『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

234 / 237
第七話 霹靂・帝釈天、無惨を穿つ

東の空が、完全な朝を迎えようとしていた。

 

漆黒だった夜空は薄紫から黄金へと移り変わり、地平線の向こうから差し込む陽光が、戦場を少しずつ照らし始めている。

 

誰もが思った。

 

これで終わる。

 

千年以上にわたり人の命を奪い続けてきた鬼舞辻無惨も、ついに太陽の前では消滅する。

 

――そう、誰もが思っていた。

 

「……まだだ」

 

地面に散らばった無惨の肉塊が、ずるりと蠢いた。

 

「まだ……終わっていない……!」

 

炭治郎が息を呑む。

 

「まさか……!」

 

義勇が刀を構え直す。

 

実弥も傷だらけの身体を起こした。

 

「しつけぇ野郎だ……!」

 

無惨の残骸が膨張する。

 

焼け焦げ、毒に侵され、幾度となく斬り刻まれた肉体。

 

それでも鬼舞辻無惨は、生きようとしていた。

 

いや。

 

生きることそのものに執着していた。

 

「私は死なぬ……!」

 

赤い瞳が狂気に見開かれる。

 

「千年以上も生きてきた! この私が……人間ごときに敗北するなど、認められるものかァァァッ!!」

 

ドゴォォォンッ!!

 

無惨の肉体から、巨大な肉の壁が一斉に膨れ上がった。

 

触手。

 

牙。

 

刃。

 

無数の異形が絡み合い、巨大な津波となって鬼殺隊へ押し寄せる。

 

「全員、下がれッ!!」

 

悲鳴嶼が叫ぶ。

 

しかし、あまりにも広い。

 

逃げ場がない。

 

負傷した隊士たちは動けない。

 

炭治郎も刀を杖代わりにして立っているのが精一杯だった。

 

「くっ……!」

 

肉の壁が迫る。

 

その瞬間――。

 

バリィィィィンッ!!

 

黒紫の雷が大地を走った。

 

迫り来る肉の壁が、真正面から吹き飛ばされる。

 

焼け焦げた肉片が宙を舞う。

 

そして、その中心に一人の男が立っていた。

 

黒銀の日輪刀を握り締める、鳴柱・獪岳。

 

その全身から迸る黒雷は、先ほどまでとは明らかに違っていた。

 

バチッ……。

 

バチバチッ……。

 

黒紫の雷が身体中を駆け巡る。

 

その姿は、もはや単なる雷の呼吸の使い手ではない。

 

まるで古の雷神が人の姿を借り、この地上へ降り立ったかのようだった。

 

「……ここで終わらせる」

 

獪岳が低く呟く。

 

「お前の命も」

 

黒銀の日輪刀を構える。

 

「その醜い執念もな」

 

無惨が獪岳を睨みつける。

 

「貴様……!」

 

その声に重なるように、黄金の雷が走った。

 

バリッ……!

 

獪岳の隣に、善逸が立つ。

 

身体は傷だらけ。

 

息も絶え絶え。

 

それでも、その眼差しだけは真っ直ぐだった。

 

「アニキ……」

 

「来ると思ってたぜ」

 

「うん」

 

善逸は刀を握り直す。

 

「最後まで、一緒にやろう」

 

獪岳は一瞬だけ善逸を見る。

 

そして、口元を僅かに吊り上げた。

 

「ああ」

 

二人の足元で、雷が渦を巻き始めた。

 

黒紫。

 

黄金。

 

異なる二つの雷が、互いに反発することなく絡み合っていく。

 

「……何だ、その力は」

 

無惨の表情から、初めて余裕が消えた。

 

「貴様ら……人間の分際で……!」

 

「人間だからこそだ」

 

獪岳が答える。

 

「俺たちは、一人で戦ってるんじゃねぇ」

 

善逸が続ける。

 

「みんなの想いを背負ってるんだ」

 

二人が構える。

 

炭治郎が息を呑む。

 

実弥が目を見開く。

 

義勇も、行冥も、その異様な雷の密度を感じ取っていた。

 

「……あれは」

 

炭治郎が呟く。

 

「二人の呼吸が……一つになっている……!」

 

獪岳と善逸の呼吸が完全に重なった。

 

吸気。

 

踏み込み。

 

筋肉の収縮。

 

心拍。

 

すべてが一致する。

 

次の瞬間――。

 

ドォォォォンッ!!

 

二人の足元が爆発した。

 

「来るぞォォォッ!!」

 

無惨が肉の壁を全方位へ放つ。

 

「潰れろォォォォッ!!」

 

数百、数千にも及ぶ触手が二人へ殺到する。

 

しかし。

 

二人は止まらない。

 

獪岳の黒雷が右側を切り裂く。

 

善逸の黄金雷が左側を穿つ。

 

一つ。

 

二つ。

 

十。

 

百。

 

無数の触手が、二人の進路を阻もうとしては切り裂かれ、焼き尽くされていく。

 

「馬鹿な……!」

 

無惨が叫ぶ。

 

「この私の攻撃を……!」

 

獪岳の姿が消えた。

 

「雷の呼吸――」

 

善逸の姿も消える。

 

「壱ノ型――」

 

二人の声が重なる。

 

「霹靂――」

 

「その先へ――!」

 

バリィィィィィンッ!!

 

空気が爆発した。

 

音が消える。

 

視界から二人の姿が消える。

 

ただ、黒紫と黄金の二筋の光だけが残った。

 

それは、かつての霹靂一閃を遥かに超えた速度だった。

 

無惨の目が追いつかない。

 

「どこだ……!」

 

右。

 

左。

 

前。

 

後ろ。

 

雷光が縦横無尽に走る。

 

そして――。

 

二人が無惨の正面に現れた。

 

「これが――」

 

獪岳が刀を振り上げる。

 

「俺たちの雷だァッ!!」

 

善逸も同時に踏み込む。

 

「アニキ!!」

 

「ああッ!!」

 

二人の刀が一点へ集中する。

 

「「雷の呼吸――終ノ型!!」」

 

世界が、白く染まった。

 

「「帝釈天――ッ!!」」

 

轟ォォォォォォォンッ!!

 

天を裂く雷鳴。

 

地面が砕ける。

 

大気が震える。

 

黒紫の雷と黄金の天雷が巨大な一本の雷柱となり、無惨の肉体を正面から貫いた。

 

「――なっ……!?」

 

無惨の赤い瞳が見開かれる。

 

刀が肉体を貫いた。

 

それだけではない。

 

雷そのものが無惨の内部へ侵入し、細胞の一つ一つを焼き尽くしていく。

 

「ぐ……あ……!」

 

無惨の身体が震える。

 

「何だ……この雷は……!」

 

獪岳は刀を押し込む。

 

「ただの雷じゃねぇ」

 

善逸も刃を重ねる。

 

「俺たち二人の全部だ!」

 

黒紫の雷が無惨の再生能力を焼き切る。

 

黄金の雷がその傷口をさらに広げる。

 

毒によって弱体化していた細胞が、次々と崩壊していく。

 

「やめろ……!」

 

無惨が初めて怯えた。

 

「やめろォォォォォッ!!」

 

しかし、二人は止まらない。

 

「俺は……!」

 

獪岳の脳裏に、育手の姿が浮かぶ。

 

「強くなることしか考えてなかった」

 

善逸も思い出す。

 

「俺は……逃げることしかできなかった」

 

二人の声が重なる。

 

「それでも――」

 

獪岳が叫ぶ。

 

「最後に、誰かを守るために剣を振れるなら!」

 

善逸も叫ぶ。

 

「俺は、それでいい!!」

 

二つの雷がさらに激しく燃え上がった。

 

無惨の肉体が内側から崩壊する。

 

「ば……馬鹿な……!」

 

肉体が灰へ変わっていく。

 

「私が……この私が……!」

 

朝日が完全に昇った。

 

黄金の光が戦場を包み込む。

 

その中心で、黒紫と黄金の雷が最後の一閃を描いた。

 

「「穿てェェェェェッ!!」」

 

ズガァァァァァンッ!!

 

帝釈天。

 

二人の雷が、鬼舞辻無惨の中心を完全に穿ち抜いた。

 

巨大な肉体が崩れる。

 

触手が落ちる。

 

牙が砕ける。

 

そして、千年以上にわたって人々を苦しめ続けた鬼の始祖の身体が、朝日の中で灰へと変わっていく。

 

「嫌だ……!」

 

無惨が最後に叫ぶ。

 

「私は……死にたくない……!」

 

その声さえも、陽光の中へ消えていった。

 

やがて。

 

風が吹く。

 

灰が舞う。

 

そこには、もう鬼舞辻無惨の姿はなかった。

 

獪岳と善逸は、互いに肩で息をしながら立っている。

 

しばらくの沈黙。

 

善逸が小さく笑った。

 

「……終わったね、アニキ」

 

獪岳は朝日を見上げた。

 

「ああ」

 

そして、静かに答える。

 

「今度こそな」

 

二人の背後から、炭治郎たちが歩み寄る。

 

誰もすぐには言葉を発せなかった。

 

ただ、朝日だけが彼らを照らしていた。

 

長かった夜が、終わった。

 

そして雷の兄弟弟子が放った最後の一撃――『帝釈天』は、鬼舞辻無惨という千年の悪夢に、完全なる終止符を打ったのである。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。