これまでの記憶を覚醒させたテラスはオメガバスティオンを繰り返した。
当然、記憶を取り戻して、想いを叫んだ所で、現実が変化するわけではなかった。
現実は甘くない。現実は辛く、厳しい。
しかし、それを認めきった上で、彼女は、
「いくぞ、運命、殺してやる」
オメガバスティオンを繰り返した。
繰り返し
繰り返し
繰り返し
繰り返した...
そして、とうとうヒーローのお面を必死に被りきった彼女は、全ての因子をかき消すことに成功した。
現世に帰る間際...
「え?だいぶ久しぶりだね。というか、お前もこっちにくんの?」
『当然やろ。この計81億回のオメガバスティオンで、大分コスモゾーンもこの世界に浸透した。だったら俺もそっちにいける。もともと、お前を回収する予定やったから丁度ええやろ。お前も現世に帰った所でこっちに帰る手段ないしな。もしかしたら、転生した時同様、コスモゾーンが扉を開いてくれるかもしれんが、まあ不明確やから』
「そうか。じゃあ頼んだよ。恩人兼手紙の主」
ーーーテラスは現世に帰還するーーー
_______
現世に帰ったテラスが最初に見たのは、裁判場の天井だった。どうやら、倒れていたらしい。テラスはなんとか立ちあがろうとするが...
「テラス...っ!」
「あー、疲れた...おっと!女の子が走って飛び込んでくるんじゃありません!はしたない...」
真っ先に飛び込んできたのはユキであった。テラスは座ったままユキを抱える。
「大丈夫ですか...っ!?テラス...っ!」
「んな焦んなくても人は死なんよ...いや、大分死にかけたかなぁ...死にかけたっちゃ死にかけたかぁ...まあ、うーん、とりあえず平気!」
「本当に...なんて方、なんでしょうか...」
意図せずファントムトークの様になってしまったテラス。テラスは自らが消し去った、球のある位置を見る。
「おやまあ、完全に消えていらっしゃる...」
そこには、チリリと空間に溶けていっている球の面影があった。
「テラスちゃん!大丈夫だった!?」
皆が駆け寄ってくる。当然だろう。皆の視点では、急に自分が変な事を叫んで、球が消えていっているようにしか見えない。
「ああ、エマ。なんか久しぶりに見る気がするわぁ。背ぇ伸びたぁ?」
「あの、黒い球はどうなったの!?」
「ああ、アレだったら私の必殺技で一撃粉砕したよ。だからもう大丈夫。安心しな」
テラスはそう言いながら、ユキを抱き上げ、立ち上がる。
「これより、裁判閉廷!」
「あのぉ、私の台詞、取らないでいただきたいのですが...」
「早く言わん方が悪い」
「...はぁ......」
「ああ、あと魔女因子は全部私が消したから、ユキは無罪ね」
「......それを、政府が許すとでも?」
ゴクチョーはテラスに、言外に言った。ユキは許されない存在であると。この世に存在してはいけないと。
それに対して、テラスはニヤリと笑った。
「なら、私を殺してからにしな。もっとも、お前達に私が殺せると思うなよ。おいで、手紙の主!」
「...あいあいさー」
少女しかいないこの裁判所に、男の声が響いた。ソイツの声は、とぼけたセリフとは裏腹に、異常に利発そうな声をしていた。
「っ!だれっ!?」
ナノカは瞬時に銃の標準を合わせるが、男の顔はピクリとも動かない。まるで気にもしていない様子だ。
「お前はそういうとこ、他力本願やなぁ...あ、ザンクさんの名前は田中ザンクさんや。よろしくなぁ〜」
男の名前はザンクというらしい。ザンクは手をぷらぷらとさせながら、適当に発言する。テラスは言う。
「一応、これでも、私を助けてくれた恩人?だから優しく接してあげてね。というか、喋り方から勘づいてたけど、お前【田中家】の人間か!恥を知れ、恥を」
ザンクはテラスの調子に呆れる。
「...そこにハテナは要らんやろ」
「いるんだなぁ、それが。だって初対面でこんな終わってる自己紹介してる奴、私とキミぐらいだよ?この『田中家』め」
テラスがそう言うと、「例のアレ、持ってきた?」とザンクに質問する。
「当然やろ。だけど、この世界でも使える様にするにはあと少し時間がかかるな。その間、お前はこの世界におれ」
「イエッサー」
テラスが適当にそう返す。
ユキも含め、皆は、謎の男の登場に困惑している様だった。
テラスは説明する。
「えーっと、コイツの名前は田中ザンク。端的に言えば、異世界からの来訪者」
「異世界...っ!?」
「異世界...ね」
ナノカとマーゴは、皆は驚きつつも、テラスは最小限の説明を行なってから、皆を落ち着かせる。
「ザンク、ゴクチョーに脅しかけといて。私がやるのはめんどいから却下で」
「...なんでザンクさんがやらんといけんのや」
「私の命令だ。従えっ。面倒な後処理は全部任せたっ!」
「...はぁ...なんでこんなんに惚れてまったんやろ」
そうして、ザンクが、全ての後処理をすることになった。
「その、大丈夫なのかな?ザンクさん...政府はきっと、かなり強大だよ?...このままだと、もしかしたらザンクさんも......」
エマの質問に、皆もそうだろうと思う。一個人vs政府なんて、勝ち目がないのだ。
個は群に勝てない。だが...
「当然やなぁ。個は基本、群には勝てん...だけど、軍隊アリとゴジラなら話は別や」
テラスはその発言に、驚愕した。
「まさかっ!」
「『ザンバク』に関してはもうこっちに適応済みや。流石、うちの子は優秀やなぁ」
それが1番手っ取り早いとはいえ、やるのか!?テラスがそう思っているうちに、ザンクは始めた。
ゆったりと、ザンクは胸の前に手を合わせて、宣言する。
【神化】
それは、まるで宇宙が紐解かれるような、絶大な存在感を迸らせていた。きっと宇宙さえも今のザンクの前ではつい平伏してしまうと、そう感じさせる圧倒的な気迫。
それこそ、軍隊などひと吹きで消し飛ばしてしまうほどの超エネルギーの塊。核爆弾ですら、今のザンクには傷一つつけられやしない。
一言で今のザンクを形容するなら、正しく【神】だろう。
「ほな、ザンクさんがおるから手ぇ出すなや。まあ、ザンクさんからしたらぶっちゃけ、どっちでもええんやけどな。テラス以外は、心底どうでもええ」
ザンクは飄々とゴクチョーにそう言った。
ゴクチョーはその光景を見て、これからの処遇を考える上の事を頭に浮かばせ、やめた。何故なら全て無駄だと思ったから。
「...まだ上次第なので分かりませんが、まあ......もういいでしょう。私は定時で帰れれば......それでいいんです」
事実上の敗北宣言。それはユキが解放されたことを意味していた。
_______
状況は目まぐるしく変わっていた。
冷凍庫にいたなれはてが元に戻ったのだ。そしてなにより...
後処理とは、この島で起きた全てのことを指していた。
今はザンクとテラス、二人きりだ。
「なんで『俺』が、【反魂の神聖式】まで使ってこんな大所帯を復活させなあかんねん...」
ザンクは蘇生作業を完全に完了させてから、テラスに抗議する。
【反魂の神聖式】とは、他者を完全に蘇生させることができる魔法であり、神ですら完璧に行なうことは難しい、超高難易度の技術である。一人を蘇生させるのさえ、失敗してもおかしくない超絶技巧を約660回。それを片手間で終わらせるところに、ザンクの優秀さが垣間見えた。
ザンクはテラスの指示により、この島で起きた惨劇...つまりは少女を全て蘇生し、しかも...
「まだ残留思念が残っとるな...しぶといなぁ。ゴキブリちゃうんやで、仕事増えるやろ...」
ザンクはなんともまあ酷い悪態をつきながらも、仕事を完了させ、太古に殺された魔女さえ蘇生させた。そして、魔女を人間に、種族を変えるようなことさえ、ザンクはやってのける。
「ありがとう。ザンク」
テラスは微笑みながら、ザンクに向かって言う。そんなテラスに、ザンクは髪をかきむしり、そして、大きなため息をついた。
「......ほんま、お前はなんちゅう女なんや......お前には笑顔がよお似合う。絶望に屈する姿なんて、お前にはあっとらん...」
ザンクは知っていた。自身が手を打たなくても、テラスなら結局、ほぼ確実にあの空間から出てこれたことを。だが、何故を手を加えたのかを言うなら、それはただの感情論。純粋にテラスの絶望に伏した顔をこれ以上見たくなかっただけ。
そう、ザンクはテラスのことを好意的に思っている。誰かがいる時は飄々と自身を『ザンクさん』と呼称するが、二人きりの時には『俺』と、一人称をつい変えてしまうほどに。
ただし、それが、テラスに届いているかと言われれば...
「はい?」
「...ま、ええわ。帰還日は7月7日や。その日までに、俺はお前の【携帯ドラゴン】をこの世界に適応させる。お前程の力がないと、この世界からは脱出出来へんと計算されとるからな。この世界には二度とこうへんから、思い出作っとくんやで。んで、これが終わったら、またお前の因子を回収する旅にでる。お前もついて来い」
「...はーい。そういえば、オメガバスティオンを使ったらこの世界と向こうの世界の接続が良くなるとかどーのって、結局何だったの?」
テラスは疑問に思っていた。オメガバスティオンに、世界の繋がりを促す効果などないのだ。オメガバスティオンには、単純に魔法をかき消す力しかない。そういう意味では、イニティウム・オメガバスティオンは例外だったが。
「ああ、お前が全人類が滅ぶのを救う為にこの世界に来たのは覚えているやろ?」
「勿論思い出したよ。ヨグ戦後、絶死を使った私にコスモゾーンがお願いしてきたんだよね。【あなた様に一つ、勝手ながらお願いをしにきたのです】って。んで、この世界に、この『コスモゾーンに支配されていない世界』にやってきたんだ」
「せや。俺もログを確認させて貰ったからそこの流れは知っとるで。そして、お前はこの世界に転生という処置をとって、黒幕...月代ユキに最も近いような位置に生まれ変わったんや」
「なるほど。私がユキと出会ったのは偶然ではないと。んで、どうしてオメガバスティオンで世界が繋がるのさ」
「単純な話や。オメガバスティオンのシステムは発動には物理法則を、その裏側には俺たちの世界...コスモゾーンのシステムがいい具合に混ざり合って出来とる。だからオメガバスティオンを使えば、この世界にシステムを、すなわちコスモゾーンの存在を仄めかす事ができるんや」
「...んーと、どゆこと?」
「まあ簡単にいえば、オメガバスティオンを使えば使うほど、この世界はコスモゾーンはこの世界との関係値が深まり、支配されやすくなるってことや」
「なるほど......というか、私を転生させたのもしかしてそれが目的?」
「やろうな。オメガバスティオンをかなり上手く使えるお前をパイプ役にしたんやろう。その結果、俺みたいなこの世界からしたら外部の人間が侵入できる様になった。今は色々、入るだけなら割と簡単に出来るガバガバ具合やけど、じきにこの世界は原初の世界の様な領域に保管されるはずや。つまり、絶対安全な領域に、コスモゾーンが保護してくれるって訳や」
「それじゃあ...この世界の人たちはみんな大丈夫って事だね?」
「コスモゾーンは、元から外部の存在であるこの世界を無碍に扱うことは絶対にしん。それどころか、VIP待遇で管理するはずや。まあ、核戦争やらで滅んだらそれはそれでコスモゾーンも手は出さへんけどな」
「...よくはわからなかったけど、みんな平和っぽいからいいか。というか...核戦争ね。私のチカラを込めた分身体でも設置しとこうか。2000万年ぐらいは持つと思うし」
「まあ、なんでもええんちゃう?ほな、お前もとっとといけ。この世界を出ていったら、俺らはもしかしたら強敵と戦うかもしれない。今のうちに思い出作っとけ。再三やが、この世界には二度こうへん、というか行けへんのやから」
「...はーい」
_______
「アンアンじゃん」
「なんだテラスか...」
中庭で、二人は偶然出会した。
「ラストの【洗脳】マジでサンキュー。アレのおかげで助かったと言っても過言ではないでござった」
あの空間の中、テラスは何度もその言葉を思い出しては、【洗脳】の効果を受けようとしていた。実際、それが功を奏した場面もきっとあっただろうとテラスは思っていた...のだが。
「...あれは、本当に、ただのおまじないだ」
「ん?どういうこと?」
「わがはいの魔法は、既に魔女因子の回収と共に使えなくなっていた」
「え?そなの?じゃあつまり...」
「ああ、お前は自身の力をのみで、黒い球を壊したと言うことだ」
「どっひゃーなんだが。マジですかぁ...私にあんな力があったとは...いや、技の発生自体にはコスモゾーンの介入があったらしいから、正確に言えば違うんだけど...」
テラスはどこか釈然としない様子だった。
「テラス...」
「ん?どうしたアンアン...」
「ありがとう」
その言葉に対し、テラスは、
「そう言う言葉はな、本当に心を伝えたい時に言うもんだと、ばっちゃもそう言ってた。決してこんな汚らしいファントムトーカーの前で言う台詞じゃない。わかったかい?アンアンくん」
テラスがそう言うと、アンアンはまたもや湿っぽい目でテラスを見つめた。
「...わがはい達はずっと友達か?」
「友達ってなんだぁ?手加減ってなんだぁ...?」
テラスがそう言った時だった。アンアンが泣きそうな顔になる。
「いや!まてまて!わかった!私たちは友達!おーけ!?」
【わかった】
「いや、なんでわざわざスケッチブックに書くねん。フリップ芸ちゃうぞ」
そうして、テラスとアンアンは笑い合った。
_______
月光が辺りを照らす中、テラスとユキは一緒に歩いていた。
ユキに、テラスが誘われた形だ。それに対して、最初はテラスは断ったが、最終的には押し通された。
「んで、なんか用でもあったのん?」
テラスが開口一番にそう聞く。
それに対して、ユキはどこか静かな様子で答える。
「貴女がいたおかげで、私は両親とも、また友達とも会えました...エマともヒロとも、今後を歩める...まるで夢の様です...」
「ああ、そりゃあよかったね。やったの私じゃないけど」
「...」
しばらく黙ったまま、二人は歩く。口を開いたのはユキであった。
「...貴女はあの魔女因子の結晶体、黒い球に対して一体何をしたのですか?」
「ん?それは言ったでしょ?私の必殺技で一網打尽よ」
「嘘...ですね」
ユキは静かにそう言うと、
「どうか、私に真相を聞かせてくださいませんか?私には、それをする義務がある...」
あまりに真剣な面持ちでユキが言うものだから、テラスも語る。
「...そうか。なら少しだけ話そうか」
テラスは要所要所噛み砕きながらも、その空間であったことを伝えた。痛みと絶望、そして数十億回のオメガバスティオンのことを。
「...そう、だったですか」
「まあ、ぶっちゃけ、余裕っちゃ余裕だったけどね」
「そんなわけ...ないじゃないですか...」
ユキは続ける。
「だって、貴女ーーー
ーーー泣いてますよ?」
その言葉に、テラスはつい目元を探った。そうして、気づく。指に、水滴の感触がした。
「あー、まあ、これは、その、いっ時の迷いって奴だな。うん......それとも、誰かに聞いて欲しかったのか...?なっさけな...」
「......もう、ほんとうに、不器用なんですから...」
テラスは神妙な面持ちで言う。
「...私があの空間で生きて帰れたのは、ユキ、お前のお陰だ」
「私......ですか?」
「何回も、何十回も、何百回も...私は挫けそうになった。だが、その度に脳裏に過ぎるのはお前の姿だった」
「......」
「だから...まあ、ありがと」
「......」
「あと言えることはそうだな...自由に生きろ!お前の前には、私がいる!」
「......っ!」
テラスがそう言った時だった。不意に、ユキがテラスに飛び込んでくる。
テラスもまた、ユキを抱きしめた。そうして、ユキの感情は溢れ出した。テラスの胸の中で、数々の涙が頬を撫で落ちる。
「ありがとう...テラス...」
「...別に、そんな大それたことはしてないんだけどねぇ...ただ、やりたいことを、自分の我儘を通しただけなんだから」
「......そう言うところも貴女らしいです...」
そう言うユキの顔は、とても美しかったと、テラスはなんとげなしに思った。
_______
———全員は華やかなフィナーレを迎える———
_______
その夜、
私はテラスの手を引きながら、屋上の扉を開けた。
扉を開ける時、あえて、テラスを前に出した。
その理由は...
屋上に、パーンとクラッカーの音が響いた。
それに驚いているのはテラスの様だった。
「おめでとう、テラスちゃん」
「おめでとう、テラス」
私も横に並んで、言う。
「お誕生日おめでとうございます。テラス」
その言葉に、テラスは右往左往しているように見えた。
「今日は7月5日。貴女の誕生日です」
初夏の、花火の音が聞こえる。彼女は驚きながらも頬をかく。
その音に、かき消されるようにテラスは言った。
だが、私は聞き逃さなかった。きっと、その場にいた全員が聞き逃さなかっただろう。
恥ずかしそうに、ぽつりと呟いていた。
『ありがとう』
大きく、花火の音が響く。そうして、私達は夜空を一点に見上げた。
これにて、『閃光少女ノ魔女裁判』は完結です!
最後に、感想・評価を募集します!
皆様ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
後書きは、出来るかわかりませんが活動報告の方にさせていただきたいと思います!
それでは皆様、活動報告にて会いましょう!
最後に用語解説です。
【コスモゾーン】...センエース世界を演算する汎用量子コンピュータです。基本的に意思はなく、擬人化すると仕事をこなす子持ちの仕事人なイメージ。オチとしてはそんな【コスモゾーン】が手を加えないと外の世界で、滅んでしまう世界があったので、テラスを差し向けて世界滅亡を止めた感じ。
【携帯ドラゴン】...センエースでは本来、神の力は異世界などでは使えません。なのにも関わず使えた理由はこのシステムに由来します。二頭身のドラゴンを呼び出し、契約する事で異世界でも神の力が使える様になります。
【田中家】...苗字が田中の一族の事です。ただし、ただの田中さんではダメで、その種族の特別な田中のみ、テラスは田中家と呼称しています。田中家は頭脳労働がまさに神がかり的に上手いので、テラスは本来すべき後処理を全て、そんなザンクに任せました。