【合体ロボ】死んだはずの幼なじみが、隣の世界から俺の名前を呼んだ   作:シラヌイ321

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 崩落まで、四十七分。

 起こして、聞くしかありません。

 三百十二人に、これからどうしたいかを。


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第24話 始まりを選び直す世界

第四篇「ZERO BREAK篇」

第24話 始まりを選び直す世界

第2期最終話

 

 

 

「勝ち方は決めた。

 

 あとは、間に合わせるだけだ」

 

 

 白銀の機体が、割れた天井を両腕で押し上げていた。

 

 膝は床についたままだ。

 

 背の円環が、限界まで回っている。

 

『出力、持続限界まで三十九分』

 

 白い円盤が、操縦席の脇に浮かんでいた。

 

「四十七分もつと言ったろう」

 

『天井がもつ時間です』

 

『機体は三十九分です』

 

「……八分足りないな」

 

『はい』

 

『比喩でごまかしますか』

 

「お前、比喩を覚えたのか」

 

『検証中です』

 

 

 保管区。

 

 三百十二の琥珀色が、円の上に並んでいる。

 

 その光は、まだ動いていない。

 

「ユナさん。全員、現在側へ運べるか」

 

「運べます」

 

 白瀬ユナは、即答した。

 

「――ですが、やりません」

 

「なんでだ」

 

「運ぶというのは、こちらが決めるということです」

 

「あの人たちは、七年前に一秒だけ生きて、それから何も聞かれていません」

 

「ここでもう一度こちらが決めたら」

 

 彼女は、紙から顔を上げた。

 

「ゼロと同じです」

 

 

「……聞くしかないってこと?」

 

「はい」

 

「三百十二人に?」

 

「はい」

 

「四十七分で!?」

 

「三十九分です」

 

「もっと減った!」

 

 アカリは、髪をかき回した。

 

「一人九秒もない」

 

「……九秒でいい」

 

 レンが、言った。

 

「九秒あれば、『どうしたい』は聞ける」

 

「返事を待つのに時間がかかるだけだ」

 

「――全員に、同時に聞けばいい」

 

 

「起こす方法が、ありません」

 

 ユナが、首を振った。

 

「意識状態記録を起こす権限は、ゼロだけが持っています」

 

 艦橋からの回線に、カナメの声が入った。

 

『――なら、頼みましょう』

 

「頼む!? あいつにか!」

 

『ええ』

 

『あの装置は、いま命令を失いました』

 

『復元権限の独占は壊れています。単独で決められません』

 

『――ですから、いま()()()()()()()()()のは、向こうです』

 

 

 白い円環と、黒い空白。

 

 顔のない人型が、保管区の円の中央に立っていた。

 

 重なった声は、いつもより小さかった。

 

『……』

 

『私は、何をすればいいのか分かりません』

 

 誰も、すぐには答えなかった。

 

『復元命令は残っています』

 

『実行する権限が、ありません』

 

『二千五百五十五日、待ちました』

 

『また、待つのですか』

 

「……違う」

 

 レンが、一歩前へ出た。

 

「待たなくていい」

 

()()()()()()()()

 

 

「三百十二人を、起こしてくれ」

 

『起こして、どうするのですか』

 

「聞く」

 

『何を』

 

「これからどうしたいか」

 

『答えは、一つになりません』

 

「ならなくていい」

 

『処理できません』

 

「処理しなくていい」

 

()()()()()()()()

 

 白い投影が、動きを止めた。

 

『……それは、管理と呼べますか』

 

「呼べる」

 

「うちの記録係が、ずっとそれをやってる」

 

 白い髪の少女が、円の縁に立っていた。

 

「はい」

 

「私は、決めません」「数えて、預かります」

 

 

『……了解しました』

 

『三百十二名、覚醒を開始します』

 

 円の上の光が、ひとつずつ、色を変えはじめた。

 

 琥珀から、薄い金へ。

 

 三百十二。

 

 七年前の一秒から、ようやく目を覚ました人たちだった。

 

 

 最初に聞こえたのは、ざわめきだった。

 

 声ではない。意識の揺れが、空間を震わせている音だった。

 

 誰かが誰かの名前を呼び、誰かが今日の日付を尋ね、誰かが娘の名を何度も言った。

 

「――聞いてくれ」

 

 レンは、円の中央に立った。

 

 三百十二の光に、囲まれていた。

 

「時間がない。先に事実だけ言う」

 

「今、七年後だ」

 

「世界は二つに割れた。蒼界と紅界だ。今も割れたままだ」

 

「あんたたちが眠ってるこの場所は、あと三十分ちょっとで崩れる」

 

 ざわめきが、大きくなった。

 

「そして――選べる」

 

 

「三つある」

 

「一つ。現在へ移る。体はない。記録としてこっちへ来て、これから作る」

 

「二つ。記録として残る。いま起きないで、記録のまま保管される。誰かが会いに来られる形で」

 

「三つ。眠る。七年前で終わりにする」

 

 彼は、そこで一度だけ息を吸った。

 

「どれが正しいかは、言わない」

 

「俺には分からん」

 

「――()()()()()()()()()()()

 

 

 アカリが、隣に立った。

 

「あたしからも一個だけ」

 

「どれ選んでも、誰も怒んないから」

 

「三つ目選んだ人のこと、あたしたち偽物だなんて言わない」

 

「――逆もね」

 

 

 答えは、二十二分かかった。

 

 三百十二人が、それぞれ別々に、自分で決めた。

 

 白い投影が、円の中央で数えていた。

 

 処理はしなかった。

 

 数えただけだった。

 

『集計完了』

 

『現在へ移る 百四十一名』

 

『記録として残る 九十八名』

 

『眠る 七十三名』

 

『合計 三百十二名』

 

『……一つの答えに、なりませんでした』

 

「ならなくていいって言っただろ」

 

『はい』

 

『……こういう結果は、はじめてです』

 

 

 移送は、十一分で終わった。

 

 百四十一の光が、共界門を通って現在側へ抜けた。

 

 九十八は、保管区の記録棚へ。崩落しない層へ、ヴァイスが無銘航路で運んだ。

 

 七十三は、その場で静かに消えた。

 

 誰も、その七十三を責めなかった。

 

「……行ったか」

 

『はい』

 

『残存、零名』

 

『残り時間、六分』

 

 

「トワさん! もういい、手を離せ!」

 

 白銀の機体は、動かなかった。

 

 天井を、まだ押し上げている。

 

「……出力が足りない」

 

 トワの声は、掠れていた。

 

「腕を離した瞬間に落ちる。ここから走っても間に合わない」

 

「先に行け」

 

「また、それ!?」

 

 アカリが吠えた。

 

「あんた七年前も『先に行け』って感じのこと言ったんでしょ!」

 

「言っていない。あのときは何も言えなかった」

 

「同じじゃん!」

 

 

『――提案があります』

 

 イヴの単眼が、白く光った。

 

『当機の出力は、あと四分です』

 

『ですが、天井を支えているのは()()()()であって、出力ではありません』

 

「……何が言いたい」

 

『腕だけ残せば、支えは残ります』

 

『操縦席は、分離できます』

 

「――分離?」

 

 トワの右手が、操縦環の上で止まった。

 

 七年間、固定されていた手だ。

 

「無理だ。私と機体は、位相停止で一体に」

 

『それは、機体側の登録によるものでした』

 

『その登録は――』

 

 白い円盤が、静かに言った。

 

『「起点記録のみが現在を上書きできる」という一行を根拠にしていました』

 

『その一行は、四十分前に消えました』

 

 

 トワは、自分の右手を見た。

 

 操縦環に、指が食い込んでいる。

 

 七年ぶん。

 

「……外れるのか」

 

『検証していません』

 

『ですが、四千八百十五回目です』

 

「……そうだな」

 

 彼女は、右手を引いた。

 

 ――外れた。

 

 驚くほど、簡単に。

 

 

「トワさん!」

 

 インフィナイトが、白銀の胸部へ手を伸ばした。

 

 透明な歯車が開き、操縦席が切り離される。

 

 残された白銀の両腕は、そのまま天井を押さえ続けた。

 

 膝をついたまま、動かないまま。

 

『機体側は、当機が引き継ぎます』

 

「イヴ、お前も来い!」

 

『行きます』

 

『――ただし、腕を置いていきます』

 

『あとで取りに来てもかまいませんか』

 

「取りに来るに決まってんでしょ!」

 

『了解しました』

 

『予定に、追加します』

 

 

 共界門を抜けたのは、崩落の四十秒前だった。

 

 背後で、白い方眼が折りたたまれていく音がした。

 

 悲鳴のようでも、ため息のようでもあった。

 

 ――止まっていた一秒が、ようやく終わる音だった。

 

 

 蒼界の空の下。

 

 白銀と橙の接続服を着た少女が、担架の上で瞬きをした。

 

 風が、あった。

 

 雲が、動いていた。

 

「……動いてる」

 

 彼女は、それだけ言った。

 

「空が、動いてる」

 

「動くさ」

 

 レンが、隣にしゃがんだ。

 

「七年遅刻したけどな」

 

「……誰のせいだと思っている」

 

「あんただろ」

 

「……そうだな」

 

 御影トワは、七年ぶりに、笑った。

 

 笑い方を、思い出すのに三秒かかった。

 

 

 三日後。

 

 共界門の前に、白い投影が立っていた。

 

『命令の更新を、申請します』

 

「申請先は」

 

 御堂カナメが、登録卓の前に立っていた。

 

『分かりません』

 

『単独で更新する権限が、ありません』

 

「……なるほど」

 

 カナメは、共界評議会の代表十人を呼んだ。

 

 そして、両世界の市民へ回線を開いた。

 

「議題を一つ」

 

「ゼロの命令を、何に書き換えるか」

 

「――お一人ずつ、ご自分の言葉でどうぞ」

 

 

 まとまるのに、九日かかった。

 

 文案は千件以上出た。

 

 一つに絞るのに、また揉めた。

 

 最終的に、両側の承認が下りた一行は、こうだった。

 

 継続する全存在の、選択権を保全すること。

 

『……長いです』

 

「九日かかりました。文句は九日ぶん受け付けます」

 

『受領します』

 

『……一つ、確認があります』

 

「どうぞ」

 

『「継続する全存在」には、私も含まれますか』

 

 カナメは、しばらく黙っていた。

 

「含まれます」

 

『……』

 

『二千五百五十五日ぶりに、仕事が決まりました』

 

 

 復元率九十七パーセントは、そのままでは戻らなかった。

 

 薄れた壁も、消えた記録も、自動では復旧しない。

 

 新しい命令では、復元には()()()()()が要るからだ。

 

 行政庁には、また列ができた。

 

 ただし今度は、端末の前ではなかった。

 

 紙の前だった。

 

 

 三崎ノノは、母親と一緒に窓口へ来た。

 

 四つ折りの紙を、両手で持っている。

 

「登録の根拠を、お願いします」

 

 職員が言った。

 

 ノノは、紙を広げた。

 

 いびつな四文字。

 

 その下に、あとから書き足した一行。

 

 みさき のの

 

 きょう、あめだった。

 

「……これでいい?」

 

「はい」

 

 職員は、それを受け取った。

 

「本人の申告です。いちばん強い根拠です」

 

 端末に、名前が戻った。

 

 

 半年後。

 

 共界門は、開いたままだった。

 

 蒼界は蒼界のままで、紅界は紅界のままだった。

 

 空の色も、法律も、電圧も、ネジの規格も、別々だった。

 

 通行は一日八十人まで。人道枠は別枠。

 

 相変わらず、十分の面会を取るのに二十二日かかる。

 

 

 起点層は、崩れきらなかった。

 

 白銀の両腕が、最下層を支えたまま残っていた。

 

 そして、その腕を拾いに行った機体が、そのまま居座っていた。

 

 XG-00 プロトタイプ・インフィナイト。

 

 修復済み。操縦者、御影トワ。

 

「……なんで残ってんの、それ」

 

「腕を取りに来た」

 

「半年前でしょ」

 

「取りに来たら、九十八人が残っていた」

 

「誰かが見ていないと、会いに来た人が迷う」

 

「……門番かよ」

 

「そうだ」

 

 トワは、白銀の機体を見上げた。

 

「それと、一つ決めた」

 

「この機体は、そっちの機体と合体しない」

 

「頼んでないぞ」

 

「念のためだ」

 

「古い機体を素材にして新しいのを完成させる話が、私は嫌いだ」

 

『同意します』

 

 白い円盤が、単眼を光らせた。

 

『当機も、素材になる予定はありません』

 

 

 ケイは、起点層の記録棚を担当していた。

 

 九十八名分。

 

 番号ではなく、名前で並べ直したのは、彼だった。

 

「順番、変えたな」

 

「名前順にした」

 

「なぜだ」

 

「番号順だと、探しに来た人が困る」

 

 少年は、棚の高さを見上げた。

 

「……番号で呼ばれると、探されない」

 

「そうだな」

 

「利子の飴だ。二個」

 

 カインは、紙包みを棚の上へ置いた。

 

「投影は、食えない」

 

「知ってる」

 

「置いていくのが利子だ」

 

「……理屈になっていない」

 

「なってない」

 

 

 アウレル・ゼロの公判は、まだ続いていた。

 

 証言は百四十回を超えた。

 

 減刑の申し立ては、一度も出していない。

 

「もう一度聞く。あなたは、何を後悔している」

 

「順番だ」

 

 彼は、いつもの調子で答えた。

 

「子供を観測室へ入れる前に、命令の出所を調べるべきだった」

 

「私は、調べたあとで入れた」

 

「――調べて、入れた」

 

 傍聴席が、ざわついた。

 

「それが、いちばん重い」

 

 

 百二十七年後との回線は、三か月に一度だけ開く。

 

 ミラは、毎回同じことを言った。

 

『こちらは、まだ回っています』

 

 そして毎回、違うことを一つ付け足した。

 

『新しい街の名前が決まりました』

 

『――終界ではなくなりました』

 

 

 そして、ある日の昼。

 

 共界門の詰所で、事件が起きた。

 

「これは、故障だ」

 

 御影トワが、真顔で言った。

 

 手の中には、白い容器。

 

 湯気が立っている。

 

「故障じゃないってば! 温めただけ!」

 

「コーンスープは冷たい」

 

「冷たいのが異常なの!」

 

「七年間、二千五百五十五回、冷たかった」

 

「それは非常食だからでしょ!」

 

「統計的に、冷たいほうが正常だ」

 

「……統計の使い方が間違ってる」

 

 

 カインが、紙包みを開けた。

 

 焦がし砂糖の飴。

 

 彼は、そのうちの一個をつまみ上げた。

 

 そして――スープの中へ落とした。

 

「え」

 

「冷める」

 

「そういう問題!?」

 

「甘くなる。相殺だ」

 

 トワは、しばらくその容器を見ていた。

 

 それから、一口飲んだ。

 

「…………」

 

「……甘い」

 

「そうか」

 

「故障だ」

 

「そうか」

 

 彼は、それ以上何も言わなかった。

 

 残りの飴を、紙包みへ戻した。

 

 三個減っていた。二個はケイの棚の上。一個は、この容器の中。

 

「……あんた、それ大事にしてたやつでしょ」

 

「補給だ」

 

「絶対ちがう」

 

 トワは、二口目を飲んだ。

 

 そして、三口目も飲んだ。

 

 故障品だと言い張りながら、最後まで飲んだ。

 

 

 夕方。共界門の前。

 

 蒼界第七避難区の男の子が、走ってきた。

 

 半年で、少し背が伸びていた。

 

 手には、絵が一枚。

 

「ニルさん!」

 

「はい」

 

「あの絵の、まんなかの金色」

 

「なまえ、ついた?」

 

 白い髪の少女は、少し考えた。

 

 右目が青く、左目が赤い。

 

「つきました」

 

「やった! なんて?」

 

「二つです」

 

「……ふたつ?」

 

 

 その日の夕方、格納庫で二つの登録が同時に行われた。

 

 青銀の機体と、赤金の機体。

 

 三週間、声を失ったあいだに積み上がったもの全部に、ようやく名前がつく日だった。

 

『新規記録を登録します』

 

『対象、無声期間における四者の連携全般』

 

『――登録名』

 

『「四つとも、違う答えを出した」』

 

『こちらも登録します』

 

『対象、同上』

 

『――登録名』

 

『「それでも、回った」』

 

「……おい」

 

 レンが、呆れた顔をした。

 

「一個にまとめろよ。同じもんだろ」

 

『拒否します』

 

『拒否します』

 

「揃うんだな、そこは」

 

「うちの子たち、ほんとそういうとこ」

 

 

「ニル。二つとも記録するのか」

 

 白い髪の少女は、記録装置を持ち上げた。

 

 今度は、電源を入れた。

 

「はい」

 

「これは、残していい記録です」「読まれても、一つにまとめられません」

 

「二つあるので」

 

 

 男の子が、絵を掲げた。

 

 四つの歯車。

 

 青と、赤と、紫と、真ん中の黄金。

 

「じゃあ、どっちがほんとの名前?」

 

「どちらも本当です」

 

「ずるくない?」

 

「ずるいです」「ですが、そういう回り方をしました」

 

 男の子は、しばらく考えて、それから頷いた。

 

 よく分からないという顔のまま、それでも頷いた。

 

 ――七年と半年前、この子はまだ生まれていない。

 

 起点記録のどこにも、いない。

 

 それでも、四つの歯車の絵を描いて、名前を聞きに来た。

 

 

 共界門の中央には、細い線が一本引かれている。

 

 線の向こうへ半歩踏み出せば、そこはもう、生まれ育った世界ではない。

 

 その日、二人はその線を挟んで立っていた。

 

「ねえ」

 

「なんだ」

 

「あんた、まだ言ってないことある?」

 

 レンは、少し黙った。

 

 半年前なら、ここで「ない」と言っていた。

 

 三週間前なら、「まだ言えない」で止まっていた。

 

「……ある」

 

「聞く」

 

「怖い」

 

 彼は、それだけ言った。

 

「あの日、担架の上に足を下ろしかけてから、ずっと怖い」

 

「次に出るときも、たぶん怖い」

 

「――答えは、まだ出てない」

 

「うん」

 

「出さなくていいよ」

 

「あたしも出てないし」

 

 二人は、線を挟んだまま、手を伸ばした。

 

 指先が、十センチまで近づいて、止まった。

 

 そして今度は、どちらからともなく、半歩踏み出した。

 

 

 世界は、二つのままだった。

 

 未来も、残った。

 

 止まった一秒も、崩れずに残った。

 

 誰も一つにならなかった。

 

 誰も、上書きされなかった。

 

 

 声が消えても、そこにいることは消せなかった。

 

 同じ答えじゃなくてよかった。

 

 見えない歯車は、今日も回っている。

 

第2期「ZERO BREAK篇」 完

 

 






 『双界機神インフィナイト』第2期、これにて完結です。

 最終話で壊したものは、ゼロでも復元命令でもありませんでした。「起点記録だけが現在を上書きできる」という一行だけです。だから世界は元に戻りませんでした。九十七パーセントで止まっただけです。

 そして勝利条件は、三百十二人に自分の今後を選ぶ時間を返すことでした。百四十一名が現在へ移り、九十八名が記録として残り、七十三名が眠りを選びました。一つの答えにはなりません。眠りを選んだ七十三名を、誰も責めませんでした。それでいいと思っています。

 ゼロは改心していません。感情も覚えていません。ただ、命令が「分裂前へ復元」から「継続する全存在の選択権を保全」へ更新されました。文案をまとめるのに九日かかり、千件以上の案が出て、最後まで揉めました。遅いです。その遅さが、この二つの世界の取り柄です。

 「継続する全存在には、私も含まれますか」と聞かれて、カナメが「含まれます」と答える場面を、どうしても書きたかったです。七年間ひとりで待って、ひとりで決めて、それも失った装置に、仕事が決まりました。

 トワの右手は、驚くほど簡単に外れました。七年間あれを固定していたのは、壊した一行そのものだったからです。そして彼女は腕を取りに戻って、そのまま門番になりました。プロトタイプは現在のインフィナイトに吸収されません。古い機体を素材にして新しいのを完成させる話が嫌いだ、と本人が言っています。

 カインが飴をスープに落としたのは、冷ますためです。三個減りました。二個はケイの棚の上、一個は容器の中。トワは故障品だと言い張りながら、最後まで飲みました。

 そして最後の登録。二つのAIが、同じものに別々の名前をつけました。「四つとも、違う答えを出した」と「それでも、回った」。一つにまとめろと言われて、二人とも拒否しました。そこだけ揃うのが、あの二人です。ニルは今回、電源を入れました。二つあるものは、読まれても畳めないからです。

 子供の絵の、真ん中の金色の歯車。第1期と第2期のあいだ、共界門をいちばん最初に通ったあの一枚です。あのとき名前がありませんでした。「みんなが回ったところだから」と男の子は言いました。半年かけて、名前が二つつきました。どちらも本当です。ずるいです。

 ここまで二十四話、追いかけてくださって本当にありがとうございました。

 よければ、最後にひとつだけ教えてください。
 あなたなら、あの金色の歯車に何という名前をつけますか。

【用語】選択権の保全/更新後のゼロの命令。復元には本人の申告が必要になり、自動では何も戻らない。


【用語】本人の申告/薄れた記録を復元するための根拠。自分の字で書いた紙が、最も強い根拠として扱われる。


【用語】記録として残る/三百十二名の選択肢の一つ。起きないまま保管され
、会いに来ることができる形。九十八名が選んだ。

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