『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第三話 竈門炭治郎、日の呼吸を継ぐ

東の空が、ゆっくりと白み始めていた。

 

漆黒だった夜空の彼方に、淡い橙色の光が滲む。

 

夜明け。

 

鬼にとって、最も忌まわしい時間。

 

そして、人間にとっては――千年以上もの間、待ち続けてきた希望の時間だった。

 

しかし、その希望を目前にしても、鬼舞辻無惨はなお倒れない。

 

「グ……オオオオオッ……!!」

 

大地を揺るがす咆哮。

 

無惨の肉体は異常なまでに膨張し、無数の触手と口腔を生み出しながら、太陽から逃れようともがいていた。

 

その前方には、満身創痍となった鬼殺隊士たち。

 

そして、その最前線には――先ほどまで無惨の猛攻を食い止めていた二人の雷使いがいた。

 

「アニキ……!」

 

善逸は、腕の中でぐったりとしている獪岳を見下ろした。

 

「おい……獪岳……! しっかりしろよ……!」

 

返事はない。

 

獪岳の黒銀の日輪刀は刃こぼれし、隊服は血で染まっていた。

 

全身の筋肉は限界まで酷使され、黒紫の雷気も今では小さな火花を残すだけ。

 

それでも――その顔には、どこか満足そうな表情が浮かんでいた。

 

「……ったく。騒ぐな、クソガキ……」

 

「アニキ……!」

 

「俺はまだ……死んじゃいねぇ……」

 

獪岳は僅かに瞼を開いた。

 

「それより……前を見ろ」

 

善逸が振り返る。

 

そこには、刀を構えた竈門炭治郎が立っていた。

 

額から流れる血。

 

全身を襲う激痛。

 

痣によって限界まで酷使された身体。

 

それでも、炭治郎の瞳だけは決して死んでいなかった。

 

「炭治郎……」

 

義勇が静かに声をかける。

 

「無惨はまだ動ける。俺たちだけでは、押し切れない」

 

「分かっています」

 

炭治郎は答えた。

 

そして、自分の胸に手を当てる。

 

脳裏に浮かぶのは、父・炭十郎。

 

幼い頃の自分を連れて、雪の降る夜に舞っていた父の姿。

 

神楽。

 

耳飾り。

 

そして――太陽。

 

(もっと速く……)

 

炭治郎は息を吸う。

 

(もっと強く……)

 

肺へと空気を送り込む。

 

(もっと、繋げる……!)

 

これまで幾度となく繰り返してきた型。

 

円舞。

 

碧羅の天。

 

烈日紅鏡。

 

火車。

 

幻日虹。

 

火輪陽炎。

 

灼骨炎陽。

 

斜陽転身。

 

陽華突。

 

飛輪陽炎。

 

日暈の龍・頭舞い。

 

そして――煉獄。

 

一つ一つの型を、途切れさせてはいけない。

 

一つの技を終えた瞬間、次の技へ。

 

その次へ。

 

さらに、その次へ。

 

円環のように繋ぎ続ける。

 

それこそが――日の呼吸の十三番目の型。

 

「……そうか」

 

炭治郎が呟く。

 

「俺一人のための技じゃない」

 

父が繋いだ。

 

祖先が繋いだ。

 

そして、炭治郎へと受け継がれた。

 

無惨を倒すという、幾百年もの悲願。

 

数え切れないほどの剣士たちが命を懸けて紡いできた想い。

 

それらすべてが、今、この一振りへと集約される。

 

「炭治郎!」

 

実弥の怒号が飛んだ。

 

「来るぞォッ!!」

 

無惨の触手が一斉に伸びる。

 

大地を削り、建物を薙ぎ倒し、逃げ道すらも塞ぐ巨大な肉の刃。

 

「全員、炭治郎を援護しろ!」

 

行冥が叫ぶ。

 

鉄球が轟音を上げて飛び、触手を砕く。

 

義勇の水刃が無惨の攻撃を斬り払い、実弥の風が肉塊を吹き飛ばす。

 

善逸もまた、獪岳を地面に寝かせると立ち上がった。

 

「アニキ……少しだけ、休んでて」

 

「……ああ」

 

獪岳は目を閉じる。

 

「行ってこい、善逸」

 

「うん!」

 

黄金の雷が弾けた。

 

「雷の呼吸――壱ノ型!」

 

善逸が駆ける。

 

霹靂一閃。

 

一閃。

 

二閃。

 

三閃。

 

六連。

 

無惨の触手が次々と斬り落とされ、炭治郎への道が開かれていく。

 

「今だ、炭治郎ォッ!」

 

実弥の叫び。

 

炭治郎は踏み込んだ。

 

ドンッ!!

 

大地が砕ける。

 

一歩。

 

さらに一歩。

 

全身が悲鳴を上げる。

 

それでも止まらない。

 

「日の呼吸――」

 

黒い刀身が、朝日を受けて赤く染まっていく。

 

「拾参ノ型……!」

 

瞬間。

 

炭治郎の姿が消えた。

 

「な――!?」

 

無惨の瞳が大きく見開かれる。

 

円舞。

 

その斬撃から、碧羅の天へ。

 

空を斬り、身体を反転。

 

烈日紅鏡。

 

さらに火車。

 

幻日虹。

 

火輪陽炎。

 

灼骨炎陽。

 

斜陽転身。

 

陽華突。

 

飛輪陽炎。

 

日暈の龍・頭舞い。

 

そして煉獄。

 

十三の型が、途切れることなく繋がっていく。

 

一つの舞。

 

一つの円。

 

一つの太陽。

 

「ぐ……!」

 

無惨の肉体が斬り裂かれる。

 

「おのれ……!」

 

再生する。

 

だが、その瞬間には次の斬撃が叩き込まれる。

 

再生。

 

斬撃。

 

再生。

 

斬撃。

 

その繰り返し。

 

「馬鹿な……!」

 

無惨の顔に、初めて明確な焦燥が浮かんだ。

 

「なぜだ……! なぜ私の肉体が……!」

 

太陽が昇っている。

 

その光が、無惨の身体を焼いている。

 

そして炭治郎の刃が、その再生を許さない。

 

「終わらせる……!」

 

炭治郎は叫んだ。

 

「俺たちの代で……全部、終わらせる!!」

 

最後の一撃。

 

煉獄。

 

燃え盛るような斬撃が、無惨の肉体を大きく切り裂いた。

 

「ぐおおおおおおおおッ!!」

 

無惨の絶叫が夜明けの空へと響き渡る。

 

その肉体が崩れ始めた。

 

腕が。

 

触手が。

 

巨大な肉塊が。

 

黒い灰となって、風に舞っていく。

 

「おのれ……人間が……!」

 

無惨はなおも手を伸ばした。

 

「私は……死なん……!」

 

炭治郎はその手を見つめる。

 

そして、静かに刀を構え直した。

 

「いいえ」

 

朝日が、完全に地平線から姿を現す。

 

「終わりです」

 

黄金の光が、無惨を包み込んだ。

 

「私たちは――あなたを、ここで終わらせます」

 

ドォォォォォンッ!!

 

最後の肉塊が崩れ落ちる。

 

灰が舞い上がる。

 

そして――消えた。

 

鬼舞辻無惨。

 

千年以上にわたり、人間を喰らい続けた鬼の始祖。

 

その存在が、朝日の中から完全に消滅した。

 

誰も、すぐには声を出せなかった。

 

長い。

 

あまりにも長かった戦いだった。

 

炭治郎は刀を下ろす。

 

その身体から力が抜け、膝をつきそうになる。

 

「炭治郎!」

 

義勇が駆け寄る。

 

「大丈夫です……」

 

炭治郎は息を荒らしながら、それでも笑った。

 

「……終わったんですよね」

 

「ああ」

 

義勇は静かに頷いた。

 

その少し離れた場所では、善逸が獪岳の傍らに座り込んでいた。

 

「アニキ……」

 

獪岳は目を閉じたまま、朝日を浴びていた。

 

「……ああ」

 

やがて、ゆっくりと目を開く。

 

「見届けたぜ」

 

その瞳に映るのは、昇りゆく太陽。

 

そして、そこに立つ仲間たちの姿だった。

 

かつて強さだけを求め、他人を蹴落とすことしか知らなかった男。

 

その男が最後に見たものは――仲間と共に掴んだ夜明けだった。

 

「……悪くねぇな」

 

獪岳は小さく呟いた。

 

その言葉に、善逸は涙を拭いながら笑う。

 

「うん……最高の朝だよ、アニキ」

 

夜明けの光が、戦場を照らしていく。

 

長きにわたる鬼と人間の戦いは、今ここに終止符を打たれた。

 

しかし――。

 

この戦いで失われた命。

 

傷ついた者たち。

 

そして、これから始まる新しい時代。

 

それらを見届ける物語は、まだ終わってはいなかった。

 

 

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