守護霊じゃなくて死神なんですか? 作:合法ロリ系の霊王
「あー、もう今日は何もしたくなーい!」
「今日はって、もう一週間だろ?一体どうしたって言うんだよ」
地面ではなく天井にうつ伏せになって力なく項垂れる私を、夏梨が見上げる。
もうお昼の筈だが……そうか、今日は土曜日だったと働かない頭でぼんやりと思い出す。
グランドフィッシャーを倒してから今日で八日目。私は何をやっても満たされない燃え尽き症候群に陥っていた。
「もうさ……あれなのよ。未練が消化出来ずになくなったと言うか、奪われたというか」
「お姉の未練って私たちが全員一人立ちするまで見守るっていうやつ?」
「それは、今でも変わってないけど、ほら。幽霊たちとは別に仮面をつけた化け物みたいなのがいるじゃん」
「私は見たことないけど、お母さんとお姉が襲われたっていうやつね」
「そうそれ。多分、幽霊を餌にしてるそういう類いの怪物だと思うんだよね。私は呆気なく殺されちゃったけど幽霊になって何故か強くなったし、夏梨たちが同じ目に遭わない為に守護霊になってアイツらぶっ倒すぞー!って思ってたけど」
「読めた。そのお姉を殺した化け物が他の人に取られちゃったんだ」
「……うん。一応私がやったことにはなるんだろうけど、ほぼ他人って言うか……なんて言うか」
「自分だけど自分じゃないって別人格とか?もしくはもう1人の僕?刀とかビームとか、お姉ってほんとファンタジーを生きてるって感じだね」
「ふぁんたじぃ?」
「……あー、ようするに漫画みたいってこと」
「漫画か……」
幽霊になったせいだろうか。どうにも最近のトレンドには鈍感になってしまった。ふぁんたじというのは新しい俗語か何かだろう。それを察して漫画と言い換えてくれたようだが、確かに今の私は漫画の登場人物のようである。
「とにかく私としてはそれを聞いてホッとしてるよ。お姉が化け物退治をしてたのってさ。やっぱりそいつへの復讐も理由だったんでしょ?いつも夕飯食べたら次の日の朝まで帰ってこないし、帰ってきても夕方まで寝て、夜には出ていっちまうし、また帰って来なくなるんじゃないかって不安だったんだ。でもそいつを倒せたことで肩の力も抜けたんじゃない?」
「……そうかも」
あの仮面の化け物たちは幽霊や私のような力のある守護霊を狙うのでそこまで脅威ではなかった。だが、あのグランドフィッシャーは他の化け物とは違い、見える人も餌として狙うので、次は妹たちが犠牲になるのでは気が気ではなかったのだ。
それが倒された今、同じような存在が現れねないとは言えないが、そこまで躍起になる必要もなくなったと、心のどこかで安心していたのかもしれない。
「……それに、家にいる時はあの人たちも襲ってこないし」
多分。散歩もする気が起きないのはそれが原因だ。
この家は私にとって帰る場所であり、一番安全な場所である。
おかっぱ頭たちは……まぁ捕まってもそう悪いことにはされないんだろうという謎の安心感があるが、下駄男と化け猫の二人組は駄目だ。
人としての尊厳を余すことなく犯し尽くされ、死後も冒涜するような毛色がある。
主に前者が主導で。猫はよく分からないが、マタタビで餌付けされているのかもしれない。
こんな無気力な時にあの二人に襲われたらきっと一溜りもないだろう。
前回だって、一護が助けてくれなかったらそのままお縄についていた。
今度こそ始解を使わざるをえないに違いない。
……あれは使う時はまだしも、後から来る反動が恐ろしいので滅多なことでは使いたくなかった。
それの上の卍解というものがあるらしいが、始解の時点でこれなのだ。
あんな地獄のような感覚。それの上位互換と言われて習得する神経が分からない。
だから私は斬魄刀が好きあらば聞かせようとする真の名を必死に拒絶していた。
『お前さぁ。いい加減聞いた方がいいぜ?』
『うーん。聞くぐらいならいいのではないか?私は滅却師の力の影法師。ホワイトの大部分は一護に宿っている。そして左腕も◆◆の力だろう。我々はお前の味方であるが、純粋なお前の力かと問われれば首を縦に振ることは出来ない。その点、こいつは正真正銘、お前の魂魄を写し取ったお前だけの力だ』
私の中には三つの人格がある。
『シニガミ』『ホロウ』『クインシー』
どうやらそれぞれに担当する人たちがいるようで、『ホロウ』がホワイトお兄ちゃん『クインシー』が脚長おじさんだ。
なら『シニガミ』はヒダリウデさんかと思えば違い、私があんまりにも対話を拒絶するので、最近はすっかり拗ねて引きこもってしまった、もう一人がいる。
力を使うには名前を教えて貰い、唱える必要があり、始解用の名前は教えてもらった。
だが、一回使ったあとで後遺症で1ヶ月ほどのたうち回り、二度と使うものかと決意したものだ。
結局何だかんだと、それから10回以上使わせてもらっているが、後遺症が後遺症だけに力は三つの中でも飛び抜けており、これ以上は現状必要としていない。
どれぐらい強力かと言うと、使いさえすれば下駄男と化け猫、それにおかっぱ頭たちを纏めて相手しても倒せるんじゃないかというほとだ。
実際に試したことはないが、ホワイトお兄ちゃんが私の体を操る時の三倍は力が出ている気がする。
卍解した暁には、それの更に三倍、いや十倍は確実とセールスアピールされたこともあるが、代償もそれなりには上がるという話をボソッと溢したので、安心出来る要素はなかった。
使わないつもりなら、一応聞いとけばいいじゃん。そう思うかもしれないが、駄目なのだ。私はピンチになると後先考えなくなるタイプで、一番強い手を使ってしまう。
きっと知ってしまえば、始解で済む相手にも卍解を使ってしまうに違いない。
だから現状維持が一番。やる気がないなら沸くまで待てばいいのだ。
「あと一週間。いや、二週間はゴロゴロさせてもらうよ~。10年ぶりの夏休みだ!」
「お姉がそう言う時って、悪いことが起きるフラグだよね。盲腸で入院する羽目になったり、石田さんとこの婆さんにしごかれたり」
「やめて!あの地獄の日々を思い出させないで!!!」
私は枕で頭を覆い隠す。
石田雨竜君の実家のお婆様。あの人は生前の私のトラウマである。
雨竜君は幽霊になった私のご飯を用意してくれる大切なお友達だ。彼とは幼少の頃から仲良くさせてもらっているが、あのお婆様は何を勘違いしたのか、私が雨竜君と結婚するものとして、夏休みの大半を花嫁修行に使わされたことがあった。
冗談抜きで、あの地獄をもう一度味わえというのなら卍解を使った方がマシだとすら思える。
『成る程。そうすればいいのか』
「あ、今の聞いてたな!?止めてよ!夢でお婆様を出したりしないでよ!?」
「誰と話してるの?」
どうやらアイツは夏梨との会話をこっそり聞いていたようだ。
あの手この手で卍解を使わせようとしてきたが、一番知られたくない話を聞かれてしまった。
クソっ。生前の話は大丈夫だと思ってたのに。
最悪だ。暫くは夢でお婆様が出てくるに違いない。
でも、めげない!事前に夢だと分かっていれば耐えられる筈だ。
私は!卍解を習得しない!!!
それから10日後。私は卍解を習得した。