『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第26話 大正コソコソ噂話・雷の兄弟弟子

この話は、いつもの本編とは少し違う。

 

獪岳と善逸。

 

二人の兄弟弟子について、鬼殺隊内で密かに語られている「噂」を紹介しよう。

 

「なあ、知ってるか?」

 

蝶屋敷の廊下。

 

一人の隊士が、声を潜めて話していた。

 

「何を?」

 

「鳴柱の獪岳と、我妻善逸のことだよ」

 

「雷の呼吸の兄弟弟子か?」

 

「ああ」

 

「それがどうした?」

 

隊士は周囲を確認してから、小声で言った。

 

「めちゃくちゃ仲がいいらしい」

 

「……あの獪岳が?」

 

「そう」

 

「意外だな」

 

鬼殺隊での獪岳の評判は。

 

決して悪くはない。

 

だが。

 

口が悪い。

 

愛想がない。

 

負けず嫌い。

 

他人に厳しい。

 

そんな印象を持たれている。

 

ところが。

 

善逸に関してだけは。

 

少し違うらしい。

 

「善逸が修行中に転んだら、真っ先に駆け寄る」

 

「へぇ」

 

「怪我してないか確認して、水まで飲ませる」

 

「ほう」

 

「善逸が鬼を怖がったら、『怖いなら鍛えろ』って言う」

 

「……それ、優しいのか?」

 

「その後にちゃんと隣にいるらしい」

 

「なるほど」

 

隊士は頷いた。

 

「つまり、口は悪いけど面倒見がいい、と」

 

「そういうことだ」

 

一方。

 

その頃の蝶屋敷。

 

「獪岳さん」

 

胡蝶しのぶが廊下で声をかける。

 

「何だ」

 

「善逸さんのことですが」

 

「善逸?」

 

「ええ」

 

しのぶは微笑む。

 

「随分と慕われていますね」

 

「……あいつが勝手に懐いてるだけだ」

 

「でも、嫌ではないのでしょう?」

 

「…………」

 

獪岳は黙る。

 

しのぶは少し笑った。

 

「図星ですか?」

 

「うるせぇ」

 

「ふふ」

 

そこへ。

 

「兄貴ぃぃぃ!!」

 

遠くから善逸の声。

 

獪岳の眉間に皺が寄る。

 

「……来たか」

 

「獪岳さん、呼ばれていますよ」

 

「聞こえてる」

 

「行かないのですか?」

 

「…………」

 

獪岳はため息をつく。

 

「行ってくる」

 

「はい」

 

しのぶは笑顔で見送った。

 

「仲良しですね」

 

「どこがだ!」

 

遠くから獪岳の声。

 

「聞こえてますよ」

 

「……!」

 

しのぶはくすりと笑った。

 

「兄貴!」

 

善逸が駆け寄ってくる。

 

「何だ!」

 

「今日の任務、一緒なんだって!」

 

「ああ」

 

「やったぁ!」

 

「任務で喜ぶな」

 

「だって兄貴と一緒だもん!」

 

「…………」

 

獪岳は呆れる。

 

「任務は遊びじゃねぇ」

 

「分かってるよ」

 

善逸は笑顔で答えた。

 

「でも、兄貴と一緒なら怖くない」

 

「…………」

 

獪岳は少しだけ目を細める。

 

「俺がいるからって油断するな」

 

「うん」

 

「鬼を見つけたら自分で判断しろ」

 

「うん」

 

「俺の背中だけ見て戦うな」

 

「うん」

 

「お前自身の雷を使え」

 

「……うん!」

 

善逸は力強く頷いた。

 

任務中。

 

鬼が現れた。

 

「来るぞ!」

 

獪岳が叫ぶ。

 

「はい!」

 

善逸も構える。

 

鬼が突っ込んでくる。

 

「雷の呼吸――」

 

善逸の足に力が集まる。

 

「壱ノ型!」

 

――ドンッ!

 

「霹靂一閃!」

 

一瞬。

 

善逸の姿が消える。

 

鬼の腕を斬り落とした。

 

「よし!」

 

「そのまま行け!」

 

獪岳が続く。

 

「雷の呼吸――」

 

獪岳の刀から青白い雷が迸る。

 

「弐ノ型!」

 

――ザンッ!

 

鬼の首が深く斬り裂かれる。

 

「兄貴!」

 

「今だ!」

 

「はい!」

 

善逸が踏み込む。

 

二人の斬撃が重なった。

 

――ズバァン!!

 

鬼の頚が落ちる。

 

静寂。

 

やがて。

 

善逸が振り返る。

 

「やった!」

 

獪岳は刀を納める。

 

「悪くない」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

「兄貴に褒められた!」

 

「一々騒ぐな」

 

「嬉しいんだもん!」

 

獪岳は呆れながらも。

 

その顔には小さな笑みがあった。

 

任務から戻った二人。

 

それを見ていた隊士たちは。

 

「……あれが噂の兄弟弟子か」

 

「息ぴったりだったな」

 

「獪岳が善逸に合わせていたぞ」

 

「善逸も獪岳の動きを理解していた」

 

「兄弟というより、戦友だな」

 

そんな噂が。

 

少しずつ広がっていった。

 

そして。

 

もう一つ。

 

鬼殺隊にはこんな噂もあった。

 

「獪岳って、善逸のことを弟みたいに思ってるらしいぞ」

 

「本当か?」

 

「ああ」

 

「本人に聞いたのか?」

 

「聞いた」

 

「何て答えた?」

 

隊士は胸を張った。

 

「『弟弟子だ』って」

 

「……それだけ?」

 

「それだけ」

 

「じゃあ、弟みたいに思ってるってのは?」

 

「俺たちの推測だ」

 

「お前、噂を作るなよ」

 

「すまん」

 

その日の夜。

 

善逸が獪岳に尋ねた。

 

「兄貴」

 

「何だ」

 

「僕ってさ」

 

「うん」

 

「兄貴にとって、どんな存在?」

 

「…………」

 

獪岳は少し考えた。

 

「弟弟子だ」

 

「それだけ?」

 

「それ以上でも、それ以下でもない」

 

善逸は少しだけ寂しそうな顔をする。

 

「そっか……」

 

獪岳は横目で善逸を見る。

 

そして。

 

「……まあ」

 

「?」

 

「弟みたいなもんだ」

 

善逸が固まった。

 

「…………」

 

「何だよ」

 

「……兄貴ぃぃぃ!」

 

「うわっ!」

 

善逸が抱きついてくる。

 

「離れろ!」

 

「嫌だ!」

 

「暑苦しい!」

 

「嬉しいんだもん!」

 

「離れろ!」

 

「兄貴大好き!」

 

「うるせぇ!」

 

遠くで。

 

桑島が笑っていた。

 

「良い兄弟じゃ」

 

やがて。

 

この二人は、それぞれの雷を極めていく。

 

獪岳は。

 

自分だけの雷を求め。

 

善逸も。

 

自分だけの雷を求める。

 

同じ師匠。

 

同じ呼吸。

 

違う才能。

 

違う道。

 

それでも。

 

二人は兄弟弟子だった。

 

【大正コソコソ噂話】

 

鬼殺隊では、獪岳と善逸の関係について様々な噂が流れている。

 

「獪岳は善逸にだけ甘い」

 

「いや、むしろ善逸が獪岳に甘えている」

 

「二人が並んで歩いていると、本当の兄弟に見える」

 

「獪岳が善逸の飯の世話までしている」

 

「善逸が獪岳の羽織を勝手に掴んで歩いている」

 

などなど。

 

ちなみに。

 

善逸が獪岳の羽織を掴む理由は、

 

「兄貴を見失わないため」

 

らしい。

 

獪岳は、

 

「子供じゃねぇんだから自分で歩け」

 

と言っているが。

 

結局いつも、そのままにしている。

 

さらに。

 

善逸が獪岳を褒める時の定番は、

 

「怖くて最強で、世界一かっこいい自慢の兄貴!」

 

である。

 

獪岳本人は、

 

「やめろ、恥ずかしい」

 

と言っている。

 

だが。

 

本当に嫌なら、とっくに怒鳴って引き剥がしているはずなのに。

 

結局。

 

いつも好きにさせている。

 

そんな二人を見た桑島慈悟郎は。

 

「雷の兄弟弟子か……」

 

と、満足そうに笑うのであった。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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