『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第4話 最悪の未来を変える

朝。

 

寺の境内を掃除しながら、獪岳は考えていた。

 

「……このままじゃ駄目だ」

 

箒を動かす手を止める。

 

「寺の金を盗まない。鬼の襲撃も防ぐ。子供たちも守る」

 

ここまではいい。

 

だが、それだけでは足りない。

 

原作を知っているからこそ分かる。

 

この世界には、これから数え切れないほどの悲劇が起きる。

 

「俺一人が助かったところで意味がねぇ」

 

獪岳は空を見上げる。

 

「最悪の未来そのものを変える」

 

それが目標だった。

 

まずは自分自身。

 

鬼にならない。

 

次に、善逸。

 

原作では兄弟子と弟弟子という関係でありながら、最後には殺し合う。

 

そんな結末には絶対にしない。

 

そして悲鳴嶼。

 

寺の悲劇を防ぎ、今度こそ笑って生きてもらう。

 

さらに――。

 

「胡蝶カナエ……」

 

名前を呟いた瞬間、胸の奥が重くなった。

 

彼女は原作で童磨に殺される。

 

その死が、しのぶの人生を大きく変える。

 

復讐に生きる少女。

 

笑顔の仮面。

 

そして最後には――。

 

「……しのぶも死なせない」

 

拳を握る。

 

「カナエさんも、しのぶも、カナヲも」

 

全員救う。

 

だが。

 

「どうすりゃいい?」

 

獪岳は頭を掻いた。

 

今の自分は幼い。

 

鬼と戦う力なんてない。

 

原作を知っているからといって、未来を好き勝手に変えられるわけでもない。

 

「……まずは力だ」

 

未来を変えるには、力が必要だ。

 

知識だけでは人を守れない。

 

「雷の呼吸を極める」

 

獪岳は、自分の手を見る。

 

「そして鬼殺隊に入る」

 

そこからだ。

 

原作では雷の呼吸を使える。

 

ならば。

 

「俺は原作以上になる」

 

壱ノ型。

 

弐ノ型。

 

参ノ型。

 

肆ノ型。

 

伍ノ型。

 

陸ノ型。

 

そして――。

 

「漆ノ型」

 

獪岳はまだ知らない。

 

後に自分が独自に編み出すことになる技。

 

「帝釈天」

 

その名を口にした瞬間、理由もなく胸の奥が熱くなった。

 

雷。

 

龍。

 

帝釈天。

 

東洋龍のような巨大な雷が大地を駆け巡る。

 

それが、いつか自分の奥義になる。

 

「……面白ぇ」

 

獪岳は口元を吊り上げた。

 

「善逸が火雷神なら」

 

まだ見ぬ弟弟子の姿を思い浮かべる。

 

「俺は帝釈天だ」

 

同じ雷の呼吸。

 

違う道。

 

違う強さ。

 

それでも――。

 

「兄弟弟子なら、並んで戦えるくらいになってやる」

 

その時。

 

「獪岳」

 

「ん?」

 

振り返ると、悲鳴嶼がいた。

 

「何をしているのだ」

 

「未来のことを考えてました」

 

「未来?」

 

「ああ」

 

獪岳は少し迷ってから答えた。

 

「俺、強くなります」

 

悲鳴嶼は黙っている。

 

「誰かを守れるくらいに」

 

「……そうか」

 

「だから」

 

獪岳は頭を下げた。

 

「修行を教えてください」

 

「…………」

 

悲鳴嶼は静かに首を横に振った。

 

「私に剣術を教えることはできない」

 

「……そうですか」

 

「だが」

 

悲鳴嶼は数珠を握る。

 

「身体を鍛える方法なら教えられる」

 

「!」

 

「力が欲しいのなら、まず己の身体と心を鍛えなさい」

 

「……お願いします!」

 

その日から。

 

獪岳の地獄のような鍛錬が始まった。

 

走る。

 

腕立て伏せ。

 

腹筋。

 

木刀を振る。

 

山道を駆ける。

 

何度転んでも立ち上がる。

 

「……っ、はぁ……!」

 

息が切れる。

 

足が震える。

 

それでも。

 

「もう一回……!」

 

立つ。

 

転ぶ。

 

立つ。

 

転ぶ。

 

それを繰り返す。

 

「獪岳」

 

悲鳴嶼が声をかける。

 

「今日はもう休みなさい」

 

「嫌です」

 

「何故だ」

 

「……時間がねぇから」

 

悲鳴嶼の表情が変わった。

 

「時間がない?」

 

「……いえ」

 

獪岳は首を振る。

 

「何でもありません」

 

本当は。

 

知っている。

 

自分には、未来を変えるための時間が限られている。

 

原作の出来事を全て覚えているわけではない。

 

だからこそ。

 

「俺が覚えてるうちに、できることを全部やる」

 

獪岳は木刀を握り直した。

 

「もっと……!」

 

「獪岳」

 

「もっと鍛えてください!」

 

悲鳴嶼はしばらく黙っていた。

 

やがて。

 

「……分かった」

 

修行は続いた。

 

――数ヶ月。

 

獪岳は変わった。

 

身体が引き締まる。

 

走る速度が上がる。

 

木刀を振るう姿勢も良くなる。

 

そして何より。

 

「……強くなってる」

 

獪岳自身が、それを実感していた。

 

だが。

 

それでも足りない。

 

「もっとだ」

 

鬼を倒すには。

 

柱になるには。

 

未来を変えるには。

 

まだ足りない。

 

そんなある日。

 

寺に一人の男が訪れた。

 

「……この寺に、獪岳という少年がいると聞いた」

 

「誰だ?」

 

獪岳が顔を上げる。

 

老人だった。

 

白髪。

 

険しい顔。

 

だが、その目には不思議な優しさがある。

 

「桑島慈悟郎だ」

 

「……!」

 

獪岳の心臓が跳ねた。

 

来た。

 

雷の呼吸の育手。

 

自分の未来を変えるために必要な人物。

 

「……桑島さん」

 

「何じゃ」

 

獪岳は立ち上がる。

 

そして。

 

深く頭を下げた。

 

「俺を弟子にしてください」

 

「…………」

 

桑島は目を丸くした。

 

「まだ何も言っておらんぞ?」

 

「それでもです」

 

「理由を聞こう」

 

獪岳は顔を上げる。

 

「強くなりたい」

 

「何のために?」

 

迷うことなく答える。

 

「守るためです」

 

「誰を?」

 

「全部です」

 

桑島が眉をひそめる。

 

「全部?」

 

「ああ」

 

獪岳は拳を握った。

 

「俺の大切な奴らを、誰一人死なせないために」

 

その言葉に。

 

桑島はしばらく獪岳を見つめた。

 

そして。

 

「……面白い小僧じゃ」

 

口元を僅かに緩める。

 

「よかろう」

 

獪岳の目が見開かれる。

 

「今日から儂の弟子じゃ」

 

「……!」

 

胸の奥が熱くなった。

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし」

 

桑島の声が低くなる。

 

「雷の呼吸は甘くないぞ」

 

「望むところです」

 

「泣いても知らんぞ」

 

「泣きません」

 

「逃げても追いかけるぞ」

 

「逃げません」

 

桑島が笑った。

 

「言ったな?」

 

「はい!」

 

その日。

 

獪岳の人生を大きく変える師弟関係が始まった。

 

悲鳴嶼との絆。

 

桑島との修行。

 

そして――。

 

やがて出会う、我妻善逸。

 

獪岳はまだ知らない。

 

この出会いが、自分の未来を大きく変えることを。

 

だが。

 

一つだけ決めていた。

 

「原作通りになんか、絶対にしてやらねぇ」

 

悪役になる未来。

 

鬼になる未来。

 

仲間を失う未来。

 

愛する人を失う未来。

 

全部。

 

全部――。

 

「俺が変える」

 

少年の瞳に、雷光のような決意が宿った。

 

【大正コソコソ噂話】

 

実はこの頃の獪岳、修行を始めたばかりなのに「柱になる」と本気で言っていた。

 

寺の子供に、

 

「獪岳兄ちゃん、柱になったら何するの?」

 

と聞かれ、

 

「鬼を全部ぶっ殺す」

 

と答えたところ、

 

「怖い!」

 

と逃げられた。

 

獪岳はしばらく固まった後、

 

「……言い方が悪かっただけだ」

 

と呟いたという。

 

なお、数年後。

 

本当に「鳴柱」になった獪岳を見た子供たちは、

 

「獪岳兄ちゃん、ほんとに柱になった!」

 

と大喜びしたそうな。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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