『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第6話 寺の子供たちは、俺が守る

鬼が来た夜から、数日が経った。

 

寺は、表面上はいつも通りだった。

 

朝になれば鐘が鳴る。

 

子供たちは掃除をする。

 

昼になれば食事を取り、日が暮れれば眠る。

 

けれど――。

 

「…………」

 

獪岳だけは、以前と同じではなかった。

 

境内を歩きながら、周囲を何度も確認する。

 

門。

 

裏手。

 

山道。

 

木々の間。

 

「獪岳兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「さっきから何してるの?」

 

「見回りだ」

 

「何の?」

 

「鬼」

 

「鬼って、まだいるの?」

 

「いると思って警戒してんだよ」

 

「怖い?」

 

「……怖くねぇ」

 

即答した。

 

子供が首を傾げる。

 

「じゃあ、なんで刀みたいなの持ってるの?」

 

「木刀だ」

 

「鬼を倒すの?」

 

「今はな」

 

獪岳は木刀を肩に担ぐ。

 

「いつか本物の刀で斬る」

 

「すごーい!」

 

「お前らが余計なことしなければな」

 

「余計なことって?」

 

「夜中に勝手に外へ出るとか」

 

「しないよ!」

 

「絶対だぞ」

 

「うん!」

 

子供たちは笑って走っていく。

 

その背中を見送った獪岳は、小さく息を吐いた。

 

「……よし」

 

全員いる。

 

怪我もない。

 

それだけで、少し安心する。

 

だが――。

 

「問題は、あいつだ」

 

獪岳の表情が険しくなった。

 

原作の悲劇を知る彼にとって、一番の危険人物。

 

寺の子供たちの中にいる、あの少年。

 

今はまだ、何も知らない。

 

ただ普通に生きている。

 

だからこそ。

 

「俺が、絶対に間違った方向へ行かせねぇ」

 

獪岳は決めていた。

 

叱るだけでは駄目だ。

 

監視するだけでも駄目。

 

必要なのは――。

 

「居場所だ」

 

寺の中に、自分の居場所がある。

 

そう思わせること。

 

誰かに必要とされている。

 

そう思わせること。

 

「……俺も同じだったからな」

 

前世の記憶が蘇る。

 

人間は、孤独になると間違える。

 

誰にも認められないと思えば、認めさせようとする。

 

自分だけが損をしていると思えば、他人から奪いたくなる。

 

「だから……」

 

獪岳は拳を握った。

 

「ここでは、誰も一人にしねぇ」

 

その日の夕方。

 

獪岳は子供たちを集めた。

 

「全員、聞け」

 

「なにー?」

 

「今日から決まりを作る」

 

「えー!」

 

「文句は聞かねぇ」

 

「厳しい!」

 

「うるせぇ」

 

獪岳は指を一本立てる。

 

「一つ。夜になったら絶対に外へ出ない」

 

「はーい」

 

二本目。

 

「二つ。知らない人間が来ても、勝手に門を開けない」

 

「はーい」

 

三本目。

 

「三つ。何かあったら、悲鳴嶼さんか俺に必ず知らせる」

 

「はーい!」

 

「四つ」

 

獪岳は少しだけ間を置いた。

 

「誰かが困ってたら、見捨てない」

 

子供たちが黙った。

 

「……どうして?」

 

一人が聞いた。

 

獪岳は答える。

 

「家族だからだ」

 

「家族?」

 

「ああ」

 

獪岳は照れ臭そうに顔を逸らした。

 

「ここにいる奴は、全員仲間だ。だから……誰かが泣いてたら助けろ」

 

「獪岳兄ちゃんも?」

 

「俺もだ」

 

「じゃあ獪岳兄ちゃんが泣いたら?」

 

「泣かねぇよ」

 

「泣いたら?」

 

「……その時は」

 

獪岳は頭を掻いた。

 

「誰かがそばにいろ」

 

子供たちが笑った。

 

「分かった!」

 

「獪岳兄ちゃんが泣いたら、俺たちが助ける!」

 

「……そうかよ」

 

胸の奥が、少し熱くなった。

 

――その夜。

 

獪岳は一人で薪を割っていた。

 

「……ふっ!」

 

斧を振り下ろす。

 

パカンッ。

 

薪が割れる。

 

「……まだだ」

 

もう一本。

 

パカンッ。

 

もう一本。

 

「もっと強くならねぇと」

 

悲鳴嶼が後ろから声をかける。

 

「獪岳」

 

「……悲鳴嶼さん」

 

「もう十分だ」

 

「まだです」

 

「何故そこまで鍛える?」

 

獪岳は斧を置いた。

 

「守りたいから」

 

「誰を?」

 

「子供たちを」

 

即答だった。

 

「俺が強くなれば、何かあった時に守れる」

 

悲鳴嶼は静かに頷く。

 

「……そうか」

 

「それに」

 

獪岳は拳を握った。

 

「俺は一度、こいつらを失う未来を知ってる」

 

「…………」

 

「だから二度目は絶対に嫌なんです」

 

悲鳴嶼は黙っていた。

 

やがて。

 

「獪岳」

 

「はい」

 

「お前は、優しい子だな」

 

「……は?」

 

獪岳が目を丸くする。

 

「俺が?」

 

「そうだ」

 

「どこがですか」

 

「自分より他者のことを考えている」

 

「……別に」

 

獪岳は顔を逸らした。

 

「俺が勝手にやってるだけです」

 

「それを優しさというのだ」

 

「…………」

 

獪岳は何も言えなかった。

 

そんな自分を。

 

「優しい」と言われるとは思っていなかった。

 

前世でも。

 

獪岳として生き始めてからも。

 

自分はずっと――。

 

「強くなきゃいけない」

 

そう思っていた。

 

負けたくない。

 

馬鹿にされたくない。

 

認められたい。

 

だから強くなる。

 

だが。

 

今は違う。

 

「……守るために強くなる」

 

それが、自分の道だ。

 

その時だった。

 

「獪岳兄ちゃん!」

 

「!」

 

寺の中から子供の叫び声。

 

獪岳と悲鳴嶼が同時に振り向いた。

 

「どうした!」

 

獪岳が走る。

 

部屋の中に入る。

 

すると。

 

一人の子供が泣いていた。

 

「こいつが転んだ!」

 

「怪我したのか?」

 

「うん……」

 

獪岳はしゃがみ込む。

 

膝から血が出ている。

 

「……馬鹿」

 

「ごめんなさい……」

 

「謝るな」

 

獪岳は懐から布を取り出す。

 

傷口を拭う。

 

「痛いか?」

 

「ちょっと……」

 

「我慢しろ」

 

「うん……」

 

「よし」

 

布を巻く。

 

「これで大丈夫だ」

 

「……ありがとう」

 

獪岳は立ち上がった。

 

そして。

 

泣いている子供の頭を、乱暴に撫でる。

 

「次から気をつけろ」

 

「うん!」

 

「でも」

 

獪岳は少しだけ笑った。

 

「怪我した時は、ちゃんと俺を呼べ」

 

「分かった!」

 

その光景を見て。

 

悲鳴嶼は静かに目を閉じた。

 

「……南無阿弥陀仏」

 

――原作では。

 

この寺にいた子供たちは、誰も守られなかった。

 

だが。

 

今は違う。

 

獪岳がいる。

 

悲鳴嶼がいる。

 

そして。

 

子供たち自身も、互いを守ろうとしている。

 

未来は、少しずつ変わっていた。

 

夜。

 

全員が眠った後。

 

獪岳は一人、境内に立っていた。

 

月を見上げる。

 

「……俺は知ってる」

 

この先に待っている未来を。

 

上弦の鬼。

 

柱の死。

 

無限城。

 

無惨。

 

そして――。

 

自分自身が鬼になる未来。

 

「全部、変える」

 

獪岳は木刀を握る。

 

「俺は鬼にならねぇ」

 

一歩踏み出す。

 

「善逸も死なせねぇ」

 

もう一歩。

 

「悲鳴嶼さんも」

 

さらに一歩。

 

「カナエさんも」

 

そして。

 

「しのぶも」

 

最後に。

 

「カナヲも」

 

木刀を振り下ろす。

 

――ヒュンッ!

 

「絶対に、誰も死なせねぇ」

 

それは。

 

まだ何の力も持たない少年の、小さな誓い。

 

けれど。

 

この誓いこそが。

 

後に鬼殺隊を大きく変える「鳴柱・獪岳」の原点になる。

 

【大正コソコソ噂話】

 

寺の子供たちは、最近「獪岳兄ちゃんに相談すれば何とかなる」と思っている。

 

「転んだ!」

 

「獪岳兄ちゃん!」

 

「喧嘩した!」

 

「獪岳兄ちゃん!」

 

「お腹すいた!」

 

「それは悲鳴嶼さんに言え!」

 

ちなみに、獪岳が一番困る相談は、

 

「獪岳兄ちゃん、一緒に寝て!」

 

らしい。

 

「俺はもう子供じゃねぇ!」

 

と言いながら、結局最後には布団を並べて寝てあげる獪岳。

 

翌朝、本人は、

 

「……昨日のことは忘れろ」

 

と全員に念を押したという。

 

しかし子供たちは満面の笑顔で、

 

「獪岳兄ちゃん、大好き!」

 

と返した。

 

獪岳は――何も言い返せなかった。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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