無惨の咆哮が夜空を揺らす。
そして――。
最終決戦の火蓋が、地上で本格的に切って落とされた。