『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第91話 人目のない場所では

夕暮れ時の蝶屋敷。

 

「……」

 

縁側に座る獪岳は、庭を眺めていた。

 

任務から戻ってきたばかりだった。

 

「おかえりなさい、獪岳さん」

 

「……ただいま、しのぶ」

 

その呼び方にも、少しずつ慣れてきた。

 

「怪我は?」

 

「ない」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

しのぶは獪岳の腕や肩を確認する。

 

「……大丈夫そうですね」

 

「心配しすぎだ」

 

「恋人ですから」

 

「……」

 

獪岳は少しだけ顔を逸らす。

 

「まだ慣れないな」

 

「何がです?」

 

「その呼び方」

 

「恋人?」

 

「ああ」

 

しのぶは楽しそうに笑った。

 

「では、もっと呼びましょうか?」

 

「やめろ」

 

「ふふ」

 

その時。

 

廊下から足音が聞こえてくる。

 

「姉さん!」

 

カナヲだった。

 

二人は自然と少し距離を取る。

 

「獪岳さん、お帰りなさい」

 

「ああ」

 

カナヲは二人を見る。

 

「……」

 

「どうしました?」

 

しのぶが尋ねる。

 

「何でもありません」

 

カナヲは小さく笑う。

 

「夕食の準備を手伝ってきます」

 

「お願いしますね」

 

カナヲが去っていく。

 

再び二人きり。

 

「……」

 

獪岳が呟く。

 

「見られてたな」

 

「何をです?」

 

「さっき」

 

「手を繋いでいたことですか?」

 

「ああ」

 

しのぶは少し頬を赤くする。

 

「……人目があると、少し恥ずかしいですね」

 

「そうか?」

 

「はい」

 

「俺は別に」

 

「獪岳さんは平気なんですね」

 

「お前が嫌なら控える」

 

「……」

 

しのぶは優しく笑う。

 

「そういうところですよ」

 

「何が?」

 

「優しいところです」

 

「……」

 

しのぶは少し考える。

 

「でも」

 

「ん?」

 

「人目がないところなら……」

 

そこで言葉を止める。

 

「……?」

 

獪岳が首を傾げる。

 

しのぶは頬を赤くしながら続けた。

 

「もう少し、恋人らしくしてもいいかなって」

 

「……」

 

獪岳も少し黙る。

 

「例えば?」

 

「例えば……」

 

しのぶはそっと手を差し出した。

 

「こうして、手を繋ぐとか」

 

獪岳はその手を取る。

 

「それならいつでもできる」

 

「はい」

 

しのぶは嬉しそうに指を絡める。

 

「それから……」

 

「まだあるのか?」

 

「あります」

 

しのぶは少しだけ獪岳の肩へ近づく。

 

「こうして、隣に座るとか」

 

「……それだけ?」

 

「それだけでも、十分嬉しいですよ」

 

獪岳はしのぶを見る。

 

「……じゃあ」

 

「はい?」

 

獪岳は少しだけ距離を縮めた。

 

肩が触れる。

 

しのぶの頬が赤くなる。

 

「……近いですね」

 

「嫌か?」

 

「いいえ」

 

しのぶは小さく首を振る。

 

「むしろ……嬉しいです」

 

しばらく、二人は肩を寄せたまま庭を眺めていた。

 

「……静かですね」

 

「ああ」

 

「こうして二人だけでいると、不思議な感じがします」

 

「何が?」

 

「今までなら、柱同士として話していたのに」

 

「今は?」

 

しのぶは獪岳を見る。

 

「恋人です」

 

「……そうだな」

 

「ふふ」

 

しのぶは微笑む。

 

「獪岳さん」

 

「何だ?」

 

「もう少しだけ、近くにいてもいいですか?」

 

「ああ」

 

しのぶはそっと獪岳の肩に頭を預けた。

 

「……」

 

獪岳は少し驚いたが、そのまま動かなかった。

 

「落ち着きます」

 

「そうか」

 

「はい」

 

「俺もだ」

 

「……本当ですか?」

 

「ああ」

 

しのぶは嬉しそうに目を閉じる。

 

「こういう時間、好きです」

 

「俺も好きだ」

 

「……」

 

「だから、また作ろう」

 

「はい」

 

二人だけの静かな時間。

 

誰にも見られていないからこそ。

 

しのぶは、いつもの笑顔を作る必要もなかった。

 

獪岳もまた、柱として振る舞う必要がなかった。

 

ただ一人の男と、一人の女性。

 

「……しのぶ」

 

「はい?」

 

「これからも、こうしていよう」

 

「……はい」

 

しのぶは顔を上げる。

 

そして。

 

「獪岳さん」

 

「ん?」

 

「大好きです」

 

「……」

 

一瞬だけ驚いた獪岳だったが。

 

「俺もだ」

 

そう答えた。

 

しのぶは嬉しそうに笑う。

 

その笑顔を見ながら、獪岳は思った。

 

人目のない場所で見せる、この笑顔。

 

それはきっと。

 

自分だけが知っている、特別な笑顔なのだろう。

 

「……しのぶ」

 

「はい?」

 

「その顔、好きだ」

 

「……もう」

 

しのぶは照れながら、再び肩を預けた。

 

二人の間に言葉はなくても。

 

繋いだ手が、その気持ちを伝えていた。

 

 

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