『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第77話 鳴柱・獪岳

朝。

 

鬼殺隊本部に、一人の男が立っていた。

 

漆黒の隊服。

 

その上から羽織る、雷を思わせる意匠の羽織。

 

腰には日輪刀。

 

そして――。

 

「……」

 

獪岳は静かに空を見上げていた。

 

昨日までとは、何も変わっていない。

 

同じ空。

 

同じ朝。

 

同じ刀。

 

それでも。

 

一つだけ、大きく変わったものがある。

 

「……鳴柱」

 

昨日。

 

自分は柱に任命された。

 

その事実が、まだどこか現実味を持っていない。

 

「獪岳」

 

「……!」

 

振り返る。

 

そこにいたのは、数人の隊士だった。

 

「鳴柱様、おはようございます!」

 

「おはようございます!」

 

一斉に頭を下げる。

 

獪岳は僅かに眉を寄せた。

 

「……やめろ」

 

「え?」

 

「その『様』ってのはやめろ」

 

隊士たちは顔を見合わせる。

 

「ですが、獪岳様は柱に――」

 

「柱だからって、俺が偉いわけじゃない」

 

獪岳は淡々と言った。

 

「俺は鬼を斬る」

 

「お前たちは鬼を斬る」

 

「それだけだ」

 

隊士の一人が、少し驚いたように目を見開く。

 

「……はい!」

 

「それでいい」

 

獪岳は歩き始める。

 

しかし――。

 

「鳴柱様!」

 

「何だ」

 

「これから、どんな柱を目指すんですか?」

 

獪岳は足を止めた。

 

そして、少しだけ考える。

 

「……強い柱だ」

 

「強い……?」

 

「ああ」

 

振り返る。

 

「鬼より強い」

 

その瞳には、迷いがなかった。

 

「誰かが死ぬ前に駆けつけられるくらい速く」

 

「誰にも斬れない鬼を斬れるくらい強く」

 

「そして――」

 

一瞬。

 

獪岳の表情が柔らかくなる。

 

「仲間を守れる柱になる」

 

隊士たちは静かに頷いた。

 

「……はい!」

 

その日の午後。

 

獪岳のもとへ、初めて柱としての任務が届いた。

 

「北の山で、鬼による被害が続いております」

 

鎹鴉が告げる。

 

「被害者は十数名」

 

「……多いな」

 

「さらに、現地へ向かった隊士との連絡が途絶えました」

 

獪岳の目が鋭くなる。

 

「隊士が?」

 

「カァ!」

 

「場所は?」

 

「北ノ山! 北ノ山!」

 

獪岳は立ち上がる。

 

「分かった」

 

羽織を翻す。

 

「俺が行く」

 

その場にいた隊士が慌てて声をかける。

 

「鳴柱様、応援を――」

 

「必要ない」

 

「ですが……」

 

獪岳は振り返る。

 

「俺一人で十分だ」

 

「……!」

 

「それに――」

 

刀の柄に手を置く。

 

「連絡が途絶えた隊士を、迎えに行く」

 

その言葉に。

 

周囲の隊士たちは息を呑んだ。

 

柱。

 

それは鬼殺隊最強の剣士。

 

だが。

 

同時に――。

 

仲間を守る者。

 

獪岳は、その意味を理解していた。

 

「行くぞ」

 

「はい!」

 

獪岳は屋敷を飛び出した。

 

その速度は、昨日までとは明らかに違った。

 

「――速い!」

 

隊士たちが思わず声を上げる。

 

獪岳は山道を駆け抜ける。

 

枝を避け。

 

岩を蹴り。

 

木々の間を縫う。

 

そして。

 

「……いた」

 

山中。

 

倒れた木の陰。

 

そこに、負傷した隊士が数人倒れていた。

 

「おい!」

 

獪岳が駆け寄る。

 

「大丈夫か!」

 

「……か、柱……」

 

「喋るな」

 

獪岳は傷を確認する。

 

重傷。

 

だが――。

 

「死んでない」

 

その事実に、獪岳は僅かに安堵した。

 

「よく持ちこたえた」

 

「……すみません」

 

「謝るな」

 

獪岳は立ち上がる。

 

「後は俺がやる」

 

その瞬間。

 

「グルルル……」

 

森の奥から、低い唸り声。

 

獪岳は刀を抜いた。

 

「来たか」

 

闇の中から。

 

巨大な鬼が姿を現した。

 

「柱……!」

 

鬼が笑う。

 

「喰い殺してやる!」

 

獪岳は静かに構える。

 

「……」

 

以前なら。

 

強い鬼を前にすれば、心の奥で焦りが生まれていた。

 

だが今は違う。

 

「お前が――」

 

獪岳の足元に力が集まる。

 

「俺の最初の相手か」

 

次の瞬間。

 

「雷の呼吸――」

 

鬼の目が見開かれる。

 

「壱ノ型・極」

 

轟ッ!!

 

「霹靂一閃!!」

 

視界から獪岳が消える。

 

「な――」

 

ズバァン!!

 

鬼の首が宙を舞う。

 

「……!」

 

鬼の身体が崩れ落ちる。

 

あまりにも速い。

 

あまりにも鮮やかな一撃。

 

それを見ていた隊士たちは、言葉を失った。

 

「これが……」

 

「鳴柱……」

 

獪岳は刀を振り、血を払う。

 

そして。

 

「……帰るぞ」

 

「はい!」

 

その背中を見つめながら。

 

隊士の一人が呟いた。

 

「凄い……」

 

別の隊士が答える。

 

「違う」

 

「え?」

 

「凄いだけじゃない」

 

その隊士は、獪岳の背中を見る。

 

「俺たちを助けに来てくれた」

 

「……」

 

「それが――柱なんだ」

 

獪岳には、その会話が聞こえていた。

 

だが、振り返らなかった。

 

ただ。

 

「……悪くないな」

 

小さく呟く。

 

鳴柱。

 

その名を背負うことは、思っていた以上に重い。

 

だが――。

 

「この重さなら、背負ってやる」

 

獪岳は歩く。

 

誰かを守るために。

 

誰かを生かすために。

 

そして――。

 

自分自身の過去を越えるために。

 

やがて鬼殺隊本部へ戻ると、慈悟郎が待っていた。

 

「初めての柱任務はどうじゃった?」

 

「……普通だ」

 

「ほう?」

 

「鬼を斬って、隊士を助けた」

 

「それだけか?」

 

「それだけだ」

 

獪岳は少し考えてから、口元を緩めた。

 

「でも――」

 

「うむ?」

 

「悪くなかった」

 

慈悟郎は笑った。

 

「そうか」

 

「爺さん」

 

「何じゃ?」

 

獪岳は空を見る。

 

「俺、ちゃんと柱になれたかな」

 

慈悟郎は少しも迷わず答えた。

 

「ああ」

 

そして。

 

「立派な鳴柱じゃよ」

 

獪岳は黙っていた。

 

やがて。

 

「……そうか」

 

小さく笑う。

 

その瞬間。

 

遠くで雷が鳴った。

 

轟ォォォン……。

 

獪岳はその音を聞きながら、刀の柄を握る。

 

「鳴柱・獪岳」

 

その名は、もう夢ではない。

 

鬼殺隊の仲間を守るために立つ、一人の柱の名だ。

 

そして――。

 

霹靂の獪岳の物語は。

 

「ここからだ」

 

新たな時代へ向かって、さらに大きく動き始める。

 

 

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