『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

235 / 237
第八話 全柱集結、最後の総力戦

朝日が昇り始めていた。

 

 東の空を覆っていた夜の帳は、もはやその役目を終えようとしている。

 

 黄金色の光が大地を照らし、崩壊した無限城の残骸を赤く染め上げていた。

 

 その中心に――。

 

 鬼舞辻無惨はいた。

 

 いや。

 

 正確には、そこに残っていたのは無惨の「残骸」と呼ぶべきものだった。

 

 雷の兄弟弟子。

 

 獪岳と善逸が放った究極奥義――『帝釈天』。

 

 その一撃は無惨の肉体を内部から破壊し、再生能力そのものを大きく損なわせていた。

 

 それでも。

 

「……まだだ」

 

 焼け焦げた肉塊が、ずるりと蠢く。

 

「まだ……私は終わっていない……!」

 

 無惨の肉体が膨張する。

 

 黒い血と肉が地面を這い、巨大な触手となって周囲へ広がっていく。

 

「この私が……人間ごときに……!」

 

 無惨の声には、もはや余裕などない。

 

 あるのは、生存への狂気じみた執念だけだった。

 

「死ぬものか……!」

 

 ドォォォォンッ!!

 

 無惨の身体から巨大な肉塊が爆発するように飛び出した。

 

 それは周囲の大地を抉り、立っている者すべてを薙ぎ払おうとする。

 

「炭治郎!」

 

 義勇が叫ぶ。

 

「分かっています!」

 

 炭治郎は歯を食いしばり、ふらつく身体を無理やり起こした。

 

 握った日輪刀は血で真っ赤に染まっている。

 

 それでも、まだ戦える。

 

 いや。

 

 戦わなければならない。

 

「ここで……終わらせるんだ……!」

 

 炭治郎が踏み込もうとした、その時だった。

 

「――待て、竈門少年!」

 

 ゴォォォォッ!!

 

 猛烈な炎が戦場を横切った。

 

 無惨の触手が炎に触れた瞬間、轟音とともに焼き払われる。

 

「なっ……!?」

 

 炭治郎が振り返る。

 

 朝日の中。

 

 真紅の羽織を翻し、一人の男が堂々と立っていた。

 

「遅れてすまない!」

 

「……煉獄さん……!」

 

 炎柱・煉獄杏寿郎。

 

 その姿を見た炭治郎の目から、思わず涙が溢れた。

 

「よもやよもや! まだ戦いは終わっていないようだな!」

 

 煉獄は力強く笑う。

 

「ならば、最後まで力を尽くそう!」

 

 その隣に、桜色の羽織が舞った。

 

「ええ。私たちも、最後まで一緒に戦います」

 

 優しい笑顔。

 

 しかし、その瞳には揺るぎない覚悟が宿っている。

 

「姉さん……!」

 

 しのぶの声が震えた。

 

 花柱・胡蝶カナエ。

 

 そして、そのすぐ隣に――。

 

 蟲柱・胡蝶しのぶ。

 

 紫紺の日輪刀を握り、静かに前を見据えている。

 

「しのぶ」

 

 カナエが妹を見る。

 

「怪我は?」

 

「大丈夫です」

 

「本当に?」

 

「はい」

 

 その時だった。

 

「……俺が見た限り、問題ねぇ」

 

 低い声が響く。

 

 しのぶの表情が僅かに変わった。

 

「獪岳……!」

 

 雷鳴が轟く。

 

 バチィィッ!!

 

 黒紫の雷光とともに、一人の男が着地した。

 

 黒銀の日輪刀。

 

 傷だらけの身体。

 

 それでも、その瞳には強い意志が宿っている。

 

 鳴柱・獪岳。

 

「悪ぃ。遅れた」

 

「……遅すぎます」

 

 しのぶが少しだけ頬を膨らませる。

 

「待っていたんですよ?」

 

「悪かったって」

 

 獪岳はしのぶへ近づく。

 

「お前が無茶してねぇか、それだけが気になってた」

 

「それは私の台詞です」

 

「……俺は大丈夫だ」

 

「その傷だらけの姿で言われても説得力がありません」

 

「お互い様だろ」

 

 しのぶが獪岳の腕へそっと触れる。

 

「痛みますか?」

 

「少しな」

 

「では、戦いが終わったら治療します」

 

「……ああ」

 

「約束ですよ」

 

「分かった」

 

 その二人の様子を見て、カナエが微笑んだ。

 

「ふふ……本当に仲が良いわね」

 

「姉さん……」

 

 しのぶの頬が赤くなる。

 

「獪岳君、しのぶをよろしくお願いしますね」

 

「……はい」

 

 獪岳は真剣に頷く。

 

「必ず守ります」

 

 しのぶが振り返った。

 

「獪岳」

 

「ん?」

 

「私もあなたを守りますよ」

 

「……」

 

 獪岳の耳が赤くなる。

 

「……そういうの、今言うかよ」

 

「恋人ですから」

 

「……っ」

 

 カナエが微笑ましそうに二人を見る。

 

「では、二人とも死なないこと」

 

「はい」

 

「分かってます」

 

 二人は同時に答えた。

 

     ◇

 

「ハッ!」

 

 荒々しい声が響く。

 

「朝っぱらから随分と騒がしいじゃねェか!」

 

 風が巻き起こった。

 

「俺たちが来た以上、好き勝手させるわけにはいかねェぞォ!」

 

 風柱・不死川実弥。

 

 身体には無数の傷が刻まれている。

 

 それでも眼光は鋭い。

 

「無惨……テメェだけは絶対に逃がさねェ」

 

 続いて、静かな足音。

 

「……ここで終わらせる」

 

 水柱・冨岡義勇。

 

「炭治郎。まだ戦えるか」

 

「はい!」

 

「なら、共に行くぞ」

 

「はい、義勇さん!」

 

 そして――。

 

 ズシン……。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 大地そのものが震える。

 

「南無阿弥陀仏……」

 

 岩柱・悲鳴嶼行冥。

 

 その頬には涙が流れている。

 

「この長き夜も、ようやく終わろうとしている」

 

 鉄球と斧を構える。

 

「ならば我らも、最後の力を振り絞ろう」

 

     ◇

 

「アニキ!」

 

 黄金の雷が走った。

 

「俺たちも、まだ戦える!」

 

 善逸が獪岳の隣へ並ぶ。

 

「善逸」

 

「うん!」

 

 獪岳は黒銀の日輪刀を肩に担ぐ。

 

「ったく……しぶとすぎんだよ、クソ鬼が」

 

「帝釈天を食らっても、まだ立つなんてね」

 

 善逸が無惨を睨む。

 

「でも、今度こそ終わらせよう」

 

「ああ」

 

 獪岳が頷く。

 

「これが最後だ」

 

 しのぶが二人を見る。

 

「獪岳」

 

「何だ?」

 

「善逸君と二人で無茶をしないでくださいね」

 

「分かってる」

 

「本当に?」

 

「……分かってるって」

 

 しのぶが微笑む。

 

「なら、信じます」

 

「……ああ」

 

 獪岳の表情が柔らかくなる。

 

 それを見た善逸がニヤニヤする。

 

「アニキ、しのぶさんにだけ甘いよね」

 

「うるせぇ」

 

「耳、赤いよ?」

 

「黙れ!」

 

 しのぶが小さく笑った。

 

     ◇

 

 ――その瞬間。

 

 戦場に、すべての柱が揃った。

 

 炎。

 

 花。

 

 蟲。

 

 風。

 

 水。

 

 岩。

 

 そして――雷。

 

 それぞれが歩んできた道も。

 

 守れなかった命も。

 

 失った仲間も。

 

 受け継いだ想いも。

 

 すべてを背負い、同じ敵へと刀を向ける。

 

 無惨がその光景を見渡した。

 

「……人間どもが」

 

 赤い瞳が怒りに染まる。

 

「何人集まろうが同じことだ!」

 

 無惨の身体から、再び無数の触手が噴き出す。

 

「私には千年の時がある!」

 

 触手が空を覆う。

 

「私には圧倒的な力がある!」

 

 地面が震える。

 

「貴様らごときが、この私を倒せるものかァァァッ!!」

 

 その咆哮に対し、最初に答えたのは煉獄だった。

 

「ならば――!」

 

 刀を構える。

 

「その思い上がりを、我らの炎で焼き尽くす!」

 

「風の呼吸――!」

 

 実弥が駆ける。

 

「岩の呼吸――!」

 

 行冥が鉄球を振り上げる。

 

「水の呼吸――!」

 

 義勇が静かに踏み込む。

 

「花の呼吸――!」

 

 カナエが舞う。

 

「蟲の呼吸――!」

 

 しのぶの刃が閃く。

 

「雷の呼吸・改――!」

 

 獪岳が刀を構える。

 

 その隣で善逸も構える。

 

「雷の呼吸!」

 

 二つの雷が同時に弾けた。

 

     ◇

 

「しのぶ!」

 

 獪岳が叫ぶ。

 

 無惨の触手がしのぶへ迫る。

 

「分かっています!」

 

 しのぶが跳ぶ。

 

 しかし――。

 

「そこだ!」

 

 獪岳が一瞬で割り込んだ。

 

 黒紫の雷が触手を斬り裂く。

 

「獪岳!」

 

「大丈夫だ!」

 

「私を庇って怪我を増やしたら許しませんよ!」

 

「お前を傷つけられるよりマシだ!」

 

「……!」

 

 しのぶが一瞬だけ目を見開く。

 

「……馬鹿」

 

「何だよ」

 

「本当に……馬鹿ですね」

 

 しかし、その声はどこか嬉しそうだった。

 

「私だって、あなたを失いたくありません」

 

「……しのぶ」

 

「だから――」

 

 しのぶが刀を構える。

 

「二人で生き残りますよ」

 

「ああ」

 

 獪岳が頷く。

 

「絶対にな」

 

     ◇

 

 七つの呼吸が、夜明けの戦場で同時に炸裂した。

 

 ゴォォォォォォンッ!!

 

 炎が燃え上がる。

 

 風が荒れ狂う。

 

 水が奔流となる。

 

 岩が大地を砕く。

 

 花が舞う。

 

 毒を宿した蟲の刃が走る。

 

 そして雷が空を裂く。

 

 無惨の触手と、柱たちの刃が激突する。

 

 轟音。

 

 爆風。

 

 斬撃。

 

 血飛沫。

 

 黒い肉塊が次々と切り裂かれ、焼かれ、砕かれていく。

 

 しかし無惨もまた、死に物狂いで抵抗する。

 

「消えろォォォォッ!!」

 

 無数の触手が一斉に伸びる。

 

「させるかァ!」

 

 実弥が斬り飛ばす。

 

「こちらもだ!」

 

 行冥の鉄球が粉砕する。

 

「まだだ!」

 

 義勇が斬り払う。

 

「姉さん!」

 

「任せて、しのぶ!」

 

 カナエとしのぶが左右から肉塊を貫く。

 

「今です!」

 

「うむ!」

 

 煉獄の炎がその傷口を焼き尽くす。

 

     ◇

 

「アニキ!」

 

「ああ!」

 

 獪岳と善逸が同時に跳んだ。

 

 黒紫と黄金の雷が、朝日の中で巨大な螺旋を描く。

 

 無惨がその光を見上げた。

 

「また……雷か……!」

 

 獪岳が吠える。

 

「何度でも撃ってやるよ!」

 

 善逸も続く。

 

「これが俺たちの雷だ!」

 

 二人の刃が振り下ろされる。

 

「「雷の呼吸――!!」」

 

 バリィィィィィンッ!!

 

 雷鳴が、夜明けの空を震わせた。

 

     ◇

 

 その瞬間。

 

 炭治郎が前へ出る。

 

「みんなの力が、繋がっている……!」

 

 黒刀を握る。

 

 日の呼吸の構え。

 

「だったら俺も――!」

 

 朝日が刀身を照らした。

 

「この力を繋ぐ!」

 

 戦場のすべての刃が、無惨へ向けられる。

 

 鬼殺隊最後の総力戦。

 

 それは、誰か一人が勝つための戦いではない。

 

 失われた命。

 

 受け継がれた技。

 

 守りたいという願い。

 

 憎しみ。

 

 悲しみ。

 

 そして、明日を生きたいという人間の意志。

 

 そのすべてを一つにした戦いだった。

 

「人間どもォォォッ!!」

 

 無惨が吠える。

 

 獪岳が刀を構える。

 

 その隣には、しのぶがいる。

 

 恋人として。

 

 柱として。

 

 そして、共に生きる未来を望む者として。

 

「鬼舞辻無惨――!」

 

 炭治郎が叫ぶ。

 

「お前の夜は、今日で終わりだァァァッ!!」

 

 東の空から、太陽が完全に姿を現した。

 

 眩い光が戦場を包む。

 

 炎。

 

 花。

 

 蟲。

 

 風。

 

 水。

 

 岩。

 

 雷。

 

 そして日の呼吸。

 

 すべての力が一つになり、最後の鬼へと向けられる。

 

 獪岳としのぶは、互いの背中を預けた。

 

「しのぶ」

 

「はい」

 

「生きて帰るぞ」

 

「ええ」

 

 しのぶは微笑む。

 

「二人で帰りましょう」

 

「……ああ」

 

 その瞬間。

 

 二人の刀が同時に閃いた。

 

 最後の鬼と、最後の夜。

 

 その決着をつけるため――。

 

 鬼殺隊最後の総力戦が、始まった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。