Ryzachat:AI ~異世界の少女と秘密の夢~ 作:#NkY
「ほう……『七色の魔花火』、とな」
モリッツさんの反応は思ったより微妙だった。
「この結晶が花火のもとなのだな。確かに、この溢れんばかりの七色の光、祭りの目玉になるには不足はなさそうだ。……しかし、だ」
モリッツさんは七色の魔花火の結晶を返すと、険しい顔でこう突き返してきた。
「だが、お前たち。これは打ち上げ花火なのだろう?」
「う、うん。そうだけど……」
「だとするならば、打ち上げる場所の安全はどうするつもりだ?」
はっとした表情でわたしとライザさんとで見つめあった。
しまった、目先の理想にとらわれて、現実を何も考えてなかった……!
「え、えーっと……島のみんなが見える高いところなら、どこでもいいかなーって……」
「甘い! 火を扱う以上、建物の密集地などで打ち上げるのは論外だ。理想を追うのは結構だが、危険なことは到底許せぬからな」
「うっ……」
ライザさんが黙りきりになってしまった。……でも、場所なら多分、何とかなりそうな気はする。
「それに、ユイカ。グルメフェスというのは、食が主役なのだろう?」
「は、はい。そうですけど……」
「ならば! 客を呼ぶには、この花火に負けぬような食の目玉がもう一つ必要だろう。その辺りはちゃんと考えておるのだな?」
「食の、目玉……」
食の目玉。今回のグルメフェス、わたしはそのあたりに一切関わっていない。
あえて関わっていないし、関わるつもりもない。
「モリッツさん。……まずは、花火の場所についてです。クーケン島には開けた浜辺が複数あったはずです。人気のいない場所を作り、そこから打ち上げれば問題ないでしょう」
「ふむ……確かにそうだな。だが、もう一つ、食の目玉はどうするつもりだ? せっかくのグルメフェスが、花火に負けてはいけないだろう?」
わたしは息を大きく吸った。
何も緊張していない。わたしの頭の中で、すでに組みあがった強固な信念があるから。
「モリッツさん。この企画は、カールさんの『島の作物をもっと外の人に知ってほしい』、という思いからわたしが考えついた企画なんです。
ライザさんの家でごちそうになった時、わたしはここの島の野菜とクーケンフルーツの味に感動したんです。よそ者のわたしでさえ、こんなにおいしい島の食べ物が、あまり外に知られないままなのはもったいないと思いました」
モリッツさん、ライザさんはわたしの言葉を真剣に聞いてくれている。
「わたしが関わって、口出しするのはできるかもしれません。たぶん、モリッツさんたちの知らない料理のアイデアも、出せるかもしれません。
……でも、それだとわたしの世界の料理であって、クーケン島のもともとの料理じゃないんです。
クーケン島の農家の皆さんが丹精込めた作物、漁師の皆さんが頑張ってとってきた海産物。
食材を作るのに人生を捧げている方たちが、島の外の方たちに向けて、一生懸命作る料理――モリッツさんは、それがライザさんの花火に負けるとでもお思いですか?」
島一番の有力者で、島のことを一番に思う人。
それが、モリッツ・ブルネンさんという人であるならば。
「……うむ。確かにそうであろうな! はっはっは! このモリッツが、まさかユイカに言い負かされるとは……!」
島の人の思いに対し、絶対に協力を惜しまないはずだ。
「よかろう! それでは、グルメフェスの会場はクーケン港の広場を貸し出す。
それと……ユイカの企画に乗っかる形で少々申し訳ないが、グルメフェスのイベントの一つとして、クーケン島の料理大会を開かせていただきたい!」
「はい! ……はい? 今、何と……?」
……モリッツさんが企画を持ち込むのは予想外だったけど。
「もちろん、ライザとユイカの出場も歓迎するぞ。グルメフェス内のイベントとはいえ、これはあくまでもこのモリッツが主催する独立したイベントであるからな。
もちろん、優勝すれば景品を出す。ぜひ、考えてくれたまえ!」
「わ、わたしはまだ、何も……!」
隣にいるライザさんが制した。
「ユイカ。ああなったモリッツさんは、誰にも止められないよ」
「……そ、そうなんですね」
まあ、でも。
クーケン島料理大会、わたしが参加するかどうかはともかくとして……グルメフェスがもっと盛り上がるのは間違いないだろう。
さらなる追い風が吹いたとみていい……よね。きっと。