守護霊じゃなくて死神なんですか? 作:合法ロリ系の霊王
「────えっ?」
『『双葉!!?』』
多分。油断していたんだと思う。
日課となっていた化け物退治に、おかっぱ頭たちとの追いかけっこ。
最初の頃は正直怖かったし、いつも死ぬんじゃないかと気が気じゃなかったけど、ここ数年でだいぶ力を付けた私にはいつの間にか慢心が生まれてしまっていた。
「ふぉふぉふぉふぉ!!!他愛ない!」
享年の敵、私と母を殺した虚。グランドフィッシャー。
化け物退治の最中、偶然見つけてしまった私の脳内は殺意で埋めつくされた。
こいつのせいで母は死んだ。こいつのせいで私は幽霊になったんだ。
──絶対に殺すと、頭上から刀を突き刺したそれは囮であった。
まるで地面から新しく生えてきたようなそれに一瞬思考が停止する。いや、恐らくトラウマがフラッシュバックしそうになったのだろう。
咄嗟に逃げようと身体は跳んだがそれでも一手遅れた代償は大きく、ぶちりっと『私の左腕』がグランドフィッシャーの口の中に運ばれてしまった。このまま飲み込まれでもしてしまったら二度と元には戻らない。
「あ、あ!!!不味い!」
『よせ!今は止血が先だ!!!』
「駄目だよ!あれだけは!絶対に!」
『うるせぇ!今は助かることが優先だろうが!』
せめて飲み込まれる前に取り戻さんと刀を構える私を二人が制止する。
「でも!アイツだけは私が倒さないと!」
『それは今じゃなくていいだろ!バカかお前!』
「ふぉふぉふぉふぉ!そう言えば貴様の肉を食らったのはこれで二度目だな。あの時も左腕を食べ……ん?」
ふとグランドフィッシャーは不思議に思う。確かあの時も左腕を食べたような気がすると。
だが、今の彼女は肉体から解き放たれた存在。それもおかしなことではないだろうと、左腕を飲み込んで、「だめぇぇぇ!!!左腕ちゃん!!!!そいつは私が殺すの!!!」
ギュルリ。
最初は舌であった。
「ゑ?」
グランドフィッシャーの舌が雑巾を絞るように折り畳まれる。
そして口、頭、身体の末端に至るまで一つの肉塊になるようにギュウギュウと血を絞り取られて圧縮された。
『何が起きた?』
『どういうことだ?』
きっとグランドフィッシャー本人にも何が起こったのか分からなかっただろう。
ただ分かることはグランドフィッシャーは折り畳まれて死んだ。まるで内側から裏返るように……まさか自滅だろうか?
数秒ほど遅れて霊子に還るそれを困惑気味で見ていた二人は、大変ご立腹な様子の主の姿を見てハッとなる。
『そうだお前!早いとこ止血しねぇと!……ん?傷がねぇ?』
『塞がって……いや。治癒している?』
腕が新しく生えたわけではない。だが、腕の傷は風化した痛々しい傷跡を残すのみで新しいものはない。
まるでずっと昔に腕を失っていたようである。
「もうっ!もうもうもう!!!最近は大人しくしてたのに!もうお刺身分けてあげないんだからね!」
『双葉よ。先ほどから誰と話している?』
「だれ?誰って左腕さん」
『ヒダリウデさん?』
ホワイトと脚長おじさんは首を傾げる。ずっと双葉の中から見守ってきたがそんな名前の友人はいなかった筈だ。
一体誰のことかと、その答えは朽ちたグランドフィッシャーの中から判明することとなった。
「不味い……やはり、虚は不味すぎる」
双葉の喰われた腕、の筈だ。それが独りでに起き上がり、手のひらからパチリと目が開いた。
「もう!聞いてるの!?」
「知らぬ。我は腹が減った……マグロの刺身を所望する」
「だから!もう!あげない!」
「我は貴様のかいな…………その殺意に答えたに過ぎん。腕を振るって刀で殺すのも腕を振るって握り潰すのも、どちらも同じこと」
ずるずるとそれが双葉へと近づく。そしてそのまま双葉の失われた腕へとくっついた。
「……回らない寿司屋……最低でもすしろーを所望する。生のマグロはアニサキスが怖い…キレた志波よりも……あの日は地獄だった………やはり、刺身は寿司屋に限る」
うわ言のように『誰か』の『いつか』の思い出を語りながら二つの複眼が閉じられる。すると見た目は完全に双葉の腕として復元されていた。
「もう!左腕さんはいつもこうっ!自分勝手なんだから!!!」
プリプリと女子小学生らしく怒っている双葉。
『なぁ……こいつもしかして、一護よりヤベェんじゃねぇの?』
『そんな筈は……あるかもしれない』
とても落ち着いてなど見ていられなかった。
二人の本能が警鈴を鳴らす。あれはマジでヤバい。
何せ同じ肉体を共有しておいて自分達はその存在を知覚出来なかったのだ。
相手の霊圧が高すぎて測れなくなるという話はあるが、この場合は住む世界が違うとか、そういう話だろう。
これが一般隊士などならまだしも推定、
あれは世界の在り方を左右するような存在だ。
「いや何でこんなヤバいものをマグロの刺身なんかで手懐けているんだ!」とホワイト達は叫びたかったが、なんとかそれを堪える。
『……変に双葉にあれのことを追及するより触れない方が良さそうだな』
『あぁ。我々の何があれの琴線に触れるか分からない。この心象世界のことなどまさに手に取るように鑑賞することも可能だろう。双葉には心を許しているようだが、今は見守ること他ない……。しかし、あの力。いや、まさかな』
それからホワイトと脚長おじさんは暫く、双葉が左腕を使う度にハラハラするのであった。