双界機神インフィナイト   作:シラヌイ321

2 / 9
第0話「世界が二つに割れた日」から続く物語です。

蒼界で生きる蒼羽レンと、紅界で生きる緋月アカリ。
互いを七年前に失ったと思い続けてきた二人の再会と、蒼界機アズール、紅界機フレアの初起動を描きます。

初めて登場する固有名詞には本文内で説明を加え、本文末にも人物・固有名詞ガイドを掲載しています。
第1話キービジュアル

【挿絵表示】



第一篇「双界邂逅篇」 
第1話 青と赤が重なるとき


「君が死んだ世界で、僕は生き残った。

 

僕が死んだ世界で、君は生き残った。

 

二つの後悔が噛み合うとき、無限の機神が目を覚ます」

 

 

世界が二つに割れた瞬間を、蒼羽レンは覚えていない。

 

覚えているのは、伸ばした手が届かなかったことだけだった。

 

白い光に呑まれた研究区画。

 

崩れ落ちる天井。

 

耳を裂く警報音の向こうで、赤褐色の髪をした少女が叫んでいた。

 

「レン、手を伸ばして!」

 

レンは必死に腕を伸ばした。

 

指先と指先の距離は、ほんのわずかだった。

 

だが、その間を巨大な光の輪が走り抜けた。

 

無数の歯車が青と赤の光を放ちながら、互いに逆向きに回転する。

 

世界そのものが、悲鳴を上げて引き裂かれていく。

 

「アカリ!」

 

少女の姿が白い光の中へ消える直前、二人の声が重なった。

 

「君だけは、生きて――」

 

そこで記憶は途切れていた。

 

 

戦いが始まる十二時間前。

 

境界航行母艦ノア・ギアの作戦室で、七年間変化しなかった二本の波形が同時に跳ね上がった。

 

ノア・ギアとは、蒼界と紅界へ一隻の艦体を重ね、二つの世界を同時に観測できる境界保全機構ARK-∞の母艦である。

 

ARK-∞〈アーク・インフィニティ〉は、世界の分裂を知る研究者、軍人、救助員が秘密裏に設立した組織だった。蒼界か紅界の片方ではなく、二つの未来をともに守ることを目的としている。

 

「青側位相鍵、覚醒率八十六パーセント。赤側も上昇しています」

 

白瀬ユナが解析卓へ身を乗り出した。

 

白瀬ユナは、二世界の位相現象と敵機の行動を数値化し、操縦者へ戦術を伝えるARK-∞の解析担当である。

 

艦長席に立つ御堂カナメは、青と赤の地球を見比べた。

 

御堂カナメはノア・ギアの艦長であり、正解のない局面で作戦の責任を引き受ける指揮官だった。

 

「適合者を確定できるか」

 

「青側は蒼羽レン。赤側は緋月アカリ。二人とも白環災害の中心部にいた生存者です」

 

整備主任の真壁ゲンゴが、眠り続ける二機の内部映像を開いた。

 

真壁ゲンゴは、蒼界機アズールと紅界機フレアの構造を七年間守り続けてきた技術者である。

 

「機体が人を選んだ、で済ませるなよ。アズールもフレアも、操縦者を従わせる兵器じゃねえ」

 

ゲンゴは青い機体の行動記録を示した。

 

アズールの適合条件は、最も計算の速い人間であることではない。

 

危険を理解した上で、自分より先に他者の退路を作ること。

 

記録には、レンが七年間に助けた人々の姿が並んでいた。

 

転倒した子どもを交通艇から遠ざけた日。

 

復興式典の最中、異常振動へ最初に気づいて観客を避難させた日。

 

誰にも見られていない場所で、崩れかけた慰霊碑を一人で支えた夜。

 

「アズールは、あいつが命令される前に守る人間だと判断した」

 

次に赤い機体の記録が開く。

 

そこには三年前、十四歳のアカリが初めてF-01ヌルと遭遇した日の映像があった。

 

白い敵機が紅界の配給所へ腕を向ける。

 

武器を持たないアカリは敵へ飛びかかるのではなく、先に倒れた梁を持ち上げ、下敷きになった子どもを逃がした。

 

次の一撃が自分へ来ると分かっていても、最後の一人が地下へ入るまで退かなかった。

 

地下深くで、フレアの赤い瞳が一度だけ点灯していた。

 

「赤側は三年前から適合を確認していたのか」

 

カナメの問いに、ユナが頷く。

 

「ただし、フレア単独では世界境界を越える敵の中核を破壊できません。青側の位相鍵が眠っていたため、起動を保留していました」

 

「つまり、アカリを三年も待たせた」

 

「いいえ」

 

ユナは首を振った。

 

「フレアは待っていたのではありません。彼女が誰かを救うたび、その選択を記録し続けていました。今日、青側が目覚めたことで、ようやく応えられるようになったんです」

 

カナメは二人の適合者を示す光点を見た。

 

「招集命令は出さない」

 

「しかし、敵の重界侵食は十二時間以内に始まります」

 

「だからこそだ。二機の力は、命令された選択では起動しない」

 

カナメは静かに告げた。

 

「二人が自分で手を伸ばしたときだけ、こちらから道を開く」

 

 

その頃、レンは自室で白い髪の少女の夢を見ていた。

 

少女は青と赤の光の間に立ち、両手を伸ばしている。

 

『明日、あの場所へ来て』

 

「君は誰だ」

 

『忘れた人』

 

『でも、忘れたままでも、あなたは同じ方を選ぶ』

 

レンが目を覚ますと、青いペンダントが胸の上で光っていた。

 

端末には旧研究区画の慰霊式典案内が表示されている。

 

行けば、また奇跡の生存者として見られる。

 

行かなければ、アカリの名前と向き合わずに済む。

 

レンはしばらく画面を見つめ、参加登録を押した。

 

苦しいから行くのではない。

 

苦しくても、彼女がいた場所を忘れないために行く。

 

その選択へ応えるように、地下のアズールが青い指をわずかに動かした。

 

同じ夜、紅界のアカリは配給所の屋根で赤いペンダントを磨いていた。

 

三年前の最初の襲撃以来、白い敵は重界現象のたびに現れるようになった。

 

倒す手段がなくても、逃がせる命はある。

 

アカリは翌日の避難経路を紙へ書き込み、最後に旧研究区画へ赤い印をつけた。

 

「今年も行くよ、レン」

 

赤いペンダントが熱を持つ。

 

遠い地下から、金属の鼓動が一度返った。

 

それはフレアからの最初の返事だった。

 

 

西暦二一九六年。

 

空は、どこまでも青かった。

 

青すぎるほどに澄み切った空の下を、無音の交通艇が規則正しく行き交っている。白銀の高層建築は傷一つなく、道路を歩く人々の足取りにさえ乱れがない。

 

蒼界〈そうかい〉。

 

七年前の大災害を生き延びた、蒼羽レンの世界だった。

 

レンは封鎖された旧研究区画の前に立ち、慰霊碑の根元へ一輪の白い花を置いた。

 

石碑には、あの日に失われた者たちの名前が刻まれている。

 

緋月アカリ。

 

その名前を指でなぞることは、もうしなかった。

 

何度触れても、冷たい石が温かくなることはない。

 

胸元に下げた青い半円形のペンダントを握り、レンは目を閉じた。

 

「七年か」

 

あの日、アカリはレンを逃がすために隔壁の向こうへ残った。

 

少なくとも、この世界ではそう記録されている。

 

不意に、ペンダントが熱を帯びた。

 

レンが目を開ける。

 

青い空の中央に、一本の赤い亀裂が走っていた。

 

『重界警報。重界警報。市民は最寄りの地下避難区画へ移動してください』

 

街中に無機質な警報が響く。

 

人々が一斉に歩調を速めた。

 

空の亀裂から赤い光が漏れ、整然とした街並みに別の景色が重なっていく。

 

崩れた建物。

 

燃え続ける空。

 

錆びた道路標識。

 

蒼界には存在しないはずの、荒廃したもう一つの街だった。

 

「また重界現象か……いや、違う」

 

今回は、いつもより近い。

 

二つの街が半透明の幻のように重なり、同じ場所を奪い合っていた。

 

地面が震えた。

 

白い装甲の巨人が、赤い亀裂から音もなく降り立つ。

 

左右が不自然なほど完全に揃った人型兵器。顔には表情も口もなく、紫色の細い光だけが横一文字に走っている。

 

胸には、光を吸い込む黒い円。

 

終端機関ゼロの量産機、F-01ヌル。

 

ヌルが右腕の銃口を避難中の市民へ向けた。

 

「伏せろ!」

 

レンは近くにいた幼い少年を抱え、道路脇へ飛び込んだ。

 

紫色の光弾が頭上を通過し、背後の建物を削り取る。

 

爆発ではなかった。

 

光に触れた部分だけが、最初から存在しなかったかのように消えていた。

 

少年を母親へ押し戻した瞬間、レンのペンダントが青く輝いた。

 

封鎖区画の地下から、低い機械音が響く。

 

道路が左右に割れ、青と銀の装甲をまとった巨人がゆっくりと上昇してきた。

 

鋭く伸びた青白い角。

 

胸部に埋め込まれた半円のコア。

 

蒼界機アズール。

 

その青い瞳が、レンを見つめた。

 

『適合者、蒼羽レンを確認』

 

「俺の名前を……?」

 

青い光がレンの身体を包んだ。

 

次の瞬間、レンは見知らぬ操縦席に立っていた。

 

半円形の計器が目の前に展開し、身体を包むように白と青のリンクスーツが形成される。

 

『こちら境界保全機構ARK-∞。聞こえますか、蒼羽レン』

 

通信画面に、淡い水色の髪をした女性が現れた。

 

「白瀬ユナ、戦術解析担当です。突然で申し訳ありませんが、その機体を動かせるのは、今のところあなたしかいません」

 

「戦えと言うのか。何の説明もなく」

 

別の声が通信へ割り込んだ。

 

低く、迷いのない女性の声だった。

 

『ノア・ギア艦長、御堂カナメだ。戦うかどうかは君が決めろ。ただし、あの黒い円が完全に開けば、この街は住民ごと消える』

 

正面モニターに、逃げ遅れた人々の姿が映った。

 

レンは操縦桿を握る。

 

「動かし方は」

 

『考えるだけでいい。アズールは君の意志を動作へ変換する』

 

「ずいぶん乱暴な説明だ」

 

そう言いながら、レンは前を向いた。

 

「でも、十分だ」

 

アズールの青い瞳が強く輝いた。

 

 

同じ時刻。

 

同じ場所。

 

だが、そこに青い空はなかった。

 

紅界〈こうかい〉の空は、燃えるように赤い。

 

崩れた旧研究区画の周囲では、緋月アカリが避難誘導に走り回っていた。

 

「東側の通路は崩れる! 地下水路を使って!」

 

長い赤褐色の髪を結び直し、足を止めずに叫ぶ。

 

紅界では、立ち止まることが死に直結する。

 

アカリは七年前にそれを知った。

 

胸元では、赤い半円形のペンダントが揺れている。

 

それは、最後にレンから渡されたものだった。

 

『これを持って先に行け』

 

そう言って笑った少年は、白い光の向こうへ消えた。

 

この世界で死んだのは、蒼羽レンだった。

 

赤い空に青い亀裂が走る。

 

蒼界の街並みが幻のように重なり、白い敵機が姿を現した。

 

「また、あいつら……!」

 

アカリは鉄骨の下敷きになった老人へ駆け寄った。

 

ヌルの胸で黒い円が開く。

 

周囲の瓦礫から、色が失われていった。

 

そのとき、アカリのペンダントが赤く燃え上がる。

 

瓦礫の山を吹き飛ばし、赤と金の機体が地下から立ち上がった。

 

強化された両腕。

 

獣の牙を思わせる赤金の角。

 

胸には、赤く輝く半円形のコア。

 

紅界機フレア。

 

『適合者、緋月アカリを確認』

 

「説明は後!」

 

アカリは迷わず赤い光へ飛び込んだ。

 

操縦席へ転送されると同時に、フレアを走らせる。

 

「そこをどいて!」

 

右拳が炎のような光をまとい、ヌルの胸部へ叩き込まれた。

 

だが、手応えがない。

 

ヌルの姿が揺らぎ、拳がその身体を通過する。

 

『敵機は二つの世界へまたがって存在しています。紅界側からの攻撃だけでは中核を捉えられません』

 

通信にユナの声が響いた。

 

「だったら、当たるまで殴る!」

 

『そういう問題ではありません!』

 

その直後だった。

 

聞こえるはずのない少年の声が、操縦席に響いた。

 

『右へ跳べ!』

 

アカリは反射的にフレアを右へ跳ばせた。

 

一瞬前までいた場所を、紫色の光弾が貫く。

 

「今の声……」

 

『聞こえるか。そっちから敵の中核は見えるのか』

 

冷静さを保とうとする話し方。

 

少しだけ低くなっているが、忘れるはずがない。

 

「レン……?」

 

通信の向こうで、息を呑む音がした。

 

『なぜ、その名前を知っている』

 

「何を言ってるの。私だよ。アカリだよ!」

 

長い沈黙が落ちた。

 

『アカリは、七年前に死んだ』

 

アカリは操縦桿を握ったまま動けなくなった。

 

「それは……私の台詞よ」

 

 

蒼界のアズールと、紅界のフレア。

 

二機は互いを見ることができないまま、同じ敵と戦っていた。

 

レンがヌルの攻撃軌道を読み、アカリがその声に合わせて踏み込む。

 

アカリが敵の動きを引きつけ、レンが青い掌を向ける。

 

「アイオン・ロック!」

 

アズールの左掌から青い円環が広がり、ヌルの動きが一瞬だけ停止する。

 

「今だ!」

 

「フレア・バースト!」

 

フレアの右拳が赤い衝撃波をまとい、黒い胸部コアへ迫る。

 

だが、青の拘束と赤の打撃は、わずかに時間がずれていた。

 

拳が中核を捉える直前、ヌルは再び位相の狭間へ逃れる。

 

『駄目です。二機の同調率は三十八パーセント』

 

ユナの声に焦りがにじむ。

 

『敵エクリプス・コア、臨界まで九十秒!』

 

黒い円が膨張した。

 

蒼界と紅界、両方の街が輪郭を失っていく。

 

消滅範囲内には、まだ大勢の住民が残されていた。

 

ノア・ギアの艦橋で、真壁ゲンゴが拳を操作卓へ叩きつけた。

 

「こうなりゃ、フェイズ・ドッキングしかねえ!」

 

「成功例は?」

 

御堂カナメが尋ねる。

 

ゲンゴは歯を食いしばった。

 

「ゼロだ。そもそも、二人の適合者が同時に揃ったことがねえ」

 

カナメは一度だけ目を閉じ、二人の回線を開いた。

 

『レン、アカリ。二機を重ねれば、敵の中核を完全に捉えられる可能性がある。ただし失敗すれば、君たち自身が世界の狭間へ消える』

 

「可能性は」

 

レンが尋ねた。

 

『計算できない』

 

「だったら、やるしかないでしょ」

 

アカリが即答する。

 

『決めるのは二人だ。どちらか一方の世界だけを守る選択もできる』

 

レンはモニターに映る青い街を見た。

 

その向こうに、彼には見えない赤い街がある。

 

そこにも同じように、逃げる人がいて、守ろうとする人がいる。

 

そして、死んだはずのアカリがいる。

 

「俺は、同じ後悔をもう一度繰り返したくない」

 

アカリもまた、燃える街の向こうに青い光を感じていた。

 

死んだはずのレンが、そこにいる。

 

「私は、目の前で誰かが消えるのを、もう見たくない」

 

二人の声が重なった。

 

「両方の世界を守る」

 

青と赤の半円コアが、同時に輝いた。

 

『選択未来、一致』

 

『ツイン・ギア・コア、接続開始』

 

二つの操縦席の間にあった境界が、光の粒となって崩れていく。

 

レンの目の前に、赤いリンクスーツを着た少女が現れた。

 

長い赤褐色の髪。

 

琥珀色の瞳。

 

七年前と同じ顔が、成長した姿でそこにいた。

 

アカリもまた、青いリンクスーツをまとった青年を見つめていた。

 

「本当に……レンなの?」

 

「その台詞は、俺のだ」

 

二人は互いへ手を伸ばした。

 

指先が触れる寸前、操縦席が激しく揺れる。

 

エクリプス・コアが放つ黒い光が、二つの世界を呑み込もうとしていた。

 

レンは前を向いた。

 

「話は、生き残ってからだ」

 

アカリは涙を拭い、笑った。

 

「うん。今度こそ、一緒に帰ろう」

 

レンが左の操縦環を握る。

 

アカリが右の操縦環を握る。

 

「蒼き理を!」

 

「紅き意志を!」

 

「二つの明日を、噛み合わせろ!」

 

二人は同時に叫んだ。

 

「フェイズ・ドッキング!」

 

蒼界のアズールが青い光へ変わる。

 

紅界のフレアが赤い光へ変わる。

 

二つの巨人は世界の壁を越え、互いの輪郭へ重なっていく。

 

青い左半身。

 

赤い右半身。

 

胸部では二つの半円が噛み合い、黄金の巨大な歯車を形成する。

 

青と赤に分かれた鋭い双角が、空を引き裂いた。

 

存在するはずのなかった第三の機体が、二つの地球へ同時に降り立つ。

 

『双界機神――インフィナイト』

 

黄金の文字を見た瞬間、レンとアカリの脳裏へ、七年前の展示室が一瞬だけ蘇った。

 

終わりのない未来を意味するINFINITE。

 

それを守る騎士を意味するKNIGHT。

 

二つの言葉を噛み合わせた、最終防衛構想の名。

 

完成品として格納されていた機体ではない。

 

青と赤の完全な二機が、両方の未来を守るという同じ選択へ到達した瞬間だけ誕生する第三の姿。

 

「インフィナイト」

 

レンが名を呼ぶ。

 

「私たちが、今つくった未来」

 

アカリが続ける。

 

 

最初の一歩で、インフィナイトは大きくよろめいた。

 

「ちょっと、左足が遅い!」

 

「そっちが先に出すぎなんだ!」

 

「戦いながら細かい!」

 

「細かくなければ制御できない!」

 

ヌルが銃口を向ける。

 

レンは攻撃軌道を読み取った。

 

だが、アカリは回避とは逆方向へ機体を踏み込ませる。

 

「何をする!」

 

「後ろを見て!」

 

インフィナイトの背後には、避難艇が一機取り残されていた。

 

レンは舌打ちしながら計算を組み直す。

 

「三歩前へ。その後、右肩を下げろ」

 

「了解!」

 

二人の動きが、一つになる。

 

インフィナイトは光弾の下へ踏み込み、青い左腕で避難艇を守る障壁を展開した。

 

同時に赤い右腕を引く。

 

「敵の位相固定まで一・二秒」

 

「それだけあれば十分!」

 

「アイオン・ロック!」

 

青い左掌から幾重もの円環が放たれ、ヌルの身体を二つの世界へ縫い止める。

 

「フレア・バースト!」

 

赤い右拳が、黒い胸部コアへ突き刺さった。

 

今度は、確かな手応えがあった。

 

黒い円に亀裂が走る。

 

ヌルは両腕を広げ、残された全エネルギーを解放した。

 

紫色の光が巨大な刃となり、インフィナイトへ振り下ろされる。

 

「出力が足りない!」

 

「だったら、二人分を全部ぶつける!」

 

胸の黄金円環が、一段回転した。

 

『INFINITE GEAR』

 

青と赤のエネルギーが中央で衝突し、眩い黄金の光へ変わる。

 

レンとアカリは、伸ばした掌を重ねた。

 

「ツイン・ギア――」

 

インフィナイトもまた、青と赤の両掌を胸の前で重ねる。

 

黄金の円環が前方へ展開された。

 

「バースト!」

 

光の奔流がヌルを呑み込んだ。

 

黒い胸部コアが砕け、白い巨体が無数の灰色の粒子へ変わっていく。

 

赤い空の亀裂が閉じる。

 

青い空の亀裂も閉じる。

 

消えかけていた街に、色が戻った。

 

 

戦いが終わると同時に、共有されていた操縦席が透け始めた。

 

二つの世界が、再び離れようとしている。

 

「待って。レンは今、どこにいるの?」

 

「旧研究区画だ。慰霊碑の前にいた」

 

アカリは小さく息を呑んだ。

 

「私も同じ場所にいる。でも、こっちには慰霊碑なんてない。全部、崩れてる」

 

二人は、ようやく理解した。

 

同じ場所に立っている。

 

それでも、二人の間には世界一つ分の距離がある。

 

アカリの姿が光の粒へ変わっていく。

 

「レン」

 

「何だ」

 

「今度は、手を離さないで」

 

七年前と同じように、二人は手を伸ばした。

 

指先が触れたのか、それとも光がそう見せただけなのか。

 

確かめる前に、接続は切れた。

 

レンは青い操縦席へ戻り、アカリは赤い操縦席へ戻る。

 

インフィナイトは青と赤の光に分かれ、それぞれの世界へ消えていった。

 

ノア・ギアの艦橋で、ユナが震える声を漏らす。

 

「二つの世界を同時に守る機体……本当に、存在した」

 

御堂カナメは、消えたインフィナイトの反応を見つめ続けていた。

 

「違う。あれは最初から存在していた機体じゃない」

 

「では、何だというんです?」

 

カナメは静かに答えた。

 

「二人が今、選んだ未来だ」

 

 

光の届かない、世界と世界の狭間。

 

白く無機質な広間に、戦闘記録が映し出されていた。

 

青と赤の機体が重なり、黄金の円環を完成させる瞬間。

 

それを見上げる白髪の男、アウレル・ゼロは、表情を変えなかった。

 

「存在しない第三の未来。やはり、誤差が生まれたか」

 

黒と白のリンクスーツを着た青年が、一歩前へ出る。

 

前髪の一部だけが白く染まり、瞳には紫色の光が宿っていた。

 

カイン・ヴァイス。

 

その背後では、黒銀の機体ZC-01ヴァイスが沈黙している。

 

「次は、俺が消す」

 

アウレルは静かに片手を上げた。

 

「ヴァイスを起動せよ。選択は苦しみを生み、可能性は争いを生む。未来は一つでいい」

 

部屋の奥で、小さな人影が目を開いた。

 

白い髪。

 

青と赤、異なる色の瞳。

 

人型端末ニルは、インフィナイトの映像を見つめ、誰にも聞こえない声で囁いた。

 

「やっと、会えた」

 

黒銀の巨人の目に、紫色の光が灯る。

 

その頃、二つに離れた操縦席では、レンとアカリのペンダントに一本の黄金線が刻まれていた。

 

通信機から、微かな雑音が聞こえる。

 

『レン……聞こえる?』

 

レンは驚き、すぐに青い通信環へ手を伸ばした。

 

「ああ。聞こえる」

 

ほんの一瞬だけ、赤い光が応える。

 

青と赤の世界で、同じギアが、もう一度ゆっくりと回り始めた。

 

【第1話 終】

 

【第1話 人物・固有名詞ガイド】

 

【蒼羽レン〈あおば・れん〉】

 

蒼界で生き残った十七歳の少年。状況を冷静に分析して退路を作る力をアズールに認められ、青側の操縦者となる。

 

【緋月アカリ〈ひづき・あかり〉】

 

紅界で生き残った十七歳の少女。危険の中でも最後の一人まで見捨てない意志をフレアに認められ、赤側の操縦者となる。

 

【御堂カナメ〈みどう・かなめ〉】

 

境界航行母艦ノア・ギアの艦長。操縦者へ服従を求めず、選択の責任を本人へ返した上で、その結果を引き受ける指揮官。

 

【白瀬ユナ〈しらせ・ゆな〉】

 

ARK-∞の戦術解析担当。二世界の位相差、敵の位置、機体同調率を解析し、レンとアカリを支援する。

 

【真壁ゲンゴ〈まかべ・げんご〉】

 

アズール、フレア、インフィナイトの整備主任。二機が欠損した半身ではなく、それぞれ独立した完全機であることを熟知する。

 

【蒼界機アズール】

 

レンが操縦する青と銀の完全人型機。位相を計測、固定するアイオン系能力に特化し、敵の動きと攻撃経路を制御する。

 

【紅界機フレア】

 

アカリが操縦する赤と金の完全人型機。瞬間出力を高めるフレア系能力に特化し、近接戦で決定打を与える。

 

【双界機神インフィナイト】

 

レンとアカリが同じ未来を選んだとき、アズールとフレアの位相機能が重なって誕生する第三の機体。青い左半身と赤い右半身を持ち、二世界へ同時に存在できる。

 

【フェイズ・ドッキング】

 

アズールとフレアを物理的に不足部品として組み合わせるのではなく、二機の存在位相とツイン・ギア・コアの権能を重ね、インフィナイトを成立させる合体機構。

 

【アイオン・ロック】

 

アズールが青い円環で対象の位相を一時固定する技。世界の狭間へ逃げる敵を、攻撃可能な位置へ縫い止める。

 

【フレア・バースト】

 

フレアが赤い位相出力を拳へ集中し、一撃として解放する近接技。位相固定された敵へ大きな破壊力を与える。

 

【ツイン・ギア・バースト】

 

青の制御力と赤の破壊力を黄金の出力へ変換して放つ、インフィナイトの初期必殺技。

 

【F-01ヌル】

 

終端機関ゼロが送り込む白い量産機。胸部のエクリプス・コアを開き、物質、記録、記憶を存在した可能性ごと消去する。

 

【エクリプス・コア】

 

ヌルの胸部にある黒い消滅中枢。蒼界と紅界の狭間へまたがって存在するため、一方の世界からの攻撃だけでは完全に捉えられない。

 

【カイン・ヴァイス】

 

黒銀機ヴァイスを操る終端機関ゼロの青年。どちらの世界にも居場所がないような冷たい言動を見せるが、その過去は失われている。

 

【ZC-01ヴァイス】

 

カインが操る黒銀の人型機。選ばれなかった可能性の隙間を移動し、蒼界と紅界の双方から追跡困難な攻撃を行う。

 

【人型端末ニル】

 

青い右目と赤い左目を持つ白髪の少女。七年前の世界分裂とインフィナイト成立の鍵を握り、終端機関ゼロの施設に囚われている。

 

【記憶のペンダント】

 

レンが持つ青、アカリが持つ赤の半円形装身具。二機を起動する位相鍵であり、重ねると一つの歯車になる。




第1話をお読みいただき、ありがとうございます。

レンとアカリは再会できましたが、二人の間には世界一つ分の距離が残っています。
次回、黒銀の追跡者カイン・ヴァイスが二人の前に現れ、合体だけに頼らない戦いが始まります。

印象に残った場面や気になった設定がありましたら、感想をいただけると今後の制作の励みになります。

本作は生成AIを本文の構成・文章作成に利用し、作者が世界観設定の確認、加筆、修正を行っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。