『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第74話 帝釈天

「――雷龍!!」

 

轟ォォォォン!!

 

山中を震わせる轟音。

 

巨大な岩壁が砕け、土煙が舞い上がる。

 

その中心に、獪岳は立っていた。

 

刀を握ったまま、肩で荒く息をする。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

「見事じゃ」

 

少し離れた場所から、慈悟郎が声をかける。

 

「雷龍。凄まじい威力じゃな」

 

「ああ」

 

獪岳は刀を見つめる。

 

「威力だけなら、今の俺が使える技の中では最高だ」

 

「じゃが――」

 

慈悟郎の言葉を遮るように、獪岳が続ける。

 

「足りない」

 

「……何?」

 

「雷龍は強い」

 

獪岳は頷く。

 

「でも、あれは俺の技を全部繋いだだけだ」

 

「……」

 

「雷の呼吸を改良して、派生型を作って、最後に全部を一つへまとめた」

 

獪岳は空を見上げる。

 

「それでも――」

 

拳を握る。

 

「俺自身の『型』じゃない」

 

慈悟郎は黙っていた。

 

獪岳の言いたいことを理解していた。

 

雷の呼吸を極める。

 

既存の型を改良する。

 

派生型を生み出す。

 

それだけでは、本当の意味で「己の雷」を完成させたとは言えない。

 

「俺は鳴柱になる」

 

獪岳の声が響く。

 

「なら、いつまでも誰かが作った技を使ってるだけじゃ駄目だ」

 

刀を抜く。

 

「俺自身の七つ目が必要だ」

 

「……七つ目」

 

慈悟郎が目を細める。

 

「雷の呼吸・漆ノ型」

 

獪岳は構えた。

 

「まだ誰にもない、俺だけの型だ」

 

その日から。

 

獪岳は一人で考え続けた。

 

壱ノ型は速度。

 

弐ノ型は連撃。

 

参ノ型は広範囲。

 

肆ノ型は遠距離。

 

伍ノ型は攻防。

 

陸ノ型は広域殲滅。

 

そして――。

 

「漆ノ型」

 

獪岳は刀を振る。

 

「何が必要だ?」

 

速度か。

 

威力か。

 

防御か。

 

範囲か。

 

どれも違う。

 

それだけでは足りない。

 

「柱になるなら……」

 

獪岳は目を閉じる。

 

「上弦と戦える技が必要だ」

 

脳裏に浮かぶ。

 

鬼。

 

人間を遥かに超えた身体能力。

 

異常な再生能力。

 

そして、柱すら殺しかねない圧倒的な力。

 

「一撃で倒せなければ、次の瞬間に殺される」

 

ならば。

 

「一撃で――」

 

獪岳の呼吸が深くなる。

 

「相手を斬り伏せる」

 

だが、雷龍では足りない。

 

雷龍は強い。

 

しかし、連続する技を束ねた大技。

 

発動までに僅かな時間が必要だった。

 

「もっと速く」

 

一撃。

 

「もっと重く」

 

一撃。

 

「もっと鋭く」

 

そして――。

 

「絶対に、避けられない技」

 

その瞬間。

 

獪岳の脳裏に、雷神の姿が浮かんだ。

 

雷を司る神。

 

天を支配し、雷霆を自在に振るう存在。

 

「……神」

 

獪岳は呟く。

 

「雷を操る神……」

 

そして、一つの名に辿り着く。

 

「帝釈天」

 

古来より雷を司る神として知られる存在。

 

その名を口にした瞬間。

 

獪岳の中で、何かが繋がった。

 

「……これだ」

 

雷龍は、龍。

 

ならばその上に立つ存在がいる。

 

「龍を従える者」

 

獪岳は刀を構える。

 

「天から雷を落とす者」

 

身体を低くする。

 

「敵がどこに逃げようと――」

 

呼吸を整える。

 

「逃がさない」

 

慈悟郎が、少し離れた場所から見守っていた。

 

「獪岳……?」

 

獪岳の周囲に、空気が集まっていく。

 

呼吸。

 

筋肉。

 

神経。

 

全てが一つになる。

 

「雷の呼吸――」

 

刀身が僅かに震える。

 

「漆ノ型――」

 

獪岳は静かに目を開く。

 

「帝釈天」

 

――刹那。

 

轟ォォォォォン!!

 

獪岳の姿が消えた。

 

いや。

 

消えたのではない。

 

あまりにも速く動いたため、慈悟郎の目が追いつかなかった。

 

「――ッ!」

 

次の瞬間。

 

獪岳が、はるか前方に立っている。

 

刀は振り抜かれていた。

 

「……」

 

何も起こらない。

 

慈悟郎は眉を寄せる。

 

「……今のは?」

 

獪岳は刀を収めた。

 

「まだだ」

 

「何?」

 

「完成してない」

 

その直後。

 

――ゴロゴロゴロ……。

 

遠くで雷鳴が響いた。

 

そして。

 

ズドォォォォン!!

 

獪岳が斬った場所から、巨大な樹木が一斉に倒れた。

 

慈悟郎は目を見開く。

 

「……!」

 

一撃。

 

獪岳が通過した後に、遅れて斬撃が発生した。

 

まるで――。

 

雷が落ちた後に、轟音が追いかけてくるように。

 

「これが……帝釈天」

 

獪岳は自分の刀を見る。

 

「最初の一撃で、相手の逃げ道を全部潰す」

 

「……」

 

「そして――」

 

獪岳の目が鋭くなる。

 

「本命の斬撃を叩き込む」

 

慈悟郎は理解した。

 

「囮の一撃と、本命の一撃を――」

 

「ああ」

 

獪岳が頷く。

 

「ほぼ同時に成立させる」

 

「それほどの速度を……」

 

「出す」

 

即答だった。

 

「俺が出す」

 

獪岳は刀を握り直す。

 

「雷龍が『力』なら」

 

一歩。

 

「帝釈天は『速さ』だ」

 

もう一歩。

 

「そして――」

 

天を見上げる。

 

「雷そのものになる」

 

慈悟郎は静かに息を呑んだ。

 

「……獪岳」

 

「何だ?」

 

「その技は、完成すれば――」

 

「分かってる」

 

獪岳は笑った。

 

「身体への負担が大きい」

 

「……」

 

「一度でも失敗すれば、俺自身が動けなくなる」

 

「それでも?」

 

「それでもだ」

 

獪岳の瞳に、強い覚悟が宿る。

 

「俺は柱になる」

 

「……」

 

「柱になって、もっと強い鬼と戦う」

 

そして。

 

「その時、仲間を守れる技が必要なんだ」

 

獪岳は刀を構えた。

 

「なら、命を懸けてでも完成させる」

 

慈悟郎は何も言わなかった。

 

ただ、師としてその姿を見つめていた。

 

かつては己の力を証明することばかり考えていた少年。

 

今は違う。

 

自分より強い者と戦うため。

 

誰かを守るため。

 

そして――。

 

自分自身の未来を切り拓くため。

 

獪岳は新たなる型を生み出そうとしていた。

 

「雷の呼吸・漆ノ型――」

 

再び構える。

 

「帝釈天」

 

轟ッ!!

 

雷鳴が山々に響き渡る。

 

まだ完成には至らない。

 

だが。

 

この日。

 

雷の呼吸に、全く新しい七つ目の型が生まれた。

 

それは、既存の型の延長ではない。

 

誰かの真似でもない。

 

獪岳自身が生み出した――唯一無二の雷。

 

やがて鬼殺隊の歴史に刻まれることになる、その名は。

 

「帝釈天」

 

霹靂の獪岳が生み出した、究極の一撃。

 

その雷は――。

 

天をも震わせる。

 

 

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