彼女の隣には通訳を請け負ってくれたらしい日本人の男性がいて、それで意思疎通は図れそうだった。
「まず名前を名乗ろうか。私はジャクリーン。今はイベントに参加していた人達をま
とめるリーダーみたいな立ち位置にいる。従ってくれとは言わないけど、方針の共有をするときは話を聞いてほしい。」
「あみか、と言います。私に協力できることがあるならやります。」
「そうか。ありがとう。」
それを皮切りにして、部屋にいた面々が自己紹介を始める。お団子の女の子は恋、という名前らしい。
「わたし、恋って名前です!変な名前ってよく言われます!やばい、シアン様の記憶に残ってしまった……これが推しの認知ってやつ……!?」
この状況ですごいなこの子。そこにショートヘアの女性が続く。
「私はフリーダだよ。よろしくね!」
この人もこの人で元気だ。今更だけど、なんか体つきががっしりしている。近くで会話していてようやく気が付いた。とても引き締まった筋肉がタンクトップから飛び出ているではないか。筋力ポーションこの人が飲んだらよかったのでは?なんて思った。
「そして、私は島崎といいます。通訳係ちゃんとするので、安心してください。」
島崎さんの声には聞き覚えがあるような気がする。たぶん対ゴーレム防衛戦で私の声を通訳してくれたのもこの人だったぽい。あの時は叫んでいて、今は落ち着いた声なので確信はないが。
一通りの自己紹介が終わって、周りの視線がこちらに集まる。私はまず、謝罪をした。
「あの、ごめんなさい、こんな時に三日も眠って、お世話になってしまって。」
そう。この部屋はあくまで静かだけれど、被災直後である。きっと人でもたくさん必要になっただろうし、あの私を助けてくれた男性みたいに犠牲になった人も一人や二人ではないだろう。そんな中酒に酔ってぶっ倒れていたというのは、不可抗力とはいえ心苦しいものがある。だけれど、ジャクリーンさんの声にとげはなかった。
「わかっていないのかもしれないけれど、君は急性アルコール中毒で死んでもおかしくなかった。」
淡々と、事実をたどるような声。
「ゲームの知識があったとしても、それを一番に試すというのはとてもリスクのあることだよ。実際に今回、君は倒れた。そのリスクを背負ってまで誰かを助けるために動いたことを、称賛こそすれ責めたりしない。最初にゴーレムの魔石を貫こうとした勇気も含めてね。」
「ここからは通訳ではなく私の意見ですが、私も同じ気持ちですよ。」
「そうです!シアン様は悪くありません。」
「ごめんね、私がワイングラス渡したせいで……。」
全員からフォローされて、少しだけ気持ちが軽くなった。
「そう。ワイングラス。そのことで話がしたいんだ。」
ジャクリーンがフリーダの言葉を拾って話を続ける。
「フリーダはグラスに少量残っていたワインが効いて君が酔ったのではないか、という予想をしていたのだが、君も同じ意見かな?」
「は、はい。たぶん。あの時使ったワイングラスには、ちょっとだけワインが残ってました。」
「ふむ。それだけで倒れるのは考えづらいし、やっぱりポーションに混ざったことで何かしらの相乗効果があったんだろうね。本当に無事でよかった。」
「それにしてもよく覚えてたね。」
フリーダが言う。
「あれ白ワインだったから、中に液体が残ってたかも、っていうのはほとんど予想というか、あやふやな記憶で確証なかったんだけど。」
「あー、……記憶力だけはいいんです。私。」
「シアン様はレシピ全暗記配信してましたもんね!さすがです!」
ちょ、そんな余計なこと……ッ!
「え、さっきから言ってたシアンって、もしかしてあのレシピ完全暗記縛りプレイのシアン!?」
あ、島崎さん、ご存じでしたかぁー。
私が止める間もなく、彼は他女子二名にも事情を説明してしまう。すると二人とも少なからず驚いたような顔をしていた。それが私を知っていたことによるものなのか、縛りプレイの内容を聞いてドン引きしているだけなのかは定かではない。定かではないし、確認したいとも思わなかった。
「なるほど。それなら素材の調達があんなにスムーズだったのも頷けるね。」
パチン、と手を叩いて、ジャクリーンは言葉を続ける。
「だいたいの疑問は解決した。ワインの件も、調合に使う器を清潔に保てば大丈夫だろう。そこで、君からポーションのつくり方とその危険性について発表をしてもらいたい。」
……ん?この人今なんて?
「実は幻生生物、モンスターによる被害は収まっていなくてね、今はバリケードを活用して押さえつけているが、突破される心配が常にある。重火器や現代兵器のほとんどはあの赤い風に破壊されて使い物にならないんだ。だからこそ、ポーションを活用したい。毒見役《カナリア》にするようで悪いけれど、君の体調がどう転ぶかを見てからポーションの活用を開始しようという話になってね。ついでに言うと、素材の見分け方もゲームのグラフィック基準じゃ難しかった。君が目覚めた今、そのすべてを解決できる。」
彼女はすっと、頭を下げた。それは日本人のしぐさだった。
「だからお願いだ。私たちに、希望を与えてほしい。君の回復を知らせ、素材の見分け方と、調合の方法を教えてほしい。」
私は、その真摯な声にこたえるべきだと思った。だから覚悟を決める。本当は発表なんて柄じゃないけど、私にできることならすると、自分で言ったんだ。
「わかりました。やります。」