ようこそしてくれる部屋を増やしたい 作:リア
いじめをなくすために暴力で学校を支配した。
トラブルがあれば間に割って入り、暴力を用いてやめさせる。恐怖による支配によりいじめをする者はいなくなったが、代償として生徒達から笑顔がなくなり活気も消えた。
支配者は
俺が初めてその話を聞いた時、そんなマンガみたいな話があるかと思った。転校先の中学がそんなんだったら嫌だなぁ、とも。しかし、悲しいことに話は全て事実であり、遠路はるばる入学してみたら、いたよ。
実在していたんだ。平田洋介という恐怖の帝王が。
人間味のない冷めた目で、よろしくって言われた時はため息が出た。だからとりあえず、
「たまにふと考えるんだけど、
皆の前で平田洋介を
恐怖による支配はなくなったが、学校は一連の事件について重く重く受け止めた。クラスは全て解体され、以降は厳重な監視下に置かれることに。
俺は全く楽しくない中学生活を送ることになり、仕方ないから合コンに走った。
「力で支配してたんだから、力で破壊されることも覚悟するべきだろ。無理があったんだよ、あんなのは。転校生にあっさり壊されるくらい脆い秩序だ」
「そうだね。わかってたよ。自分が間違ってるってことくらい。でも止められなかった」
平田に自殺でもされたら困るから、とにかく色んなところを連れ回して隙あらば合コン。やべー男子を好きそうな女子を見つけては、合コン。彼女でも作れば少しはマシになるかと思ってたんだが、なかなか上手くいかなかったな。
「だから止めさせてもらったんだよ。自分じゃ止まれないなら、誰かに止めてもらうしかない。本当は大人が止めてくれればよかったんだけどなぁ。そうもいかないみたいだったから、俺がやったよ」
正しかろうと間違っていようと、苦労して作り上げたものを壊された。平田には恨まれるかと思ったけど、意外とアッサリしていたな。
お互いに友達がいなかったこともあって、中学最後の数ヶ月は毎日のように遊んでた。
まあ、一緒にいるだけのことも多かったが、どうせ俺はぼっちだから暇だ。俺という男は、転校してきて早々に暴れたやべー奴と認知されていた。だから、誰も近寄ってこなかった。平田は元恐怖の帝王で、恨みも多く買っていた。
「途中からは、自分が自分じゃないみたいだった。人っていうのは、あんなにおかしくなるんだね……」
「そうじゃなきゃ恐怖の帝王なんてやってられないだろ。平田が特別おかしいなんてことはなくて、正常な防御反応だったんじゃないの」
平田からは相変わらず笑顔が消えてたけど、顔色は少しずつ良くなっていった。
「言われてみれば、そうなのかもしれない」
「うん。それにさ、狂ってるのは全部だ。お前が特別おかしかったってわけでもない。生徒だけに限ったことじゃないぞ。あんなになるまで尻込みしてた大人達も大概だ。一番罪深いと思うよ」
そうだろうか、と聞かれて、そうに決まってる、と答えた。
はじまりは平田の友人の自殺未遂。杉村という男子生徒はいじめを受けており、飛び降り自殺を試みた。
一命は取り留めたものの意識は戻らず、平田は罪悪感でいっぱいになったらしい。自分がターゲットになるのを恐れて助けられなかった。そこで自分に失望して、次に人間そのものに絶望したのだ。
飛び降り自殺が起こっても、いじめはターゲットを変えて続いた。愚かで罪深くて残酷。そんな、人間という生き物に対して、平田は絶望し怒ったのだと思う。
俺からすれば環境が悪すぎた。そうとしか思えない。
恐怖で学校を支配するなんて荒業、やろうとしてできてしまったことも不幸だった。失敗して引きこもりにでもなっていた方がまだ、彼の傷は浅かったんじゃないかと思う。
「高校ではやめなね。恐怖政治は」
「ッ……その話をすることこそ、やめてくれ。いや……やっぱり向き合っていかないと」
「しないから向き合うな今は。もっと潰れるぞ。そのうちでいい。そのうちで」
そのうち、いつか、いつの日か、あいまいな言葉を選んで話した。返事はなし。
平田とは同じ高校に進学することになったが、高校では少し距離を置こうということになった。そうして欲しいと頼まれた。俺の顔を見ていると、嫌でも思い出すからだろう。
◎
高校の名は
名前からして超ハイレベルな教育が行われていそう、普通の高校に比べて厳しそうだ。かなり競争が激しいとなると、人間関係のギスギスなんかもあるのかもしれない。しかし、あの中学以上に劣悪な環境など、そうそうない。だから、心配なんていらないさ、とタカをくくっていた────最初の頃は。
「へ、へえ……そうなんだ。少し前までは不真面目だったんだね……山内君は」
「ああ。そうなんだ。でも……フフ、怪我の功名って言うんかな、臨死体験を乗り越えたことで、なんか覚醒しちゃったみたいでさ」
入学式の日。
俺は高校に向かうバスの中で
山内は不思議な男で、臨死体験をしたことで人格が変わってしまったらしい。去年の夏に人間の将棋倒しに巻き込まれ、一時は心肺停止まで追い込まれた。しかし、そこから奇跡の復活を果たし、真人間になったとのことだ。
「努力の楽しさにも目覚めちゃってさ。めっちゃ勉強したんだ。多分、入試はトップテンに入ってたと思う」
「それは凄い。九死に一生を得て、人生が劇的に変わったんだな」
「ああ、文字通り景色が変わったよ。あっ、そこのおばあちゃん。良かったら俺の席に座ってくれ。アメちゃんもあげるからよ」
昔の山内はなんの取り柄もない卑しい男(本人が言ってた)だったようだが、今は高い学力を持つ優しい好青年(本人が言ってた)に変貌した。
その証拠に立ってるのが辛そうなおばあちゃんに席を譲り、飴ちゃんをあげる優しさをみせた。
臨死体験を経て人格が変わる。そういった事例は脳科学や心理学の分野で広く確認されているようだ。できればビフォーアフターを見たかったなぁ。なんの取り柄もなかった卑しい男が、本当に真人間になったりするのか。ちょっと信じ難い。
「ありがとうねぇ……でも、なんで飴ちゃんなんだい?」
「大阪に行った時、アメちゃんくれたおばちゃんがいて嬉しかったんだ。嬉しさは巡らせた方がいいから、今度は俺がアメちゃんの喜びを広げようと思って」
「よくわからないけど、とてもいい子みたいだね……?」
おばあちゃんは困惑しながら席に座った。凛々しい顔で立っている山内は、優しい眼差しでおばあちゃんを見ている。
そんな山内は、近くにいた女子生徒から「いい人だね」と笑顔を向けられている。ちょっと鼻の下が伸びたのを俺は見逃さなかった。
◎
高度育成高等学校は全寮制だ。
その事を知った時、俺の夢は決まった。
いつか女子を複数部屋に呼びたい。ギャルの溜まり場になってみたい願望がある。平田に話したら白い目で見られたけど、仕方ないだろ。
中学時代────平田がいた中学に来るまでは、死ぬほど努力させられてきたんだ。窮屈で仕方なかったから、高校では我慢とかしたくない。
「これは妙だぞ、
クラスは結構可愛い子が多い。アタリだと喜んでたら、山内が周囲の警戒を始めた。
入学していきなり10万円分のお小遣いポイントを貰ったのだが、そのことに引っかかっているようだ。
この高校独自のSシステムというプラットフォーム。それを介して使用できるポイントが、高校内では現金の代わりになる。本物の現金は使用不可だ。
担任の先生が言うには、俺達の価値に対する正当な評価として10万円進呈、とのこと。ポイントで買えないものはなく、どんな使い方もするも勝手だと話していたが、たしかに裏はありそうだ。どう考えても普通じゃない。
「浮かれてる奴が多すぎるな。みんな、常識ってもんを知らないのかよ」
山内はシリアスな顔で言った。
学力が高いのに加えて頭も切れるようだ。早速、他の生徒達が気にしていない点に着目している。
「高校に入学したばかりの俺らが、何の制約もなしに10万円も使わせてもらえるわけがない。それに、なんでも買えるってことは……女子は一人あたりいくらなんだろう」
山内はシリアスな顔で不穏なことを言い出した。
真人間になったとか言って援交することを検討している。常識を語る前に倫理観を学べ……って俺が言えたことじゃないな。女子を複数部屋に呼ぶ、というとんでもない夢を抱いてる奴が言えたことじゃない。
「負けないぞ、
「何が。いきなり、なんの勝負が始まったんだ」
「俺は
「ああ、そう……応援してる。頑張れファイトだ」
櫛田というのはバスの中にいた美少女だ。可愛い系でスタイル良し。なんと同じクラスだったので、当然ながら同じ教室内にいる。明るくハキハキした性格のようで、早くも友達を作っているようだ。
「敵は多そうだが、負けないからな。せっかく友達になったのに悪いけど、お前にも勝つから」
「俺は櫛田狙いだとは言ってない。だから遠慮なくアタックしていいよ。ガンガンいこうぜ」
山内は勝手に俺をライバル視しているが、こちらに戦う意思は全くない。
俺は適当にエールを送り、山内の活躍を願うのだった。