カメレオンラプトルの素材になる部位は魔石と魔力炉と呼ばれる臓器、皮と眼球。あとは牙なんかもつかえる。
フリーダはためらいなくナイフを入れる。小型の恐竜と言っても全長は人の私の身長を超えている。私も一緒に手伝って、何とか皮と魔石、眼球、二、三本の牙を採取した。完璧な解体はできない。皮なんか折り紙サイズに四角く切り取っただけ。フリーダが「ねえ、こいつの肉、うまいのかな……。」とか言い出すので少しだけ肉も持っていくことにした。血抜きとかやり方わからないけどどうするつもりなんだろう……。
解体の方法を確立するのは今後の課題だ。もし帰りに何かいい獲物がいたらそのまま持って帰って相談してみようか。そんなことを考えながら湖の方へ戻った。途中で焚火を放置していたことを思い出して急いだが、とくに燃えているなんてこともなく、火は赤く隅の奥でくすぶっているのみだった。
カメレオンラプトルの素材で、一番特徴的なのはその隠密性能の核となる皮だが、今回は小さいサンプルしか採取できていないのもあって使わない。ちゃんと全身の皮があって、それ相応の素材があれば透明マントの魔道具がつくれるのでいつかチャレンジしたい。
魔石はフリーダに渡して魔法の補助に使ってもらう。まだ補助なしで魔法を使う感覚はつかめていないらしく、魔法石は必須なのだ。一応耳飾りに加工したファイヤーラットの魔石は持ってきているが、カメレオンラプトルの魔石の方がゲーム的にレア度が高い。違いがあるかもしれないので使ってみるべきだ。
眼球もおもしろい薬になるし、牙も武器や防具とかに使えるが一旦スルー。
今回の主役はこの魔力炉だ。魔力炉はほぼすべての幻生生物が持っている器官で、もちろんファイヤーラットからもとれた。だけどこれは体の大きさが大きいほどに強力になる傾向があるので、今倒せる幻生生物の中で最強格のラプトルの魔力炉はレアアイテムだ。これを使ってつくるのはもちろん――
「フリーダ。」
「わかってる。ウキボタルとドロノゾキだよね。」
「あとエシャクソウ。全部集めたら、泥団子つくろう。」
そう。ぴっかぴかの泥団子だ。
エリクシアには『簡易拠点セット』というアイテムがある。街ではなく、ダンジョンや屋外フィールドなどの危険のある場所でセーブをしたいときに使う消費アイテム。設定としてはそれを使って野宿しているということなのだ。まさに今私たちがやろうとしているのがそれ。ラプトルの襲撃によって走り回り、解体のあと周囲を警戒しながらゆっくり湖に戻ってきた現在、日は傾きつつある。そもそもいちいち公園に戻っていたら探索が進まないという理由もあって、今日は野宿だ。
そこでほしいのが簡易拠点セット。テントと、水と食料、そして泥団子を組み合わせて作成することができる。
正確には『光る泥団子』という名前のそのアイテムが、簡易拠点の必須要素(公式)なのだ。運営の遊び心をひしひしと感じるこのアイテムだが、存外侮れない。れっきとした魔道具のひとつであり、幻生生物が近づいたら光を出して教えてくれるセンサーなのだ。これなしで夜を明かそうとするのは自殺行為とすら言える。
要するにもう一度カメレオンラプトルと追いかけっこをしたくないならこれをつくれということだ。逆にこれをつくる前に最速でラプトルに捕まったのが不運すぎるというか。
使う素材は、魔力炉、ウキボタル、ドロノゾキ、エシャクソウ。
ウキボタルは翅がないのに浮遊して飛び回る蛍。ドロノゾキは茶色い泥を身にまとったカエルで、湿った水際で泥から目だけを出して周囲を伺う。どちらも水辺が生息地なので、この湖で捕まえられるのではないかと思っている。本来清流にいるはずの蛍が取れるかどうかは微妙なところだが、そんなこと言ったらあの公園にたくさんの素材が出現してる時点で突っ込みどころしかない。今回もご都合主義であってくれることを祈る。
エシャクソウはすでに帰り道で何本か見つけて採取してある。これはオジギソウのエリクシアバージョンといったらわかりやすいだろう。触るどころか近づくだけでしゅんと葉をたたむシャイな草である。
時折自分の肩をかばうようにして痛そうにしているフリーダを気遣いながら、私たちは湖のほとりを歩いて回った。いつまた襲われるかわからない不安もある中、焦りを押し殺して目を凝らす。そうやって集中している意識に割り込むようにして、ゲーコ、と気の抜けた鳴き声が響いた。私とフリーダが一斉にその鳴き声の方に振り向く。そこには予想の通り、泥の隙間からつぶらな瞳がのぞいていた。
「こっち見んな……。」
ゲームではどの角度から回り込んでもじっとこちらを覗いているこのカエルがミームになったりしていた。懐かしさを感じながら、そっと捕まえる。用があるのはこの子が身にまとっている泥なので、倒さなくてもいい。というか何ならこいつが逃げたあと、埋まってた地面から泥を採取すればそれで済む。体表から分泌される成分と混じった泥が泥団子の作成にピッタリだ!というのがゲームでの説明なのだ。
だけどせっかくなので画面の奥にしかいなかった本物を眺めたい。掌にのせてしばらく観察してみる。ウシガエルよりちょっと大きいくらいで、ずんぐりむっくりとしている。体表の色は泥のせいでわからない。しばらくすると手の熱が伝わったのか、嫌がって逃げてしまった。
「ねえ、これが蛍かなー!」
少し離れたところでフリーダが声をあげた。採取は順調みたいだ。
[ドロノゾキ]
泥を身にまとうカエル。水辺の泥の中に隠れて、獲物が通りかかるのを待つ。ドロノゾキの分泌した成分を含んだ泥は、足を取られた幻生生物の能力を鈍らせることがある。かといって強い奴もでかいやつも食べられないので、所詮井の中の蛙。危険度は低い。