『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第93話 大正コソコソ噂話・鳴柱と蟲柱

――大正コソコソ噂話。

 

鬼殺隊の隊士たちの間で、最近ひそかに囁かれている噂がある。

 

「……知ってるか?」

 

「何を?」

 

「鳴柱・獪岳と、蟲柱・胡蝶しのぶのことだよ」

 

「もちろん知ってる」

 

「最近、二人が一緒にいるところをよく見るんだ」

 

「任務の打ち合わせじゃないのか?」

 

「いや、それだけじゃないらしい」

 

「どういう意味だ?」

 

「蝶屋敷で二人きりでお茶を飲んでるとか」

 

「ほう……」

 

「しかも、かなり仲が良いらしい」

 

「柱同士なら、別に珍しくないだろ」

 

「それがな……」

 

隊士は周囲を確認してから、小声で言った。

 

「二人きりの時だけ、獪岳の雰囲気が変わるらしい」

 

「……本当か?」

 

「ああ」

 

「いつもの獪岳って、かなり怖いだろ」

 

「そうなんだよ」

 

「それが?」

 

「しのぶさんの前だと、少しだけ表情が柔らかくなるんだ」

 

「……想像できない」

 

「俺もだ」

 

「それで?」

 

「しのぶさんも、獪岳の前ではいつもの笑顔と違うらしい」

 

「いつもの笑顔?」

 

「ああ。あの完璧な笑顔じゃない」

 

「……」

 

「もっと自然に笑うんだそうだ」

 

「ほう」

 

「まるで、本当に楽しそうに」

 

「それは……」

 

隊士は頷く。

 

「だから皆、もしかして――って思ってたんだ」

 

「もしかして?」

 

「恋人なんじゃないかって」

 

「……!」

 

その瞬間。

 

背後から声がした。

 

「何の話をしているんですか?」

 

「「ひっ!?」」

 

振り返る。

 

そこにいたのは――。

 

蟲柱・胡蝶しのぶ。

 

「し、しのぶさん!?」

 

「こんにちは」

 

いつもの笑顔。

 

「先ほど、恋人がどうとか聞こえましたけど」

 

「い、いや、その……!」

 

「何のお話でしょう?」

 

隊士たちは震え上がる。

 

すると。

 

「俺も聞きたいな」

 

「「!!」」

 

今度は反対側から。

 

鳴柱・獪岳。

 

「獪岳さん!?」

 

獪岳は腕を組み、二人を睨む。

 

「人の噂話をする暇があるなら鍛錬しろ」

 

「は、はい!」

 

二人の隊士は一目散に逃げていった。

 

「……」

 

獪岳は呆れた顔をする。

 

「何なんだ、あいつらは」

 

「ふふ」

 

しのぶが笑う。

 

「最近、噂になっているみたいですね」

 

「気にするな」

 

「私は別に気にしていませんよ」

 

「そうか」

 

しのぶは少しだけ獪岳へ近づく。

 

「だって――」

 

「ん?」

 

「噂ではなく、本当ですから」

 

「……」

 

獪岳の顔が僅かに赤くなる。

 

「ここで言うな」

 

「ふふ。どうしてです?」

 

「聞かれたら面倒だ」

 

「では、誰もいないところなら?」

 

「……好きにしろ」

 

「では」

 

しのぶは微笑む。

 

「獪岳さん」

 

「何だ?」

 

「大好きですよ」

 

「……」

 

獪岳は少し顔を逸らす。

 

「俺もだ」

 

「ふふ」

 

そこへ。

 

「姉さん!」

 

カナヲが走ってくる。

 

「どうしました?」

 

「お義兄ちゃん!」

 

「……」

 

獪岳が額を押さえる。

 

「またそれか」

 

「はい」

 

「まだ早い」

 

「でも恋人ですよね?」

 

「ああ」

 

「なら、お義兄ちゃんです」

 

「理屈になってないぞ」

 

しのぶが笑う。

 

「カナヲ、獪岳さんが困っていますよ」

 

「……分かりました」

 

カナヲは少し考える。

 

「では、鳴柱さん」

 

「それも嫌だ」

 

「では……獪岳さん」

 

「ああ」

 

「いつか、お義兄ちゃんになってください」

 

「……考えておく」

 

「はい」

 

カナヲは満足そうに頷いた。

 

そして。

 

――大正コソコソ噂話。

 

「実は最近、蝶屋敷ではもう一つ噂がある」

 

「何だ?」

 

「鳴柱が蝶屋敷へ行くと、必ずお茶が二つ用意される」

 

「……」

 

「そして帰る時には――」

 

「何だ?」

 

「しのぶさんが必ず『いってらっしゃい』と言うんだ」

 

「それだけ?」

 

「いや」

 

「まだあるのか?」

 

「鳴柱も必ず――」

 

「『行ってくる』と返すらしい」

 

「……」

 

「……それ、完全に夫婦じゃないか?」

 

「まだ恋人だよ!」

 

「そうなのか?」

 

「カナヲちゃんはもうお義兄ちゃん扱いしてるらしいけどな」

 

「……」

 

「そして一番ショックを受けているのは――」

 

「誰だ?」

 

「我妻善逸」

 

「やっぱりか」

 

「毎回、蝶屋敷から悲鳴が聞こえるらしい」

 

「……気の毒に」

 

「でも――」

 

「ん?」

 

「しのぶさんが幸せそうだから、最後には応援しているらしいぞ」

 

「それなら良かったな」

 

「うむ」

 

――こうして。

 

鬼殺隊の中では、少しずつ知られていった。

 

鳴柱・獪岳。

 

蟲柱・胡蝶しのぶ。

 

二人は柱として互いを尊敬し。

 

そして今は――。

 

恋人として、互いを支え合っている。

 

「……しのぶ」

 

「はい?」

 

「帰るぞ」

 

「はい」

 

二人は並んで歩いていく。

 

「明日も来ますか?」

 

「ああ」

 

「では、お茶を用意しておきますね」

 

「頼む」

 

二人の背中を。

 

カナヲが静かに見送る。

 

「……」

 

そして、小さく呟いた。

 

「やっぱり、お義兄ちゃんです」

 

――大正コソコソ噂話。

 

 

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