『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第79話 大正コソコソ噂話・鳴柱誕生

――さて、ここで少しだけ本編を離れて。

 

大正時代の鬼殺隊で密かに囁かれていた、とある噂話をご紹介しよう。

 

「……聞いたか?」

 

「何を?」

 

「新しい柱が誕生したらしいぞ」

 

「新しい柱?」

 

「ああ。雷の呼吸を使う剣士だ」

 

「雷の呼吸なら、桑島さんの弟子だろ?」

 

「そう。その弟子の一人だ」

 

「まさか……」

 

隊士たちは声を潜める。

 

「獪岳さん?」

 

「そうだ」

 

「本当に柱になったのか!?」

 

「しかも――」

 

一人の隊士が、周囲を確認してから囁く。

 

「『鳴柱』だそうだ」

 

「鳴柱……」

 

その名前が広がった瞬間。

 

隊士たちの間に、ざわめきが走った。

 

「凄いな……」

 

「まだ若いのに」

 

「一体どれだけ強いんだ?」

 

「聞いた話じゃ、鬼の首を斬った後に雷鳴が聞こえたとか……」

 

「それは盛りすぎだろ」

 

「じゃあ、山を一つ斬ったって話は?」

 

「もっと盛ってるだろ!」

 

「でも、獪岳さんが新しい技をいくつも作ったって話は本当らしい」

 

「雷の呼吸・改、だったか?」

 

「そうそう」

 

「壱ノ型・極とか、迅雷・連牙とか……」

 

「迅雷・閃々って技もあるらしいぞ」

 

「それに――」

 

隊士が声をさらに潜める。

 

「『雷龍』」

 

「……!」

 

その名前を聞いた途端。

 

何人かが顔を見合わせる。

 

「知ってるのか?」

 

「実際に見たって奴がいる」

 

「どんな技だった?」

 

「巨大な雷が龍みたいに走っていったらしい」

 

「……本当に?」

 

「俺は見てない」

 

「じゃあ何でそんなに自信満々なんだよ」

 

「噂だからだ」

 

「おい!」

 

さらに別の隊士が口を挟む。

 

「『帝釈天』って技もあるらしい」

 

「帝釈天?」

 

「ああ」

 

「神様の名前じゃないか」

 

「雷を司る神らしい」

 

「じゃあ、それだけ凄い技ってことか?」

 

「たぶんな」

 

「そして極めつけが――」

 

隊士たちは、全員が身を寄せる。

 

「『九頭龍の雷』」

 

「……九頭龍?」

 

「九つの雷を同時に放つらしい」

 

「九つ!?」

 

「しかも、敵が九体いても全部斬れるとか」

 

「……」

 

「……」

 

「……それ、本人に聞いたほうが早くないか?」

 

全員が黙る。

 

そして。

 

「……聞けるか?」

 

「無理」

 

「俺も無理」

 

「だよな」

 

なぜなら――。

 

「獪岳さん、怖いんだよ」

 

「分かる」

 

「いや、怖いというより……」

 

「何だ?」

 

「近寄りがたいんだよ」

 

そこへ。

 

「――誰が近寄りがたいって?」

 

「「「ひっ!?」」」

 

全員が飛び上がった。

 

振り返る。

 

そこには。

 

腕を組んだ獪岳が立っていた。

 

「……鳴柱様」

 

「さっきから何を話してる」

 

「い、いえ!」

 

「何でもありません!」

 

「そうか」

 

獪岳は疑わしそうに隊士たちを見る。

 

「俺の噂か?」

 

「……」

 

沈黙。

 

「図星か」

 

「す、すみません!」

 

「別に謝るな」

 

獪岳はため息をつく。

 

「ただし、一つだけ訂正しておく」

 

「は、はい!」

 

「九頭龍の雷は、九体の鬼を必ず斬れる技じゃない」

 

「え?」

 

「九方向に斬撃を分ける技だ」

 

「じゃあ、本当に九つ……」

 

「鍛錬次第だ」

 

獪岳は淡々と答える。

 

「まだ完成してない」

 

隊士たちは目を輝かせる。

 

「やっぱり凄い……」

 

「聞こえてるぞ」

 

「すみません!」

 

獪岳は呆れたように息を吐いた。

 

「それより、お前たちは鍛錬しろ」

 

「はい!」

 

「柱が何を使ってるか気にする前に、自分の刀を強くしろ」

 

「はい!」

 

「分かったら行け」

 

「失礼します!」

 

隊士たちが一斉に走り去っていく。

 

その背中を見送りながら。

 

「……まったく」

 

獪岳は呟いた。

 

「噂ってのは、尾ひれがつくな」

 

すると。

 

「そうでもないと思うぞ」

 

「……爺さん」

 

慈悟郎が縁側から笑っていた。

 

「お前が柱になったという話は、鬼殺隊中に広まっておる」

 

「そうか」

 

「皆、お前を頼りにしておるのじゃ」

 

「……」

 

獪岳は少し黙る。

 

「俺を?」

 

「ああ」

 

「まだ柱になったばかりだぞ」

 

「だからこそじゃ」

 

慈悟郎は穏やかに笑う。

 

「新しい柱が生まれた。それだけで隊士たちは希望を持てる」

 

獪岳は空を見る。

 

「……希望、か」

 

自分には、少し似合わない言葉だと思った。

 

だが。

 

「悪くないな」

 

小さく呟く。

 

その時。

 

「兄貴ー!」

 

遠くから声が響いた。

 

「……善逸か」

 

黄色い髪を揺らしながら、善逸が駆けてくる。

 

「聞いたぞ!」

 

「何を?」

 

「兄貴の噂!」

 

「……嫌な予感しかしない」

 

善逸は興奮した様子で口を開く。

 

「兄貴、鬼を斬っただけで山が真っ二つになったって!」

 

「なってない」

 

「雷龍で山が吹き飛んだって!」

 

「吹き飛んでない」

 

「帝釈天で雷そのものになったって!」

 

「……」

 

獪岳は頭を抱える。

 

「誰だ、そんな噂を流した奴は」

 

善逸は笑う。

 

「でもさ!」

 

「何だ」

 

「俺は知ってるよ」

 

「……」

 

「兄貴がどれだけ頑張って、柱になったのか」

 

善逸は真っ直ぐに獪岳を見る。

 

「だから、俺は噂より――」

 

笑顔を浮かべる。

 

「兄貴本人のほうが凄いと思ってる」

 

獪岳は一瞬だけ目を見開いた。

 

「……そうか」

 

「うん!」

 

「なら、余計な噂を信じるな」

 

「分かった!」

 

「あと――」

 

獪岳は善逸の頭を軽く小突く。

 

「お前も鍛錬しろ」

 

「痛っ!」

 

「柱になりたいんだろ?」

 

「……!」

 

善逸の顔が引き締まる。

 

「うん!」

 

「なら、俺の背中を追ってこい」

 

「絶対追いつく!」

 

その様子を見ていた慈悟郎は、静かに笑った。

 

こうして。

 

鬼殺隊には、新たな柱が誕生した。

 

雷を纏い。

 

雷鳴のような剣を振るい。

 

己自身の手で、新たな雷の型を生み出した男。

 

その名は――。

 

「鳴柱・獪岳」

 

そして大正の鬼殺隊では、今日もひそひそと噂されている。

 

「鳴柱って、怖い人なのか?」

 

「いや、隊士を助けてくれるらしいぞ」

 

「雷龍って本当に龍が出るのか?」

 

「帝釈天って神様が降りてくるらしい」

 

「九頭龍の雷は?」

 

「九つの雷が――」

 

「……お前ら、仕事しろ」

 

「「「はいっ!!」」」

 

そんな噂話が、今日も鬼殺隊のどこかで囁かれている。

 

そして本人はというと――。

 

「……くだらん噂ばかり増えやがって」

 

そう言いながら。

 

ほんの少しだけ、嬉しそうに笑っていた。

 

 

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