「焼けたかな……?」
さっきまでの落ち着きが嘘みたいに子供っぽい声音で、フリーダが肉の様子をうかがう。直火に炙られてにじみ出た脂がつ、と表面を伝う様子は少しおいしそうに見える。だけどほんとにこれ食べてだいじょうぶなの?
私の不安を知ってか知らずか、フリーダは肉を串から外し、持ってきたプレートにのせて包丁で切る。繊維質の肉の断面が黒くきらめいていた。うーん、ファンタジー。火が通っているのかどうかすらわからん。
「ほんとにたべるの?これ……。」
「……黒いね。なんか。」
いや、そんな目で見られても困るんだけど……。
フリーダは明らかにためらいを見せた後、その肉を細かく二つ切り分けて、片方を私に渡してきた。……一緒に食べようってことですか。
もうどうにでもなれ……!ていうかこの流れなんかデジャヴなんだけど!?
私は意を決してその肉を口の中に放り込んだ。
表面の塩コショウの味がふっと香って、そのあと肉を噛んでみる。ぶわ、と生臭い香りがして、そのあとにすごいうまみの爆弾が破裂した。かなり硬いが、噛むたびに肉の強い味が湧き出してくる。
「ま、まずいけどうまい……。」
「うぇ、おいしい。うぇ。」
たぶん血抜きをちゃんとしたらかなりおいしく頂けるのではないだろうか。これは帰りにラプトルを狩る理由が一つ増えたかもしれない。私たちはその生臭さに辟易しながらもすべての肉を平らげた。
私たちは交代で夜の番をしながら夜を明かした。幸い襲われることもなく、一夜を明かす。不安の付きまとう夜は精神的な疲れがたまるばかりで、正直十分に休めたとは言えない。だけどここで立ち止まるわけにもいかない。私たちは再び森の奥に向けて歩き出した。
「次に作らなきゃいけないのは何だっけ。」
「とりあえずは防御力ポーションの素材集めと、筋力ポーションの段階グレードアップかな。」
あらかじめ共有していた内容だ。フリーダはただ頷いて、一緒に素材周囲を警戒、観察してくれる。
私たちがするべきはまず何といっても基礎ステータスの向上だ。攻撃力だけ高くなっても体が自分の力に耐えられなくなって壊れるし、そうでなくても死にたくなければ防御力はあげておきたい。そして筋力ポーションだが、もちろん最初につくったものがすべてじゃない。エリクシアシリーズの筋力ポーションは初級、中級、上級とあって、順番に効果が高くなっていく。最初につくったのは初級。じゃあ次は中級のポーションをつくるのかといえば、そういうわけでもない。
エリクシアシリーズのレシピが無数にあるといわれるのは、各職業にわたっていろんな生産物があるから、だけじゃない。今から説明する『段階的グレードアップ』がレシピ数を膨大にする一因を担っている。これは初級ポーションの素材に中級ポーションの素材を混ぜることで、その中間の強化をもたらすポーションをつくることができるシステムだ。
素材にはそれぞれ役割があって、その役割が被っている上位互換の素材に入れ替えることでより強い薬がつくれる。
例えば筋力ポーションでいえば、初級の素材は『アメハナクサ』『ナナジュウナナフシ』『オトリトカゲ』で、中級の素材は『カゼンボ』『トレント』『バロメッツの蕾』となる。もちろん中級の素材をすべて集められるならそれが一番いい。だけど例えばバロメッツの蕾だけが手に入ったとしたら、オトリトカゲが担う役割をより上位の素材であるバロメッツの蕾に代替させることができる。『アメハナクサ』『ナナジュウナナフシ』『バロメッツの蕾』を混ぜることでポーションをつくることができて、これは初級以上、中級未満の性能となる。
そもそもトレントをまともに物理攻撃で倒そうと思ったら初級筋力ポーションの力では無理なので、中級ポーションをいきなり作ろうという方が無理な話だったりする。
ピィピィ
ふと聞こえてきたのは鳥の鳴き声だった。前方から聞こえたその音に、違和感がある。複数の鳥が集まった声。だけど、その出所が低い。木の上でも空の上でもなく、もっと地面に近いところから聞こえてきている。
「さっそく一つ目が見つかりそうだね。」
「こんな鳴き声の奴いたっけ?」
疑問を浮かべるフリーダに、私は答えを告げる。
「バロメッツだと思う。」
「えー、まじで?私バロメッツトラウマなんだけど。」
「ラプトルよりも?」
「ラプトルはさっきトラウマになったけどね!?もう二度と捕まりたくないけどね!?ゲームで一番怖かったのがバロメッツって話。」
確かにあれは初見だと驚く。いわゆるびっくり要素というかなんというか。
そもそもバロメッツというのは昔実在すると信じられていた羊の生る木。だけどこのエリクシア世界においては少しだけ事情が異なる。
「まあ、見に行けばわかる。私の勘違いかもしれないし。」
「勘違いだと嬉しいかなー。」
「でもあれは筋力ポーションだけじゃなくて防御力ポーションにも回復ポーションにもつかうから避けて通れないでしょ。」
がっくりと肩を落としたフリーダを引きずって声のする方へ歩く。私たちが森の奥で見たのは、鳴き声を上げる鳥と、その鳥を集めては堂々と存在する