『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第95話 花柱・胡蝶カナエ出陣

蝶屋敷。

 

深夜。

 

「……」

 

胡蝶カナエは、縁側から夜空を見上げていた。

 

先ほどから、妙な胸騒ぎが消えない。

 

風が止まっている。

 

虫の声も、どこか遠い。

 

そして――。

 

「……雷?」

 

遠くの山の方角。

 

微かに空が光った。

 

続いて。

 

――ゴロゴロゴロ……。

 

雷鳴。

 

カナエの表情から、柔らかな笑みが消える。

 

「……この音」

 

ただの雷ではない。

 

カナエには分かった。

 

「獪岳さん……?」

 

その時。

 

「カナエ様!」

 

屋敷の廊下を、一人の隊士が駆けてきた。

 

「どうしました?」

 

「先ほど山中から緊急の鎹鴉が!」

 

「内容は?」

 

隊士は息を整えながら答える。

 

「上弦の鬼と思われる鬼が出現!」

 

「……!」

 

カナエの瞳が鋭くなる。

 

「場所は?」

 

「蝶屋敷から西の山中です!」

 

「被害は?」

 

「隊士二名が遭遇。現在、鳴柱・獪岳様が交戦中とのことです!」

 

「獪岳さんが……」

 

カナエはすぐに立ち上がった。

 

その顔には、もう迷いはない。

 

「花柱・胡蝶カナエ」

 

腰の刀を手に取る。

 

「出陣します」

 

「カナエ様!」

 

「相手が上弦なら、一人で戦わせるわけにはいきません」

 

羽織を纏う。

 

その動作に、一切の無駄がない。

 

「相手は何者か分かっていますか?」

 

「はい!」

 

隊士が答える。

 

「名は――童磨」

 

「……」

 

カナエの手が止まった。

 

「童磨……」

 

その名には、聞き覚えがある。

 

上弦の弐。

 

鬼殺隊にとって最悪級の鬼。

 

そして――。

 

「獪岳さんと交戦しているのですね」

 

「はい!」

 

「ならば急ぎましょう」

 

カナエは歩き出す。

 

その時。

 

「お姉ちゃん!」

 

背後から声がした。

 

振り返ると、しのぶが立っていた。

 

「しのぶ……」

 

「今の話、聞きました」

 

しのぶの顔には不安が浮かんでいる。

 

「獪岳さんが……上弦の弐と戦っているんですよね?」

 

「ええ」

 

「私も行きます」

 

「しのぶ」

 

カナエは妹の肩に手を置く。

 

「あなたはここにいてください」

 

「でも!」

 

「蝶屋敷には負傷者が運ばれてくる可能性があります」

 

「……」

 

「あなたにしかできないことがあります」

 

しのぶは唇を噛む。

 

「……分かりました」

 

しかし。

 

その瞳には、獪岳を心配する色がはっきりと浮かんでいる。

 

カナエはそんな妹を見て、優しく微笑んだ。

 

「大丈夫ですよ」

 

「……」

 

「私が必ず、獪岳さんを連れて帰ります」

 

「本当ですか?」

 

「ええ」

 

「約束してください」

 

「約束します」

 

カナエは妹の頭をそっと撫でる。

 

「だから、帰ってくるまで待っていてくださいね」

 

「……はい」

 

しのぶは頷いた。

 

「お姉ちゃんも……気をつけて」

 

「もちろんです」

 

カナエは振り返る。

 

そして。

 

「行ってきます」

 

蝶屋敷を飛び出した。

 

月明かりの下。

 

花の羽織が夜風に舞う。

 

カナエの表情から、いつもの穏やかさは消えていた。

 

「上弦の弐……童磨」

 

握った刀に力が入る。

 

「妹を悲しませるわけにはいきません」

 

さらに。

 

「大切な仲間を……死なせるわけにも」

 

地面を蹴る。

 

一気に木々の間を駆け抜ける。

 

――その頃。

 

山中。

 

「雷の呼吸――」

 

獪岳が刀を構えていた。

 

目の前には。

 

童磨。

 

「随分と頑張るねえ、鳴柱さん」

 

「……黙れ」

 

獪岳の額から汗が流れる。

 

童磨の血鬼術による冷気。

 

一撃一撃が凄まじい。

 

だが。

 

獪岳は一歩も退いていなかった。

 

「お前……」

 

童磨が笑う。

 

「大切な人がいるんだね」

 

「……」

 

「さっきからずっと、僕を睨んでいる」

 

「当然だ」

 

「誰なのかな?」

 

獪岳の瞳が鋭くなる。

 

「お前には関係ない」

 

「ふふ」

 

童磨が扇を開く。

 

「じゃあ――」

 

冷気が渦巻く。

 

「その人のところへ帰れるといいね」

 

「……!」

 

次の瞬間。

 

――ザンッ!

 

童磨の扇が弾き飛ばされた。

 

「……?」

 

童磨が目を見開く。

 

「そこまでです」

 

凛とした声。

 

木々の間から、一人の女剣士が現れる。

 

長い黒髪。

 

花の髪飾り。

 

花柄の羽織。

 

腰には日輪刀。

 

その姿を見た獪岳が驚く。

 

「……胡蝶カナエ」

 

カナエは刀を抜く。

 

その刀身が月光を受けて輝く。

 

「鳴柱・獪岳」

 

「……ああ」

 

「助太刀します」

 

「必要ない」

 

「ふふ」

 

カナエは微笑む。

 

「そう言うと思いました」

 

「なら帰れ」

 

「お断りします」

 

カナエの瞳に、静かな闘志が宿る。

 

「上弦の弐を相手に、一人で戦うなんて無茶ですから」

 

「……」

 

獪岳は小さく息を吐く。

 

「好きにしろ」

 

「ありがとうございます」

 

童磨は二人を見つめていた。

 

そして。

 

「……あはは」

 

楽しそうに笑う。

 

「今度は花柱か」

 

カナエが童磨を見る。

 

「私をご存じですか?」

 

「もちろん」

 

童磨は嬉しそうに扇を開く。

 

「花柱・胡蝶カナエ」

 

「……」

 

「それに鳴柱・獪岳」

 

童磨の虹色の瞳が細くなる。

 

「二人も柱が揃うなんて、今日は本当に運がいいなぁ」

 

カナエは刀を構える。

 

「運が悪いのは――」

 

一歩踏み出す。

 

「あなたのほうですよ」

 

「……!」

 

獪岳の口元にも、僅かな笑みが浮かんだ。

 

「言うようになったな、胡蝶」

 

「ふふ。獪岳さんも負けないでくださいね」

 

「誰に言ってる」

 

二人の殺気が重なる。

 

雷と花。

 

異なる二つの呼吸が、夜の山中で並び立つ。

 

そして。

 

上弦の弐・童磨との戦いが――。

 

本格的に始まった。

 

 

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