『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第24話 我妻善逸

その少年は、泣いていた。

 

山道の途中。

 

桑島慈悟郎に連れられてきた少年――我妻善逸は、道端に座り込み、鼻水まで垂らしながら泣いていた。

 

「嫌だぁぁぁ……!」

 

「何がじゃ」

 

「修行なんてしたくない!」

 

「…………」

 

「俺、剣士なんか向いてないよぉ!」

 

桑島は黙って善逸を見る。

 

「俺なんか鬼に会ったらすぐ死ぬ!」

 

「ほう」

 

「だから鬼殺隊なんて無理なんだ!」

 

「…………」

 

「俺は普通に暮らしたいんだよぉ!」

 

その少し離れた場所で、獪岳は腕を組んでいた。

 

「…………」

 

桑島が獪岳を見る。

 

「どうする?」

 

「俺に聞かないでくださいよ」

 

「お前の弟弟子じゃろ」

 

「まだ弟弟子になったばかりでしょう」

 

「ならば先輩として面倒を見ろ」

 

獪岳は深いため息をついた。

 

そして善逸の前へ歩いていく。

 

「おい」

 

「ひっ……!」

 

善逸が顔を上げる。

 

獪岳の険しい顔を見て、さらに涙を流した。

 

「怖いぃぃ!」

 

「俺は鬼じゃねぇ!」

 

「でも怖い!」

 

「…………」

 

獪岳は額を押さえた。

 

「お前、名前は?」

 

「……我妻……善逸……」

 

「そうか」

 

獪岳はしゃがむ。

 

「俺は獪岳だ」

 

「……獪岳?」

 

「ああ」

 

「兄貴って呼んでいい?」

 

「好きにしろ」

 

「……兄貴」

 

「何だ」

 

「俺、帰りたい」

 

「帰れ」

 

「え?」

 

「本当に嫌なら帰ればいい」

 

善逸が目を丸くする。

 

「…………」

 

「無理に鬼殺隊になれとは言わねぇ」

 

「…………」

 

「ただし」

 

獪岳は真っ直ぐ善逸を見る。

 

「帰る前に一度だけ、刀を握ってみろ」

 

「刀……」

 

「それでも嫌なら、その時は俺が師匠に話してやる」

 

善逸は戸惑いながら頷いた。

 

「……分かった」

 

 

道場。

 

善逸は刀を握っていた。

 

両手が震えている。

 

「重い……」

 

「当たり前だ」

 

獪岳は隣に立つ。

 

「刀は人の命を奪える道具だ」

 

「…………」

 

「だから軽く扱うな」

 

善逸はごくりと唾を飲み込む。

 

「俺なんかに扱えるのかな」

 

「やってみなきゃ分からん」

 

「でも……」

 

「善逸」

 

「はい」

 

「怖いなら怖いままでいい」

 

獪岳は言った。

 

「ただ、刀を握る手だけは離すな」

 

善逸は震える手に力を込めた。

 

「……うん」

 

桑島が二人を見ていた。

 

そして。

 

「善逸」

 

「はい!」

 

「まずは立ち方からじゃ」

 

「はい!」

 

修行が始まった。

 

 

一日目。

 

善逸は転んだ。

 

二日目。

 

善逸は泣いた。

 

三日目。

 

善逸は逃げた。

 

四日目。

 

獪岳に捕まった。

 

「兄貴ぃぃぃ!」

 

「逃げるな!」

 

「だって怖いんだもん!」

 

「師匠に怒られるぞ」

 

「それはもっと怖い!」

 

「なら戻れ!」

 

「はいぃぃ!」

 

そんな日々が続いた。

 

だが。

 

不思議なことに。

 

善逸は辞めなかった。

 

何度も逃げようとする。

 

何度も泣く。

 

何度も弱音を吐く。

 

それでも。

 

翌朝になると。

 

また道場にいる。

 

獪岳は少しずつ気づき始めていた。

 

「…………」

 

こいつ。

 

本当に諦めが悪い。

 

 

ある日の修行。

 

桑島が言った。

 

「善逸」

 

「はい!」

 

「霹靂一閃をやってみよ」

 

善逸の顔が青ざめる。

 

「無理です!」

 

「やれ」

 

「絶対無理!」

 

「やるのじゃ」

 

「兄貴ぃ!」

 

善逸が獪岳を見る。

 

「助けて!」

 

「自分でやれ」

 

「冷たい!」

 

「俺は最初からそう言ってる」

 

善逸は震えながら構える。

 

「…………」

 

目を閉じる。

 

呼吸を整える。

 

「雷の呼吸……」

 

足に力を込める。

 

「壱ノ型……」

 

そして。

 

「霹靂一閃!」

 

――ドンッ!!

 

一瞬。

 

善逸の姿が消えた。

 

「…………!」

 

獪岳の目が見開かれる。

 

善逸は。

 

数メートル先まで一気に移動していた。

 

「…………」

 

本人は呆然としている。

 

「え?」

 

桑島も驚いていた。

 

「…………」

 

やがて。

 

「見事じゃ」

 

善逸が振り返る。

 

「……俺、できた?」

 

「できたぞ」

 

「俺が?」

 

「うむ」

 

善逸の顔が。

 

みるみる笑顔になる。

 

「できたぁぁぁぁ!!」

 

獪岳は思わず笑った。

 

「やったな」

 

「兄貴!」

 

善逸が駆け寄る。

 

「俺、できたよ!」

 

「ああ」

 

「俺にも才能あった!」

 

「ああ」

 

「俺、強くなれるかな!」

 

獪岳は善逸の頭を撫でる。

 

「なれる」

 

「…………」

 

善逸の目に涙が浮かぶ。

 

「……兄貴」

 

「泣くな」

 

「だって……」

 

「今日は泣いていい」

 

「うわぁぁぁん!」

 

善逸は大泣きした。

 

獪岳は苦笑する。

 

「やっぱり泣くのかよ」

 

桑島も笑っていた。

 

 

その夜。

 

獪岳は一人で考えていた。

 

善逸。

 

我妻善逸。

 

原作では。

 

臆病で。

 

泣き虫で。

 

自分に自信がなくて。

 

それでも。

 

極限状態に追い込まれた時。

 

眠りについた時。

 

彼は恐ろしいほどの剣技を見せる。

 

そして。

 

最終的には。

 

自らの雷を極限まで研ぎ澄ます。

 

「…………」

 

獪岳は空を見上げる。

 

原作の未来を知っている。

 

だからこそ。

 

この弟弟子を。

 

絶対に死なせたくなかった。

 

「善逸」

 

後ろから声がした。

 

「兄貴?」

 

善逸だった。

 

「何してるの?」

 

「何でもねぇ」

 

「……?」

 

善逸が隣に座る。

 

「ねえ、兄貴」

 

「何だ」

 

「俺、兄貴みたいになりたい」

 

「…………」

 

「強くて、怖くて、でも優しい」

 

「誰が優しいだ」

 

「優しいよ」

 

善逸は笑った。

 

「だって、いつも俺を助けてくれる」

 

「…………」

 

「だから俺も」

 

善逸は拳を握る。

 

「いつか兄貴を助けられるくらい強くなる」

 

獪岳は黙っていた。

 

胸の奥が。

 

少しだけ熱くなる。

 

「……期待してる」

 

「うん!」

 

 

それから善逸は変わり始めた。

 

相変わらず泣く。

 

相変わらず怖がる。

 

相変わらず逃げようとする。

 

だが。

 

「もう一回!」

 

と言うようになった。

 

転んでも。

 

「もう一回!」

 

失敗しても。

 

「もう一回!」

 

獪岳に負けても。

 

「もう一回!」

 

桑島はそんな善逸を見ながら。

 

「よくなったのう」

 

と呟いた。

 

「はい」

 

獪岳も頷く。

 

「善逸は強くなります」

 

「そう思うか?」

 

「はい」

 

獪岳は確信していた。

 

「こいつは……」

 

善逸を見る。

 

「最後まで諦めない奴ですから」

 

 

ある日の夕暮れ。

 

善逸は獪岳の前で霹靂一閃を放った。

 

――ドンッ!

 

「どう!?」

 

「まだ遅い」

 

「えぇ!?」

 

「足の踏み込みが甘い」

 

「そんなぁ!」

 

「もう一度」

 

「はい!」

 

善逸が構える。

 

獪岳は腕を組む。

 

「そうだ」

 

「…………」

 

「呼吸を整えろ」

 

「…………」

 

「焦るな」

 

「…………」

 

「お前の雷は、お前のものだ」

 

善逸が目を開く。

 

「…………!」

 

「俺の真似をする必要はねぇ」

 

「…………」

 

「我妻善逸」

 

獪岳は言った。

 

「お前だけの雷を見つけろ」

 

善逸は。

 

ゆっくりと頷いた。

 

「……うん」

 

そして。

 

再び走る。

 

――ドンッ!!

 

今度の一撃は。

 

昨日より速かった。

 

獪岳は小さく笑う。

 

「……そうだ」

 

その姿を見つめながら。

 

獪岳は思う。

 

この弟弟子なら。

 

きっと大丈夫だ。

 

泣き虫でも。

 

臆病でも。

 

弱音を吐いても。

 

最後には立ち上がる。

 

それが。

 

我妻善逸という少年なのだから。

 

そしていつか。

 

この少年は。

 

自分とは違う雷を極める。

 

その雷は。

 

誰よりも速く。

 

誰よりも鋭く。

 

闇を切り裂く一閃になる。

 

【大正コソコソ噂話】

 

獪岳と善逸が兄弟弟子になった頃。

 

善逸は毎日のように、

 

「兄貴! 俺、強くなった?」

 

と聞いていた。

 

獪岳の答えはいつも同じ。

 

「昨日よりはな」

 

「じゃあ俺、強くなってる!」

 

「調子に乗るな」

 

「でも褒めたよね!?」

 

「事実を言っただけだ」

 

そんな二人のやり取りを見ていた桑島は、

 

「獪岳は善逸の扱いが上手くなったのう」

 

と感心していた。

 

ちなみに善逸は。

 

「兄貴に褒めてもらえるのが一番嬉しい!」

 

と周囲に公言していたため、寺の子供たちからも、

 

「獪岳兄ちゃん、弟が増えたね!」

 

と言われていたという。

 

獪岳は、

 

「誰が弟だ」

 

と言いながらも。

 

善逸の頭を撫でる手だけは止めなかったそうだ。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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