Ryzachat:AI ~異世界の少女と秘密の夢~ 作:#NkY
翌日。ライザさんのアトリエに居候させていただくのも、もはや慣れっこになってしまった。
その分、わたしもわたしになりに、料理だったり掃除だったりを手伝っている。ただ一方的にお世話になるのは嫌だから。
……この世界から、帰る時がわたしにも来るのだろうか。
もしその時が来たら、ちょっといやだな。
多分、元の世界に戻ってしまうと、わたしはまた平凡未満に逆戻りしちゃう気がするから。
そんなことよりも、今はグルメフェスの準備だ。モリッツさんを説得させるライザさんの
『とっておき』を作るため、わたしとライザさんは小妖精の森の大きなランタン樹があるところに向かった。
以前わたしの槍を作ってくれたときに綿毛草を採取した場所だ。不思議で温かな光が辺り一面に満ちている、幻想的な場所。
「ユイカ、今回は発光する樹液やきれいな石を採取したいんだ。手伝ってくれる?」
「樹液や石……花じゃないんですね?」
「今回は花じゃなくて、こっちの方が適してるんだ」
「なるほど……わかりました」
地面に目を向けると、ランタン樹の近くでぼんやりと光る石を見つけた。日光とかによって輝いているわけではなく、自らかすかな光を出している。
わたしはその不思議な石を拾い上げた。こういう、元居た世界ではまずありえないような現象に遭遇することさえ、なんだか当たり前になりつつある。
「ライザさん、こういう石とかですか?」
「あ、そう、それそれ! 探せば結構あると思うから、どんどん拾ってほしいな。あたしは樹液を採取するね!」
「了解です、ライザさん!」
ライザさんは手慣れた様子で樹液を採取する。多分わたしがやるとぎこちない動きになるんだろうな。
「……よし、これだけあれば……」
ある程度拾い終えて、わたしとライザさんがアトリエに戻ろうとしたそのとき。
ガサッ、と近くの茂みが大きく揺れた。
「っ……ユイカ、気を付けて」
わたしは琥珀の軽槍の穂を、茂みの方向に向けて構え、警戒した。これはレントさんから教えてもらったものだ。
いつ飛び出してきても迎撃できる。
「はい。……来ます!」
キィッ、という鋭い鳴き声を上げて、何かが茂みから飛び出してきた。
森に棲む一般的な魔物――オオイタチだ。
「はぁっ!!」
飛びかかってきたオオイタチをわたしは冷静に空中で突いた。
ライザさんの作ってもらった槍。力を入れずとも威力は出る。
自分で突き出す威力だけでない。敵が突進してくる威力も利用する。
それに、以前決闘した青ぷに……びくとるのすばしっこい動きを経験したからなのだろう。このオオイタチもそこそこ素早かったけれども、わたしの目はその動きを的確にとらえていた。
「ユイカ、ナイス! ……これで、どうだっ!」
わたしが撃ち落としたオオイタチに、ライザさんの掲げた杖から放たれる光弾が命中。
一瞬にして勝負は決した。
「よしっ……!」
「ユイカ、すごいじゃん!」
「いえ、ライザさんが前兆に気付いてくれたから、わたしはああやって動けたんです……!」
ぷに一匹相手にまともに攻撃を当てることさえできなかったわたしが、あんなにもあっさりと敵を倒せるなんて。
言葉では謙遜しているけど、内心はすごくうれしかった。
「でも、ユイカの動きバッチリだったよ! もっと自信を持とう、ね?」
「……はい!」
わたしとライザさんは、倒した魔物の素材も手に入れてアトリエに戻った。
魔物の素材は別に今回の調合で使うわけではないが、フレッサさんのところで引き取ってもらうといった使い道もありそうだ。
「さて、さっそく調合を始めるよ。ユイカ、準備をお願い!」
「はい。……で、結局何を作るんですか、ライザさん?」
わたしは採取した光る石を机に並べた。隣にはライザさんが採った光る樹液もある。
「花火だよ! しかも普通の花火じゃない、錬金術ならではの魔法の花火にするんだ!」
「魔法の花火……なるほど、ライザさんの発想ってそういう風になるんですね。すごい……!」
タオさんから聞いた、島を照らす錬金術の光、という言葉。
そこから、ライザさんは花火へと発想を膨らませた。わたしでは考えつかなかったなあ……!
「ユイカ、あたしが錬金釜の準備をしているうちに、この石を細かく砕いて、樹液で溶けやすいようにしてほしいんだ」
「はい!」
わたしが採取した光る石を砕くたびに、光がぱっと一瞬明るくなり、七色に光った。
なんとなく、打ち上げ花火を連想させるような……そんな感じがする。
もしかしてライザさんは、素材ごとにこういった性質を把握しているのだろうか……?
「こんな感じですか?」
「うん! これだけ細かければ十分だよ。あたしの準備もできたことだし……それじゃあ、始めますか!」
ライザさんは、わたしが砕いた石を釜の中に投入する。そして、樹液を入れると……七色にキラキラと、幻想的に輝きながら石が溶けていくのが見えた。
そして、パチパチと何かがはじけるような、気味のいい音が鳴り……やがて、中から小さな結晶が飛び出してきた。
「よし、完成!」
それは、白く透明に透き通っていながら、幻想的な七色の光を放つ不思議な結晶だった。
わたしの知っている花火の玉とは全然違うものだけれども……錬金術の花火というのはそれとはメカニズムが別物なのだろう。
「すごい……これが、ライザさんの花火、なんですね」
「うん! 名付けて、『七色の魔花火』!」
この結晶が打ちあがって花火になるとき、いったいどんなものになるのだろうか。
わたしは期待感に胸を躍らせながら、ライザさんから受け取ったその花火のもととなる結晶をバッグにしまった。
「これだけのものがあれば、きっとモリッツさんだってOKを出してくれるはず!」
「はい! ライザさん、さっそくモリッツさんのもとに報告ですね! あ、その前に……」
わたしは今日の朝、昨日までに決まったことを簡単に書きまとめた、クーケン島グルメフェスの企画メモを持ってきた。
そこに、ライザさんの花火のこともさっそく書き加えている。
「本格的にやるなら、どういうことをしたいのか、具体的に見せなきゃいけませんから。中途半端なものは許してくれないでしょうし」
「さすがユイカ! あたし、そういうのはあまり得意じゃないから助かっちゃうよ!」
「いえ、もともとわたしの言い出した企画ですし。ちゃんと責任は持ちます」
「おー……よくできた子だ……」
かくして、わたしとライザさんはクーケン島に戻った。
正直ドキドキはしているけれども……ライザさんの作ったこの花火が通らないわけがない。
それだけの魅力が、この手のひら大の結晶に詰まっていた。