『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第75話 九頭龍の雷

山奥に、異様な静けさが漂っていた。

 

獪岳は一人、巨大な岩場の中央に立っている。

 

刀は抜かれていた。

 

その刃先から、僅かに汗が滴る。

 

「……」

 

目の前には、九本の巨大な丸太。

 

それぞれが十メートル近く離れて設置されている。

 

「今日は何をするつもりじゃ?」

 

後方から慈悟郎が尋ねる。

 

「九本全部を斬る」

 

「……一本ずつか?」

 

「違う」

 

獪岳は首を横に振った。

 

「一度の踏み込みで、全部だ」

 

慈悟郎の眉が上がる。

 

「一度で九本?」

 

「ああ」

 

獪岳は刀を構える。

 

「帝釈天を作って分かった」

 

「何がじゃ?」

 

「俺の雷は、もっと広げられる」

 

「……」

 

「一方向だけじゃない」

 

獪岳は九本の丸太を見る。

 

「鬼が一体とは限らない」

 

「複数の鬼を相手にすることもある」

 

「その通りじゃ」

 

「なら――」

 

獪岳は深く息を吸った。

 

「一度の雷で、全員を斬ればいい」

 

慈悟郎は黙って獪岳を見る。

 

「帝釈天は、一点突破の技だ」

 

「うむ」

 

「雷龍は、広範囲を薙ぎ払う」

 

「そうじゃな」

 

「なら、その中間が必要だ」

 

獪岳は刀を握る。

 

「一点でもない」

 

「広範囲でもない」

 

「複数の標的を、同時に狙う」

 

獪岳の目が鋭くなる。

 

「九つ」

 

慈悟郎が呟く。

 

「九つの雷……」

 

「そうだ」

 

獪岳は空を見上げた。

 

「雷が枝分かれするように」

 

雲の中を走る雷。

 

一本の閃光が、幾つにも分かれて空を駆ける。

 

その光景が、獪岳の脳裏に焼き付いた。

 

「――九頭龍」

 

「……九頭龍?」

 

「ああ」

 

獪岳は笑う。

 

「一つの雷から、九つの雷が生まれる」

 

そして。

 

「九本の首を持つ龍みたいにな」

 

慈悟郎は少し考えた。

 

「では――技名は?」

 

獪岳は刀を構えた。

 

「九頭龍の雷」

 

その瞬間。

 

獪岳の呼吸が変わった。

 

「雷の呼吸――」

 

深く。

 

長く。

 

「九頭龍の雷!!」

 

ドンッ!!

 

地面が爆ぜる。

 

獪岳が飛び出した。

 

一瞬。

 

二瞬。

 

三瞬。

 

身体が九つに分かれたように見えた。

 

「……!」

 

慈悟郎が目を見開く。

 

獪岳は一本目の丸太を斬った。

 

ズバッ!!

 

その瞬間。

 

身体の軌道が変わる。

 

二本目。

 

ズバッ!!

 

三本目。

 

ズバッ!!

 

四本目。

 

ズバッ!!

 

斬撃が連鎖する。

 

まるで一本の雷が枝分かれしていくように。

 

五本。

 

六本。

 

七本。

 

八本。

 

そして――。

 

「九つ目!!」

 

ズドォォォン!!

 

最後の丸太が真っ二つに割れた。

 

獪岳は九本の丸太の中央に立っていた。

 

静寂。

 

そして――。

 

ドドドドド……。

 

九本の丸太が、ほぼ同時に倒れる。

 

慈悟郎は言葉を失っていた。

 

「……見事じゃ」

 

獪岳は荒い呼吸を整える。

 

「成功……した」

 

「ああ」

 

「でも――」

 

獪岳は刀を見る。

 

「まだ完成じゃない」

 

「何故じゃ?」

 

「九本を斬っただけだ」

 

「十分ではないか」

 

「敵が九体、同じ場所にいるとは限らない」

 

獪岳は首を横に振る。

 

「もっと自由に動けなきゃ意味がない」

 

慈悟郎は笑った。

 

「まだ上を目指すか」

 

「当然だ」

 

獪岳は再び構える。

 

「九頭龍の雷は、九つの雷を同時に操る技にする」

 

「同時に?」

 

「ああ」

 

「今は一つずつ移動して斬った」

 

「でも、それじゃ遅い」

 

獪岳は目を閉じる。

 

「一度の踏み込みで、九つの斬撃を生み出す」

 

「……それは」

 

慈悟郎の顔が険しくなる。

 

「相当な技量が必要じゃぞ」

 

「だからやる」

 

即答だった。

 

「雷龍で広範囲を攻撃する」

 

「帝釈天で一点を貫く」

 

「そして九頭龍の雷で――」

 

獪岳は刀を握る。

 

「複数の強敵を同時に討つ」

 

それは、柱になった後を想定した技だった。

 

一人で複数の鬼と戦う。

 

仲間を守りながら。

 

敵の攻撃を受け流しながら。

 

一瞬の隙を見つけ――。

 

全てを斬る。

 

「……鳴柱」

 

獪岳が呟く。

 

「俺が柱になるなら」

 

その瞳に、強い決意が宿る。

 

「一人で鬼を倒すだけじゃ足りない」

 

「……」

 

「仲間を守りながら、複数の鬼を倒せる剣士になる」

 

慈悟郎は微笑んだ。

 

「それがお前の目指す柱か」

 

「ああ」

 

「立派になったのう」

 

「……からかうな」

 

「本心じゃよ」

 

獪岳は少しだけ照れたように目を逸らした。

 

だが。

 

「……もう一度やる」

 

「休まんのか?」

 

「まだ九本しか斬ってない」

 

「九本も斬ったじゃろう」

 

「九本『しか』だ」

 

慈悟郎は苦笑する。

 

「まったく……」

 

獪岳は構える。

 

「雷の呼吸――」

 

空気が震える。

 

「九頭龍の雷!」

 

轟ッ!!

 

今度は先ほどより速い。

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

斬撃が次々と分岐する。

 

四つ。

 

五つ。

 

六つ。

 

そして――。

 

七つ。

 

八つ。

 

九つ。

 

九本の雷が、山中を駆け抜けた。

 

ズドォォォン!!

 

全ての丸太が同時に倒れる。

 

獪岳はその中心に立っていた。

 

「……」

 

慈悟郎は目を細める。

 

先ほどよりも明らかに速い。

 

そして何より――。

 

「九つの斬撃が、ほぼ同時に成立しておる」

 

獪岳は刀を収める。

 

「まだだ」

 

「……まだか」

 

「ああ」

 

空を見上げる。

 

「九つの雷を、もっと自由にする」

 

そして。

 

「九つの首を持つ龍が、空を駆けるように」

 

その言葉と同時に。

 

遠くで雷鳴が轟いた。

 

轟ォォォン……。

 

獪岳はその音を聞きながら、静かに笑う。

 

「九頭龍の雷」

 

それは、ただの派生技ではない。

 

複数の敵を相手にするため。

 

仲間を守るため。

 

そして――。

 

いつか鳴柱として戦場に立つため。

 

獪岳が生み出した、新たなる雷だった。

 

壱ノ型・極。

 

迅雷・連牙。

 

迅雷・閃々。

 

雷龍。

 

帝釈天。

 

そして――。

 

九頭龍の雷。

 

獪岳の雷は、一つずつ増えていく。

 

やがてそれら全てが、一つの体系として完成した時。

 

「雷の呼吸・改」

 

その名は、鬼殺隊の中で新たな意味を持つことになる。

 

そしてその中心に立つ男こそ――。

 

霹靂の獪岳。

 

彼はまだ知らない。

 

自分が生み出した雷が、やがて「鳴柱」の名を大きく変えることを。

 

 

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