「――迅雷・連牙!」
轟ッ!!
獪岳の姿が山中から消えた。
一閃。
二閃。
三閃。
まるで雷が地面を跳ねるように、斬撃が連続して走っていく。
ズバッ!
ズバァッ!
ズドンッ!!
最後の一撃で、巨大な岩が砕け散った。
「……」
獪岳は刀を下ろした。
荒い呼吸。
額から流れる汗。
だが、その表情は険しい。
「まだだ」
「まだ何か足りぬか」
後方から慈悟郎が声をかける。
「ああ」
獪岳は即答した。
「迅雷・連牙は、確かに使える」
「うむ」
「複数の敵を相手にするなら、かなり有効だ」
「じゃが?」
「弱点がある」
獪岳は刀を見つめる。
「攻撃が続くほど、動きが大きくなる」
「そうじゃな」
「相手が強ければ強いほど、読まれる可能性が高くなる」
「うむ」
「それに――」
獪岳は拳を握った。
「一撃一撃の軌道を変えるために、どうしても身体を大きく動かす」
慈悟郎は頷いた。
「だから、次の技を考えた」
「もうか?」
「ああ」
獪岳の目が鋭くなる。
「迅雷・連牙は、雷が地面を走るような技だ」
「では次は?」
「閃きだ」
「……閃き?」
「ああ」
獪岳は空を指差した。
「雷が落ちる瞬間って、一瞬だけ光るだろ」
「うむ」
「なら、その一瞬を連続させる」
慈悟郎の目が細くなる。
「……面白い」
「連牙とは違う」
獪岳は刀を抜いた。
「連牙は、一つの動きを繋げる」
「そして?」
「こいつは、一つ一つを完全に独立させる」
一歩。
「踏み込む」
二歩。
「斬る」
三歩。
「離れる」
獪岳はそこで止まった。
「そして――また踏み込む」
慈悟郎は理解した。
「瞬間的な加速を、連続して行う」
「ああ」
「一度の突進ではなく――」
「何度も消える」
獪岳は構えた。
「やってみる」
「うむ」
周囲の空気が変わった。
獪岳は深く息を吸う。
「雷の呼吸――」
全身の力を抜く。
「派生型――」
足先へ力を集中。
「迅雷・閃々!」
ドンッ!!
消えた。
「……!」
慈悟郎の目が追う。
右。
左。
正面。
背後。
獪岳が一瞬ごとに現れては消える。
ズバッ!!
斬撃。
消える。
ズバッ!!
斬撃。
消える。
ズバッ!!
また斬撃。
一撃一撃は短い。
だが、その全てが凄まじい速度で繰り出されている。
「……速い」
慈悟郎が思わず呟く。
獪岳は止まらない。
「――ッ!」
四撃。
五撃。
六撃。
そのたびに、身体が雷光のように跳ねる。
「まだ!」
七撃。
八撃。
九撃。
「もっと!」
十撃。
そして――。
「これで――!」
最後の一閃。
ズドォン!!
獪岳が着地した。
その瞬間。
周囲の竹林が一斉に倒れた。
十本。
二十本。
三十本。
全ての竹が、同じ高さで切断されている。
「……」
獪岳は息を吐く。
「どうだ」
慈悟郎はしばらく黙っていた。
やがて。
「見事じゃ」
「……!」
「迅雷・連牙とはまるで違う」
「そうだ」
「連牙が『走る雷』なら――」
慈悟郎は周囲を見渡す。
「これは『瞬く雷』じゃな」
獪岳は笑った。
「だから――迅雷・閃々」
「うむ」
「何度も閃く」
「じゃが」
慈悟郎の表情が少し厳しくなる。
「この技にも弱点がある」
「……分かってる」
「目に頼りすぎれば、相手に動きを読まれる」
「ああ」
「そして、連続して使えば脚への負担が大きい」
「それも分かってる」
「ならば、どうする?」
獪岳は少し考えた。
「……感覚で斬る」
「ほう」
「相手を目で追うんじゃない」
獪岳は目を閉じる。
「音を聞く」
風。
木々。
鳥。
自分の呼吸。
「気配を読む」
そして。
「次に敵がどこへ動くかを感じる」
慈悟郎は微笑んだ。
「雷の呼吸を、さらに深く理解しておるな」
獪岳は目を開く。
「雷は目で追えない」
「……」
「だから、俺も目で追われる剣士になる必要はない」
「なるほど」
「見えた時には、もう斬られてる」
獪岳の口元が僅かに上がった。
「それが理想だ」
慈悟郎は苦笑する。
「随分と恐ろしいことを言うようになったのう」
「鬼に遠慮する必要はないだろ」
「ああ。その通りじゃ」
獪岳は再び構えた。
「もう一度」
「まだやるのか?」
「当然」
「脚が限界じゃぞ」
「なら、限界を越える」
「……無茶をするのう」
「鳴柱になるんだ」
獪岳は笑う。
「これくらいで止まってられるか」
そして――。
「迅雷・閃々!」
轟ッ!!
またしても、獪岳の姿が消える。
一瞬。
二瞬。
三瞬。
山中に雷光のような斬撃が走り続けた。
それを見つめながら、慈悟郎は静かに思う。
壱ノ型・極。
迅雷・連牙。
迅雷・閃々。
一つ。
また一つ。
獪岳の雷は、確実に形を増やしている。
だが、それ以上に――。
「……剣士としての獪岳が、変わってきた」
かつての焦りはない。
ただ強さを求めるだけでもない。
自分の剣を、自分自身で作り上げようとしている。
そして。
その先にあるものは――。
「鳴柱、か」
慈悟郎は小さく笑った。
「本当に、なってしまうかもしれんな」
山中に轟く雷鳴。
その中心で。
獪岳は新たな技を磨き続けていた。
迅雷・閃々。
それは、一瞬の閃きを何度も繰り返す剣。
そしてその剣は――。
やがて、獪岳という男そのものを象徴する技へと成長していくのだった。