『ゴーレム』を見た。『ナナジュウナナフシ』みたいな動く木もいたし、もはやこの現実が私の知るものじゃないなんてわかっている。だけれど目の前で浮いているポーションの水球ほど、明らかに物理法則を無視した現象を見たのは初めてだった。
「これは一応浮かせようと思って私が操作してます。」
浮かぶ水球に手をかざしながら恋が言う。
「でも、これができるのはポーションだけでした。ほかのいろんなもので試しましたが無理みたいですね。それと、私が特別超能力に目覚めたわけでもありません。個人差はあってもだいたいの人が同じようにポーションを触れずに浮かせたりできました。」
「その中でも恋は動かしたり形を整えるのがうまかった。」
ジャクリーンが説明を引き継いで話す。
「そして、ポーションを飲んだ時の筋力上昇もほかの人より高かったんだ。これはちゃんとした検査ができているわけじゃないから仮説だけど、このコントロール能力が高ければ高いほどに、筋力ポーションの効果も高くなってると考えられる。」
やってみますか、と言って恋は私に中身を戻して瓶を手渡してくれる。受け渡しの時に触れた手を眺めてにまにましてる彼女を見なかったことにして、私はその中身を浮かせようとした。と言っても具体的に何をすればいいのか、――そう考える暇もなく、私が念じただけでその液体は宙に躍り出て思った通りの形をつくり始めた。
「できた……。」
「そう。あとはナナジュウナナフシも、筋肉らしき器官をもっていないのに動物と遜色《そんしょく》ないスピードで運動できる。もしこの念力とでも呼ぶべき力が筋力を強化するポーションの原理なのだとしたら、いろいろ説明がつく気がするよね。」
つまりこうやって念力で動かせる液体が体に浸透してるから、筋力に加えて念力が加わったパワーが出るということか。しかしこんな原理は攻略本にも設定集にも載っていなかった。ゲームの世界が現実に再現されるにあたって生まれた法則なのかもしれない。
「でも、じゃあアメハナクサとオトリトカゲはどんな役割を果たしているんでしょう?」
恋の質問にジャクリーンは首をかしげる。
「さあね。ただ、この法則性はなるべく把握しておきたい。ほかの素材の役割も明らかにしたいと思ってるよ。あと、あみかが酔っていたように見えたという証言がたくさんあるけどそれは本当かな?」
「は、はい。たぶん。あの時使ったワイングラスには、ちょっとだけワインが残ってました。」
「ふむ。それだけで倒れるのは考えづらいし、やっぱりポーションに混ざったことで何かしらの相乗効果があったんだろうね。本当に無事でよかった。」
「それにしてもよく覚えてたね。」
フリーダが言う。
「あれ白ワインだった……よね?中に液体が残ってたかも、っていうのはほとんど予想というか、あやふやな記憶で確証なかったんだけど。」
「あー、……記憶力だけはいいんです。私。」
「シアン様はレシピ全暗記配信してましたもんね!さすがです!」
ちょ、余計なことを……!
「え、さっきから言ってたシアンって、まさかと思ってたけどあのレシピ完全暗記縛りプレイのシアン!?」
あ、島崎さん、ご存じでしたかぁー。
私が止める間もなく、彼はフリーダとジャクリーンにも事情を説明してしまう。すると二人とも少なからず驚いたような顔をしていた。それが私を知っていたことによるものなのか、縛りプレイの内容を聞いてドン引きしているだけなのかは定かではない。定かではないし、確認したいとも思わなかった。
「なるほど。それなら素材の調達があんなにスムーズだったのも頷けるね。」
パチン、と手を叩いて、ジャクリーンは言葉を続ける。
「これ以上の調査はじっくりやるしかないだろう。ワインの件も、調合に使う器を清潔に保てば問題ないものがつくれる。ひとまず危険性はなさそうだ。」
彼女が何を言いたいのかは明白だ。このレシピを広く公開して、戦力をふやす。いつゴーレムがまた襲ってくるかわからないこの街を生き残るための方法として。
「そこで、君からポーションのつくり方とその危険性について発表をしてもらいたい。」
……ん?わたし?
「我々はぜひともポーションを活用したい。毒見役《カナリア》にするようで悪いけれど、君の体調がどう転ぶかを見てからポーションの活用を開始しようという話になっていたんだ。ついでに言うと、素材の見分け方もゲームのグラフィック基準じゃ難しかった。君が目覚めた今、そのすべてを解決できる。頼めるかな?」
断れないやつですね。知ってます。