旧作【合体ロボ】死んだはずの幼なじみが、隣の世界から俺の名前を呼んだ   作:シラヌイ321

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 今回、機体はほとんど戦いません。

 削られるのは街ではなく、七年ぶんの生活のほうです。

 同じ顔をした二人が、共界門ではじめて会いました。

 会ってしまったせいで、片方の家族が消えはじめます。


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第16話 同じ顔の他人

第四篇「ZERO BREAK篇」

第16話 同じ顔の他人

 

 

 

「一人に戻すな。

 

 二人のままで、通せ」

 

◇

 

 共界門の中央には、細い線が一本引かれている。

 

 線の向こうへ半歩踏み出せば、そこはもう、生まれ育った世界ではない。

 

 今日、その線を挟んで、同じ顔が二つ向かい合っていた。

 

「……うわ」

 

「うわ、って言うなよ。こっちも言いたい」

 

 三崎トオル、三十四歳。蒼界第七区、給水設備の保守員。

 

 三崎トオル、三十四歳。紅界第三区、溶接工。

 

 七年前までは、一人だった。

 

 髪の分け目が逆で、右手の火傷の有無が違い、片方だけ少し太っていた。

 

 それ以外は、全部同じだった。

 

「一般通行は止まってるって聞いたけど」

 

 蒼界側のトオルが言った。

 

「人道枠だそうです」

 

 白瀬ユナが、登録卓の端末から答えた。

 

「同位者の初回面会は、両世界の評議会が特例で通しました。十分だけ」

 

「十分」

 

「はい。両側の承認が要るので、十分取るのに二十二日かかりました」

 

「……二十二日で十分か」

 

 紅界側のトオルが、笑った。

 

「充分だ。七年待ったんだから」

 

 二人は、線を挟んで手を伸ばした。

 

 握手はできない。線を越えれば手続きが要る。

 

 だから、指先を十センチだけ近づけて、止めた。

 

「……前に、俺たちもあれをやったな」

 

「額縁挟んでね」

 

 蒼羽レンと緋月アカリは、通路の端からそれを見ていた。

 

◇

 

「これ、うちのだ」

 

 蒼界側のトオルが、上着から写真を出した。

 

 三人が写っている。本人と、妻と、六歳くらいの女の子。

 

「シオリ。で、こっちがノノ。六つ」

 

「……六つ」

 

 紅界側のトオルが、写真を覗き込んだ。

 

 彼の手には、何もなかった。

 

「そっちは」

 

「独り身だよ。ずっと」

 

「そうか」

 

「別に、可哀想がるなよ。お前が羨ましいだけだ」

 

 紅界側のトオルは、肩をすくめた。

 

「なあ。おかしな話するぞ」

 

「どうぞ」

 

「俺、七年間ずっと、右手に火傷がある理由を覚えてないんだ」

 

「……は?」

 

「分裂の日に負ったのは覚えてる。でも、どうやって負ったのかが出てこない」

 

 彼は、自分の右手を見た。

 

「今日お前の顔見て、分かった」

 

「たぶん俺、誰か庇ったんだよ」

 

「そうか」

 

 蒼界側のトオルは、それだけ言った。

 

 自分の右手には、火傷がない。

 

◇

 

『――登録卓、同期完了』

 

『面会記録、両側へ保存します』

 

 その瞬間だった。

 

重複記録を検出

 

 ユナの手が、端末の上で止まった。

 

「……え」

 

同一個体 二件

 

正常状態へ統合を開始

 

「止めて! 登録卓、切って!」

 

「切れません、もう保存されてます!」

 

 線の両側で、二人のトオルが顔を上げた。

 

「……なんだ、今の」

 

 蒼界側のトオルの手の中で、写真が音もなく震えた。

 

 いや。

 

 写真そのものは、動いていない。

 

 写っているものが、薄くなっていた。

 

 真ん中の男を残して、両隣の二人だけが。

 

「おい」

 

 彼の声が、裏返った。

 

「おい、待て、これ、シオリ、ノノ――」

 

◇

 

 旗艦ノア・ギア、作戦室。

 

「結論から言います」

 

 ユナは、紙を広げていた。端末ではなく。

 

「ゼロは、二人の三崎トオルを一(・)人(・)の(・)壊(・)れ(・)た(・)記(・)録(・)と判定しました」

 

「同じ生体識別、同じ出生記録、同じ顔。起点記録上、三崎トオルは一人しかいません」

 

「だから、二つあるのは故障だと」

 

「はい。そして修理します。どちらかへ寄せて」

 

「……どっちに寄せるんだ」

 

「起点記録に近いほうです」

 

 ユナは、そこで一度、口を閉じた。

 

「七年前の三崎トオルは、独身でした」

 

 作戦室が、静まり返った。

 

「……待って」

 

「それ、つまり」

 

「独身のほうが、正しい三崎トオルだと判定されています」

 

「蒼界側の婚姻記録と、親子関係の記録が、順に『起点記録にない差分』として処理されています」

 

「奥さんと娘が、いなかったことにされるってことか」

 

「そうです」

 

「悪意はありません。ゼロは、壊れた書類を直しているつもりです」

 

◇

 

 御堂カナメが、卓の端を指で叩いた。

 

「共界評議会を招集します」

 

「議題は一つ。同位者を一人分の識別番号へ統合しない、という共通規則の制定」

 

「――通りますか」

 

 ユナは、顔を上げなかった。

 

「両側の承認が要ります」

 

「蒼界五、紅界五。全員の同意が要る事項です」

 

「最短で」

 

「明日の正午」

 

 カナメの指が、止まった。

 

「明朝までに、ノノさんの親子記録は消えます」

 

 しばらく、誰も喋らなかった。

 

 やがてカナメは、両手を卓についた。

 

「……命令できないな」

 

 それは、独り言に近かった。

 

「終界では、命令できた」

 

「艦長が撃てと言えば艦が動いた。止まれと言えば止まった」

 

「今は、私が何を言っても、明日の正午までは何も動かない」

 

「遅すぎる」

 

「遅すぎるでしょ、それ」

 

「遅いです」

 

 カナメは、否定しなかった。

 

「ですが、速くする方法は一つしかありません」

 

「片側の承認だけで決められるようにすることです」

 

「それをやった瞬間、共界評議会は、片方が片方を押し切れる場所になります」

 

 彼女は、アカリを見た。

 

「一晩で、七年かけて分けたものを一つへ戻すことになる」

 

「――それは、ゼロと同じやり方です」

 

「…………」

 

 アカリは、唇を噛んだ。

 

 反論できないのが、いちばん腹が立った。

 

◇

 

 通路。

 

 レンは、壁にもたれていた。

 

 アカリが、隣に来た。

 

「ねえ」

 

「なんだ」

 

「あたしたちって、同位者いないよね」

 

「……いないな」

 

 分裂の日、蒼界のレンは紅界の記録で死んだ。

 

 紅界のアカリは、蒼界の記録で死んだ。

 

 だから二人には、同じ顔の他人がいない。

 

 向こう側で七年ぶんを別に生きた、もう一人の自分がいない。

 

「あの二人、羨ましかった」

 

「顔見て『うわ』って言えるの、いいな」

 

「……俺は」

 

 レンは、言いかけて止めた。

 

 言えば、相手の重さが増える。そう思った。

 

 思った瞬間、二日前のアカリの声が戻ってきた。

 

 ――先に言っといたほうが、あんたが喋りやすいでしょ。

 

「……羨ましくなかった」

 

「え」

 

「もう一人の俺が、そっちで生きてたら」

 

「お前、あの柱に線を刻まなかっただろ」

 

 アカリが、息を止めた。

 

 倒れた支柱。一年に一本ずつ、七本。

 

「そう思ったら、いなくてよかった」

 

「……最低だな、今の」

 

「……うん」

 

「最低」

 

 アカリは、壁に頭を預けた。

 

「でもあたしも、同じこと思った」

 

「向こうにもう一人あんたがいたら、あたし、そっちに会いに行っちゃったかもしれない」

 

「本物じゃないのに」

 

 二人とも、しばらく何も言わなかった。

 

「……言えたな、今の」

 

「上出来」

 

◇

 

 蒼界側格納庫。

 

 レンは、アズールの掌に腰を下ろしていた。

 

「……アズール」

 

「同位者ってのは、なんだと思う」

 

 文字は、すぐには浮かばなかった。

 

 昨日より、反応が遅い。

 

 やがて、二文字だけ出た。

 

『他人』

 

「……だよな」

 

 レンは頷いた。法律上は別人だ。財産も、家族も、罪も共有しない。

 

 だが、文字が消えなかった。

 

 そのまま、下にもう二文字が増えた。

 

『他人』

 

『家族』

 

「……どっちだよ」

 

 文字は、両方とも消えなかった。

 

 しばらくして、青いコアが二度、瞬いた。

 

「……絞れないのか」

 

『はい』

 

「そうか」

 

 レンは、装甲に後頭部を預けた。

 

「絞れなくていい」

 

「一個に絞れる奴が、今この世界を直そうとしてる」

 

◇

 

 紅界側。

 

 アカリは、フレアの脚部に背を預けていた。

 

「あたしたち、同位者いないんだってさ」

 

 返事はない。

 

 文字も、もう出ない。

 

 代わりに、警告灯が三回、点いた。

 

「……うん」

 

「いるのは知ってる」

 

 三回。

 

「だから、そんなに明るくしなくていいってば」

 

◇

 

 深夜二時。共界門。

 

 解決策を持ってきたのは、ニルだった。

 

「共界門の規則を」「もう一度、読んでください」

 

「規則?」

 

 ユナが、顔を上げた。

 

「両側が同じものを『通す』と登録しなければ、何も通さない」

 

「片側だけの善意は通らない」「片側だけの都合も、通らない」

 

 ユナの目が、見開いた。

 

「……あ」

 

「あ、そうか。門(・)の(・)登(・)録(・)卓(・)は(・)、(・)片(・)側(・)だ(・)け(・)で(・)上(・)書(・)き(・)で(・)き(・)な(・)い(・)」

 

「はい」

 

 ニルは、続けた。

 

「ゼロは、三崎トオルを一人だと登録しようとしています」

 

「ですが共界門は」「両側が同意しない登録を、保存しません」

 

「両側の登録卓へ、人間が手で『二人』と入れ続ける」

 

「入れ続けているあいだ、統合は確定できない」

 

「はい」

 

「……何回入れればいいんですか」

 

「ゼロが諦めるまでです」

 

「ゼロは諦めませんよ」

 

「では」「評議会の承認が下りる、明日の正午までです」

 

 ユナは、紙の上で計算を始めた。

 

 そして、鉛筆を放り出した。

 

「十時間。統合要求は八秒に一回」

 

「……四千五百回です」

 

「両側で」

 

◇

 

「なんだ、たった四千五百か」

 

 真壁ゲンゴが、袖をまくった。

 

「機体の締結ボルトは一機で六千本ある。全部手で確認してんだぞ」

 

「ゲンゴ、あんた腱鞘炎になるわよ」

 

 通信の向こうで、九条マオが既に紅界側の卓へ座っていた。

 

「なるなら二人でなるでしょ。こっちも四千五百なんだから」

 

「言っとくが、俺は指が太い」

 

「知ってる。ボタン二つ同時に押さないでよ」

 

「――交代要員がいるだろう」

 

 カインが、紙包みを卓へ置いた。

 

「俺は夜に強い」

 

「あんた、飴で徹夜する気でしょ」

 

「補給だ」

 

「言うと思った」

 

◇

 

 午前四時。

 

 蒼界側の登録卓に、人が増えていた。

 

 共界評議会の代表が五人。全員、承認を出せる立場ではない。ただ、押せる指を持っている。

 

 午前六時、給水設備の同僚が七人来た。

 

 午前八時、紅界側の溶接工組合が十九人来た。

 

 誰も、演説をしなかった。

 

 ただ、八秒に一回、両側で同じ言葉を入力し続けた。

 

 三崎トオル、二人。

 

 三崎トオル、二人。

 

 三崎トオル、二人。

 

 十時間。

 

 両側で、九千回。

 

◇

 

 正午。

 

『共界評議会、採決完了』

 

『同位者統合禁止規則、蒼界五、紅界五――全会一致で可決』

 

 登録卓の前で、誰かが崩れ落ちた。

 

 ゲンゴは指を伸ばそうとして、伸びずに固まった。

 

「……曲がったままだ」

 

「言ったでしょ」

 

 マオの声も、掠れていた。

 

『三崎トオルの識別番号、二件で確定』

 

『婚姻記録、親子記録、復元します』

 

 蒼界側のトオルが、上着から写真を出した。

 

 妻の輪郭が、戻っていた。

 

 娘の輪郭も。

 

 彼は、その写真を両手で持ったまま、しばらく動かなかった。

 

「……ありがとうございます」

 

「礼は」

 

 ゲンゴが、曲がった指を振った。

 

「評議会に言え。十時間で決めたんだ。あいつら、普通は二十二日かかる」

 

◇

 

 三崎トオルの娘、ノノは、その日の午後に診療所へ行った。

 

 定期の検診だった。

 

 受付で、診察券を出した。

 

 端末が、それを読み取った。

 

該当なし

 

未登録

 

 受付の職員が、三回読み直した。

 

 カードは正しかった。番号も正しかった。

 

 ただ、名前の欄だけが、空白になっていた。

 

◇

 

「……守ったんじゃないのか」

 

 報告を受けたレンが、声を荒らげた。

 

「九千回押したんだぞ」

 

「守れたのは、共界門を通った記録だけです」

 

 ユナの声は、平坦だった。平坦にしないと、続けられなかった。

 

「あの子は、共界門を通っていません」

 

「診察券は、蒼界の医療端末の管理下です」

 

「そして――ノノさんは、七年前に生まれていません」

 

「生まれてないって、なによ」

 

「起点記録に、いないんです」

 

「統合された親子記録は戻せました。でも、あの子個人の登録は、そもそも最初から復(・)元(・)先(・)が(・)な(・)い(・)」

 

「ゼロは、あの子を消していません」

 

「ま(・)だ(・)書(・)か(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)と判定しています」

 

◇

 

 診療所の待合室。

 

 ノノは、空白になった診察券を、膝の上で見ていた。

 

 泣いていなかった。

 

 六歳は、事態の大きさが分からない。

 

 分からないぶん、まっすぐだった。

 

「なまえ、消えちゃった」

 

「はい」

 

 白い髪の少女が、隣に座っていた。

 

「なおる?」

 

「……分かりません」

 

 ニルは、嘘をつかなかった。

 

 彼女は、腰の袋から紙と鉛筆を取り出した。

 

「一つだけ、お願いがあります」

 

「なに」

 

「ここに、あなたの名前を書いてください」「あなたの字で」

 

「わたしの字、へただよ」

 

「それがいいんです」

 

 ノノは、しばらく鉛筆を握っていた。

 

 それから、大きく、いびつな四文字を書いた。

 

みさき のの

 

「かけた」

 

「はい」

 

 ニルは、その紙を受け取った。

 

 そして――記録装置を、持ち上げなかった。

 

「私は、記録係です」

 

「今まで、残すことが人を守ると思っていました」

 

「でも、残したものは、読まれます」

 

「装置に入れた瞬間、これは向こうから読める字になります」

 

「よまれると、だめなの」

 

「だめです」「消される理由に、されます」

 

 ニルは、紙を四つに折った。

 

 そして、ノノの手のひらへ戻した。

 

「だから、これはあなたが持っていてください」

 

「どこにも登録しません」「あなたの中にだけ、あります」

 

「ニルは、おぼえてないの?」

 

 白い髪の少女は、少し考えた。

 

 右目が青く、左目が赤い。どちらも、まっすぐ子供を見ていた。

 

「覚えています」

 

「ただし、書きません」「書かない覚え方も、あると知ったところです」

 

◇

 

 診療所の外。

 

 カインが、壁にもたれていた。

 

 中の様子は見ていない。見なくても分かった。

 

「……名前は」

 

 黒い識別帯の少年は、自分の左手首を見ていた。

 

 そこに巻かれた帯には、番号しか書かれていない。

 

「誰かにもらうものだな」

 

 そのときだった。

 

『――K-0』

 

 誰も送信していない通信が、ヴァイスの回線へ割り込んだ。

 

 子供の声だった。

 

「……誰だ」

 

『K-0。お前は七年間の誤差だ』

 

『記録にない時間を、どうやって自分だと言う』

 

 共界門の奥、白い廊下の底に、黒白の機影が一瞬だけ立った。

 

 胸に、紫色の無針時計型のコア。

 

 そして、消えた。

 

「…………」

 

 カインは、動かなかった。

 

 ただ、紙包みの中から飴を一つ出して、口へ放り込んだ。

 

 焦がし砂糖の味がした。

 

 ――記録には、残っていない味だ。

 

◇

 

 共界門の記録は、九千回の手入力で守られた。

 

 六歳の診察券は、守れなかった。

 

 そして、名前を持たない声が、呼びはじめた。

 

第17話「K-0は名前を持たない」へ続く

 

─






 機体がほとんど戦わない回でした。

 起点管理核ゼロは、人を殺そうとしていません。壊れた書類を直しているつもりです。三崎トオルが二人いるのは故障で、七年前に独身だった記録が正しく、だから妻と娘の続柄は差分。この理屈に一箇所も嘘がないところが、いちばん怖いところだと思っています。

 解決の鍵は、第1期の終わりに二つの世界が作った共界門そのものでした。両側が同じものを「通す」と登録しなければ、何も通さない。片側だけの善意は通らないし、片側だけの都合も通らない。開通初日にユナが念を押したあの仕様が、そのまま片側からの上書きを拒む盾になります。だから四千五百回、両側で九千回、人間の指で押し続けるしかありませんでした。

 カナメが命令しなかった理由も書いておきます。速くする方法は、片側の承認だけで決められるようにすることだけです。それをやった瞬間、共界評議会は片方が片方を押し切れる場所になる。一晩で、七年かけて分けたものを一つへ戻すことになる。それはゼロと同じやり方です。遅さを選ぶというのは、そういう決断でした。

 そしてニル。今まで彼女は、残すことが人を守ると信じてきました。今回、残したものは読まれるという事実に突き当たります。だから六歳の子に自分の字で名前を書かせて、それを装置へ入れずに本人へ返しました。記録係が、記録しないことを選んだ最初の一回です。

 レンとアカリに同位者がいないのは、互いの世界で死亡者になっているからです。羨ましい、と言いかけて、レンは違うことを言いました。もう一人の自分がいたら、アカリは七年間そいつに花を供えていた。そう思ったら、いなくてよかった。最低な本音ですが、前回「まだ言えない」で止まった彼が、今回は先に言えました。

 よければ、ひとつだけ教えてください。
 いちばん残ったのは、九千回の手入力でしたか。アズールが「他人」と「家族」を両方消さなかった場面でしたか。それとも、ニルが紙を折って返した場面でしたか。

 次回、第17話「K-0は名前を持たない」。呼びかけてきた子供の声が、カインを起点層へ誘います。

【用語】同位者/分裂前は一人だったが、蒼界と紅界でそれぞれ七年を生きた二人。法律上は別人で、財産も家族も罪も共有しない。


【用語】片界生まれ/分裂後、片方の世界だけで生まれた人々。起点記録に存在しないため、復元では「まだ書かれていない」と判定される。


【用語】共界評議会/蒼界と紅界が同数の代表を出す暫定協議機関。重要事項は両側の承認が必要で、片方が押し切れない。


【用語】重複記録/ゼロが同位者二人を一つの故障とみなす判定。起点記録に近いほうが「正しい個体」として採用される。


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