錬金少女は蒼に埋める   作:水面廻

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第10話 勝利のための美酒

「一撃!」

 

 正確に核を貫いてゴーレムを倒せたのがうれしくて思わず声がでる。体を妙な高揚感が支配しているのを感じる。私はそれに身を任せて、手当たり次第にゴーレムを貫いた。全部で15体はいただろうか。途中で歪んでしまった鉄棒をスコップ――これも戦っていたお兄さんが渡してくれた――に持ち替えたりして、とにかくすべてのゴーレムがただの土に還るまで、武器を振り続けた。もう一つの出入り口からやってきていたゴーレムも含めて討伐を終えて、私は強く握りしめたスコップを地面に突き立てた。はあ、はあ、と自分の粗くなった呼吸の音だけが聞こえる。だけどこれだけの運動をしたにしてはマシな気もする。筋力ポーションの効果だろうか。

 

 ともかく。脅威は去った。後続がある可能性は否めないが、これだけ長く戦っていて増えていないのだからすぐにどうこうということはないだろう。

 

「これで、……おわり。」

 

 私がつぶやいた直後、じわじわと話し声が広がる。やがてそれは歓声と拍手に変わり、劇場は彼らの喧騒で埋め尽くされた。

 

「やった!生き残った!」

「けが人は!一人も死んでないのか!」

「大丈夫だ!みんな死んでない!」

 

 死んでない。……ここでは、死んでない。そうだ、私をかばったあの人のところに行かないと。そう思って、足に力を入れる。直後、がく、とバランスが崩れて、自分が体重を預けていたスコップが倒れる。ただ自分を支えるだけの手が、そのバランスを見誤って重心から外れた。何が起きたかわからないまま、私はその場に転んでしまう。ぼう、として思考がまとまらない。何とか立ち上がって歩こうとするが、その足がふらついている。何が起きているのかわからないまま、思考の片隅でこんな状態のことをなんていうんだっけ、と言葉を探す。ほどなくしてその答えは見つかった。

 ――ああ、千鳥足、だ。

 私は自分がポーションを造るときにどんな入れ物を使ったのか思い出した。あれは、ワイングラス。それも誰かの座席の上に放置されていたもの。中身はほぼ空だったが、その底には確かに、少量のワインが残っていた。

 

[筋力ポーション(酩酊)]レシピ

 ・アメハナクサ

 ・ナナジュウナナフシ

 ・オトリトカゲ

 ・ワイン

 

・ ・ ・

 

 次第に意識が覚醒していく。体が重く、起き上がるのが億劫に感じられる。まるで濡れた衣服が体に張り付いているような倦怠感を引きずって、私は時間をかけて身を起こした。

 

「あ、目覚めましたか?大丈夫ですか?」

 

 私の視界に入ってきたのは、見覚えのあるお団子ヘア。確か私のファンだとか言っていた女の子だったか。彼女はちゃっかりと私の手を握って、心配そうにこちらを覗き込んでいる。視線を横にずらせば、調合の時に協力してくれたショートヘアのお姉さんもいた。頭がぼーっとするが、私にはすぐにでも確認しなければならないことがある。

 

「えと、私どのくらい寝てましたか?……あの、私を助けてくれた人がいて、すごい怪我でッ――」

 

「は、はい。シアン様は3日寝てました。あと、橋の近くでゴーレムと一緒に倒れてた人は、……間に合いませんでした。」

 

 その言葉を聞いた瞬間に、床が抜け落ちるような錯覚を覚えた。間に合わなかった。つまり、あの人は死んだ。……わかっていたことだ。あの怪我で長くもつ方がおかしい。それでも何とかゴーレムを突破して、回復のためのポーションが完成すれば望みはあるとどこかで思っていた。そう信じることで、何とか自分を保っていた。少し強くなったからといってはしゃいでいた自分が急に罪深く思えてくる。あれは酔っていたから仕方がなかったのだと誰にでもなく自分の心の中で言い訳する。

 

「長く放置するわけにもいかなくて、すでに火葬が終わっています。近くで見ていた方がいたので、ゴーレムとの戦いのこととか、なんであの人が重傷を負ったのかも、だいたいみんな把握してます。たぶん、シアン様は悪くないですよ……。」

 

 悪くない。そりゃあ私だって自分が悪人だとまでは思っていない。それでも、もっとうまく立ち回ることはできたのではないかと思ってしまう。沈黙が降りて、しばらく消えなかった。それを破ったのは、コンコンと部屋を叩いたノックの音だった。そこで初めて、私は自分が何かの部屋の中にいることを自覚する。ベッドと小さなテーブルとティーセット。どこかホテルみたいにも思えるが、それにしては生活感がある。白い枠の窓が倒れるように開いていて、そこから風が流れ込んできた。ドアが開いて風の通り道ができたから。

 

「具合はどうかな。」

 

 その人は、すらっとした女の人だった。癖のない艶やかな長髪を風にあおられて、それを抑えようとするしぐさがやけに堂に入っていた。鮮やかなドレスの上に黒いジャケットを羽織った姿は、女優だといわれても違和感なく信じられる。何か風格というか、カリスマみたいなものを感じた。

 

「おっと、目が覚めたんだね。それはよかった。早速で悪いけど、君が作ったポーションについて、教えてくれないかな。」

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