『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第76話 獪岳、柱へ

それは、突然の知らせだった。

 

「獪岳。お館様がお呼びじゃ」

 

朝稽古を終えた獪岳のもとへ、鎹鴉が舞い降りた。

 

「俺を?」

 

「カァ! オマエヲ! オヤカタサマガ!」

 

「……分かった」

 

獪岳は刀を納める。

 

ここ最近、獪岳は任務と鍛錬を繰り返していた。

 

壱ノ型・極。

 

迅雷・連牙。

 

迅雷・閃々。

 

雷龍。

 

帝釈天。

 

九頭龍の雷。

 

己の雷の呼吸を完成させるため、ひたすら鍛え続けてきた。

 

そして――。

 

鬼殺隊における討伐数も、着実に積み上がっていた。

 

だが。

 

「お館様が俺に何の用だ?」

 

獪岳には心当たりがなかった。

 

「……まさか」

 

一つだけ。

 

考えられることがある。

 

「柱……?」

 

その言葉を口にした瞬間。

 

胸が高鳴った。

 

だが、獪岳はすぐに首を振る。

 

「いや。まだ早い」

 

柱になるには、それ相応の実績が必要だ。

 

自分はまだ、そこまでの地位には――。

 

「獪岳」

 

慈悟郎の声。

 

振り返ると、師が立っていた。

 

「行ってこい」

 

「爺さん……」

 

「何を恐れておる?」

 

「恐れてるわけじゃない」

 

「ならば、堂々と行け」

 

慈悟郎は笑った。

 

「お前はもう、昔のお前ではない」

 

「……」

 

その言葉に。

 

獪岳は静かに頷いた。

 

「分かった」

 

そして――。

 

産屋敷邸。

 

「お待ちしておりました、獪岳」

 

穏やかな声が響く。

 

「お館様」

 

獪岳はその場に跪いた。

 

目の前にいるのは、鬼殺隊当主・産屋敷耀哉。

 

その隣には、幾人かの柱たちが並んでいた。

 

「顔を上げてください」

 

「……はい」

 

獪岳は顔を上げる。

 

「あなたが鬼殺隊に入ってから、随分と長い時間が経ちましたね」

 

「はい」

 

「数多くの任務をこなし、鬼を討ち、人々を救ってきた」

 

「……」

 

「そして、あなたは己の技を磨き続けた」

 

産屋敷は微笑む。

 

「雷の呼吸・改」

 

獪岳の目が僅かに見開かれた。

 

「壱ノ型・極」

 

「……」

 

「迅雷・連牙」

 

「……」

 

「迅雷・閃々」

 

「……」

 

「雷龍」

 

獪岳は黙って聞いている。

 

「帝釈天」

 

「……」

 

「九頭龍の雷」

 

そこまで言われて。

 

獪岳はようやく理解した。

 

「……全部、把握されているんですね」

 

「ええ」

 

産屋敷は穏やかに答える。

 

「あなたの戦いを見ている隊士たちがいますから」

 

そして。

 

「あなたの強さは、既に鬼殺隊の中でも特筆すべきものになっています」

 

「……」

 

「さらに――」

 

産屋敷は静かに続けた。

 

「あなたは、ただ強いだけではありません」

 

獪岳は顔を上げる。

 

「任務中、自分より弱い隊士を何度も救っていますね」

 

「……当然のことをしただけです」

 

「ええ」

 

産屋敷は微笑む。

 

「その『当然』を、あなたは何度も繰り返した」

 

「……」

 

「だからこそ、今日ここへ呼びました」

 

部屋に静寂が落ちる。

 

獪岳の胸が大きく鳴った。

 

「獪岳」

 

産屋敷耀哉は、はっきりと告げた。

 

「今日よりあなたを――」

 

一拍。

 

「柱に任命します」

 

「……!」

 

獪岳の瞳が大きく見開かれる。

 

「俺が……?」

 

「はい」

 

「柱に……」

 

言葉が続かない。

 

何度も夢に見た。

 

何度も鍛錬した。

 

それでも。

 

いざ現実になると――。

 

「……鳴柱」

 

誰かが呟いた。

 

その言葉に。

 

獪岳は顔を上げた。

 

「鳴柱……」

 

胸の奥から、熱いものが込み上げる。

 

だが。

 

獪岳はすぐに頭を下げた。

 

「……謹んで、お受けします」

 

声が震えていた。

 

「ありがとうございます」

 

産屋敷は微笑む。

 

「これからは、あなたの背中を見て戦う隊士が増えるでしょう」

 

「……はい」

 

「あなたには、その責任があります」

 

「分かっています」

 

獪岳は顔を上げる。

 

「必ず果たします」

 

「ええ」

 

産屋敷の声は優しかった。

 

「あなたならできるでしょう」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

獪岳の脳裏に、師の姿が浮かんだ。

 

桑島慈悟郎。

 

雷の呼吸を教えてくれた人。

 

自分を見捨てなかった人。

 

そして――。

 

「爺さん……」

 

獪岳は小さく呟いた。

 

「俺……」

 

拳を握る。

 

「なったぞ」

 

鳴柱に。

 

そして。

 

その日。

 

鬼殺隊に、新たな柱が誕生した。

 

「鳴柱――獪岳」

 

その名が正式に隊内へ伝えられる。

 

やがて屋敷へ戻った獪岳を、慈悟郎が待っていた。

 

「……どうじゃった?」

 

獪岳は何も言わない。

 

ただ。

 

師の前まで歩いていく。

 

そして――。

 

深々と頭を下げた。

 

「……ありがとうございました」

 

慈悟郎の目が細くなる。

 

「ほう」

 

「爺さんがいなかったら、俺はここまで来られなかった」

 

「……」

 

「雷の呼吸も」

 

「……」

 

「柱になることも」

 

獪岳は顔を上げた。

 

「全部、爺さんが始めてくれた」

 

慈悟郎は笑った。

 

「違う」

 

「……?」

 

「ここまで来たのは、お前自身じゃ」

 

「……」

 

「ワシが道を示しただけじゃ」

 

慈悟郎は獪岳の肩を叩く。

 

「歩いたのは、お前じゃよ」

 

獪岳は俯く。

 

「……そうか」

 

そして。

 

空を見上げる。

 

「鳴柱……」

 

その言葉を、今度は胸を張って口にする。

 

「俺は、鳴柱になった」

 

だが。

 

喜びに浸るのは、ほんの一瞬だった。

 

獪岳は刀を握る。

 

「なら――」

 

「む?」

 

「これからが本番だ」

 

慈悟郎が笑う。

 

「ほう?」

 

「柱になったなら、今まで以上に強くならなきゃいけない」

 

「うむ」

 

「俺の後ろには、隊士がいる」

 

「そうじゃ」

 

「なら――」

 

獪岳の瞳に、鋭い光が宿る。

 

「誰一人、俺の前で死なせない」

 

その言葉に。

 

慈悟郎は静かに頷いた。

 

「……それでこそ、鳴柱じゃ」

 

雷鳴が遠くで轟いた。

 

轟ォォォン……。

 

獪岳はその音を聞きながら、刀を腰に差す。

 

かつて。

 

柱になることは、ただの夢だった。

 

今は違う。

 

その夢は――。

 

責任になった。

 

使命になった。

 

そして。

 

「鳴柱・獪岳」

 

新たな柱の名が、鬼殺隊の歴史に刻まれた。

 

霹靂の獪岳。

 

彼の本当の戦いは――。

 

ここから始まる。

 

 

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