『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第五話 蟲柱・胡蝶しのぶと花柱・胡蝶カナエ

夜明けの光が、大地を黄金色に染めていた。

 

竈門炭治郎の日の呼吸、そして炎柱・煉 獄杏寿郎の渾身の一撃によって、鬼舞辻無惨の巨体は激しく焼き崩れている。

 

「ぐおおおおおおおおおッ!!」

 

無惨の絶叫が朝焼けの空を震わせる。

 

しかし――。

 

完全に消滅したと思われた肉塊の中心から、無数の小さな肉片が弾丸のように飛び散った。

 

「……ッ!」

 

炭治郎が息を呑む。

 

「まだ動いている……!」

 

無惨は太陽の光から逃れようとしていた。

 

一片でも残ればいい。

 

細胞の一つでも逃げ延びればいい。

 

それだけで、鬼舞辻無惨という怪物は再び夜の闇へ潜み、いつの日か復活する可能性がある。

 

「逃がしません……!」

 

凛とした声が、朝の戦場に響いた。

 

次の瞬間。

 

蝶が舞うような紫色の影が、飛び散った肉片の前へ躍り出る。

 

「一欠片たりとも……あなたを逃がすつもりはありませんよ、無惨」

 

蟲柱・胡蝶しのぶ。

 

満身創痍の身体。

 

何度も傷ついた羽織。

 

それでも、その瞳だけは一切の迷いを宿していなかった。

 

しのぶの手には、細身の紫紺の日輪刀。

 

そこに込められているのは、鬼の身体を内部から破壊するために調合された特殊な毒だった。

 

「無駄なことを……!」

 

飛び散った肉片から、無惨の声が響く。

 

「私を殺したつもりか? この程度の毒など、私の再生力なら――」

 

「……そうでしょうね」

 

しのぶは静かに笑った。

 

「普通の毒なら、そうだったかもしれません」

 

その瞬間。

 

彼女の背後から、柔らかな風が吹き抜けた。

 

桜色の羽織が朝日に舞う。

 

「でも、しのぶは一人ではありません」

 

「……姉さん?」

 

振り返ったしのぶの瞳が、大きく見開かれる。

 

そこに立っていたのは――。

 

「久しぶりだね、しのぶ」

 

花柱・胡蝶カナエ。

 

かつて童磨との戦いで命を落としたはずの姉が、朝日の中に立っていた。

 

穏やかな笑顔。

 

優しい声。

 

そして、その手には美しく輝く日輪刀。

 

「姉さん……!」

 

しのぶの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。

 

「どうして……」

 

「理由なんて、今はどうでもいいでしょう?」

 

カナエは微笑みながら、妹の隣へ並ぶ。

 

「ただ、最後まで一緒に戦える。それだけで十分だよ」

 

「……はい!」

 

しのぶは涙を拭い、刀を握り直した。

 

その表情から悲しみが消える。

 

残ったのは、ただ一つ。

 

目の前の鬼を絶対に逃がさないという決意だった。

 

「胡蝶姉妹……!」

 

無惨の肉片が蠢く。

 

「貴様らまで私の前に立ちはだかるか!」

 

「ええ」

 

カナエが一歩踏み出す。

 

「あなたには、今まで奪ってきた命の重さを知ってもらいます」

 

「そして――」

 

しのぶが低く構える。

 

「姉さんと私が、ここで終わらせます!」

 

「来るか、小娘どもォッ!!」

 

無惨の肉片が一斉に襲いかかった。

 

鋭い触手が地面を抉り、周囲の建物を破壊しながら二人へ殺到する。

 

しかし、カナエは慌てない。

 

「しのぶ!」

 

「はい、姉さん!」

 

二人が同時に駆け出した。

 

「花の呼吸――肆ノ型!」

 

カナエの刀が美しい円弧を描く。

 

「紅花衣!」

 

無数の斬撃が花弁のように舞い、迫り来る肉片を次々と切り裂いていく。

 

だが、それだけでは終わらない。

 

カナエが作った僅かな隙間へ、しのぶが滑り込む。

 

「蟲の呼吸――蝶の舞!」

 

紫色の軌跡が朝日に煌めく。

 

「戯れ!」

 

一閃。

 

二閃。

 

三閃。

 

しのぶの刀が、飛び散った肉片を正確に貫いていく。

 

「ぐっ……!」

 

無惨の肉体が痙攣する。

 

「何をした……!?」

 

「毒ですよ」

 

しのぶが微笑む。

 

「しかも、一種類ではありません」

 

カナエが続ける。

 

「藤の花の毒を基礎にして、しのぶが何度も改良したもの」

 

「そして私も、花の呼吸を使ってあなたの再生を妨害する」

 

「二人分の毒と斬撃……」

 

無惨の肉片が激しく蠢いた。

 

「ふざけるなァァァッ!!」

 

巨大な触手が二人へ襲いかかる。

 

カナエはそれを受け流す。

 

しのぶはその影から飛び出す。

 

「姉さん!」

 

「合わせるよ!」

 

「はい!」

 

二人の呼吸が完全に重なった。

 

花と蝶。

 

優雅さと鋭さ。

 

姉の剣と妹の毒。

 

それぞれ異なる戦い方をしていた二人の力が、今この瞬間、一つの完成された連携へと昇華する。

 

「「――終わりです!!」」

 

二人が同時に踏み込んだ。

 

カナエの斬撃が肉片をまとめて切り裂く。

 

その直後、しのぶの刀が残った細胞を一つずつ貫いていく。

 

「馬鹿な……!」

 

無惨の声が震えた。

 

「私が……私の細胞が……!」

 

肉片が黒く変色する。

 

再生しようとしていた細胞が、次々と崩壊していく。

 

「太陽だけじゃない……!」

 

「毒だけでもない……!」

 

「これは……!」

 

無惨の肉体が崩れていく。

 

「貴様らの……執念だというのかァァァッ!!」

 

朝日がさらに強くなる。

 

黄金色の光が、二人の姿を包み込んだ。

 

しのぶは隣に立つ姉を見る。

 

カナエもまた、静かに微笑んでいた。

 

「しのぶ」

 

「はい」

 

「私たちは、もう大丈夫だよ」

 

「……姉さん」

 

「だから、最後まで一緒に行こう」

 

しのぶは力強く頷いた。

 

「はい!」

 

二人の目の前で、無惨の肉片が次々と灰へ変わっていく。

 

かつて姉を奪われた妹。

 

そして、鬼によって命を奪われた姉。

 

二人の想いは、長い年月を越えて再び一つになった。

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

無惨の断末魔が朝焼けの空へ響き渡る。

 

しかし、その声もやがて小さくなり――。

 

最後の肉片が、陽光の中で消滅した。

 

静寂。

 

しのぶは刀を下ろした。

 

「……終わった……?」

 

カナエが空を見上げる。

 

「ううん」

 

その声は穏やかだった。

 

「まだ、みんなの戦いは続いているよ」

 

遠くでは、まだ鬼との戦闘音が響いている。

 

しのぶは姉と並んで、その音へ視線を向けた。

 

「なら、私たちも行きましょう」

 

「もちろん」

 

二人の胡蝶姉妹は、再び歩き始める。

 

夜を終わらせるために。

 

そして、これ以上誰一人として大切な人を失わないために。

 

朝日の中を進む二人の背中には、花と蝶が寄り添うような、静かで強い光が差していた。

 

 

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