『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第92話 善逸、絶叫する

蝶屋敷。

 

午後の庭。

 

「しのぶさーん!」

 

黄色い髪を揺らしながら、我妻善逸が走ってくる。

 

「しのぶさーん! 今日も俺が薬草を――」

 

そこで。

 

善逸の足が止まった。

 

「…………」

 

縁側。

 

そこには、しのぶと獪岳がいた。

 

二人は並んで座っている。

 

そして――。

 

手を繋いでいた。

 

「…………」

 

善逸の顔から、血の気が引いていく。

 

「…………え?」

 

しのぶが振り返る。

 

「あら、善逸君」

 

「し、しのぶさん……?」

 

「どうしました?」

 

「いや……」

 

善逸の視線が、二人の手に向く。

 

「……その手」

 

「はい?」

 

しのぶは自分の手を見る。

 

「ああ」

 

少し照れながら。

 

「恋人ですから」

 

「…………」

 

善逸の思考が停止した。

 

「……こ」

 

「?」

 

「恋人?」

 

「はい」

 

「誰と?」

 

「獪岳さんとです」

 

「…………」

 

次の瞬間。

 

「うわああああああああああああああああああっ!!?」

 

蝶屋敷中に、善逸の絶叫が響き渡った。

 

「善逸君!?」

 

「なんで!? なんで獪岳なんですかぁぁぁぁ!?」

 

獪岳が眉をひそめる。

 

「うるさい」

 

「うるさくもなるわ!!」

 

善逸は頭を抱える。

 

「俺がどれだけしのぶさんに――!」

 

「善逸君」

 

しのぶが笑顔で遮る。

 

「落ち着いてくださいね」

 

「……はい」

 

「ありがとうございます」

 

「……」

 

善逸は涙目になった。

 

「でも……」

 

獪岳を見る。

 

「よりによって、こいつ……」

 

「おい」

 

「だって兄貴だぞ!?」

 

「兄貴?」

 

しのぶが首を傾げる。

 

「あ」

 

善逸が口を滑らせたことに気づく。

 

「いや、その……」

 

獪岳が腕を組む。

 

「何だ?」

 

「……獪岳兄貴」

 

「だから何だ」

 

「俺は認めません!」

 

「勝手にしろ」

 

「冷たい!」

 

しのぶはクスクス笑う。

 

「善逸君」

 

「はい……」

 

「私が決めたことですから」

 

「……」

 

「獪岳さんと一緒にいると、私は自然に笑えるんです」

 

善逸は黙った。

 

「無理をしなくていい」

 

しのぶは獪岳を見る。

 

「泣いても、怒っても、弱音を吐いても……そのままでいられます」

 

「……」

 

「だから私は、獪岳さんが好きなんです」

 

善逸は二人を見る。

 

獪岳は照れながらも、しのぶの手を離さない。

 

しのぶも離さない。

 

「……」

 

善逸の顔が少しずつ崩れる。

 

「……しのぶさん」

 

「はい?」

 

「本当に……幸せなんですか?」

 

「はい」

 

即答だった。

 

「とても」

 

「……」

 

善逸は俯く。

 

そして。

 

「……そっか」

 

涙が一粒落ちる。

 

「なら……俺は何も言えないです」

 

「善逸君……」

 

「だって、しのぶさんがそんな顔で笑ってるの……初めて見たから」

 

しのぶが目を見開く。

 

「……」

 

善逸は涙を拭う。

 

「悔しいけど……」

 

獪岳を見る。

 

「兄貴」

 

「何だ」

 

「しのぶさんを泣かせたら、俺が許しませんからね!」

 

「……分かった」

 

「本当に分かってます!?」

 

「ああ」

 

「ならいいです!」

 

善逸は涙を拭いながら頷く。

 

そして――。

 

「でも!」

 

「まだあるのか」

 

「俺の心の傷は全然癒えてないからなぁぁぁぁ!」

 

「知るか」

 

「兄貴ぃぃぃ!」

 

再び蝶屋敷に絶叫が響く。

 

「善逸君、うるさいですよ」

 

「しのぶさぁぁぁん!」

 

そこへ。

 

「何事ですか!?」

 

アオイが飛び出してきた。

 

「善逸さん! 騒がないでください!」

 

「アオイちゃん! 聞いてよ!」

 

「何です?」

 

善逸は指を震わせながら二人を指差す。

 

「しのぶさんと獪岳兄貴が恋人になりました!」

 

「……え?」

 

アオイも固まった。

 

「……」

 

そして。

 

「まあ」

 

驚きながら二人を見る。

 

しのぶは少し照れながら笑う。

 

「はい」

 

「……おめでとうございます」

 

アオイはすぐに頭を下げた。

 

「お二人とも、お幸せに」

 

「ありがとうございます」

 

「アオイちゃん!?」

 

善逸が叫ぶ。

 

「受け入れるの早すぎない!?」

 

「だって、しのぶ様が幸せそうですから」

 

「……」

 

善逸は再び二人を見る。

 

確かに。

 

しのぶは幸せそうだった。

 

獪岳もまた、以前より柔らかな表情をしている。

 

「……」

 

善逸は大きく息を吐いた。

 

「……分かった」

 

「善逸君?」

 

「俺も応援します」

 

しのぶが微笑む。

 

「ありがとうございます」

 

「でも!」

 

善逸は獪岳を睨む。

 

「兄貴!」

 

「何だ」

 

「しのぶさんを大切にしてください!」

 

「……当然だ」

 

「絶対ですよ!」

 

「ああ」

 

善逸は拳を握る。

 

「よし……!」

 

そして。

 

「俺は二人の恋を応援するぞぉぉぉぉ!」

 

「だからうるさい!」

 

獪岳の怒声が飛ぶ。

 

「ひぃぃぃ!」

 

善逸が逃げる。

 

蝶屋敷に笑い声が響いた。

 

その様子を見ながら。

 

しのぶは獪岳の手を握り直す。

 

「……賑やかですね」

 

「ああ」

 

「でも」

 

しのぶは笑う。

 

「悪くありませんね」

 

「ああ」

 

その笑顔を見つめながら。

 

獪岳も小さく笑った。

 

そして屋敷の奥では。

 

「お義兄ちゃん……」

 

カナヲが小さく呟いていた。

 

「……もう決まりですね」

 

「だから早いって言ってるだろ!」

 

獪岳の声が飛んだ。

 

――こうして。

 

蝶屋敷中に、二人の交際が知れ渡ることになった。

 

そして何より大きな反応を見せたのは。

 

我妻善逸だった。

 

その日の蝶屋敷では。

 

「しのぶさぁぁぁん!」

 

という悲鳴が、日が暮れるまで響き続けた。

 

 

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