『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第78話 「おめでとう、兄貴!」

夕暮れ。

 

鬼殺隊本部から少し離れた山道を、獪岳は一人歩いていた。

 

柱に任命されてから、数日。

 

鳴柱としての初任務も終えた。

 

隊士を救い、鬼を斬り、無事に帰還した。

 

「……柱、か」

 

獪岳は空を見上げる。

 

未だに実感が湧かない。

 

柱になることを目指していた。

 

そのために鍛えた。

 

雷の呼吸を改良し、自分だけの技を生み出した。

 

そして――。

 

本当に、鳴柱になった。

 

「……変な感じだな」

 

その時。

 

「――兄貴!」

 

背後から、聞き慣れた声が飛んできた。

 

獪岳が振り返る。

 

「……善逸」

 

そこには、金髪の少年が立っていた。

 

我妻善逸。

 

獪岳と同じく、桑島慈悟郎のもとで雷の呼吸を学ぶ弟弟子。

 

善逸は息を切らしながら走ってくる。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「何で走ってきた」

 

「だって兄貴が柱になったって聞いたから!」

 

「……それだけで走ってきたのか?」

 

「それだけって何だよ!」

 

善逸が頬を膨らませる。

 

「兄貴が鳴柱になったんだぞ!?」

 

「……」

 

「めちゃくちゃ凄いじゃん!」

 

獪岳は少しだけ目を逸らす。

 

「別に」

 

「別にじゃない!」

 

善逸は獪岳の前に回り込む。

 

「おめでとう、兄貴!」

 

「……」

 

その一言。

 

たったそれだけの言葉が。

 

獪岳の胸に、不思議なほど深く響いた。

 

「……ああ」

 

「反応薄っ!」

 

「うるさい」

 

「もっと喜べよ!」

 

「俺はそういう性格じゃない」

 

「知ってるけどさ!」

 

善逸は笑った。

 

「でも、俺は嬉しいよ」

 

「……何が?」

 

「兄貴が柱になったこと」

 

善逸は胸を張る。

 

「だって、兄貴はずっと頑張ってたじゃん」

 

「……」

 

「朝も夜も鍛錬して」

 

「……」

 

「任務から帰ってきても鍛錬して」

 

「……」

 

「新しい技まで作って」

 

獪岳は目を細めた。

 

「……よく見てるな」

 

「そりゃ兄貴の弟弟子だからな!」

 

善逸は満面の笑みを浮かべる。

 

「俺、兄貴のこと凄いと思ってるんだ」

 

「……」

 

「だからさ」

 

善逸は拳を握った。

 

「俺も頑張る」

 

「何を?」

 

「兄貴に追いつく!」

 

獪岳の眉が僅かに上がる。

 

「……無理だな」

 

「即答!?」

 

「今のお前じゃ無理だ」

 

「ひどい!」

 

「事実だ」

 

「うぅ……!」

 

善逸は悔しそうに唸る。

 

だが、すぐに顔を上げた。

 

「でも!」

 

「……」

 

「いつか絶対追いつくから!」

 

「……ほう」

 

「兄貴が鳴柱なら、俺もいつか――」

 

善逸はそこで言葉を止めた。

 

「……」

 

そして。

 

「俺も強くなる」

 

獪岳は弟弟子を見る。

 

以前の善逸なら。

 

泣いて。

 

逃げて。

 

鍛錬から逃げようとしていた。

 

だが。

 

今は違う。

 

「……少しはマシになったな」

 

「え?」

 

「その目だ」

 

獪岳は善逸の額を軽く小突いた。

 

「その目を忘れるな」

 

「……兄貴」

 

「俺は先に行く」

 

「うん」

 

「だから――」

 

獪岳は歩き出す。

 

「お前も来い」

 

善逸は一瞬、目を見開いた。

 

そして。

 

「……うん!」

 

大きく頷いた。

 

「兄貴!」

 

「何だ」

 

「もう一回言わせて!」

 

「嫌だ」

 

「まだ何も言ってないだろ!」

 

「どうせ同じだろ」

 

善逸は笑う。

 

そして――。

 

「おめでとう、兄貴!」

 

獪岳は足を止めた。

 

振り返らない。

 

ただ。

 

「……ありがとうな、善逸」

 

小さく。

 

本当に小さく。

 

そう返した。

 

善逸は目を丸くする。

 

「……!」

 

「何だ」

 

「いや……」

 

善逸は嬉しそうに笑った。

 

「兄貴が『ありがとう』って言った……」

 

「うるさい」

 

「今の聞いた!? 爺ちゃんにも報告しよう!」

 

「やめろ!」

 

「絶対言う!」

 

「善逸!」

 

二人の声が山道に響く。

 

やがて。

 

その声を聞きつけた慈悟郎が、屋敷の縁側から顔を出した。

 

「……何を騒いでおる」

 

「爺ちゃん!」

 

善逸が走っていく。

 

「聞いてよ!」

 

「何じゃ?」

 

「兄貴が『ありがとう』って言った!」

 

「……ほう」

 

慈悟郎が獪岳を見る。

 

「獪岳」

 

「……何だ」

 

「良い弟を持ったのう」

 

「……」

 

獪岳は少しだけ照れくさそうに目を逸らした。

 

「……まあな」

 

善逸が笑う。

 

「兄貴!」

 

「何だよ」

 

「これからもよろしくな!」

 

「……ああ」

 

「俺、絶対強くなるから!」

 

「期待してる」

 

「……!」

 

善逸の顔が輝く。

 

「兄貴が……俺に期待してくれた!」

 

「いちいち騒ぐな!」

 

「だって嬉しいんだもん!」

 

慈悟郎は二人を見つめながら、静かに笑った。

 

かつて。

 

一人は強さを求めすぎていた。

 

一人は弱さから逃げ続けていた。

 

だが今。

 

二人は同じ師のもとで、別々の道を歩み始めている。

 

獪岳は柱へ。

 

善逸は、その背中を追う者へ。

 

「……兄貴」

 

「ん?」

 

「いつか俺も、兄貴の隣に立つから」

 

獪岳は少しだけ笑った。

 

「なら――」

 

刀の柄に手を置く。

 

「雷の呼吸を、もっと磨け」

 

「うん!」

 

「俺は先に行く」

 

「うん!」

 

「追いついてみろ」

 

「絶対に!」

 

二人の視線が交わる。

 

兄弟弟子。

 

それは血の繋がった兄弟ではない。

 

それでも――。

 

互いの背中を追い、互いの強さを認め合う。

 

そんな二人の間には、確かな絆があった。

 

夕暮れの空。

 

一筋の雷光が走る。

 

そして。

 

「おめでとう、兄貴!」

 

善逸の声が、もう一度響いた。

 

獪岳は今度こそ、笑って答える。

 

「……ああ。ありがとう」

 

鳴柱・獪岳。

 

そして、その背中を追う我妻善逸。

 

二人の雷の物語は――。

 

まだ、始まったばかりだった。

 

 

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