『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第98話 「その女から離れろ」

深夜の山中。

 

「……」

 

童磨は、倒れたカナエを見下ろしていた。

 

カナエは右手で刀を握りしめているものの、身体には力が入らない。

 

「もう頑張らなくていいよ」

 

童磨は穏やかに微笑む。

 

「君は十分戦った」

 

「……誰が……」

 

カナエは震える身体を起こそうとする。

 

「あなたなんかに……」

 

「無理しないほうがいいよ」

 

童磨が一歩近づく。

 

「そのままだと、本当に死んじゃうから」

 

「……っ」

 

その瞬間。

 

「――その女から離れろ」

 

低い声が響いた。

 

童磨が振り返る。

 

「……」

 

そこには獪岳が立っていた。

 

全身に雷光を纏い、刀を構えている。

 

その瞳には、先ほどまでとは比べ物にならない殺気が宿っていた。

 

「へぇ……」

 

童磨は楽しそうに笑う。

 

「随分と怖い顔をするね」

 

「もう一度言う」

 

獪岳は一歩踏み出す。

 

「その女から離れろ」

 

「女?」

 

童磨がカナエを見る。

 

「この花柱さん?」

 

「そうだ」

 

「どうして?」

 

「……」

 

獪岳は刀を握り締める。

 

「仲間だからだ」

 

童磨は首を傾げた。

 

「仲間?」

 

「ああ」

 

「それだけ?」

 

「……」

 

「さっきから、随分と必死じゃないか」

 

童磨の笑顔が深くなる。

 

「もしかして――」

 

獪岳の目が細くなる。

 

「この人も君にとって大切なのかな?」

 

「くだらないことを言うな」

 

「じゃあ、どうしてそんなに怒ってるの?」

 

「……」

 

獪岳の足元で雷が弾ける。

 

「俺の目の前で仲間を傷つけられた」

 

「それだけだ」

 

「へぇ」

 

童磨は楽しそうに笑った。

 

「君って、本当は優しいんだね」

 

「黙れ」

 

「もっと怖い人だと思っていたよ」

 

「俺はお前にどう思われようが――」

 

獪岳が刀を構える。

 

「知ったことじゃない」

 

次の瞬間。

 

「雷の呼吸――」

 

雷鳴が轟いた。

 

「迅雷・閃々!」

 

獪岳の姿が消える。

 

「――!」

 

童磨が目を見開く。

 

一瞬。

 

二人の間に雷光が走った。

 

――ガキィィン!

 

童磨の扇が弾き飛ばされる。

 

「おっと!」

 

獪岳の刀が童磨の首を狙う。

 

しかし。

 

「惜しい!」

 

童磨は身体を反らして回避。

 

そのまま距離を取る。

 

「速いねぇ!」

 

「逃がすか!」

 

獪岳が追撃する。

 

「雷龍!」

 

雷を纏った斬撃が連続して放たれる。

 

童磨は扇を振り、氷の壁を作り出す。

 

――ドォン!

 

氷壁が砕ける。

 

「すごい!」

 

童磨は笑う。

 

「本当に強いなぁ!」

 

「ふざけるな!」

 

獪岳が再び踏み込む。

 

その背後。

 

カナエは必死に立ち上がっていた。

 

「獪岳さん……!」

 

「動くな!」

 

「ですが――」

 

「今のお前は戦える状態じゃない!」

 

「……」

 

獪岳は童磨から目を離さない。

 

「そこで休んでいろ」

 

「……分かりました」

 

カナエは悔しそうに唇を噛む。

 

しかし。

 

自分の身体が限界に近いことも理解していた。

 

「獪岳さん……」

 

「何だ」

 

「ありがとうございます」

 

「礼なんかいらない」

 

「でも……」

 

カナエは微笑む。

 

「しのぶが、あなたを好きになる理由が分かった気がします」

 

「……!」

 

獪岳の顔が僅かに赤くなる。

 

「今それを言うな!」

 

「ふふ……」

 

童磨は二人の会話を聞いていた。

 

「しのぶ?」

 

「……」

 

「やっぱり蟲柱のことが好きなんだね」

 

獪岳の表情が変わる。

 

「……童磨」

 

「何?」

 

「お前には関係ない」

 

「でも面白いなぁ」

 

童磨が笑う。

 

「君みたいな人が、誰かを大切にするなんて」

 

「……」

 

「もっと聞きたいな」

 

「断る」

 

「残念」

 

童磨が扇を開く。

 

「じゃあ――」

 

冷気が一気に広がる。

 

「無理やり聞こうかな」

 

「……!」

 

獪岳が刀を構える。

 

「やってみろ」

 

冷気と雷。

 

二つの力が激突する。

 

その一方で。

 

カナエは静かに立ち上がった。

 

「……」

 

まだ足は震えている。

 

肺も痛い。

 

それでも。

 

「私は……花柱です」

 

刀を握る。

 

「守られるだけでは、終われません」

 

カナエは獪岳の隣へ歩く。

 

「おい」

 

「大丈夫です」

 

「無理をするな」

 

「無理ではありません」

 

カナエは微笑む。

 

「私も柱ですから」

 

獪岳は黙る。

 

そして。

 

「……分かった」

 

二人が並び立つ。

 

「ただし」

 

獪岳が言う。

 

「俺の前に出るな」

 

「ふふ」

 

カナエは笑う。

 

「獪岳さんも、私の前に出すぎないでくださいね」

 

「……」

 

「約束です」

 

「……ああ」

 

二人の間に、僅かな信頼が生まれる。

 

童磨はそれを見ながら笑った。

 

「いいねぇ」

 

扇を構える。

 

「二人の柱が並んで戦うなんて」

 

「ならば――」

 

獪岳の刀が雷を纏う。

 

「その余裕ごと斬り捨てる」

 

カナエも刀を構える。

 

「花の呼吸――」

 

月明かりの下。

 

雷と花が再び並び立つ。

 

「行きます!」

 

「来い!」

 

二人が同時に踏み込む。

 

「……ふふ」

 

童磨の笑顔が歪む。

 

「楽しくなってきたねぇ」

 

そして。

 

山中に再び、雷鳴と刀の音が響き渡った。

 

 

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