後悔を利用して偽りの幸福を見せるF-02ブランクを退け、黒銀機ヴァイスとの一時共闘によって第一ゼロ・アンカーの破壊に成功する。
しかし、第二ゼロ・アンカーの正体は、カインが操るヴァイスそのものだった。
最後の第三ゼロ・アンカーも起動し、蒼界と紅界では、人々や機械が一度選んだ行動を変えられなくなる異変が始まる。
囚われたニルは「カインを殺さないで」と願い、カイン自身は「俺を撃て」と告げる。
選ばれなかった少年を、世界を支える杭から一人の人間へ戻すため、アズールとフレアは合体せず、新たな戦場へ向かう。
第5話キービジュアル、カイン↓
【挿絵表示】
「選ばれなかった者は、存在しないのではない。
ただ、誰かが選ぶ未来の外側で、名前を呼ばれる日を待っている」
◇
黒い歯車が、二つの空で回り始めた。
その中央都市を走る自動交通網が、一斉に同じ進路を選んだ。
右へ曲がる輸送艇。
左へ避けるはずだった救急艇。
上昇する通勤機。
下降して着陸する作業機。
本来なら互いを避けるため、無数の進路を瞬時に比較するはずの機体が、最初に算出した一つの答えから動かなくなっていた。
警報が青い街へ鳴り響く。
『進路変更を受け付けません』
『選択済みの結果を維持します』
『再計算を拒否します』
機械音声が、同じ言葉を繰り返す。
衝突まで、十二秒。
青い光が高層建築の間を駆け抜けた。
蒼界機アズール――青と銀の装甲を持ち、精密演算と位相固定を得意とする、両腕と両脚を備えた完全人型機。
その操縦者である蒼羽レンは、複雑に交差する全機の軌道を一度に視界へ展開した。
蒼羽レン――七年前に幼なじみの緋月アカリを失ったと思い続け、現在は二つの世界を守るためアズールを操る青年。
「アイオン・ロック。六点同時固定」
アイオン・ロック――アズールが青い円環を対象へ重ね、その位置と位相を短時間だけ固定する拘束技術。
アズールの両掌から青い円環が放たれる。
円環は衝突寸前の機体を一秒だけ空中へ縫い止めた。
その間にアズールが輸送艇の機首を押し下げ、救急艇を肩で受け止め、通勤機を空いた上昇路へ投げ返す。
青い円環が砕けた。
六機は互いに数メートルの距離を残し、別々の空域へ滑っていく。
衝突は回避された。
だが、自動交通網は再び同じ進路を選ぼうとする。
「ユナ、制御中枢を手動へ切り替えろ!」
『実行しています。でも、切り替えるという判断そのものが固定されています!』
白瀬ユナ――二世界の位相現象と敵の動きを解析する、境界保全機構ARK-∞の戦術解析担当。
彼女の声にも、これまでにない焦りが混じっていた。
黒い歯車が一段回転する。
街を覆う影が濃くなった。
レンの観測画面で、未来を示す青い分岐線が次々と消える。
十本あった進路が五本へ。
五本が二本へ。
最後には、一本しか残らない。
『新しい侵食波を確認しました』
ユナが息を呑む。
『零界波とは性質が違います。色や記憶を消すのではなく、複数の可能性を一つの結果へ固定しています』
第三ゼロ・アンカー――蒼界と紅界を色のない疑似世界へ固定する三本の境界杭のうち、最後に起動した一本。
状況が変化しても、一度選ばれた行動をやめられなくなる。
それは事故を避ける判断も、誰かを助けるために方針を変える意志も奪っていく。
「世界を消す前に、選ぶ力を奪うつもりか」
レンが黒い歯車を見上げる。
歯車の中心には、光のない穴が開いていた。
その穴の奥から、誰かに見られている気がした。
◇
同じ時刻。
共同居住区の防壁が、避難中の住民を内側へ残したまま閉じようとしていた。
『閉鎖命令は解除した! どうして止まらない!』
管制員の叫びが通信へ飛び込む。
紅界機フレアが落下する防壁の下へ両腕を差し入れた。
紅界機フレア――赤と金の装甲を持ち、瞬間加速と強力な近接打撃を得意とする、両腕と両脚を備えた完全人型機。
緋月アカリ――紅界で人々を守り続け、死んだと思っていたレンとの再会後はフレアで二世界を守る少女が、赤い操縦環を強く握る。
「閉めるって決めたから、閉め続けるのね」
防壁がフレアの肩へ食い込む。
膝下の地面が砕けた。
『アカリ、居住区の圧力が上がってる!』
「分かってる!」
フレアの全身を赤い光が走る。
フレア・ドライブ――全身へ瞬間的な高出力を流し、フレアの加速力と腕力を限界まで引き上げる駆動機構。
「閉めることしかできないなら――」
フレアが防壁を押し返す。
「私が、別の答えを作る!」
赤い巨人は鋼鉄の防壁を頭上まで持ち上げた。
住民たちがその下を走り抜ける。
最後の一人が避難した直後、フレアは防壁を外側へ投げ捨てた。
巨大な鋼板が地面を滑り、赤い火花を上げて止まる。
アカリの胸元で、赤い記憶のペンダントが白く明滅した。
記憶のペンダント――アズールとフレアの起動認証を行う位相鍵であり、現在は人型端末ニルの記憶も保存している青と赤の装身具。
そこから、途切れかけた声が流れる。
『カインを……止めて』
「ニル?」
人型端末ニル――青い右目と赤い左目を持つ白髪の少女。七年前、レンとアカリの両方を救うため世界を二つに分け、現在は敵組織に囚われている。
『殺さないで』
一拍遅れて、別の声が重なった。
低く、傷ついた青年の声。
『俺を撃て』
アカリは聞き間違えなかった。
「カイン……」
黒い歯車の中心から、紫色の光が流れ落ちた。
◇
数分前。
終端機関ゼロの白い広間。
終端機関ゼロ――「未来は一つでいい」という思想を掲げ、蒼界か紅界の片方、あるいは両方を消そうとする敵組織。
カイン・ヴァイスは、白髪の男の胸元を掴んでいた。
カイン・ヴァイス――黒銀機ZC-01ヴァイスを操り、自分はどの世界にも選ばれなかったと信じてきた青年。
その視線の先で、アウレル・ゼロは微動だにしない。
アウレル・ゼロ――終端機関ゼロを率い、ニルとカインを利用して二つの世界を零界へ上書きしようとする白髪の指導者。
広間の奥では、黒い第三ゼロ・アンカーが回転している。
ゼロ・アンカー――消された可能性が集まる疑似世界、零界を蒼界と紅界へ固定する三本の境界杭。
第一の杭は、レンたちによって破壊された。
第二の杭は、カインとヴァイスそのもの。
そして今、最後の第三アンカーが目を覚ました。
「俺は何者だ」
カインがもう一度問う。
アウレルは、胸元を掴む手を見下ろした。
「境界観測実験の第零適合者」
「番号を聞いているんじゃない」
「ならば、どの答えを望む」
「俺が、なぜどちらの世界にもいないのか。その理由だ」
透明な収容室の中で、ニルが片手を上げる。
細い指が内側から壁へ触れた。
『カインは……あの日、私のそばにいた』
カインの手に力が入る。
「それだけか」
『違う』
ニルの左右で色の異なる瞳から、涙が落ちた。
『あなたが、二人を選んだ』
「俺が?」
アウレルが初めて笑った。
それは喜びではない。
ずっと待っていた実験結果を確認する研究者の笑みだった。
「思い出させればいい。もっとも、耐えられるならだが」
アウレルが右手を上げる。
ヴァイスの胸部とニルの収容室を繋ぐ黒銀の管へ、黒い光が流れた。
ZC-01ヴァイス――選ばれなかった未来の隙間を移動できる黒銀機であり、操縦者カインを含めて第二ゼロ・アンカーを構成する機体。
修復台に膝をついていたヴァイスが、大きく震えた。
その振動が管を伝い、カインの胸部装甲へ達する。
視界が白く弾けた。
◇
七年前。
世界が、まだ一つだった日。
少年は巨大な観測装置の中央で、白髪の少女と向き合っていた。
インフィニティ・ギア――無数に分岐する未来を観測するため、旧研究区画に建造された巨大装置。七年前の暴走が世界分裂の直接原因となった。
少年の腕には、黒い識別帯が巻かれている。
そこに記された番号は、K-0。
それが、カインに与えられていた役割だった。
「また何も映ってないのか」
少年が白い少女の観測画面を覗き込む。
少女は小さく頷いた。
『私はNIL。記録がないから、何もないという意味です』
「何もなくないだろ」
『でも、名前がありません』
「NILって書いてニルって読む。それでいい」
『それは名前ですか』
「今、そう決めた」
少女は何度か瞬きをした。
やがて、初めて笑った。
『では、あなたは』
「カイン」
『識別番号はK-0です』
「番号じゃない。俺の名前だ」
『誰が決めたのですか』
「俺が決めた」
幼いニルは、覚えたばかりの言葉を確かめるように繰り返した。
『カイン』
白い部屋の外では、二人の子供が検査台へ運ばれていた。
黒髪の少年、蒼羽レン。
赤褐色の髪の少女、緋月アカリ。
二人はインフィニティ・ギアへ近づいた際に現れる、異常な青と赤の反応を調べるため連れて来られていた。
「あの二人も、番号で呼ぶのか」
カインが尋ねる。
白衣姿のアウレルは端末から目を上げない。
「名前は観測結果へ影響する。ここでは不要だ」
「あの二人には名前がある」
「お前にも不要だ」
カインは黒い識別帯を袖で隠した。
ニルがそっと、その手を握る。
『私は覚えます』
『レン。アカリ。カイン』
三つの名前を、なくさないように。
◇
記憶の景色が変わる。
警報。
赤い非常灯。
制御を失ったインフィニティ・ギア。
巨大な円環の中で、無数の未来が同時に開いていた。
レンを救えば、アカリが死ぬ未来。
アカリを救えば、レンが死ぬ未来。
どちらも救おうとすれば、装置が臨界を越えて全員が消える未来。
アウレルは制御卓から叫んだ。
「一人を選べ!」
ニルの両目から、青と赤の光が溢れる。
『選べません』
「選ばなければ、二人とも死ぬ!」
幼いカインは崩れた床を走った。
火花を噴く中央環へ両腕を差し入れる。
黒い識別帯が焼ける。
皮膚が裂けても、手を離さない。
「だったら、真ん中に道を作れ!」
『真ん中?』
「どっちかじゃない!」
少年は、泣いているニルへ叫んだ。
「二人が生きる場所を、二つ作れ!」
『そんな未来は、観測されていません』
「見つからないなら、今ここで作れ!」
ニルがカインを見る。
青い右目。
赤い左目。
二つの光の間に、色のない少年の姿が映った。
『中心座標が必要です』
「俺を使え」
『戻れなくなります』
「二人を死なせるよりいい」
『あなたが、どちらの世界にも存在できなくなる可能性があります』
カインは一瞬だけ震えた。
それでも、中央環を掴む手を離さなかった。
「ニル」
『はい』
「俺の名前を覚えていろ」
少女は泣きながら頷いた。
『カイン』
青い光が世界の片側を包む。
赤い光が反対側を覆う。
その間へ、カインの黒い影が引き伸ばされていく。
世界が二つに割れた。
蒼界には、レンが残った。
紅界には、アカリが残った。
二つの未来を分ける境界へ、カインだけが落ちていく。
最後に見えたのは、こちらへ手を伸ばすニルだった。
『忘れない』
けれど世界を二つに維持するため、ニルの記憶も青と赤へ引き裂かれた。
カインの名前は、そのどちらにも残らなかった。
◇
白い広間へ意識が戻る。
カインは床へ膝をついていた。
呼吸ができない。
胸の奥に、七年間分の空白が一度に押し込まれている。
「俺が……二つに分けさせた」
『違う』
ニルが収容室の中から答える。
『あなたが二人を救ってくれた』
「その結果、俺は消えた」
『私が、あなたを境界へ残した』
「そして忘れた」
ニルは否定しなかった。
できなかった。
アウレルだけが、静かに二人を見ている。
「理解したか。第三の未来とは、必ず誰かを外側へ押し出すものだ」
カインが顔を上げる。
「お前は知っていた」
「すべて記録していた」
「なぜ黙っていた」
「お前が自分を捨てられた者だと信じる必要があったからだ」
「何のために」
アウレルは修復台のヴァイスへ視線を向けた。
「世界を憎む杭は、迷わない」
カインは立ち上がった。
怒りで視界が揺れる。
それでも、アウレルへ殴りかかることはしなかった。
代わりにヴァイスの操縦席へ走る。
「ニルを解放しろ」
「できない」
「なら俺がやる」
ヴァイスが修復台から立ち上がる。
黒銀の管が胸部を引き戻した。
カインは両腕の位相刃を展開し、管へ斬りつける。
紫色の刃が黒い表面へ食い込んだ。
だが、切断できない。
管の奥にあるものが、機体ではなくカイン自身の位相へ繋がっている。
引き裂けば、心臓まで裂ける。
警告表示が操縦席を埋め尽くす。
ニルが両手を収容室の壁へ当てた。
『カイン、行って』
「お前を置いていけるか」
『私が接続を十秒だけ緩めます』
「その後は」
『分かりません』
「また自分だけで選ぶのか!」
ニルの顔が痛みに歪む。
それでも、左右の瞳はカインから逸れなかった。
『今度は、お願いです』
『レンとアカリに会って』
『二人なら、あなたを杭ではなく、人として見てくれる』
カインは操縦環を握り締めた。
「信じられると思うか」
『信じなくていい』
ニルが、かすかに笑う。
『でも、選び直して』
黒銀の管が一瞬だけ透明になった。
ヴァイスが紫色の亀裂を開く。
その背後で、アウレルは追撃命令を出さなかった。
むしろ、去っていく機体を見送っている。
「走れ、カイン」
誰にも聞こえない声で、アウレルが告げる。
「お前が動くほど、第二の杭は二つの世界を縫い合わせる」
◇
境界航行母艦ノア・ギアの作戦室に、赤い警告が並んでいた。
境界航行母艦ノア・ギア――蒼界と紅界へ半分ずつ存在し、二世界を同時に観測できるARK-∞の母艦。
作戦卓の中央で、ヴァイスを示す紫色の点が高速移動している。
その後ろから、黒零波が長い尾となって二世界へ伸びていた。
御堂カナメ――ノア・ギア艦長であり、戦う者へ最後の選択を委ねる指揮官が、表示を見つめる。
「ヴァイスを中継点にしているのか」
ユナが複数の波形を重ねた。
「はい。第三アンカーの黒零波が、第二アンカーであるヴァイスを経由して両世界へ拡散しています」
「止める方法は」
「ヴァイスの完全破壊」
作戦室が静まり返った。
ユナは続ける。
「または、操縦者を含むアンカー機能だけを分離することです」
「可能なのか」
「理論上は」
真壁ゲンゴが、卓上へヴァイスの構造図を開く。
真壁ゲンゴ――アズールとフレアの構造を熟知し、無茶な作戦を現実の手順へ変えるARK-∞の整備主任。
「機体の胸にある黒い輪が杭の外殻だ。だが本当の中核は、操縦者の位相へ食い込んでいる」
「外殻だけ壊したら」
「カインの存在まで崩れる」
通信窓にアカリが映る。
『完全破壊と失敗するかもしれない救出。選択肢はその二つ?』
「今のところは」
『じゃあ、三つ目を作る』
レンは即座に答えた。
カナメが二人を見る。
「具体案は」
「会ってから考えます」
『私も同じ』
ゲンゴが額へ手を当てた。
「お前ら、そういうところだけは本当に同期するな」
カナメは数秒黙った後、発進許可を開いた。
「目標は第二ゼロ・アンカーの停止、およびカイン・ヴァイスの保護」
ユナが顔を上げる。
「各世界の防衛局は、ヴァイスの撃墜を要求しています」
「ここは防衛局ではない」
カナメの声は静かだった。
「杭にされた人間を、杭として処理するためにARK-∞は存在していない」
青と赤の発進路が開く。
アズールとフレアが、それぞれの世界から飛び出した。
二機は今回も合体しない。
フェイズ・ドッキング――二機の位相機能を重ね、青い左半身と赤い右半身を持つ双界機神インフィナイトへ合体する機構は、アンカーを刺激する危険があるため封印されていた。
双界機神インフィナイト――レンとアカリが同じ未来を選んだ時だけ誕生する、青と赤の第三の機体。
だからこそ、アズールは青い完全機体のまま。
フレアは赤い完全機体のまま。
二機は別々の身体で、同じ場所へ向かった。
◇
蒼界と紅界の狭間に、境界墓標帯がある。
上下のない暗い空間へ、青い都市の破片と赤い瓦礫が無数に漂っている。
その中央で、ヴァイスが膝をついていた。
黒銀の胸部から、空へ向かって黒い管が伸びている。
管の先は見えない。
第三アンカーへ続き、黒零波を運び続けている。
「カイン、聞こえるか」
アズールが距離を保ったまま通信を開く。
ヴァイスの紫色の単眼が点灯した。
『遅い』
「撃てと言われたから来たわけじゃない」
『なら帰れ。俺がいる限り、波は止まらない』
フレアがヴァイスの正面へ回り込む。
『ニルから聞いた。あなたを殺さないでって』
『あいつは一度、俺を忘れた』
『忘れたことと、大切じゃなかったことは同じじゃない』
『七年を失った人間に言う台詞か』
アカリは言葉を止めた。
安い慰めを返せば、カインが失った時間まで軽くなる。
代わりに、正面から答える。
『七年は戻らない』
カインの目がわずかに動く。
『あなたが許せなくても当然だと思う。それでも、ここで死ぬことをアウレルが用意した最後の選択肢にさせたくない』
「君は、二つとも救えと言った」
レンが続ける。
『何の話だ』
「七年前、ニルへそう言ったのは君だ」
『記憶を覗いたのか』
「ペンダントを通して流れ込んだ。望んで見たわけじゃない」
『なら忘れろ』
「断る」
レンは迷わなかった。
「ニルが忘れてしまった君の名前を、今度は俺たちが覚えている」
ヴァイスの拳が震える。
その時、境界墓標帯の奥で黒い亀裂が開いた。
巨大な白灰色の機体が、墓石のような両盾を引きずりながら現れる。
F-03グレイヴ。
F-03グレイヴ――終端機関ゼロが離反者の処刑とアンカー回収のために投入する重装機。対象の未来を一つの結末へ固定する黒い墓標を射出する。
頭部中央の紫色の単眼が、ヴァイスを捉えた。
『第二アンカーの規定経路離脱を確認』
『回収不能と判定』
『終端結果を、消滅へ固定します』
両盾が開く。
内部から、黒い杭が十二本射出された。
グレイヴ・ネイル――対象の周囲へ打ち込まれ、その存在が迎える結末を一つに固定するF-03グレイヴの黒い境界杭。
ヴァイスが紫色の亀裂を開こうとする。
空間は動かない。
十二本の杭が、選ばれなかった未来への逃げ道を封じていた。
『位相移動不能』
カインが舌打ちする。
「アズール、左の六本を止める」
レンが青い円環を展開した。
『じゃあ私は右!』
フレアが一気に加速する。
『勝手に決めるな!』
「君が決めないなら、今だけ俺たちが決める」
アズールの円環が左側の杭を固定する。
フレアの拳が右側の杭を三本まとめて砕いた。
残る三本が軌道を変え、フレアの背中へ迫る。
ヴァイスが動いた。
黒銀の刃が二閃する。
三本の杭が空中で切断された。
『借りを返しただけだ』
『まだ何も言ってないけど』
『言う顔をしていた』
F-03グレイヴが両盾を地面へ突き立てる。
黒い光が墓標帯全体へ広がった。
エピタフ・フィールド――グレイヴ・ネイルに囲まれた範囲で、新しい選択や位相移動を封じ、最初に記録した結末だけを実現させる固定空間。
レンの視界へ文字のない黒い墓石が現れる。
そこには、胸部を貫かれたアズールの姿が映っている。
アカリの前には、両腕を失って沈むフレア。
カインの前には、黒い粒子となって消えるヴァイス。
まだ起きていない未来。
だが、空間はすでにそれを唯一の結末として選んでいる。
グレイヴが右腕を振るう。
墓石に映った通り、白い槍がアズールの胸へ迫った。
レンが回避入力を行う。
アズールは動かない。
「進路が固定されている」
フレアも同じだった。
避けようとするほど、墓石に映る破壊された姿へ近づいていく。
『こんなの、未来じゃない』
アカリが操縦環を押し返す。
『ただの命令よ!』
白い槍がアズールへ届く直前、ヴァイスが間へ入った。
黒銀の肩を槍が貫く。
墓石の映像にはなかった行動だった。
空間全体へひびが入る。
「どうして動けた」
『俺には、最初から未来が記録されていない』
カインが痛みに耐えながら笑う。
『選ばれなかったことが、初めて役に立ったな』
レンは否定する。
「違う。今のは君が選んだ」
『同じことだ』
「同じじゃない」
フレアが固定された右腕へ全出力を集める。
『決められた未来と、自分で決めた未来は――』
赤い光が黒い空間を焼く。
『同じ結果でも、意味が違う!』
フレアの拳が墓石を内側から砕いた。
エピタフ・フィールドが崩壊する。
アズールが白い槍を掴み、青い円環でグレイヴの右腕ごと固定した。
ヴァイスが槍を引き抜き、黒銀の翼を展開する。
三機が、初めて同じ敵へ向き直った。
◇
『黒零波、拡大率百四十パーセント!』
ユナの警告が届く。
『第二アンカーを中心に、両世界の選択固定が進んでいます。このままでは七分後、主要都市の全自動系が停止します!』
カインがヴァイスの胸部を見る。
黒い輪は先ほどより大きくなっている。
『時間切れだ。俺ごと壊せ』
『またそれ?』
アカリの声が低くなる。
『簡単に言わないで』
『他に方法がない』
「ある」
レンがヴァイスの胸部を拡大する。
第一アンカーを破壊した時の記録。
カインの位相移動。
ヴァイスと黒い輪のずれ。
すべてを重ねる。
一瞬だけ、二つが別々に存在する時間があった。
「君が位相移動へ入る直前、ヴァイス本体よりアンカーの反応が〇・〇三秒遅れる」
『だから何だ』
「その〇・〇三秒を固定する」
『人間の操作で捉えられる時間じゃない』
「俺が捉える」
レンは青いペンダントを接続環へ重ねた。
アカリも意図を理解し、赤いペンダントを掲げる。
アズールとフレアの胸部にある半円形動力核、ツイン・ギア・コアが同時に回転した。
二機の間へ黄金線が生まれる。
ツイン・ギア・リンク――アズールとフレアが合体せず、完全機体のまま二つのコアの出力だけを接続する方式。
『接続率六十七パーセント』
ユナが数値を読み上げる。
『前回より上昇が速いです』
「カイン。位相移動の開始信号をこちらへ渡せ」
『敵に操縦権を渡せと言うのか』
『死ぬよりはいいでしょ』
『信用できない』
「俺も君を信用していない」
レンは即答した。
「だから、同じ瞬間を選べ。信用はその後でいい」
カインは黙った。
F-03グレイヴが固定された右腕を自ら切り離す。
残った左盾へ黒い光を集め始めた。
砕けた墓標が吸い寄せられ、都市ほどの大きさを持つ黒い槍へ変わっていく。
『終端結果を再設定』
『三機同時消滅』
「カイン!」
レンが叫ぶ。
ヴァイスの操縦席で、カインは幼いニルの記憶を見ていた。
名前を呼んだ少女。
忘れないと約束した少女。
約束を守れなかった少女。
それでも七年後、自分を杭ではなくカインと呼んだ少女。
カインは目を閉じる。
「俺は、世界を救いたいわけじゃない」
『それでいい』
アカリが答える。
「お前たちを許したわけでもない」
「許さなくていい」
レンが答える。
「俺は、答えを聞くまで生きる」
ヴァイスから青と赤の二機へ、位相移動の開始信号が送られた。
『なら手伝って』
アカリが笑う。
『あなた自身を、杭から引き抜く!』
◇
F-03グレイヴが巨大な黒槍を放った。
アズールは回避しない。
青い円環を幾重にも重ね、槍の先端を正面から固定する。
一枚目の円環が砕ける。
二枚目。
三枚目。
黒槍は速度を落としながら、それでも前へ進む。
フレアがアズールの背中へ両掌を当てた。
『一人で止めない!』
赤い出力が青い機体を通り、円環へ流れ込む。
青と赤の光が混ざらず並び、黒槍を空中へ押し止めた。
その横をヴァイスが駆け抜ける。
損傷した肩から紫色の粒子が散る。
グレイヴが左盾を構えた。
ヴァイスは正面から衝突する直前、選ばれなかった位相の隙間へ消えた。
『移動開始!』
ユナの声。
レンの視界で、時間が細い線へ変わる。
ヴァイス本体。
〇・〇一秒。
黒い輪。
〇・〇二秒。
二つの反応が離れる。
〇・〇三秒。
「今だ!」
アズールがヴァイスのいない空間へ青い円環を放つ。
何もないはずの場所で、円環が黒い輪を捉えた。
第二ゼロ・アンカーだけが空中へ固定される。
ヴァイスが数十メートル先へ再出現した。
胸部から黒い輪が半分抜け、カインの身体を光の管が引き戻そうとする。
『ぐっ……!』
カインの両腕へ黒い亀裂が走る。
「固定は二秒しか持たない!」
『十分!』
フレアがアズールの背を蹴り、赤い流星となって加速した。
だが、その進路へF-03グレイヴが立つ。
残った左盾を広げ、フレアを受け止めようとする。
ヴァイスが二本の位相刃を抜いた。
「俺の道を――」
黒銀の機体が、グレイヴの背後へ移動する。
「お前が決めるな!」
紫色の二閃が左盾を十字に切り裂いた。
フレアが破口を突き抜ける。
アズールの青い円環。
フレアの赤い拳。
二つを結ぶ黄金の出力が、空中へ露出した黒い輪へ集中した。
クロス・ギア・インパクト――アズールの位相固定とフレアの打撃を黄金出力で接続し、分離形態のまま放つ二機連携攻撃。
前回は、杭を砕くために使った。
今度は、一人の人間を杭から引き剥がすために使う。
「青き理で、存在を繋ぎ止める!」
『紅き意志で、決められた未来を打ち抜く!』
「クロス・ギア――」
『インパクト!』
フレアの拳が第二ゼロ・アンカーへ突き刺さった。
黒い輪に亀裂が走る。
同時にカインの胸を締めつけていた光の管が引き千切られた。
ヴァイスの黒銀装甲が紫色に発光する。
カインの視界へ、失われた七年間が流れ込む。
零界を漂った時間。
アウレルに拾われた日。
記憶を封じられた夜。
ヴァイスへ初めて乗せられた瞬間。
存在する理由を、世界への憎しみに置き換えられた七年。
すべてが戻る。
痛みで意識が切れかける。
その時、三つの声が聞こえた。
『カイン』
ニルの声。
「カイン!」
レンの声。
『カイン!』
アカリの声。
どちらの世界にもなかった名前が、青と赤の両方から呼ばれている。
カインは操縦環を掴み直した。
「俺は、ここにいる!」
ヴァイスが両腕の位相刃を振り下ろす。
紫色の十字が、ひび割れた黒い輪を切断した。
第二ゼロ・アンカーが砕ける。
黒零波の尾が途切れた。
蒼界と紅界の空で、固定されていた無数の進路が一斉に分岐を取り戻す。
自動交通網が別々の道を選び直す。
紅界の防壁が停止する。
人々の目に、迷うことのできる光が戻った。
◇
F-03グレイヴは、まだ止まっていなかった。
胸部の黒い核が割れ、第二アンカーの破片を吸い込んで膨張する。
『終端結果、維持』
『選択因子、全消去』
白灰色の装甲が内側から崩れる。
機体そのものを墓標へ変え、三機を巻き込んで自爆するつもりだった。
『爆発まで十四秒!』
ユナが警告する。
『離脱してください!』
ヴァイスは動かない。
「カイン!」
『胸部出力が戻らない』
第二アンカーを失ったことで、ヴァイスの位相機能も停止していた。
グレイヴの黒い核が、目の前で膨れ上がる。
フレアがヴァイスを抱え上げようとする。
『重い!』
『失礼な女だ』
「言い争っている場合か!」
アズールが反対側の肩を支える。
二機でヴァイスを持ち上げる。
だが三機では、爆発圏外へ間に合わない。
カインはグレイヴを見る。
その胸部に、まだ一本だけ選ばれなかった進路が残っていた。
位相移動ではない。
単純な構造上の隙間。
第二アンカーとして無数の未来を見せられてきた目が、初めて現在の一点を選ぶ。
『二人とも、俺を放せ』
「断る」
『今度は死ぬためじゃない』
カインの声は、不思議なほど落ち着いていた。
『生きるために、あれを止める』
レンとアカリが同時に手を放す。
信用したのではない。
同じ瞬間を選んだ。
ヴァイスが残った推進力をすべて両脚へ集める。
黒銀の機体が、崩壊するグレイヴへ突進した。
二本の位相刃を一つに重ねる。
紫色の光が、細い針のように伸びた。
「そこだ!」
刃がグレイヴの胸部へ突き刺さる。
膨張していた黒い核に、小さな穴が開く。
内部の出力が一点から境界墓標帯の外へ流れ始めた。
アズールが流出方向を青い円環で固定する。
フレアがヴァイスの背中を赤い拳で押し込む。
三機の力が一直線に重なった。
黒い光が誰もいない空域へ撃ち出される。
F-03グレイヴの巨体が内側から空洞になった。
『終端結果……未記録……』
『選択……継続……』
白灰色の機体は、墓石のような破片となって静かに崩れた。
爆発は起きなかった。
境界墓標帯に、三機の呼吸音だけが残る。
アカリが最初に笑った。
『生きるために戦えるじゃない』
『一度成功しただけで評価するな』
「少なくとも、撃てという命令には従わなくて正解だった」
レンが言う。
『命令ではない。依頼だ』
『もっと駄目でしょ』
三人の間に、短い沈黙が落ちる。
敵でもない。
まだ仲間でもない。
それでも、その沈黙は白くなかった。
◇
ノア・ギアの隔離格納庫へ、損傷したヴァイスが収容された。
隔離格納庫は、ノア・ギアの中央境界層に設けられ、蒼界、紅界、世界の狭間から来た存在が同じ位相で接触できる区画である。
青い整備灯と赤い整備灯が、黒銀の装甲へ同時に当たっている。
カインは操縦席から降りると、待っていたレンとアカリを見た。
三人が同じ場所で顔を合わせるのは初めてだった。
通信窓でも、記憶の中でもない。
手を伸ばせば届く距離。
アカリが先に口を開く。
「思ってたより普通ね」
「何を想像していた」
「もっとずっと怖い顔」
「お前にだけは言われたくない」
「私、怖くないけど」
「戦闘中のお前を鏡に映してやりたい」
レンが二人の間へ入る。
「喧嘩は後だ」
「先に話しかけたのはこいつだ」
「子供?」
「お前が言うな」
レンは、少しだけ息を吐いた。
このやり取りができるなら、すぐに刃を向け合うことはない。
だが、カインの目は笑っていなかった。
「ニルはどこにいる」
「終端機関ゼロの本拠地だと聞いている」
「場所は俺が知っている」
カインは格納庫の床へ、紫色の座標を表示した。
蒼界にも紅界にも存在しない座標。
二つの世界の中心を、さらに下へ潜った場所。
「ただし、通常の境界航行では入れない」
「ヴァイスの位相移動が必要なのね」
「第二アンカーを失った。今の機体で開ける亀裂は一度が限界だ」
「一度で十分」
アカリが答える。
カインが眉をひそめる。
「お前は本当に、そればかりだな」
「足りないよりいいでしょ」
格納庫上部の通信器から、カナメの声が響く。
『カイン・ヴァイス』
カインが顔を上げる。
『現時点で、君をARK-∞の隊員とは認めない。敵対行動の記録も消えない』
「当然だ」
『ただし、保護対象として艦内滞在を許可する。ニル救出までの情報提供を求める』
「断ったら」
『修理の終わっていない機体で、好きに出ていけばいい』
カインは格納庫で分解され始めたヴァイスを見る。
ゲンゴが黒銀の装甲を叩いた。
「出られる状態ならな」
カインは長く息を吐く。
「脅迫か」
『提案だ』
アカリが小さく笑った。
「似た者同士」
カインとカナメが同時に彼女を見る。
その瞬間、レンとアカリのペンダントが白く光った。
格納庫の中央へ、ニルの像が浮かぶ。
輪郭は不安定で、今にも消えそうだった。
それでも、彼女の目はまっすぐカインを見ている。
『思い出した』
カインは何も言わない。
『あなたが、私に名前をくれた』
「遅い」
『ごめんなさい』
「その言葉も遅い」
ニルの像がうつむく。
カインは拳を握った。
許せない。
許す準備もない。
それでも、もう一度名前を呼ばれる前に通信を切ることはできなかった。
「ニル」
少女が顔を上げる。
「今度は忘れるな」
『うん』
初めて、端末の返答ではない声が返った。
◇
作戦室で、第二アンカーの消滅が確認された。
黒零波の拡大も停止している。
蒼界と紅界には、無数の選択肢が戻った。
だが、ユナの表情は晴れなかった。
「第三アンカーの出力が下がりません」
カナメが表示を見る。
黒い歯車の内部へ、青、赤、紫の三本の線が集まっていた。
「むしろ上昇しています」
「第二アンカーは破壊したはずだ」
「破壊直前、ツイン・ギア・リンクがヴァイスの位相信号へ接触しました」
レンの顔が強張る。
「俺たちが、第三アンカーへ接続を渡したのか」
「接続というより、座標です」
ユナが三本の線を拡大する。
「蒼界のレン。紅界のアカリ。そして、どちらにも属さないカイン」
三つの点が、黒い歯車の中心で重なった。
「第三アンカーは、三人が同時に選んだ瞬間を待っていた可能性があります」
カインの声が作戦室へ響く。
「アウレルは、俺を逃がした」
「追撃しなかったということか」
「違う。あいつは俺に走れと言った」
カインの顔から血の気が引く。
「最初から、俺がお前たちへ接触することまで計算していた」
黒い歯車が回転を速める。
蒼界の旧研究区画と、紅界の旧研究区画。
異なる形に崩れた二つの場所が、互いへ重なり始めた。
青い建物の中から、赤く錆びた鉄骨が突き出す。
存在する道路の上へ、別世界で崩落した橋が現れる。
二つの世界が、零界に消されるのではない。
無理やり同じ場所へ押し込まれている。
『第三アンカー、完全起動まで残り十一時間五十九分』
ユナの声が震える。
カナメが問う。
「完全起動したら、何が起きる」
「蒼界と紅界は、互いを異物として破壊します」
二つの世界を守る時間が、数字になって減り始めた。
十一時間五十八分五十九秒。
十一時間五十八分五十八秒。
カインが紫色の座標を作戦卓へ送る。
「ニルのいる場所へ行く」
「ヴァイスは動けるのか」
「動かす。俺が始めたことなら、俺が終わらせる」
レンは首を振った。
「一人で終わらせるな」
アカリも赤いペンダントを掲げる。
『三人で始まったなら、三人で止める』
カインは二人を見る。
七年前、自分が外側へ押し出した二つの未来。
その二人が、今は自分を真ん中へ戻そうとしている。
「勝手な連中だ」
初めて、その言葉に小さな笑いが混じった。
◇
終端機関ゼロの最深部。
アウレルは、完全に開いた黒い歯車の前へ立っていた。
ニルの収容室を囲む床から、青、赤、紫の光が立ち上がっている。
『カインを、行かせたのですね』
ニルが尋ねる。
「彼は自分で選んだ」
『あなたが選ばせた』
「違いはない」
『あります』
ニルは、はっきりと否定した。
『同じ結果でも、誰が選んだかで未来の意味は変わります』
アウレルは黒い歯車へ手を伸ばす。
白い長衣の胸元が開き、その内側から黒い円形装置が現れた。
第三ゼロ・アンカーの中核と、同じ形。
黒い管が装置から伸び、アウレルの胸へ沈んでいる。
『あなたが、最後の杭……』
「正確には、私とインフィニティ・ギアの原型炉だ」
アウレルの瞳に、青、赤、紫の光が映る。
「七年前は、二つの未来しか得られなかった」
黒い歯車の中心に、巨大な扉が生まれる。
「だが今、青と赤と零が揃った」
『何を開くつもりです』
アウレルは静かに答えた。
「誰も何も選ぶ必要のなかった、最初の世界だ」
扉の向こうで、世界が産声のような音を上げた。
それは救いを求める声にも聞こえた。
すべてを呑み込もうとする怪物の声にも聞こえた。
三人が初めて同じ未来を選んだ夜。
世界を消す最後の扉もまた、完全に開いた。
お読みいただきありがとうございます。
第5話では、黒零波によって蒼界と紅界から「選び直す力」が奪われていきます。
カインは七年前の記憶を取り戻し、自分が世界から捨てられたのではなく、レンとアカリの二人を救うため、自ら境界の中心座標になったことを知りました。
レンとアカリは、第二ゼロ・アンカーとなったカインを破壊するのではなく、アズールとフレアを分離形態のまま接続。わずか〇・〇三秒の位相差を利用し、カインとヴァイスをアンカーから引き抜きます。
しかし、三人が同じ未来を選んだ瞬間さえもアウレルの計画に利用され、最後の第三ゼロ・アンカーが完全起動へ向かい始めました。
蒼界と紅界が互いを異物として破壊するまで、残された時間は十一時間五十九分。
物語は第6話「誰も選ばなかった世界」へ続きます。
【初めて読む方向け 人物・固有名詞ガイド】
-
七年前の世界分裂でレンが生き残った青い世界。秩序と精密な管理によって復興している。
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七年前の世界分裂でアカリが生き残った赤い世界。崩壊した環境を住民同士の支え合いによって維持している。
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蒼界機アズールの操縦者。冷静な分析と位相制御を得意とし、与えられた二択以外の未来を探そうとする。
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紅界機フレアの操縦者。人を助けるためなら即座に行動し、選択した者の意志を何より重視する。
- カイン・ヴァイス
黒銀機ヴァイスの操縦者。七年前、ニルへ二人を救う第三の方法を提案し、その中心座標となったため両世界から消えた。
- 人型端末ニル
青い右目と赤い左目を持つ白髪の少女。カインから名前を与えられ、彼の提案を受けて世界を蒼界と紅界へ分けた。
- アウレル・ゼロ
終端機関ゼロの指導者。カインの記憶を封じ、彼とヴァイスを第二ゼロ・アンカーとして利用した。
-
蒼界と紅界の双方を守る境界保全機構。どちらか一方だけを選ぶ方針を拒んでいる。
- 境界航行母艦ノア・ギア
蒼界と紅界へ半分ずつ存在し、二世界を同時に観測、支援できるARK-∞の母艦。
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ノア・ギア艦長。カインを撃墜対象ではなく保護対象として扱う決断を下した。
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ARK-∞の戦術解析担当。黒零波と第二アンカーを分離できる時間差を解析した。
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アズールとフレアの整備主任。ヴァイスの修理と構造解析も担当する。
- 蒼界機アズール
レンが操縦する青と銀の完全人型機。両腕と両脚を持ち、青い円環による追跡と位相固定を得意とする。
- 紅界機フレア
アカリが操縦する赤と金の完全人型機。両腕と両脚を持ち、瞬間加速と強力な近接打撃を得意とする。
- 双界機神インフィナイト
レンとアカリが同じ未来を選び、フェイズ・ドッキングすることで誕生する青と赤の合体機。
- フェイズ・ドッキング
アズールとフレアの位相機能を重ね、双界機神インフィナイトへ合体させる機構。
- ツイン・ギア・コア
アズールとフレアの胸部にある半円形動力核。もともと一つだった位相機能を青側と赤側へ分けて保持している。
- ツイン・ギア・リンク
アズールとフレアが完全な分離形態を保ったまま、二つの動力核の出力だけを接続する方式。
- 記憶のペンダント
アズールとフレアを起動する位相鍵。現在はニルから回収した記憶も保存している。
- 終端機関ゼロ
「未来は一つでいい」という思想の下、蒼界と紅界を零界へ上書きしようとする敵組織。
- インフィニティ・ギア
分岐する未来を観測するため旧研究区画に建造された巨大装置。七年前の暴走で世界を二つに分裂させた。
- 境界適合試験体K-0
幼いカインに与えられていた研究上の識別名。複数の未来を同時に観測し、装置の中心座標を安定させる役割を持っていた。
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終端機関ゼロが消された可能性を集めて作った、青にも赤にも属さない色のない疑似世界。
- ゼロ・アンカー
零界を蒼界と紅界へ固定する三本の境界杭。第一アンカーは第4話、第二アンカーは本話で破壊された。
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第三アンカーが放つ黒い侵食波。複数の選択肢を一つへ固定し、状況に応じて選び直す能力を奪う。
- ZC-01ヴァイス
カインが操縦する黒銀機。第二アンカーだった頃は、選ばれなかった未来の隙間を移動できた。
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世界分裂時に蒼界にも紅界にも定着できなかった建築物や道路が漂う不安定空域。
- F-03グレイヴ
終端機関ゼロがアンカー回収と離反者処刑のため投入した白灰色の重装機。
- グレイヴ・ネイル
F-03グレイヴが射出する黒い杭。対象が迎える結末を一つへ固定する。
- エピタフ・フィールド
グレイヴ・ネイルに囲まれた空間で、新しい選択と位相移動を封じる未来固定領域。
- アイオン・ロック
アズールが青い円環で対象の位置と位相を一時的に固定する技術。
- フレア・ドライブ
フレアの全身へ高出力を流し、加速力と近接攻撃力を引き上げる駆動機構。
- クロス・ギア・インパクト
アズールの位相固定とフレアの打撃へ黄金出力を同時に流す、分離形態専用の連携攻撃。本話ではカインを第二アンカーから分離するために使用された。
【第6話への扉】
最後の第三ゼロ・アンカーは、アウレル自身とインフィニティ・ギアの原型炉だった。
青、赤、零の三つの位相が揃い、蒼界と紅界は互いを破壊しながら一つの場所へ押し込まれていく。
残された時間は十一時間五十九分。
カインが一度だけ開ける境界の亀裂を通り、レン、アカリ、カインはニルが囚われた終端機関ゼロ最深部へ向かう。