『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第88話 獪岳、告白する

夜の蝶屋敷。

 

満月が庭を照らし、藤棚の影が静かに揺れていた。

 

縁側には、いつもの二人。

 

「……」

 

「……」

 

今日は、珍しくしのぶが口数少なかった。

 

獪岳も同じだった。

 

二人とも湯呑みを手にしているが、ほとんど口をつけていない。

 

「……獪岳さん」

 

「何だ?」

 

「今日は静かですね」

 

「ああ」

 

「何か考え事ですか?」

 

「……そうだな」

 

しのぶは首を傾げる。

 

「珍しいですね」

 

「そうか?」

 

「はい。獪岳さんは、思ったことをそのまま言う人だと思っていました」

 

「……」

 

獪岳は湯呑みを置いた。

 

「胡蝶」

 

「はい?」

 

「少し、聞いてほしい」

 

「……分かりました」

 

しのぶも姿勢を正す。

 

「何でしょう?」

 

獪岳はしばらく黙っていた。

 

鬼との戦いなら、何度も経験している。

 

上弦と対峙することだって怖くない。

 

だが――。

 

今から口にする言葉だけは。

 

刀を握る時よりも緊張していた。

 

「俺は……」

 

獪岳が口を開く。

 

「お前といる時間が好きだ」

 

「……」

 

しのぶの目が大きくなる。

 

「蝶屋敷に来るのも」

 

「……」

 

「お前と茶を飲むのも」

 

「……」

 

「くだらない話をするのも」

 

しのぶの頬が少しずつ赤くなる。

 

「……」

 

「全部、好きだ」

 

しのぶは黙っていた。

 

獪岳は続ける。

 

「最初は、ただ気になるだけだった」

 

「……」

 

「お前がいつも笑っていることが」

 

「……」

 

「その笑顔の奥に何か隠していることが」

 

しのぶの瞳が揺れる。

 

「でも」

 

獪岳はまっすぐ彼女を見る。

 

「お前が初めて泣いた時」

 

「……」

 

「俺は、もう放っておけないと思った」

 

しのぶの胸が大きく鳴る。

 

「……獪岳さん」

 

「お前が笑っているなら嬉しい」

 

「……」

 

「泣いているなら、そばにいたい」

 

「……」

 

「怒っているなら、その話を聞きたい」

 

獪岳は拳を握る。

 

「そして――」

 

一度、深く息を吸った。

 

「これからも、お前のそばにいたい」

 

しのぶは息を呑む。

 

「……」

 

「だから」

 

獪岳の声は、いつものように低く、真っ直ぐだった。

 

「俺は、お前が好きだ」

 

静寂。

 

庭の虫の声だけが聞こえる。

 

しのぶは俯いた。

 

「……」

 

頬が真っ赤になっている。

 

「……」

 

「胡蝶」

 

「……少し」

 

しのぶが顔を上げる。

 

「待ってください」

 

「ああ」

 

「今……頭の中が、真っ白です」

 

「……そうか」

 

「だって……」

 

しのぶは胸元を押さえる。

 

「獪岳さんが……」

 

「……」

 

「私に、そんなことを言ってくれるなんて……」

 

目に涙が浮かぶ。

 

「……嬉しくて」

 

「……」

 

「どうしたらいいのか分かりません」

 

獪岳は静かに待った。

 

急かさない。

 

答えを求めない。

 

ただ、しのぶが言葉を選ぶ時間を待つ。

 

やがて。

 

「……私も」

 

「……」

 

しのぶが小さく息を吸う。

 

「獪岳さんと一緒にいる時間が、大好きです」

 

「……!」

 

「初めは、少し怖い人だと思っていました」

 

「そうだろうな」

 

「でも」

 

しのぶは微笑む。

 

「本当は、とても優しい人だと知りました」

 

「……」

 

「私が泣いても」

 

「……」

 

「怒っても」

 

「……」

 

「弱音を吐いても」

 

しのぶは目を細める。

 

「受け止めてくれました」

 

「……」

 

「そんな人を、嫌いになれるわけありません」

 

獪岳は黙っている。

 

「私も――」

 

しのぶの声が少し震える。

 

「獪岳さんが好きです」

 

「……」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

獪岳の表情が僅かに緩んだ。

 

「……そうか」

 

「はい」

 

「よかった」

 

「ふふ」

 

しのぶが笑う。

 

「随分、嬉しそうですね」

 

「当たり前だ」

 

「そうですか」

 

「ああ」

 

しのぶは少しだけ照れながら。

 

「では……」

 

「ん?」

 

「これからは」

 

しのぶは獪岳を見る。

 

「柱同士ではなく」

 

「……」

 

「一人の女性と、一人の男性として」

 

「……」

 

「一緒にいてもいいですか?」

 

獪岳は答えた。

 

「ああ」

 

そして。

 

「俺も、そうしたい」

 

しのぶは嬉しそうに笑った。

 

「……ありがとうございます」

 

「何で礼を言う?」

 

「嬉しいからです」

 

二人は並んで月を見上げる。

 

しばらくして。

 

「獪岳さん」

 

「何だ?」

 

「手を……」

 

しのぶがそっと手を差し出す。

 

獪岳は一瞬戸惑った。

 

「……いいのか?」

 

「はい」

 

獪岳は、その手を取った。

 

温かい。

 

小さな手。

 

しのぶの指が、そっと絡む。

 

「……」

 

「……」

 

二人とも、少し照れた。

 

それでも。

 

手を離さなかった。

 

「獪岳さん」

 

「ん?」

 

「私、今――」

 

しのぶは笑う。

 

「とても幸せです」

 

「……俺もだ」

 

月明かりの下。

 

二人は静かに手を繋いでいた。

 

その日。

 

鳴柱・獪岳は――。

 

初めて、自分の想いを言葉にした。

 

そして。

 

胡蝶しのぶもまた。

 

その想いを受け入れた。

 

「笑顔の仮面」を脱いだ少女と。

 

雷のように真っ直ぐな男。

 

二人の関係は。

 

この夜から――。

 

「柱同士」から「恋人」へと変わった。

 

 

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